第23回桜庭メルの心霊スポット探訪:目星稲荷 前編
「皆さんこんにちは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す」」
『こんにちは~』『今日も昼から配信か』『最近昼の配信多くない?』
「そうですね、最近お昼多いですね~。夜は眠いですし」
『草』『心霊系ストリーマーやめちまえ』
「やめませ~ん。第23回心霊スポット探訪やりま~す」
配信開始早々、視聴者とじゃれ合うメル。この日の配信は、どこかの神社の鳥居の前でスタートした。
「今日はですね、本題に入る前に1つ聞いてほしい話があるんです」
『なになに?』『悪い話?』
「悪い話……う~ん……いいとも悪いとも言えないような……とりあえず、これ見てください」
メルがポケットから、ビニールで包装された1枚のクッキーを取り出す。
「皆さんこれ覚えてますか?これ、羽衣クッキーって言うんですけど」
『覚えてるよ~』『流石に覚えてる』『ネットで買って食べてみたけどおいしかった』
「おいしいですよね~これ……で、話はここからなんですけど」
メルはペリペリと包装紙を剥がし、中のクッキーを手に取る。
そして黒マスクを僅かにずらし、その隙間からクッキーを口へと運んだ。
「……うん、おいしい」
『よかった』『なんで今クッキー食べたの?』
「まあ見ててください。すぐに始まりますから」
『始まるって何が?』
「あっ、ほら、始まりましたよ」
メルがクッキーを飲み込んだ直後、メルの全身が虹色の光に包まれた。
『なんだ!?』『あれなんか見たことあるな』
極彩色の光の中で、メルが身に付けているピンクのブラウスや黒のスカートが消失し、代わりにリボンやレースやハートマークがあしらわれたピンク色の衣装がメルの体を包む。
黒と桜色が混ざっていた髪はピンク一色に染まり、ツインテールは元の2倍以上に伸長する。
そうして一新されたメルの装いは、紛れもなく魔法少女のそれだった。
『おおおおお!?』『変身した!?』『マジ!?』
「え~っと……皆さん覚えてますでしょうか?前回の配信で、メルは色々あって羽衣クッキーを食べて魔法少女に変身したんですけど……」
『色々ありすぎだろ』『これ前回の配信見てない人意味分からないだろうな』『前回の配信見てたところで意味は分からんけどな』
「その時の後遺症なのか分からないんですけど……メル、今でもまだ羽衣クッキー食べると変身しちゃうんですよ……」
『草』『嘘でしょ?』『魔法少女って後遺症あるんだ』『かわいい!!』
「一応、もう1枚食べれば元に戻れるんですけど……」
メルはどこかから2枚目の羽衣クッキーを取り出し、パッケージを剥いて口に含む。
するとメルの体が再び虹色の光に包まれ、魔法少女の衣装から元の服装へと戻った。
『おお』『戻った』『結構自由に変身できるんだな』『いいじゃん』
「……まあ、これだけならまだよかったんです。変身してもすぐに戻れますし、羽衣クッキーなんてお取り寄せでもしない限り食べる機会無いですし。いや、魔法少女に変身しちゃう時点でよくはないんですけど」
『なんで?』『いいことしかないじゃん』『眼福』
「メルの視聴者さんなんでそんなに魔法少女好きなんですか?」
メルが魔法少女に変身したことで、コメント欄は滅多に見ないような熱気に包まれている。
どうやらメルの視聴者層と魔法少女のマニア層は被っているらしい。
「とにかく、話はここからなんです。ちょっとこれ見てください」
メルはポケットからまたクッキーを取り出す。だが今度は羽衣クッキーではなく、チョコチップが散りばめられたココア色のクッキーだ。
「これは羽衣クッキーとは全然関係ない、メルがさっきドラッグストアで買ってきたクッキーなんですけど……」
メルがココア色のクッキーをビニールから取り出し、マスクをずらして口へと運ぶ。
するとメルの全身が、またしても虹色の光で包まれた。
『え!?』『そのクッキーでも変身するの!?』
視聴者達が驚愕する中で、メルは再び魔法少女の姿へと変身した。
「はい、見ていただいた通り……今のメル、何のクッキー食べても変身しちゃうんです……」
『草』『ヤバいじゃん』『もう人前でクッキー食べられないね』
「そうなんですよ……ていうかクッキーなら何でもいいのは意味分からないじゃないですか……」
『確かに』『それはそう』
両手で顔を覆って打ちひしがれるメル。種類を問わずクッキーを食べたら魔法少女に変身してしまうというのは、普通に日常生活に支障が出る。
「……そういうことで、魔法少女になってしまいましたというお知らせでした」
メルはチョコチップクッキーを食べて元の姿に戻った。
「さて、それじゃあそろそろ本題に入ろうと思うんですが……今日の配信はですね、ちょっと面白いリクエストをいただいたので、それにお応えしていこうと思います」
『面白いリクエスト?』『どんなの?』
「ふふっ、気になりますよね~?それじゃあ早速読んでいきましょう!」
メルが四つ折りにされたコピー用紙を取り出す。
「読みますね。
桜庭メルさん、いつも配信楽しく見せてもらっています。
私は神なのですが、この頃少し困ったことがあります。
私はとある稲荷神社とその近辺の森を領域としているのですが、最近私の領域に強力な怪異が住み着いてしまいました。
このままでは怪異の呪詛に中てられて、私は祟り神になってしまうかもしれません。
どうにか怪異を排除しようと手を尽くしましたが、私の権能は荒事向きではないためどうにもできませんでした。
私は絶対に祟り神になりたくありません。
桜庭メルさん、どうか私の代わりに、私の領域から怪異を排除してください。
よろしくお願いします。
……とのことですね~」
『私は神なのですが???』『どういうことなの……』『視聴者に神がおるんか?』『私が神だ』
「という訳で配信を始めてから初となる、神様からのお便りをいただきました~」
読み終えたコピー用紙をポケットに戻し、メルはパチパチと拍手をする。
「これがもし他のストリーマーさんの所に来たお便りだったら、神様なんて絶対に嘘なんですけど。メルの場合はちょっと嘘とは言い切れませんよね~」
『確かに』『神が出演したことあるしな』
「何なら元神様が撮影してくれてますしね~」
メルがカメラを構えるサクラに手を振り、サクラも軽く左手を上げて応えた。
「という訳で、今日の配信はこの神様のお願いを聞いて、神様の領域に住み着いた怪異を殺しに行こうと思います!」
『お~』『いいじゃん』『でも普通にボケの可能性もあるよな』
「ですね~。でも『私は神なのですが』の出だしが面白かったので、嘘だったとしても見逃してあげます」
『見逃してあげますって言い方がちょっと怖いわ』『見逃されなかった場合は殺されそう』
ちなみにメルが見逃すつもりなのは「私は神なのですが」の部分が嘘だった場合のみで、リクエストそのものが悪戯で出されたものだった場合は話が別だ。
「で、メルはその神様がいるっていう神社にやってきました~」
メルが背後の鳥居を示す。鳥居の大きさからして、そこまで規模の大きな神社ではない。
「こちらはですね、目星稲荷という神社だそうです」
『稲荷ってことは狐の神様だったりするのかな』
「どうでしょうね~。メルもまだどんな神様なのか知らないんです。直接会った時のために楽しみは取っておこうと思って、メッセージでも聞きませんでした」
『ウッキウキで草』『これは嘘だった時が怖いな……』
「それじゃあお喋りも長くなっちゃいましたし、そろそろ神様に会いに行ってみましょう!」
メルはカメラに向かって敬礼をして見せてから、ようやく神社の鳥居をくぐった。
「ちなみに神様の話では、この神社は今はもう管理する人がいない廃神社だそうです」
『人がいなくなった神社に神様がいて大丈夫なの?』『なんか神様って信仰されなくなると消えちゃいそうなイメージあるけど』
「分からないですけど、大丈夫なんじゃないですか?その神様、人がいなくなったのをいいことにこの神社に住み始めたって言ってましたし」
『草』『その神社で祀られてたとかじゃないんだ』『不法占拠では?』
参道を進むとこじんまりとした拝殿が見えてくる。人の手が入らなくなった割に、拝殿は綺麗な状態だった。
『神様は神社のどこにいるって話なの?』
「拝殿の中って聞いてます」
メルは拝殿に近付き、パンプスを脱いで縁側へと上がる。
「ごめんくださ~い……」
そしてメルは恐る恐る拝殿の扉を開いた。
古い建物ということでカビやホコリの臭いを警戒していたメルだが、意外にもメルの鼻が感じ取ったのは建材である木の香りだけだった。
「あれ……?誰もいませんね……」
拝殿内には誰の姿も見当たらなかった。試しに聴覚を研ぎ澄ましてみても、物音の類は聞こえてこない。
『やっぱり嘘だったのかな』『メル騙されたんじゃないの?』『前にも1回あったよな、偽のリクエストで誘き出されたこと』
「そうなんですかね……だとしたらリクエスト送ってきた人殺さなきゃなんですけど……」
『怖い怖い』『殺すって言葉が軽すぎる』『これもうあの包丁が悪さしてるだろ』
やはりあのリクエストは嘘だったのか、とメルが肩を落としかけたその時。
「よく来てくれたわね!」
元気な声が頭上から聞こえてきた。
「えっ?」
メルがそちらに視線を向けると、天井の梁の近くに小さな女の子の姿があった。
小さな女の子と言っても、小学生や幼稚園児などという話ではない。目算で身長が30cm程度しかない、小人のような女の子だ。
『何だアレ!?』『妖精?』『ちっちゃい』『綺麗な羽だな』
女の子の背中には、水晶のような質感の1対2枚の翼が生えている。翼の中ではオーロラのようにいくつもの光がちらちらと瞬いており、幻想的な美しさを有していた。
「会えて嬉しいわ!」
女の子がメルの顔の目の前にまで降りてくる。
「えっと……あなたは?」
「私は玻璃守神!玻璃ちゃんって呼んで!」
「は、玻璃ちゃん?」
「うん!よろしくね、メルちゃん!」
『可愛い』『守ってあげたい』
玻璃と呼ばれることを望むその神は、人懐っこい子供のような振る舞いで、気さくで無邪気な印象を受けた。
いいねやブックマーク、励みになっております
ありがとうございます
次回は明日更新します




