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第24回桜庭メルの心霊スポット探訪:エトリ家 一

 「皆さんこんばんは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す」


 この日のメルの配信は夜遅く、何の変哲もないような住宅地の路上で始まった。

 住宅地に住む大半の人が就寝しているような時間のため、メルも普段より心持ち声が小さい。


 「心霊スポット探訪、第24回!やっていこうと思いま~す」

 『メルちゃんこんばんは~!!』『夜の配信久しぶりだね』

 「そうですね~、このところ連続でお昼の配信でしたからね~」

 『てかそこどこなの』『めちゃめちゃ普通の場所で配信してるじゃん』

 「ここはですね~……特にどこでもないとこです」

 『特にどこでもないとことは?』『心霊スポット探訪で特にどこでもないとこ行くなよ』

 「まあまあ落ち着いてください皆さん、そんなに生き急がなくても」

 『別に生き急いではねーよ』


 開始早々視聴者とのやり取りを楽しむメルだが、ここでふと我に返る。


 「あっ、そうだ!今日はだらだら話してる場合じゃないんですよ!」

 『何でよ』『いいじゃん別に』『俺達とだらだら喋ろうぜぇ』

 「ダメなんです!今日はゲストがいるんですから」

 『ゲスト!?』『めっずらしい』『誰~?』

 「それじゃあ早速呼んじゃいましょうか。ゲストさ~ん」


 メルが画面の外に向かって両手で手招きをする。


 「は~い」


 すると銀色の髪をハーフアップに纏めた、水色の瞳を持つ少女が画面の中に入ってきた。


 「はい、今日のゲストの幾世守煌羅さんで~す」

 「幾世守煌羅です!将来の夢はメルちゃんに生きたまま捌かれて、わさび醤油で食べてもらうことです!」

 「きゃああっ!?」


 登場早々煌羅が怖ろしいことを言い放ち、メルは思わず煌羅の肩をバシンと叩く。


 『なんか今とんでもないこと言わなかった?』『どういう願望?』『何で調味料がわさび醤油固定なの?』『自分をお刺身として見てほしいってこと?』


 煌羅の爆弾発言にコメント欄も騒然としている。


 「んんっ!え~っと、煌羅さん、今日はどうして来てくれたんですか?」


 咳払いをして強引に話を切り替えるメル。

 ちなみに配信の演出として知らないふりをしているが、言うまでもなくメルは煌羅がやって来た理由など事前に聞いている。


 「あのね、メルちゃんに倒してほしい怪異がいるの」

 「お~、メルが1番得意なやつですね」


 煌羅が今日の目的を口にすると、早速コメント欄に鋭い指摘が書き込まれる。


 『キララさんって祓道師じゃなかった?』『怪異なら自分で倒せばいいのに』

 「あはは……」


 確信を突いたコメントに、煌羅はばつが悪そうに笑顔を浮かべた。


 「幾世守家で倒せたらよかったんだけどね~……倒せなかったんだよね~……」

 「確か3回くらい倒しに行ったんでしたっけ?」

 「そうそう。最初に煽くんが倒しに行ってボロボロになって帰って来て。それで次は祓道師3人纏めて派遣したんだけどまた負けて。それで最終的には燎火ちゃんのパパまで動いたんだけど、燎火ちゃんパパもボッコボコにされちゃったんだよ~」

 「幾世守さんのお父さんって……」

 「今の幾世守家当主。1番強い祓道師だよ」

 「その1番強い祓道師さんがボッコボコにされて帰ってきたんですか?」

 「そう。だからもう幾世守家じゃどうにもなんないんだ~」


 お手上げ、というように煌羅が両手を上げる。


 「それでメルに頼もうって話になったんですね?」

 「今更どんなつもりで、って感じだよね。今まで散々メルちゃんを殺そうとしてきて」


 幾世守家はこれまで、祓道師の領分を侵しているという言い分でメルの命を狙ってきた。にもかかわらず今更どの面下げて、というのはメルにも否定できない。

 だがメルは過去のことに関してはもう気にしていなかった。


 「いいんじゃないですか?メルを殺そうとしてた1番の元凶は、もうメルが殺しちゃいましたし」

 「ありがとうメルちゃん。そういうところも好き」

 「ああ、はい……」


 煌羅の「好き」の形はかなり独特なので、メルは思わず顔を引き攣らせた。


 「そ、それにメルとしてもありがたいですよ、幾世守さん達がメルを頼ってくれるのは。こうして配信のネタになりますし」

 「それならよかった!それで私は今日、幾世守家が倒せなかった怪異をメルちゃんに倒してもらうように、幾世守家を代表してお願いに来たんだけど……実はもう1つ、私の個人的なお願いがあって~……」


 何やら両手をもじもじと動かし、上目遣いでメルの表情を窺い始める煌羅。


 「個人的なお願い?何ですか?」

 「あのね……これなんだけど」


 煌羅は持参していた紙袋から、見るからに高級そうな箱を取り出した。

 煌羅が丁寧な手付きで箱を開けると、そこには美味しそうなクッキーが詰まっていた。


 「これ、メルちゃんに食べてほしいな~って……」

 「え~……」


 クッキーを目にした瞬間、メルは思いっきり眉を顰めた。


 「一応聞きますけど……それ食べたらメルがどうなるか、分かった上で言ってるんですよね?」

 「うん!私、どうしても生で見たいの!魔法少女メルちゃん!」


 メルは現在、奇妙奇天烈なことに、クッキーを食べると魔法少女に変身してしまうという体質を抱えていた。

 その魔法少女に変身したメルの姿を拝むべく、煌羅はわざわざクッキーを持参したのだ。


 「うわぁすっごく高そうなクッキー……煌羅さんこれいくらしたんですか?」

 「5000円ちょっと!」

 「ぶっ!?」


 想像していた倍近い金額に、メルは思わず噴き出した。


 「メルちゃん……ダメかなぁ?」


 クッキーを差し出し、潤んだ瞳でメルを見つめる煌羅。


 『食べてやれよメル』『キララさん可哀想だろ』『5000円もするクッキー買ってくれたんだぞ』『まさか食べないなんてこと無いよね?』『流石に食べるでしょ~』『キララさんもっと押せ!!』『わ~美味しそうなクッキー、俺がメルだったら今すぐにでも食べちゃうな~』『早く食えよ』『食え』『食え』

 「皆さんどれだけメルを魔法少女にさせたいんですか!?」


 メルの魔法少女姿は何故か視聴者に人気が高く、そのためコメント欄は完全に煌羅の味方だった。


 「メルちゃん……」


 煌羅は相変わらず子犬のような瞳をメルに向けている。


 「っ……分かりました!食べますよ!」

 「メルちゃん……!ありがとう!」


 ついに根負けしたメルは、燎火が持つクッキーの箱へと手を伸ばす。

 そして数種類あるクッキーの中から最もプレーンなものを選び、恐る恐る口へと運ぶ。


 「わっ、おいしっ……」


 普段口にする機会の無い高級クッキーの味に驚いたのも束の間、メルの全身が虹色の光に包まれた。

 虹色の光の中でメルの着ている服が消失し、代わりにリボンやフリルやハートマークが沢山のピンクの衣装が出現する。

 そしてメルの頭髪がピンク一色に染まり、ツインテールが2倍以上に伸長した。


 「はい、これでいいですか?」

 「わああぁぁぁぁ……!!」


 煌羅はまるで本物のヒーローを目の当たりにした少年少女のように、キラキラと瞳を輝かせている。


 『うおおおおお!!』『よっしゃ来た!!』『スクショしなきゃスクショ』『メルの魔法少女衣装で今日もご飯が進むなぁ』『メルちゃんが魔法少女に変身してくれたおかげで危篤だった高祖父が息を吹き返しました』『魔法少女メルのおかげで宝くじ当たりました』『国家試験受かりました』『ありがとうございます……』


 コメント欄も大いに盛り上がりを見せていた。


 「これの何がそんなにいいんですか~……?」


 メルには自分自身の魔法少女姿の魅力がさっぱり分からず、熱狂する煌羅やコメント欄に困惑を通り越して軽く恐怖を覚えていた。


 「ねぇねぇメルちゃん、一緒に写真撮ってもいい!?」

 「写真ですか?まあいいですけど……」

 「ホント!?ありがとう!!」


 煌羅がメルの隣に並び、スマホのインカメラで自撮りの準備を始める。

 メルも一応カメラに向かってピースサインを取った。


 「それじゃ行くよ~。はい、チーズ!」


 パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ……


 「ちょっ、連写!?ていうか何枚撮るんですか!?」

 「えっ?まずは100枚くらいと思ったんだけど……」

 「撮りすぎですよ!……えっ、まず!?まずで100枚なんですか!?」


 煌羅は撮影した写真を早速確認し、ご満悦な笑みを浮かべる。


 「ね、メルちゃんだけの写真も撮ってもいい?」

 「……まあ、いいですよ。ここまできたら」

 「やった!」


 煌羅が嬉々としてスマホのカメラをメルに向け、メルは一応即興で魔法少女らしいポーズを取る。


 「撮るよ~!」


 パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ……


 「……だから撮りすぎですって!何枚撮るつもり……」


 パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ……


 「ちょっ、人が話してる時は写真撮るのやめましょうよ!マナーでしょ!?」

 「あっ、ごめんなさい」


 メルに怒られてようやく撮影を止めた煌羅は、満面の笑みで撮影したばかりの写真を見返す。


 「はぁ~メルちゃん可愛いなぁ……あっ、この写真はちょっと半目になってる。でも半目のメルちゃんも可愛い……」

 「……あんまり本人の前でそういうこと言わない方がいいですよ?」

 『メル顔赤くなってる』『メルを照れさせるキララさん有能』


 本人が目の前にいるのを忘れたかのように煌羅が「可愛い」を連呼するため、メルはただただ赤面するばかりだった。


 「メルちゃん、この写真壁紙にしてもいい?」

 「壁紙って、スマホのですか?」

 「ううん、家の!」

 「絶対やめてください!?」


 自分の写真が友人の家の壁に張り出されるなど、悪夢以外の何物でもない。


 「あっ、今私が撮影した写真の一部は、配信終了後に視聴者の方にも配布させていただきますので!」

 「ちょっ、何を……」

 『やったああああああ!!』『キララさんマジで有能』『キララさん神』『俺一生キララさんについていきます!』『キララさんこのチャンネルのレギュラーになって』

 「メルの視聴者ちょっと現金過ぎませんか!?」


 この短時間で、煌羅はメルの視聴者の心を完全に掌握していた。


 「はぁ~満足した。燎火ちゃんに無理言って代わってもらってよかったぁ~……メルちゃん、クッキーもう1枚どうぞ」

 「ああ、ありがとうございます……」


 メルは箱からもう1枚クッキーを摘み、それを口に含む。

 するとメルの体が再び虹色の光に包まれ、馴染みのあるピンクのブラウスと黒のスカートの姿に戻った。


 「メルちゃん、このクッキー全部あげるから、よかったらまた変身に使ってね!」

 「えっ、そんな、もらえませんよ。だってこれ、5000円以上するんでしょ?」

 「いいの、これはメルちゃんに変身してもらうためだけに買ったやつだから。お礼だと思って受け取って!」

 「……そういうことなら、まあ」


 メルはありがたく高級クッキーの箱をいただいた。


 「でもこれだけじゃお礼に足りないよね……10万までなら出せるんだけど、それで足りるかな?」

 「要らないですよお金は……どこなんですかそのお金の出処は……」


 ちょっと写真を撮っただけで気軽に10万円を支払おうとする、煌羅の金銭感覚がメルには怖かった。


 「それじゃあメルちゃん、そろそろ怪異がいるところに行こっか」

 「?……ああそっか、今から怪異殺しに行くんでしたね」

 『忘れてて草』『俺も正直忘れてた』『俺も』『私も』


 突発的に始まった撮影会のせいで頭から抜け落ちていたが、メルはこれから幾世守家が対処しきれなかった怪異を殺しに行くのだ。

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ありがとうございます

次回は明日更新します

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― 新着の感想 ―
[一言] 煌羅ちゃん、タンノくんとは逆か。 いや煮たり焼いたりに言及してないから、逆ってのもおかしいか。
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