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第26回桜庭メルの心霊スポット探訪:矢来神社 一

 「皆さんこんにちは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す。心霊スポット探訪、今日は第26回ですね。やっていこうと思いま~す」

 『こんにちは~』『メルちゃんこんにちは!!』『今日は昼からか』『心霊系の配信とは思えない明るさ』


 この日のメルの配信は、太陽が天頂に輝く真昼間に始まった。


 「今日はですね、矢来神社(やらいじんじゃ)っていう場所に行こうと思います~。すごいんですよここ、最寄りのバス停から徒歩で30分以上かかるんです」

 『ヤライ神社?』『聞いたこと無いな』『徒歩30分ってメルの足で?』

 「メルの足でです」

 『え、ヤバっ』『大秘境じゃん』


 メルの口から語られた矢来神社の僻地具合に、コメント欄が戦慄する。


 「それと今日は、前々回と同じでゲストの方に来ていただいてるんです。皆さん、誰だか分りますか~?」

 『分からんけど多分キララさんだろ』『キララさんくらいしかこのチャンネルに来るゲストいないだろ』

 「ふっふっふ~、甘いですね~皆さん」


 ゲストと聞いて真っ先に煌羅を思い浮かべた視聴者達に、メルはしてやったりと笑顔を浮かべる。


 『てことはキララさんじゃないのか』『じゃあキセモリさんじゃね?』『ああ、ありそう』

 「……」

 『黙っちゃったよ』『なんて分かりやすすぎるリアクション』


 しかし結局はあっさりとゲストを言い当てられてしまい、メルは押し黙った。


 「……」

 『すぐ当てられたからって拗ねるなよ』『そんな難しい答えでもなかっただろ』『この難易度のクイズ当てられて拗ねる意味が分からん』

 「……はい、今日のゲストの幾世守燎火さんで~す」

 『不貞腐れたままゲストを呼ぶな』『ゲストの紹介くらいはちゃんとしろ』

 「ど、どうも……幾世守燎火です……」


 メルの呼びかけに合わせて、明らかに緊張した面持ちの燎火がカメラの前に現れた。


 「お久し振りですね~、幾世守さん。幽山(かくりやま)以来ですよね?」

 「そ、そうですね……」

 「……緊張してます?」

 「は、はい。少し……」

 「少し?」

 「……かなり緊張しています」


 前回メルの配信に参加した時もそうだったが、燎火はカメラで撮影されていることに慣れていなかった。緊張のあまり動きまで固くなってしまっている。


 「なんかぎくしゃくしてますね~、燎火さん。そうだ、本題に入る前に、少しカメラの前で喋ったり動いたりする練習をしてみましょうか」

 「は、え、その、いいのですか?」

 「いいんですいいんです。サクラさんちょっとスマホ貸してください」


 メルはサクラから撮影用のスマホを受け取り、自らがカメラマンとなって燎火にカメラを向けた。


 「それじゃあまず、お名前と年齢を言ってみましょうか」

 「は、はい。ええと……幾世守燎火、17歳です」

 「リラックスしてくださいね」

 「は、はい」

 「身長は?」

 「ええと……160くらいだったかと」

 「体重は?」

 「い、言えませんっ」

 「スリーサイズは?」

 「言える訳ないじゃないですか!?」

 『おいセクハラやめろ』『何のインタビューを撮ってんだお前は』


 時折悪ふざけを織り交ぜつつ、メルはインタビューで徐々に燎火の緊張を解していく。

 5分ほど続けていると、燎火の表情はかなり自然なものになっていた。


 「うん、いい感じにリラックスしてきましたね」

 「は、はい。ありがとうございます」

 「それじゃあそろそろ本題に入りましょうか」


 メルは撮影用のスマホをサクラに返し、改めて燎火に向き直った。


 「それで幾世守さん。今日はどうして来てくれたんですか?」

 「その……お恥ずかしい話なのですが、幾世守家の手に余ると思われる案件がありまして……桜庭さんに対処していただけたらと……」

 「つまりネタを提供しに来てくれたんですよね?」


 幾世守家では対処が難しい怪異が現れた場合、幾世守家からの依頼を受けてメルが対処する。二者の間ではそのような取り決めになっていた。

 メルとしても配信のネタになるので、メリットの大きい取り決めだ。


 「どんな案件なんですか?」

 「幾世守家は怪異の出現状況を調査すべく、各地に調査員を派遣しているのですが……矢来神社に派遣された調査員が、祟り唄(たたりうた)を聞いたと証言したのです」

 「祟り唄……ってなんでしたっけ」

 「祟り神が発する特徴的な鳴き声のことです」

 「あっ、そうでしたね。あのカロロロロってやつですよね?」


 燎火は頷いた。


 「祟り唄が観測されたということは、矢来神社に祟り神が封印されていること、そして封印が綻び始めているということはまず間違いありません。早急に対処しなければ、近い将来矢来神社の封印は破綻し、祟り神が解き放たれてしまうことでしょう」

 「えっ、マズいじゃないですか」


 メルの知る祟り神は、そのいずれもが容易く街を滅ぼすことのできる存在だった。生ける災害と言い換えてもいい。

 それが現代に解き放たれれば、大規模な被害が出ることは間違いない。


 「本来であれば封印が破綻する前に、再度封印を施したいところなのですが……祟り神の封印を安定して施すには、少なくとも20人の祓道師が必要になります。ですがそれだけの祓道師を動員する余裕は、今の幾世守家にはありません」

 「それでメルにやらせてみようって話になったんですね?」

 「お恥ずかしながら、桜庭さんであれば祟り神の再封印ではなく討伐も可能なのではないかと」

 「任せてください!ぶち殺してあげます!」

 『にこやかに物騒なこと言うな』『エンタメの言葉使え』

 「じゃあ早速その矢来神社に行ってみましょうか。ここからあと5分くらい歩いたところなんですよね、幾世守さん」

 「その通りです。では行きましょう」


 メルと燎火は矢来神社に向かって歩き出した。


 「そう言えば、メルはてっきり煌羅さんが来るのかと思ってました」


 前々回の配信では、本来は燎火が来るはずだったところを、燎火に頼み込んで代わりに煌羅が来たとのことだった。

 だからメルは今回も同じようにして煌羅が来るものだと思っていたのだ。


 「煌羅さんも来たがっていましたけどね……」


 燎火が苦笑する。


 「煌羅さんは今日は別の用事があって来られなかったんです。本人は血涙を流さんばかりに悔しがっていましたが……」

 「連絡先も知ってるんだから、配信関係なく会いに来たらいいのに……」


 雑談をしながら何も無い山道を進んでいくメルと燎火。


 「ちなみに、矢来神社に封印されてるのがどんな祟り神かって分かってたりするんですか?」

 「今のところ観測できているのが祟り唄だけなので、はっきりしたことは言えませんが……我々は水害を引き起こす性質を持つ祟り神だと推測しています」

 「水害って……洪水とかですか?」

 「はい。この周辺には洪水や川の氾濫の記録が多く残っているのですが、この辺りの地形からしてそのような水害が頻発するのは明らかに不自然です」

 「自然に起きたんじゃなくて、祟り神が起こしたってことですか?」

 「あくまで推測ですが」

 「水害を起こす神様……」


 メルは顎に手を当て、考え込む素振りを見せる。


 「どうやって戦うんだろう……」

 「どうやって、と言いますと?」

 「火とか氷とかだったら、燃やしたり凍らせたりして戦うんだろうな~って想像できるじゃないですか。でも、水ってどうやって戦うのか想像つかなくないですか?どうやってもビチャッてなっちゃいません?」

 「そうですね……例えば相手を水の中に閉じ込めて溺死させる、とかでしょうか」

 「お~、ありそう!すごいですね幾世守さん!想像力豊かですね!」

 「あ、ありがとうございます……?」

 『会話が緩すぎる』『なんかずっと聞いてられるな』『メルとキセモリさんとキララさんで雑談するだけの配信とかやってほしい』


 他愛もない会話をしながら歩くこと数分。メル達の前方に、経年劣化によって色がくすんだ鳥居が見えてきた。


 「あっ、鳥居がありますよ!幾世守さん、あれが矢来神社ですか?」

 「そうだと思います……恐らく」

 「あれ、幾世守さん矢来神社の見た目分からないんですか?」

 「……申し訳ありません。口頭での情報しか聞かされておりませんので」

 「ちょっと見てきますね……」


 メルは一足早く鳥居に駆け寄り、掲げられている額を確認する。風雨に晒されたその額はすり減ってかなり読みづらくなっていたが、それでも「矢来神社」の文字が確認できた。

 メルは燎火の下へと駆け戻る。


 「幾世守さん、あそこが矢来神社で合ってましたよ」

 「そ、そうですか、確かめていただいてありがとうございます……別に戻ってきていただかなくても、そのまま鳥居の所で待っていてくださればよかったのでは……?」

 「……確かに!」

 『確かにじゃなくてさ』『純然たる2度手間』


 メルは燎火と一緒に改めて鳥居に近付き、矢来神社の境内に足を踏み入れようとする。

 その時。


 「あれ?幾世守さん、今何か声が聞こえませんでした?」

 「声、ですか?いえ、私には特に何も……」

 「……ちゃ~ん!」

 「あっ、また聞こえました!」

 「今のは私にも聞こえました。どこからでしょう……?」


 声の出処を探すメルと燎火。


 「メルちゃ~ん!!」


 するとメル達が今しがた登ってきた山道を、何者かが大声でメルの名前を呼びながら駆け上がってきた。


 「えっ、なっ、誰ですか?」


 視線を向けると、そこにいたのは銀髪をハーフアップに纏めた水色の瞳の少女だった。


 「煌羅さん!?」


 燎火が驚いて声を上げる。

 メルの前まで一気に走ってきた煌羅は、両手を膝に当てて呼吸を整える。


 「はぁ、はぁ……来ちゃった!」

 「来ちゃった、って……煌羅さんは今日用事があるって、幾世守さんから聞いてましたけど……」

 「うん。でもメルちゃんに会いたかったから、爆速で用事終わらせてきた!」


 満面の笑みを浮かべる煌羅。その表情はどことなく犬っぽくメルには見えた。


 「終わらせてきた、って……早く終わらせられるような用事では無かったと思うのですが……」


 ニコニコの煌羅とは対照的に、燎火は引き攣った表情で冷や汗を流していた。その表情から察するに、煌羅の用事は軽いものではなかったのだろう。

 それをどうにか終わらせてまで自分に会いたかったのだと思うと、メルも悪い気はしなかった。


 「じゃあ折角来てくれましたし、煌羅さんも一緒に行きましょうか。煌羅さんも矢来神社のことは分かってる感じですか?」

 「うん!祟り神が封印されてるところだよね?」


 煌羅に説明は不要だった。ならば話は早い。

 メル達は改めて、3人で矢来神社の境内に足を踏み入れた。

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ありがとうございます

次回は明日更新します

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