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第26回桜庭メルの心霊スポット探訪:矢来神社 四

先に謝っておきます

ここから3話くらいずっと話の区切りが変です

 衝撃波を放った直後、メルの体に大きな変化が生じた。

 メルの内側から溢れ出した黒い靄のようなものがメルを包み込み、巨大な繭のようなものを形成したのだ。


 「ふふふ……」


 宙に浮かぶ魅影は爛々と目を輝かせながら、メルの変化を見守っている。

 黒い繭は地上を離れ、ゆっくりと空へ浮かび上がり始めた。


 「何事ですか!?」

 「メルちゃんどうしたの!?」


 するとここで、離れた場所に待機していた燎火と煌羅が駆けつけた。

 先程メルが放った衝撃波から異変を感じ取ったのだ。


 「なっ……こ、これは……」

 「何、あれ……」


 燎火と煌羅は空へ浮かぶ巨大な黒い繭を見上げ、目を見開いて言葉を失う。


 「何という悍ましさ……」

 「まるで祟り神みたい……何なのあれ……?」

 「あら。悍ましいだなんて酷い言い草ね」


 立ち竦む2人に、魅影が上空から声を掛けた。


 「あのような姿になったとしても、あれがあなた達の恩人であることに変わりはないというのに」

 「常夜見魅影……!あれはあなたの仕業ですか!?」

 「ちょ、ちょっと待って燎火ちゃん!」


 魅影に食って掛かろうとした燎火を、煌羅が袖を引いて制止する。


 「常夜見魅影……今、あれが私達の恩人だって言ったよね?」

 「ええ、言ったわ」

 「まさか……あれがメルちゃんなの?」


 恐る恐る魅影に尋ねる煌羅。

 そうであってほしくないという思いがありありと滲んだ煌羅の表情に、魅影は悪辣に口角を持ち上げる。


 「ええ、その通りよ」

 「っ、このっ!!」


 一瞬で怒りが頂点に達した煌羅が、魅影目掛けて『火鼬』を放つ。

 しかし煌羅の『火鼬』を、魅影は左手であっさりと払い除けてしまった。


 「常夜見魅影……あなたは桜庭さんに何をしたのですか?桜庭さんを一体どうするつもりなのですか?」


 燎火が魅影を鋭い視線で睨み付けながらそう尋ねる。


 「あら、分かり切ったことを聞くのね」

 「分かり切ったこと……?」

 「さっき幾世守煌羅があれを見て言っていたじゃない。『まるで祟り神みたい』と」

 「っ、まさか……!?」

 「メルちゃんを祟り神に!?」


 仮にも怪異の専門家である祓道師。燎火と煌羅はすぐにその結論に辿り着いた。


 「呪物である包丁に溜め込まれた祟り神7体分の祟りを、桜庭さん自身に逆流させたわ。このところ7体目の祟り神が中々見つからなくて困っていたのだけれど……お礼を言うわ。あなた達幾世守家が7体目の祟り神を見つけて、桜庭さんと戦わせてくれたおかげで、桜庭さんを祟り神にするに足るだけの祟りを集めることができた」


 メルが祟り神になる最後の切っ掛けを作ったのはお前達だ、と魅影は言外に言っていた。

 こうして話している間にも、黒い繭から放たれる威圧感は強まり続けている。


 「ああ……素晴らしい力だわ……」


 魅影は恍惚と頬を染めながら、そっと黒い繭を撫でる。

 それとは対照的に、祓道師2人は慄いていた。


 「こんなにおっきい力、今まで見たこともないよ……」

 「これほどの祟り神が解き放たれたら、この国が……いえ、この世界そのものが滅んでしまうかも……」


 燎火の懸念を、魅影は鼻で笑う。


 「世界が滅ぶ?そんなことは有り得ないわ。祟り神となった桜庭さんは、完全に私の支配下に置かれているのだもの。この阿頼耶権現によってね」


 そう言って魅影は2人にテディベアを掲げて見せた。


 「そのぬいぐるみが、阿頼耶権現……!?」


 燎火は阿頼耶権現という怪異の存在は知っていたが、実際に目の当たりにするのは初めてだった。


 「怪異を使ってメルちゃんの心を支配するなんて……っ!!」


 煌羅は怒りのあまり言葉を発することすらできなくなっている。


 「祟り神として生まれ変わった桜庭さんを使役し、その力を手中に収める。私の悲願は、もうすぐ果たされるわ」


 魅影は視線を燎火達から黒い繭へと戻した。

 黒い繭はその頂点から徐々に綻び始めている。


 「さあ、あなた達もよく目に焼き付けておきなさい。最強の祟り神の誕生よ!」


 魅影が高らかにそう叫ぶと同時に、蕾が花開くように黒い繭がゆっくりと解ける。


 「メル……ちゃん……」


 繭の中から現れたメルは、その姿が一変していた。

 頭部に聳える7本の角。本来白い部分が黒く、瞳が赤く染まった眼球。コウモリのような1対の黒い翼。無数の棘を持つ長い尾。夜の闇を衣服に仕立てたかのようなイブニングドレス。

 異形と称すべきその姿は、メルが人ならざる者へと変わり果てた事実を克明に表していた。


 「……」


 メルは感情の読めない瞳で、燎火と煌羅を見つめている。

 それだけで燎火と煌羅は、蛇に睨まれた蛙のようにその場に釘付けになってしまった。


 「気分はいかがかしら、桜庭さん」


 魅影がそう尋ねると、メルは視線を魅影の方へと移した。


 「とてもいい気分です」


 平坦な声でそう回答するメル。その従順な様子に、魅影は笑みを深くする。


 「やはり阿頼耶権現の精神支配は、祟り神になった後も有効のようね。偉いわ、阿頼耶権現」


 メルを未だ支配下に置いている功績を称え、魅影は阿頼耶権現の頭を優しく撫でる。

 しかしその直後、突如として阿頼耶権現の頭部が爆発した。


 「きゃあっ!?」


 テディベアらしからぬ血液や脳漿らしき液体が飛び散り、魅影は思わず悲鳴を上げる。


 「なっ、何が……!?」


 想定外の事態に動揺を隠せない魅影。

 既に阿頼耶権現は絶命しており、その小さな肉体は崩壊して消滅を始めている。


 「……あはっ」


 するとそれまで無表情だったメルが、不意に笑い声を漏らした。


 「あはっ、あははっ!あはははははははっ!!」


 狂ったように高笑いをするメル。するとメルの笑い声に合わせて、空間そのものがビリビリと激しく震え上がった。


 「桜庭さん……あなた……」

 「あははははははっ!!ねぇ常夜見さん、阿頼耶権現なんて矮小な怪異で、メルを支配できると思いました?ホントにメルを支配下に置けると思ったんですかぁ!?あははははははっ!!」


 顔を喜悦に歪めて魅影を嘲笑うメル。

 その表情も抑揚も言葉遣いも、普段のメルとはまるで違っていた。


 「メル、ちゃん……?」


 別人のようになってしまったメルを、煌羅は呆然と見上げている。


 「ざぁんねんでした!今のメルを支配できるものなんて、もうこの世界のどこにも存在しません!!」


 メルが右腕を空に向かって掲げる。


 「あはははははははははははははははっ!!」


 メルの右手から、空に向かって黒い光の柱が伸びていく。

 すると雲一つない快晴の青空が、急速に黒く染まり始めた。まるで一瞬にして日が落ちて、夜へと切り替わってしまったかのようだ。


 「まさか……これほどの力が……!?」


 空を塗り替えるという信じ難い所業を目の当たりにして、魅影の頬を冷や汗が伝った。

 メルが披露したその力は、魅影の想定を遥かに上回っている。それはすなわち、メルが魅影の想像を絶するほど強大な祟り神となったことを意味していた。


 「あはははははっ!!ありがとうございます常夜見さん!あなたのおかげで、今ならメルは何だってできそうです!例えばほら、こんなことも!」


 メルの体から黒い波動が放たれる。

 黒い波動は見渡す限りの森林を飲み込み、そこに生息していた樹木の全てを一瞬にして枯死させた。


 「なっ……森が、殺された……!?」


 自然豊かな森林が瞬く間に死の大地へと変貌したその光景を目の当たりにして、燎火は竦み上がる。

 燎火の知るどの祟り神と比較しても、今のメルの力は規格外だ。


 「幾世守燎火、幾世守煌羅」


 硬直している燎火と煌羅の側に魅影が降りてくる。


 「手伝いなさい。桜庭さんを止めるわ」

 「えっ?」

 「はぁ!?あんた何言ってんの!?」


 魅影の提案に燎火は困惑し、煌羅は魅影の胸倉を掴み上げた。


 「あんたが訳分かんないこと企んだから、今こんなことになってるんでしょ!?あんたがメルちゃんを祟り神になんてしなければ!!」

 「今はそんなことを言っている場合ではないの!!」


 魅影が煌羅の手を振り払う。


 「分からないの!?桜庭さんは私の想像を遥かに超える怪物になってしまったわ!さっき幾世守燎火が言っていた通り、今の桜庭さんはこの国を、いいえ、世界すらも滅ぼしかねないのよ!!」

 「っ、どの口が……」

 「確かにこの事態を招いたのは私!!けれど今ここで私を責めていたら、その間に桜庭さんが何もかもを滅ぼしてしまう!桜庭さんを止められるのは、今ここにいる私達だけなのよ!!」

 「いい加減にっ……!」


 魅影を殴りつけようとした煌羅の腕を、後ろから燎火が掴んだ。


 「煌羅さん、常夜見魅影の言う通りです」

 「燎火ちゃん!?」


 激昂する煌羅を宥めるように、燎火が煌羅の肩に手を掛けた。


 「常夜見魅影は責められるべきです。ですがそれをするのは今ではありません。桜庭さんを止めなければ、常夜見魅影に責任を取らせることもできなくなってしまいます」


 燎火の説得に、煌羅は一瞬逡巡する様子を見せる。

 そして。


 「っ……メルちゃんを元に戻したら、あんたをぶっ殺してやるんだから!!」


 砕けそうなほどに歯を食いしばりながらも、煌羅は魅影との共闘を受け入れた。


 「話は終わりましたかぁ?」


 メルが身の毛もよだつような笑みを浮かべる。


 「――祓器召喚」

 「祓器召喚!」

 「エルドリッチ・エマージェンス!」


 燎火と煌羅は祓器を呼び寄せ、魅影は怪異使いの秘奥義を用いて変身し、3人がそれぞれ戦闘態勢に入った。


 「いいですねぇ……せっかくの機会なんですから、あっさり死んだりしないでくださいね?」


 メルは獲物を前にした肉食獣のように舌なめずりをしてから、隕石のような速度で3人に向かって急降下を始めた。


 「っ、メルちゃん!」


 最初に飛び出したのは煌羅だった。メルの攻撃を受け止めるべく『亀骨』を構える。


 「あははははっ!!」

 「が、っ!?」


 しかしメルの強烈な攻撃の前には煌羅の防御は意味を為さなかった。大きく吹き飛ばされた煌羅の体は、水切りのように地面を何度も跳ねながら、遥か彼方へと消えていく。


 「っ、『青……」

 「遅いですねぇ!!」

 「ぅああっ!?」


 燎火が祓道を放とうとするも到底間に合わず、敢え無く強力な蹴りの餌食となってしまう。


 「――星よ紅く澱み給え」


 魅影が呪文を唱えると、魅影の体からバチバチと赤いプラズマが発生する。


 「ああ……それは厄介ですねぇ……」


 メルがぐるりと首を動かして魅影を見据える。


 「『神解雷螺(シンカイライラ)』!」


 魅影が組み合わせた両手をメルに向けて突き出すと、赤いプラズマがビームとなってメルに放たれた。


 「わぁ~、当たったら痛いだろうな~!」


 メルは笑いながら、迫り来る『神解雷螺』に向けて右手をかざす。するとメルの右手から、莫大な紫色の炎が放たれた。

 紫色の炎の奔流は『神解雷螺』とぶつかり合い、赤いプラズマを跡形もなく掻き消した。それでいて炎の威力は全く衰えることが無く、そのまま魅影の体をも呑み込む。


 「あああああっ!?」


 生命を害する呪いが具現化した紫色の炎に焼かれ、魅影を凄まじい苦痛が襲う。


 「あははっ!常夜見さん痛いですか?ねぇ、痛いですか!?」

 「ぐっ……『雷珠累(ライズガサネ)』!」


 魅影は痛みに耐えながら、16もの赤いプラズマの球体を作り出し、それらを一斉にメルへと放つ。


 「その心意気だけは褒めてあげます!」


 メルが自らを中心として、紫色の炎を球状に展開する。

 メルを狙った『雷珠累』はその全てが紫色の炎に着弾し、炎に呑まれて呆気なく消滅した。


 「ざぁんねん、無駄撃ちでしたねぇ!」

 「いっ、いいえ、無駄ではないわ」


 余裕の態度を崩さないメルに対し、魅影は挑発的な笑顔を浮かべる。


「やああああっ!」


 するとその時、メルの背後から、『亀骨』を振り被った煌羅が飛び出してきた。

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ありがとうございます

次回は明日更新します

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当にどの口で言ってるんだこの馬鹿は お前が始めた物語だろ一人で責任取って死ねよと
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