第28話
新選組屯所 中庭-
砂の上で、一人の隊士が後ろ手にしばられ、うなだれていた。
その隊士が逃げないように、二人の隊士が体を抑えている。
そしてその後ろに、太刀取りの準備を整えた中條が立っていた。
結局、逃げた隊士は切腹を許されず、斬首となったのである。
前では、近藤、土方が部屋の中で並んで座っており、総司が縁より下に座っていた。
中條は総司の心配をよそに、ことのほか落ち着いていた。
総司が中條に介錯の命を言い渡した時も、少し眉を上げただけで、落ち着いた声で「はい」と答えた。
総司「皆の前で、うまくやろうなどとか思わずに、心を無にして…」
総司のその助言にも、中條はゆっくりと頷いて見せた。
土方がくいと顎を上げた。
二人の隊士が、うなだれている隊士を押さえる。
もう逆らう気力もないようである。やがて土方が二人の隊士を下がらせた。
土方が中條に目で斬首をうながした。
中條は頭を下げ、前に進み出て刀を構えた。
そして、やがてゆっくりと刀を振り上げる…
……
首を切られた男の頭は、すっぽりと前に空けられた穴へと逆さに落ちていた。悲鳴すらあげなかった。
土方「見事だった。ご苦労。」
土方が中條に言った。近藤も隣でうなずいて、中條を見ていた。
中條は何も言わず、その場に膝をつき頭を下げた。
総司がほっとして立ち上がった。
総司「中條君、ご苦労さま。…刀を清めて戻りなさい。」
中條は総司に頭を下げ、そして再び、近藤、土方にも頭を下げてその場を去った。
土方「…手も震えていなかったな。」
土方が中條の去る後姿を見ながら呟いた。
近藤が、満足気にうなずいた。
……
その夜-
中條は川辺に座り込んでいた。そしてぼんやりと川面を見つめている。
手に首を切ったときの感触がまだ残っていた。中條はその手を見つめていた。
じっと動かない人間を斬ったのは初めてだった。
総司が言うように「うまくやろう」というような気は起こらなかった。そして、心を無にすることもできなかった。
中條(苦しまないように一度ですまさねば…)
そればかりを考えていた。
実際、その通りにできた。…が、もちろん喜びなど感じない。
首の切り口から吹いた血飛沫が鮮烈によみがえった。
中條「…!」
中條は両手で顔を覆った。(もう二度と嫌だ!)と何度もそう思った。
そして、その中條の背中を総司が離れた所から見ていた。
総司(…嫌な思いをさせてしまった…。人一倍、優しい人だから…)
総司は心の中で、中條に謝っていた。




