第1回桜庭メルの自分探しの旅:赤馬採石場跡地 後編
「……やっぱり、簡単に終わらせてはくれませんよね」
メルはクリメイトが立ち上がったことに驚きつつも、心のどこかではクリメイトが立ち上がることを確信していた。
っもしメルとクリメイトの立場が逆だったとしたら、きっとメルも立ち上がっていたことだろう。やはりメルから生まれた存在なだけあって、根っこの部分はどこか似通っているのかもしれない。
メルはそう思ったが、それを口に出すことはしなかった。きっと口に出したらクリメイトは死ぬほど嫌がるだろう。
「アタシの全部を出し尽くす……それであんたをぶっ殺す!!」
「……いいですよ、受けて立ちます」
「あああああっ!!」
クリメイトが背中から炎を噴射し、ロケットのように空高くへと舞い上がる。
太陽を背に宙に浮かぶクリメイトは、その全身から夥しい量の炎を滾らせた。その姿はまるで、空にもう1つの太陽が出現したかのようだった。
「食らいなさい……必、さぁぁぁつ!!」
クリメイトから放たれる炎が、巨大な不死鳥の様な形状へと変化する。
「ヴォルカニック……」
クリメイトが体の上下を反転させ、メルへと目掛けて急降下を始める。
「メテオ……」
クリメイトが纏う炎が螺旋を描き、彗星のように尾を引いた。
「ストライィィィクッ!!」
恒星の如き炎を纏いながら地上へと迫るクリメイトのその姿は、まさに宇宙より飛来する隕石そのものだ。
「これは……すごい」
クリメイトが放つ全身全霊の一撃を前に、メルの頬を冷や汗が伝う。その一撃は、確かにメルの命に届き得るほどの威力を有していた。
だがそれは、メルが無抵抗でクリメイトの技を受けた場合の話だ。メルが何もせずに死を受け入れることなどあるはずもない。
メルの右腕に、紫色の炎が螺旋を描きながら収束していく。莫大な紫色の炎が圧縮され、そのエネルギーによって右腕の周囲の空間が歪んで見えた。
「あああああっ!!」
「てやあああっ!!」
2人の拳が交錯した瞬間、これまでで最大規模の爆発が発生した。
地面が抉られ、罅割れ、大気が震え、砂塵が舞い……そして辺りに静寂が戻り、砂塵が薄れて視界が晴れる。
「っ、がふっ……」
爆発によって深く深く穿たれたクレーターの中心。メルの右腕が、クリメイトの胸を貫いていた。
「とど、かな……かった、か……」
口から夥しい量の血を流しながら、クリメイトが無念を呟く。
「……強かったですよ、クリメイト」
メルのその言葉は、決して嘘や慰めではなかった。
クリメイトの一撃によって、メルの全身には10か所以上もの重度の火傷が生じていた。クリメイトを貫いている右腕に至っては、最も近くでクリメイトの熱を受けたために、ほとんど炭化してしまっている。
真っ黒焦げになったメルの左腕を見下ろし、クリメイトがニヤリと笑う。
「ざまあ……みなさい……」
そう言って笑うクリメイトの体は、既に崩壊を始めていた。
体の末端部から中心に向かって、徐々に無数の光の粒子へと変化していき、風に吹かれて消えていく。
「終わったみたいね」
クリメイトが完全に消失したところで、遠くから観戦していた魅影がメルの下へ戻ってきた。
「随分手酷くやられたじゃない」
「はい……想像以上でした」
メルは霊力で自分自身に治療を施す。しかし傷が酷く、即座に完治とはいかなかった。
「これと同じくらい強い怪異があと6体もいると思うと、イヤになってきますね……」
「残りの6体のメルティーズが、クリメイトと同等の戦闘能力とは限らないわよ。クリメイトが最強だったかもしれないし、逆に他の6体が全員クリメイトより強い可能性だってあるわ」
「うわぁイヤになる~」
メルは治療を続けながら顔を顰める。ほとんどの火傷は綺麗さっぱり治ったが、炭化した右腕の治療にはもう少し時間がかかりそうだ。
「それもこれも、これから調べるべきことよ。そのためにも早く治療を終わらせなさい」
「そんなこと言われなくても分かってますよ」
魅影からの催促に、メルは少し拗ねて唇を尖らせた。
その後1分ほどかけ、メルは右腕を含めた全身の治療を終わらせた。
『あんなエグい怪我がこんな短時間で治るのか……』『人外だなぁ』『てか服ヤバくない?』『ちょっと際どすぎてるでしょ』
メルが新たに獲得した治癒能力に、視聴者達は大いに驚いている。
「痕も残らず綺麗に治ったわね。良かったじゃない」
「ね~、治るものですね~」
「じゃあそろそろ始めましょうか」
「は~い」
『始めるって何を?』『こっからまだ何かするの?』『そろそろ配信終わるのかと』
コメント欄の疑問には答えず、メルは治ったばかりの右腕を持ち上げ、右掌を前方に翳した。
すると前方に白い光が集まり始め、それが徐々に人間のような形へと変化していく。
『何だ!?』『また知らないことしてる……』『1回今のメルができること全部教えて欲しい』
「あはは、それはちょっと難しいですね~……メルも自分が何できるのかよく分かってないですし」
『なんでだよ』『自分のことだろ』
「でも今やってることは説明できますよ。もう1回クリメイトを生んでるところです」
『なんて?』『生んでる???』『どういうことなの???』
「桜庭さんの代わりに私から説明してあげるわ」
混乱する視聴者を見かねた魅影が、にゅっと画面の中に顔を出した。
「今の桜庭さんには、殺した相手の呪いや祟りを吸収する性質があるわ。桜庭さんが持っていた包丁の呪いを取り込んだことで、包丁の性質が桜庭さんにも宿ったのね」
「他人事みたいに言ってますけどそれやったの常夜見さんじゃないですか」
「桜庭さんがクリメイトを殺したことで、クリメイトの力は桜庭さんに吸収された。そしてクリメイトは元々桜庭さんから生まれた怪異だもの、吸収した力を元にもう1度生み出すことも可能だわ」
『なるほど?』『そうなんだ?』『分からんけどそういうものなのか』
「そういうものなのよ」
魅影が視聴者に説明をしている間に、メルの目の前には再びクリメイトの姿が現れていた。
「おはようございます。気分はどうですか?クリメイト」
「……あれっ!?どうしてアタシがここに!?」
目を開いたクリメイトは、心底驚いた様子で周囲を見回す。
驚くのも当然だ。クリメイトはつい先程死んだはずなのだから。
「メルはあなたを殺し、あなたの力を吸収しました。あなたは元々メルから生まれた存在ですから、もう1度生まれ直させることもできます」
「へぇ……なんでもアリなのね。だけど敵であるアタシを蘇らせるなんて正気なの?」
「言っておきますけど、メルが復活させたのはあなたの体と人格だけです。炎を操る能力はメルが預かってますから、メルにリベンジはできませんよ」
「……ちっ」
クリメイトは掌の上に炎を生み出すことを試み、メルの言葉が真実であることを理解した。
「……力だけを奪って、アタシを復活させるなんてどういうつもり!?負けたアタシを嘲笑おうってこと!?」
「メルそこまで性格悪くないですよ……単純に、あなたに聞きたいことがあるだけです」
「聞きたいこと?」
メルティーズはメルから生まれた存在だが、メルはメルティーズのことをほとんど何も知らない。
今後6体のメルティーズが控えている以上、クリメイトから可能な限り情報を得ておきたいところだった。
「アタシがアンタの質問なんかに、素直に答えるとでも?」
「ですよね~……でも素直に答えてくれると嬉しいな~って……」
手荒な手段を取ろうと思えばいくらでも取れる。しかし既に決着がついている以上、可能な限り穏便に事を進めたいというのがメルの心情だった。
「……まあ、答えるけどね」
「えっ、答えてくれるんですか!?」
「アンタのことはキライだけど、アタシはアンタに負けちゃったし……敗者は勝者に従うものでしょ?」
「わ~意外と律儀……」
メルの想定に反して、クリメイトはメルに従順だった。
「それじゃあ早速聞きたいんですけど……まず、他のメルティーズについて教えてください」
「メルティーズって何よ」
メルティーズという呼称はメルが勝手に考えたものだ。クリメイトが知るはずもない。
「メルから生まれたあなた達7人の怪異のことです。メルはそう呼んでます」
「……勝手に変な名前を付けないで欲しいんだけど?」
クリメイトは嫌そうに顔を顰めたが、それ以上はメルティーズという呼称について言及しなかった。
「じゃあ改めて、他のメルティーズのことを教えてください」
「教えてください、って言ったって……他の奴らのことなんて、名前くらいしか知らないわよ?」
「えっ、そうなんですか!?」
「だって、アタシ達はアンタから同時に生まれたってだけだもの。その後は1回も会ってないし、他の奴らのことなんて知りようがないじゃない」
「な、何かこう、メルティーズ同士の特別な繋がりとか、テレパシーみたいなのがあったりは……」
「無いわよそんなの」
「そんな~……」
完全に当てが外れてしまった。メルはクリメイトが他のメルティーズの情報を持っていると、信じて疑っていなかったのだ。
落ち込むメルの姿を見て、クリメイトがくすくすと笑う。
「でも何も知らなくって良かったわ。アンタのそんな情けない顔が見られたんだもの」
「うわぁ~性格悪ぅ~」
「性格悪いんじゃない、アンタが大っ嫌いなだけ」
「メルからしたら同じことなんですけど?」
しかし知らないものは仕方がない。メルは溜息を吐いた。
「はぁ……とりあえず、聞きたいことはこれで全部です」
「そ。だったらさっさとアタシをもう1回殺したら?」
「いや、折角復活させたのにもう1回殺すのは……とりあえずこの赤馬採石場跡地で暮らしといてもらえますか?」
「はぁ!?」
クリメイトは周囲を見回す。
「こんな何も無いところで暮らせって言うの!?」
「とりあえず!とりあえずですから!ここより暮らしやすいところ見つけますから!」
気炎を上げるクリメイトを何とか宥めるメル。
クリメイトの言う通りこの採石場は生活を送るのに全く適してはいないが、今のメルにはクリメイトをここに置いておく以外の選択肢が無いのだ。
「はぁ……分かったわよ。これ以上アンタの顔見ていたくないから、さっさとどっかに消えてくれない?」
「……やっぱり最後にもう1つ聞いていいですか?」
「何よ」
「……もしかして、他のメルティーズもあなたと同じくらいメルのこと嫌いなんでしょうか?」
「だから他の奴らのことは知らないって言ってるでしょ。でもまあ、そうなんじゃないの?」
「そんなぁ……」
悲しい気持ちになりながら、メルは言われた通りにクリメイトの見えないところまで距離を取る。
「有益な情報は得られなかったわね、桜庭さん」
「はい……情報何も無くてメンタルにダメージだけ負ったので、収支は大マイナスです……」
『かわいそう』『元気出して』『私達はメルちゃんのこと大好きだよ!!』『泣かないで』
「ありがとうございます皆さん……あったかい……」
冷たく当たられた直後に優しくされ、メルは冗談では無く泣き出しそうになった。
「桜庭さん。本格的に泣き出してしまう前に、そろそろ配信を締めたらどうかしら?」
「……そうですね、そうします。っていうか常夜見さん、めちゃくちゃ配信のこと気にしてくれてますね」
「それはそうよ。私も関わり始めた以上、半端なことはできないもの」
魅影は意外にも職人気質だった。
「皆さん今日はいかがでしたか?今日はね、新企画の自分探しの旅の初回だったんですけど、きちんと見つけられたのでよかったんじゃないかな~とメルは思ってます!……ちょっと、心はシクシクしてますけど……」
『元気出して』『慰めてあげたい』『私はメルちゃんのこと大好きってことを証明するために心臓を抉り出してメルちゃんに届けてあげたい』『なんかヤバいこと言ってる奴おる』『こいつキララさんじゃね?』
「自分探しの旅、第2回がいつになるかはちょっと分からないんですけど、できるだけ早く皆さんにお届けできたらいいなって思ってます!それじゃあ今日はこの辺で、バイバ~イ」
『バイバイ』『売買』『バイバ~イ!』
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次回は明日更新します




