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第22回桜庭メルの心霊スポット探訪:五劫山 四

 「貴様、邪魔を……」

 「えいっ」

 「ぐあっ!?」


 メルは力任せにブラックを突き飛ばし、それからハモロイザーに手を差し伸べた。


 「立てますか?」

 「……ああ!」


 ハモロイザーがメルの手をしっかりと掴み、ボロボロの体で立ち上がる。


 「ここからはメルもお手伝いしますよ。どうせハモロイザーさん1人じゃ勝てなさそうですし」

 「ははっ、手厳しいな……だが、ありがとう!」


 並び立つハモロイザーとメル。


 「今更1人増えたところで何になる……」


 ブラックが剣を構えながらメル達を睨み付ける。


 「ダークマタークッキーを取り込んだ俺に勝てると思っているのか……!?」

 「思ってますよ、勿論」


 メルは包丁の切っ先をブラックに突き付けた。


 「いつの時代でも、闇堕ちした仲間は主人公には勝てないんだってこと、今からメル達が教えてあげます」

 「だがメル、ダークマタークッキーを取り込んだブラックは強敵だぞ」

 「ちょっと!今メルがカッコいいセリフ言ってるところなんですから、腰折らないでくださいよ」

 『お前が言うな』


 どうやらメルが加勢して尚、ハモロイザーはブラックの強さに危機感を抱いているようだった。ハモロイザーはメルの具体的な強さを知らないのだから無理もない。


 「だからメル、どうか俺の力を受け取ってくれ」

 「えっ?ハモロイザーさんの力って……」


 メルがハモロイザーの方を振り向くのと同時に、ハモロイザーの右肩の装甲がパカッと開く。

 そしてそこから1枚の羽衣クッキーが高速で射出されて、一直線にメルの口へと向かってくる。


 「えっ、ちょ……」


 口の中に飛び込んで来ようとしたクッキーを、メルは咄嗟に歯で挟んで受け止める。しかし流石は柔らかさが自慢の羽衣クッキー、軽く噛んだだけでほろりと崩れてしまった。

 メルは仕方なく、口の中で砕けたクッキーを嚥下する。


 「ちょっとハモロイザーさん!?いきなり何を、って……えっ?ええっ?」


 その瞬間、メルの体が虹色の眩い光に包まれた。


 「ちょっ、これ、何がどうなって……」


 メルが困惑する一方で、メルの外見には劇的な変化が生じていた。

 お決まりの衣装であるピンクのブラウスや黒いスカートは光となって消失し、代わりに出現したのはフリルやリボンやハートマークがそこかしこにあしらわれた、ピンクを基調とした可愛らしいフリフリのドレス。


 「えっ、何ですかこの服!?」


 変化したのは服装だけではない。元々は黒と桜色の2色が入り混じっていたメルの髪が、一瞬七色の光に包まれた後にピンク一色に染まった。同時にツインテールも元の2倍以上の長さにまで成長する。


 「何か髪伸びてません?何か髪伸びてません!?」


 そしてメルを包んでいた虹色の光が消失し、そこには日曜の朝にアニメが放送していそうな魔法少女の姿となったメルの姿があった。


 「メル今これどうなってます!?なんかかなりキツい格好になってません!?」

 『キツくはない』『結構似合ってる』『正直可愛い』『かわいい!!』『あ゛ッ』『なんか死んでる奴いる?』


 視聴者からの反応は上々だったが、メルは魔法少女を名乗るには少しばかりお姉さんだ。何の脈絡もなく魔法少女の服装をさせられるのはたまったものではない。


 「これはちょっと、流石に……」

 『おっ照れてる』『赤面メルはレアだな』『かわいい!!!!!!!!!!』『頭おかしくなってるやついるって』


 メルがミニスカートの裾を引っ張りながら頬を赤く染めると、コメント欄はより一層の盛り上がりを見せた。


 「おお……」


 そしてメルを魔法少女に仕立て上げた元凶であるハモロイザーは、メルの姿に感嘆したような声を漏らしていた。


 「その姿……メル、君がアセンディアだったのか……!」

 「アセンディア?って……」

 『確かハモロイザーの前にボツになったご当地ヒーローだったっけか』


 天昇少女アセンディア。天昇戦士ハモロイザーが生まれる前にボツになった、幻のご当地ヒーローだ。


 「言われてみれば確かに、アセンディアの服ってこんなだったような……」


 メルはハモロイザーの情報をスマホで調べた時に見た、アセンディアのイラストを思い出す。

 そして自分の今の服装を改めて見てみると、確かにアセンディアのデザインとよく似ていた。


 『もしかしたらアセンディアもクッキーで変身する設定だったのかな』『ハモロイザーの前身だし有り得そうだな』『じゃあメルはクッキー食べたからアセンディアに変身したってこと?』


 視聴者達の間で推理が進んでいく。

 ハモロイザーは羽衣クッキーを食べることで変身するヒーローだ。そのクッキーを食べたことで、メルも同じように変身したとしても不思議ではない。

 ……いや、不思議でしかないか。


 「アセンディア、だと……!?馬鹿な……!」


 ブラックは何やら慄いている様子。


 「アセンディア!さあ、今こそ共に戦おう!」


 ハモロイザーは見るからにウキウキしていた。彼らにとってアセンディアとはどういう存在なのだろうか。


 「ああもう!いいですよ、ここまで来たら魔法少女やりますよ!」


 メルは未だに羞恥で頬を染めていたが、それでもアセンディアとして戦う覚悟を決めた。


 「皆さんいいですか!メルの魔法少女は今回限りですからね!しっかり目に焼き付けてくださいよ!」

 『言われるまでもなく』『保存した』『永久保存版だろこれ』

 「くっ……行け、ソリディアン共!」


 ブラックがメルとハモロイザーに残っていたソリディアンをけしかける。


 「ていうか包丁どこか行ったんですけど……」


 変身と同時に行方をくらませた包丁に思いを馳せながら、メルは先陣を切って飛び出す。


 「てやああっ!」


 回し蹴りの一撃で数人のソリディアンを纏めて蹴散らしたのを皮切りに、次々とソリディアンを撃破していくメル。

 10秒と経たない内に、残っていたソリディアンは1人残らずメルに殲滅されてしまった。


 「何という強さだ……」

 「てやっ!」


 戦慄しているブラックにも、メルは容赦なく飛び掛かっていく。


 「くっ!」


 ブラックは剣でメルを迎撃しようとするが、それよりもメルが剣を蹴り飛ばす方が先だった。


 「何っ!?」

 「やああっ!」


 武器を失ったブラックを、メルは容赦なく攻め立てる。

 パンチ、キック、サマーソルトキック、三角蹴り、喉輪落とし、ストンピング、サッカーボールキック。

 メルの苛烈な攻撃にブラックは全く歯が立たず、防御すらままならないまま蹂躙されていく。


 「今です、ハモロイザーさん!」

 「任せろ!」


 メルの合図を受けて、ハモロイザーの両肩の装甲がパカッと開く。するとそこから左右1枚ずつ羽衣クッキーが射出された。

 2枚のクッキーは徐々に大きさを増しながら飛行し、ブラックへと向かっていく。

 途中で片方のクッキーがブラックの後方に回り込むように移動し、2枚のクッキーがブラックを挟撃するような形になった。


 「ぐっ……クソ……」


 迫り来る巨大クッキーから逃れようとするブラックだが、メルから受けたダメージが大きすぎてその場を動けない。

 直径が2m近くになった2枚の巨大クッキーが、前後からブラックの体を挟み込む。


 「フラジャイル……インパクトォォォッ!!」


 身動きの取れなくなったブラックに、ハモロイザーが渾身の必殺技を放つ。


 「ぐっ……あああああっ!?」


 莫大なエネルギーを纏ったキックが巨大クッキー越しにブラックに直撃し、ブラックがクッキー諸共盛大に爆発する。

 そして爆炎が晴れると、そこにはボロボロになったブラックが倒れていた。


 「う……うう……」


 僅かな呻き声が聞こえてくる。どうやら死んではいないらしい。


 「ブラック……」


 ハモロイザーがブラックの前に立つ。


 「殺せ……」


 ブラックが声を絞り出すようにそう言うが、ハモロイザーは首を横に振った。


 「お前は俺を倒そうとはしたが、殺そうとはしていなかった。どれだけ悪ぶっていても俺には分かる。きっと何か理由があったんだろう?」

 「……敵わないな、お前には」

 「な~んかまたメルに分からない話始めましたよ、あの2人」


 戦闘が終わった途端にまた蚊帳の外に追いやられてしまったメル。


 「……すまない。俺はもうお前に戦わせたくなかったんだ。これから先、ソリディアンよりも遥かに凶悪な異星人がやってくる。そいつらとの戦いに命を懸けるのは、かつて悪の道を歩んでいた俺だけで充分だ……」

 「……馬鹿野郎!お前はそうやっていつもいつも1人で抱え込んで……もっと俺を頼れ!仲間だろ!?」

 「ハモロイザー……」

 「ブラック……」

 「あっ、変身解けた」


 メルの体が一瞬光に包まれ、ピンクのブラウスと黒のスカートの出で立ちに戻った。2倍以上に伸びていたツインテールも元の長さに戻っている。


 「じゃあ、戻りましたし帰りますか」

 『えっ帰るの?』『あの2人まだ話してるけど』

 「だってあの2人、メルに分からない話ばっかするんですもん」


 メルは頬を膨らませ、2人に気付かれないようにその場を離れた。


 『さっきのメルもしかして手加減してた?』『本当はメルだけでブラックに勝てたんじゃないの?』

 「……バレちゃいました?」


 コメント欄の鋭い指摘に、メルは悪戯がバレた子供のように笑った。


 『じゃあ本当に手加減してたんだ?』

 「手加減って言うとちょっと違いますけど、メルがブラックさんを倒しちゃわないように気を付けてはいました」

 『なんでそんなことしたの?』『らしくないじゃん』

 「……だって、やっぱり最後はヒーローにカッコよく決めてほしいじゃないですか」


 メルは少し気恥しそうに、手加減の理由を口にした。


 「なんか流れでメルも変身して戦いましたけど、メルなんてぽっと出の部外者ですから。やっぱり最後に決めるのはヒーローじゃなきゃですよ」

 『もしかしてメルって結構ヒーロー好き?』

 「好きですよ。小さい頃は毎週日曜日には早起きして、ヒーロー番組見てました。今はもう見なくなっちゃいましたけどね」


 昔夢中で見ていたヒーロー達のことを思い出し、メルは少し懐かしい気分になった。


 「さて、そろそろ麓に着きますし、この辺で配信は終わりにしようと思うんですけど、どうですか?結構長くなっちゃいましたし」

 『それでもいいかもね』『いいんじゃない?』

 「じゃあ終わりにしちゃいますね。皆さんいかがでしたか?今回の心霊スポット探訪」

 『魔法少女がよかった』『貴重な照れ顔が見れた』『メルちゃん可愛かった!!』『いっぱいスクショした』『またあの格好してほしい』

 「えっ今日の感想魔法少女のみですか!?」


 コメント欄に寄せられる感想は、メルがアセンディアに変身した時のものばかりだ。

 ハモロイザーやブラックのことは、最早視聴者達にとってはどうでもいいらしい。


 「えぇ……それじゃあ、またメルの魔法少女が見たいって方は、是非チャンネル登録お願いします」

 『チャンネル登録したらまた着てくれるの!?』

 「まあ……似たようなコスプレ衣装は探してみます」

 『チャンネル登録しました』『元々してたけど1回解除してもう1回登録しました』『3アカウントで登録しました』『100回登録しました』

 「うわぁすごい反響……」


 自分で煽ったことではあるが、コメント欄の熱狂っぷりにメルは顔を引き攣らせた。


 「それじゃあ今日はこの辺で……次回の第23回心霊スポット探訪でお会いしましょう!バイバ~イ」

 『バイバ~イ』『バイバ~イ』


 コスプレ衣装探しておかないとな~、と思いつつ、メルは配信を終了した。

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ありがとうございます

次回は明日更新します

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― 新着の感想 ―
[一言] 天狗「えっ!?」 いや唐突に日朝ヒーロータイムは笑うが本来の趣旨が爆発四散しているw
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