第25話
京の町中-
総司はまた一人で町中へ出ていた。礼庵のところへ行くでもなく、ただ屯所にいるのが嫌で出てきたのだった。
その時、後ろから人が走り寄ってくる足音がした。
総司はふと刀に手を当て、そっと振り返った。
総司「!!…土方さん!」
なんと駆け寄ってきたのは土方だった。
土方「一人で出歩くなと言っているだろう?…どこへ行く?」
総司「私のために…出てこられたのですか?」
土方「そうだ。…部屋をのぞいたらいないから…」
総司「…すいません。」
土方「頼むから、必ず誰かを連れて歩け。あの棒振り男でもいいじゃないか。」
総司「中條君です。早く名前を覚えてやってくださいよ。」
土方「ああ、そうだったかな。…今日は俺が付き添ってやる。…どこへ行くんだ?」
総司は「えっ」という表情をしてから、くすっと笑い土方と肩を並べて歩き出した。
総司「土方さんと一緒にいた方が危ないような気がするんですが…」
土方「なんだと?」
総司「だって…後ろに一人…」
土方の眉がぴくりと動いた。
総司「立ち止まっちゃ駄目ですよ。ここは人が多いから、川辺にでも誘い込みましょう。」
総司は落ち着いた口調で言った。
土方「…何人いた?」
土方がいつものように腕を組みながら尋ねた。
総司「そうですねぇ…今ちらと見たところ一人ですが、まさか一人で襲うような気丈な浪人はいないでしょうから。」
土方「…なんだか、増えていっているようだな。」
土方は、自分の背に殺気が集まっているのを感じている。
総司「何人か賭けますか?」
土方「よし、5人」
総司「あ、私も同じ人数です。賭けになりません。独り増やしてください。」
土方はくくくと笑った。
土方「よし、じゃぁ6人だ。」
総司「では、私は5人ということで。」
土方「…そろそろ川辺だな。」
総司はさっきののんびりとした表情から、少しずつ険しくなっている。
総司「…いやだなぁ…。斬りたくないな…」
土方「仕方ないだろう。斬らなきゃやられる…襲いかかってくるのを待つか。」
総司「土方さんのせいですよ。…私一人で歩いていたら、こうはならなかった。」
土方「口の減らん奴だ。…ところで、おまえ今日は調子はいいのか?こんな時に咳き込んだらやられちまうぞ。」
総司「大丈夫ですよ。土方さんのお手は煩わせません。」
土方が、片頬をいがめて苦笑した時、急に不自然な風が吹き、二人は浪人達にぐるりと取り囲まれた。
二人は、鯉口を切ると同時に刀を抜き、背中あわせに構えた。
土方「6人だぞ、総司。」
総司「しまった。私が一人増やすんだったな。」
その口調とは裏腹に、二人の目が険しくきらりと光った。




