第24話
総司の部屋-
総司は体のだるさを感じていた。そしてまた咳が出始めていた。
総司(…疲れてるのかな…出動も続いたし…)
総司はごろりと横になった。
総司(…なんだか、全身がほてっているような気がする…)
総司はふぅ…と息をつき、目を閉じた。
…が、やがて突然咳き込み飛び起きた。
総司(息が…できない…)
総司は咳き込みながら、このまま死ぬのではないかと思った。
思わず、部屋の外へ出ようと立ち上がろうとする。…が、咳のために身体が動かない。手だけが宙を舞い、やがてその場に伏した。
……
総司は、その場で伏したまま気を失っていた。
気づいた時は、普通に息をしていた。咳も止まっている。
総司(…助かった…?)
総司はゆっくりと体をあげて、文机にもたれて座った。
総司(…治ったと思っていたのに…)
総司がそう思った時、外から土方の声がした。
「総司?いるか?」
総司はあわてて居住まいを正し「はい」と答えた。
「入るぞ」という声がして、ふすまが開いた。
何かおだやかな顔をしている土方がいた。
土方「ん?…どうした?…顔色が悪いぞ。」
その言葉と同時に土方の顔が険しくなった。総司はぎくりとしたが、
総司「そうですか?…だとしたら、これまでこきつかわれてきたからでしょう。」
と、にこにこと平穏を装って答えた。
土方は苦笑すると、その場にあぐらをかいて座った。
土方「…言ってくれるな。…だが、確かにそうだ…。このところ一番隊には無理をさせたからな…」
総司「何か御用ですか?」
土方「ん?用がなければ来てはいけないのか?」
総司は笑ってみせた。
総司「だって、今まで用もないのに土方さんが来たことはないんだもの。」
土方「…ん…まぁな。」
土方は頭を掻いた。総司の咳のことは全く気づいていないようであった。
総司は心の中で安堵した…が、土方を前に、また咳が出ないかと緊張していた。
土方は全くそれに気づかないでいるようである。
総司「…で、何か御用ですか?」
土方「…いや…この前、あの棒振り男が襲われたって言っていただろう?」
総司「土方さん、もうその呼び方はよしてやってくださいよ。中條君は形が悪いだけで腕は確かなんですから。」
土方「ああ、中條と言ったかな…」
土方は本当に名前を覚えていなかったようである。
土方「…未だに下せんのだ…。どうして、彼のような奴が襲われたのか…。」
総司「土方さん!」
総司が思わず腰を浮かせたが、土方は「まぁ聞け」とたしなめた。
土方「奴をバカにしているんじゃない。…賞金稼ぎならば、幹部を狙うはずだ。なのに、どうして奴のような新入りを狙ったのだろうってな…」
総司「…!…」
総司は腰を落ち着かせた。確かにそうである。
土方「今のところは、彼以外で襲われた人間はいない…。これから頻発するかもしれんから、お前もよく気をつけろよ。」
総司「土方さんも一人歩きは控えた方がいいですよ。…とくに島原帰りは気をつけてください。」
土方「…口の減らん奴だ…」
土方は片頬をいがめて苦笑した。総司はにこにことしている。
土方「島原で思い出したが、お前、最近女とは会っていないのか?」
総司「…島原とあの人と一緒にしないでくださいよ。」
土方「すまんすまん。…で、どうなんだ?」
総司「会えませんよ。…特にこんな時には。あの人に迷惑をかけてしまう…」
土方「…まぁ、そうだな…」
土方は「じゃぁ」と言って腰を上げて立ち上がった。そのまま部屋を出て行きかけたが、ふと背を向けたまま言った。
土方「総司…ちゃんと薬を飲めよ。」
総司「…!…」
総司は驚いて、とっさに声が出なかった。
総司「土方さん…あの…」
土方は振り向かないまま、後ろ手にふすまを閉じて出て行ってしまった。
残された総司は、何か気恥ずかしさを感じ苦笑するしかなかった。




