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第23回桜庭メルの心霊スポット探訪:目星稲荷 中編

 「玻璃ちゃんがメルにリクエストを送ってくれた神様……ってことでいいんですか?」

 「そうよ!来てくれてありがとう!」

 「ど、どういたしまして……」


 メル一応、「桜の瞳」を通じて玻璃を観察してみる。すると玻璃の小さな体は、黄金色の光で縁取られて見えた。

 玻璃が神格であることに間違いは無さそうだ。


 「ん!」


 玻璃がメルに手を差し伸べる。


 「あっ、よ、よろしくお願いします」


 メルは玻璃の小さな手を両手で包み込むようにして握手をした。

 玻璃が小さいので握り潰してしまわないか少し心配だったが、そこは流石神格、玻璃の手から儚さや脆さは一切感じられない。


 「あの、玻璃ちゃん。1つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 「ええ、いいわよ!何でも聞いて!」

 「玻璃ちゃんは、メルの配信を見てくれてるんですよね?」

 「ええ!いつも楽しく見させてもらってるわ!」

 「ありがとうございます。でも、その……どうやって?」


 メルは玻璃がどのように配信を見ているのか、その方法が見当もつかなかった。まさか神格がスマホやパソコンを持っているとは思えない。


 「どうやってって、勿論これよ?」


 しかしメルの予想に反し、玻璃がパチンと指を鳴らすと、玻璃の側に1台のスマホが宙に浮いた状態で出現した。


 「えっ、それって……玻璃ちゃんのスマホですか?」

 「そうよ!って言っても、私が自分で買ったんじゃないけど」

 「どういうことですか?」

 「私はね、人間が失くしたものを見つけることができるの。このスマホも近くの森の中に落ちてるのを見つけたものなのよ」


 玻璃がそう言って胸を張る。


 「えっと……落ちてたものを、玻璃ちゃんのものにしたってことですか?」

 「べ、別にすぐ貰った訳じゃないわよ!?落とし主が取りに来てもいいように、1年くらいは取っておいたんだから!」

 「1年……1年取りに来なかったならまあ……?」


 判断が難しいところである。

 だがそもそも神格は法律の外側の存在なので、どちらにせよ咎めることはできない。


 「ちなみにそれって何年くらい前の話ですか?」

 「えっ?う~ん、そうね……人間の暦はよく分からないけれど、多分5年くらい前じゃないかしら?」

 「5年ですか!?5年間もそのスマホ動いてるんですか!?」


 だとするとスマホの本来の持ち主は、失くしたスマホの利用料を5年間も払い続けたということだろうか。

 メルのその考えを見透かしたように、玻璃は悪戯っぽく笑った。


 「1年間持ち主が現れなくて、このスマホを私のものにした時にね、ちょっと改造しちゃったの。このスマホは電気じゃなくて私の霊力で動くし、利用料を払っていなくてもネットに繋ぐことができるのよ」

 「なんですかそれ、夢のスマホじゃないですか!?」

 「ふふん、いいでしょ~」

 『ハリちゃんめちゃくちゃドヤ顔』『すごく自己顕示欲が満たされてそうな顔してる』


 スマホに対するメルの反応に気を良くしたのか、玻璃は口角を上げられるだけ上げてにんまりと満足げな笑みを浮かべている。


 「なんだか嬉しいわ!私、人間と話すのって久し振りだから!」

 「そうなんですか?喜んでもらえたならよかったです」


 和やかに話すメルと玻璃。

 だがメルは玻璃の背中にある水晶のような翼の内、右側の翼の先端が徐々に黒く染まり始めていることに気が付いた。


 「あれ、玻璃ちゃんそれ……翼が黒くなってますけど」

 「あ~、またなのね」


 玻璃は翼の先の黒ずみを目にすると、辟易したように顔を顰めた。


 「リクエストで言ったでしょ?私の領域に住み付いた怪異の呪詛のせいで祟り神になりそうだって。これがその祟り神になりかけてる状態なのよ」

 「えっ!?大変じゃないですか!」

 「そうよ!大変なんだから!」


 プンプンと頬を膨らませる玻璃。


 「まあ、これくらいならすぐに治せるんだけど……むんっ!」


 玻璃が力を込めると、その小さな体が淡い黄金色の光に包まれる。


 「むむむむむ……」


 黄金色の光の中で、翼の先端の黒ずみが徐々に小さくなっていく。

 そして10秒ほどで、玻璃の右の翼は元通りの美しい色を取り戻した。


 「はぁ~……疲れるのよね、これ」

 「えっと……もう大丈夫なんですか?」

 「ええ!まあ、また時間が経てば黒くなっちゃうと思うけど……」


 玻璃が表情を曇らせる。


 「今はまだむんってやれば元に戻せるけど、きっとその内黒いまま戻らないようになるわ。そうなったら私の体はどんどん黒くなっていって、私は祟り神になっちゃうの……」

 「それは、怪異を殺せば治まるんですか?」

 「ええ。けれど私には殺せないくらい強い怪異なの。まあ……そもそも私があんまり強くないんだけど……」


 聞いたところによると、玻璃の得意とするのは失せ物探し。それと先程のスマホのような物品の改造で、戦闘は完全に畑違いとのことだった。


 「ねぇ、メルちゃん。私、祟り神になるのなんて絶対にイヤ!だからお願い、私の代わりに怪異をぶっ殺して!」

 「勿論です。メルはそのために今日ここに来ましたから」


 メルが二つ返事で頷くと、玻璃はパァッと輝くような笑顔を浮かべた。


 「ありがとう、メルちゃん!」

 「ふぎゅっ」


 感極まったようにメルの顔面に飛びつく玻璃。エイリアンが人間の体内に卵を産み付けているような絵面になってしまった。


 「それで玻璃ちゃん。怪異の居場所は分かってるんですか?」


 玻璃を顔から引き剥がしながらメルが尋ねる。


 「勿論よ!だって私、何回か倒しに行ったもの!まあ、ペシッてされちゃったけど……」

 「ペシッてされちゃったんですか……」


 メルの脳内にハエ叩きのイメージが浮かび上がってきたが、流石にそれを口に出さないだけのデリカシーは持ち合わせていた。


 「よかったら案内してもらえますか?あっ、もし近付きたくないとかだったら、場所を教えてもらうだけでもいいですけど」

 「いいえ、案内するわ!近付くのはイヤだけど、メルちゃんがちゃんとアイツを殺してくれるんでしょ?」

 「任せてください、メルは怪異を殺すのだけは自信があるんです」

 『もっと他のことにも自信持て』


 では早速怪異討伐、ということで、メルと玻璃は拝殿の外に出た。


 「ついて来て!」


 玻璃が水晶の翼をパタパタと羽ばたかせて飛行し、メルを先導して建物の裏手へと回る。


 「こっちよ!」


 そしてそのまま神社の裏の雑木林へ飛び込んでいった。

 玻璃の飛行速度はジョギングより少し速い程度。その後をメルは特に急ぐでもなく普通に歩いてついていく。


 「木の根っことかで地面がボコボコしてて、歩きづらいですね~」

 『歩きづらい人間の速度じゃないだろ』『普通の歩行のモーションでその速度出てるの普通に気持ち悪いんだけど』『動く歩道か何かに乗ってる?』


 そして玻璃の後を付いて歩くこと10分。メルは肌がひりつくような嫌な気配を感じ始めた。


 「あそこよ……」


 玻璃が緊張した面持ちで前方を指差す。

 そこにはテニスコート程度の広さの開けた空間があり、その空間の中央に雑木林には似つかわしくない怪異の姿があった。


 「なんですかあれ……武士……?」


 その怪異は全身に黒一色の甲冑を着込んだ鎧武者のような姿をしていた。顔は面頬と呼ばれるような防具に覆われ、その人相は窺い知れない。

 そして怪異が被っている兜には、大きな金色の三日月がついていた。黒で統一された甲冑の中で唯一金色の輝きを放つその三日月は、否応無しにメルの目を引いた。


 「確か、あんな感じの兜被ってた戦国武将いましたよね?」

 『伊達政宗かな?』

 「多分それです。それにしてもあの怪異、雑木林の中だとちょっとミスマッチですね」


 鎧武者の怪異はさながら本陣で指揮を執る大将のように堂々と座っているが、周囲が何もない雑木林のためその光景はいささかシュールだ。


 「アイツすっごく強いの!メルちゃんやっちゃって!」

 「は~い」


 メルはスカートの下から包丁を取り出し、鎧武者へと近付いていく。

 鎧武者はメルの存在に気付き、面頬の奥の両目が赤い光を放った。


 「ヴァァ……」


 トロンボーンのような重低音の声が、面頬の向こうから聞こえてくる。


 「玻璃ちゃんは離れててください。巻き込んじゃったら困りますから」

 「わ、分かったわ!」


 玻璃が逃げるようにどこかへと飛んでいく。やはり鎧武者の怪異が恐ろしかったのだろう。


 「えいっ」


 メルは地面を強く踏み込み、立ち上がった鎧武者へと一瞬で肉薄する。

 振りかぶった包丁の刃から、紫色の炎が彗星の尾のように噴出した。


 「てやっ!」


 メルの速度に鎧武者は反応が間に合わず、包丁の刃が胸の甲冑を捉え……


 「えっ!?」


 しかし包丁はガキンッという金属音と共に、甲冑に弾き返されてしまった。


 「嘘……」


 メルは呆然と包丁の刃を見つめる。

 これまで紫色の炎を纏った状態の包丁が、怪異を斬れなかったことなど1度も無かった。

 この包丁で斬れないものは無いと思っていた節のあるメルにとって、包丁の刃が弾かれたというのは衝撃が大きかった。


 「ヴァァ……」


 鎧武者が腰に下げた刀の柄に手を掛ける。


 「あっ、まずっ……」


 危険を感じ取ったメルが後方に宙返りするのと、鎧武者が居合のように刀を高速で抜き放つのは、ほとんど同時だった。

 刀が僅かにメルのツインテールを掠め、黒と桜色の髪が数本はらりと散る。


 「っぶなぁ……」


 メルは冷や汗を流しながら、ここで初めて鎧武者の刀を視界に収めた。

 それは一見すると何の飾り気もないごく普通の日本刀のように見えたが、それを視認した途端メルは全身に鳥肌が立った。


 「うわ、見るからにヤバいやつですねあの刀……」

 『そうなの?』『普通の刀に見えるけど』

 「絶対ヤバいですって。多分斬られたら即死とかですよあれ」

 『普通の刀でも割とそうじゃね?』

 「ヴァァ!」

 「ひゃあ!?こっち来た!?」

 『そりゃ来るだろ』


 鎧武者の刀に、メルも包丁を剣のように振るって応戦する。

 メルと鎧武者はチャンバラのようにお互いの得物を打ち合わせ、ガキンガキンと甲高い金属音が何度も鳴り響く。


 「硬い相手ってのは~……」


 メルは地面を蹴って跳躍し、手近な木の幹を利用して三角跳びの要領で更に飛距離を稼ぐ。


 「関節が弱点って相場が決まってるんですよ!」


 2段階の跳躍によって鎧武者の知覚を振り切ったメルは、そのまま鎧武者の死角から攻撃を仕掛ける。狙うは右肩にある甲冑の隙間だ。


 「てやぁっ!」


 しかし包丁の刃が届く直前、鎧武者の巨体が地面に沈み込むようにしてその場から消失した。

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ありがとうございます

次回は明日更新します

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