第26話
川辺-
浪人たちは、牽制するばかりでなかなか斬りかかってこない。
土方と総司はじっと構えたまま、相手の動きを探っていた。
土方「どうする?総司…向こうから来なければこちらから行くしかないかな。」
総司「…ないですね…。」
総司のその言葉と同時に、二人はお互いの背中を押し合って、前へ出た。
浪人たちは悲鳴のような声をあげながら、二人に襲い掛かってきた。
……
土方と総司は足元に倒れている浪人達を見ている。
土方「…2人、逃げたな。」
総司「ええ…。これが新選組ならば、斬首ですね。」
土方は鼻で笑った。
土方「…向こうも今ごろ腹を切ってるかもしれないぞ。」
土方は、まるで何もなかったかのように腕を組み歩き出した。
総司は、ふと倒れている浪人たちを見てから、後に続く。
土方「逃げた奴の顔を覚えているか?」
総司「いいえ。…そういう土方さんは?」
土方「…いちいち覚えてられるか。」
総司はくすっと笑った。
土方「ところで…ちゃんと薬は飲んでいるのか?総司。」
総司「また、その話だ。」
総司はげんなりしている。
土方「おい、質問にはちゃんと答えろ。」
総司「はいはい。…ちゃんと飲んでいますよ。でも、やっぱり薬って効くものなんですね。1日、2日じゃわからなかったけれど、毎日飲んでいるうちに、だるさも咳も取れていくのがわかります。」
土方「あたりまえだ。…でないと、薬の意味がないじゃないか。」
総司「そうなんですけどね…。」
二人はしばらく黙って歩いた。
やがて土方が口を開いた。
土方「…その薬…人を斬った後に胸がむかむかするのには利かないのかね。」
総司「へえ。…土方さんでもむかむかするんだ。」
土方「そりゃ、おまえ…」
土方はそこで言葉をきり、
土方「…人間ができてないもんでね。」
と呟くように言った。
総司「好きですよ。そういうところ。」
土方「気持ち悪いことをいうな。…ますます胸がおかしくなる。」
二人は笑ったが、その声は何か乾いている。
……
新選組屯所近く-
土方と総司は屯所前まで戻ってきていた。
土方「…で、おまえ、いったい何しに外へ出たんだ?」
総司「饅頭を買いに行ったんですよ。…でも、予定が狂っちゃったな。」
土方「…俺のせいか?」
総司「わかっているじゃないですか。」
土方「このやろう…」
土方は苦笑した。
その時、監察の山崎が屯所から飛び出してきた。
山崎「!…あ!副長!」
土方の顔が険しくなった。
土方「何かあったのか?」
山崎「はい。…局長が浪人の集団に襲われまして…」
土方「!何!?」
総司の顔から血の気が引き、とたんに屯所の中へと走りこんでいった。
土方は山崎に向いた。
土方「それで、近藤さんは?」
山崎「局長は大丈夫なんですが、付き添っていた隊士の1人が斬られまして、もう1人は逃げたままなんです。」
土方「逃げたっ!?」
土方の顔が鬼のようにゆがんだ。
山崎は、その顔を見て体中の毛が逆立つのを感じた。
土方「どの隊でもいい。すぐに逃げた奴を捕まえて来るように言え!」
山崎「はっ」
山崎もすぐに屯所へと引き返した。
土方も後へ続き、近藤の部屋へと向かった。




