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第22回桜庭メルの心霊スポット探訪:五劫山 三

包丁の刃は深々とソリディアンの胸に突き刺さり、赤黒い血が流れ出している。

 メルが包丁を引き抜くと、ソリディアンは覆面の口元を吐血で赤く染めながらゆっくりと倒れた。


 「なっ!?」

 「てめぇ!」


 仲間を殺害されたことで、周囲のソリディアン達が色めき立つ。

 ソリディアン達は一斉にメルに掴みかかろうとするが、それよりも先にメルがその場で1回転するように包丁を横薙ぎにした。

 メルの包丁はソリディアン達の首筋を正確無比に捉え、1人の例外もなくその頭を刎ね飛ばした。


 「そこまでだ!!」


 メルが包丁を太ももに戻そうとしたその時、頭上からやけに勇ましい声が聞こえてきた。


 「とうっ!」


 そしてメルの目の前に見覚えのある姿が飛び降りてくる。


 「おのれソリディアン、か弱い女性を無理矢理手籠めにしようとするとは見下げ果てた奴だ!」


 さっきの今で見間違えるはずもない。それは紛れもなくハモロイザーだった。


 「この俺が成敗してくれる!」

 「あの~、ハモロイザーさん」

 「おお、君!この俺が来たからにはもう安心だ。君を危険な目に遭わせたソリディアンはすぐにこの俺が成敗して……」

 「それもう終わってます」

 「……え?」

 「ソリディアン、全部自分で殺しました」


 メルのその言葉にハモロイザーが周囲を見回す。そこで初めて、自らが倒すべきソリディアンが、既に生きてはいないことに気付いたらしい。


 「これを……君が?」

 「はい、メルが」

 「……1人で?」

 「はい、1人で」

 「……」

 『絶句してて草』『そりゃそうなるわ』


 ソリディアンの首無し死体が並ぶ様はヒーローにとってもショッキングだったようで、ハモロイザーは30秒ほど言葉を失っていた。


 「その、なんというか……君は強いんだな」

 「まあ」

 『まあで済ますなよ』

 「どうやら君には、俺の力は要らないらしい。ヒーローとしては情けない話だが……」

 「あっ、ちょっと待ってください!」


 立ち去ろうとしたハモロイザーを、メルが慌てて呼び止める。


 「メル、ハモロイザーさんに聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 「ああ、構わないよ」


 ハモロイザーはメルのインタビューの要請に快く応じてくれた。ヒーローらしく性格は気さくだ。


 「こんなこと聞くの、失礼かもなんですけど……ハモロイザーさんって、スーツの中はどうなってるんですか?」


 ハモロイザーがスーツが怪異化した存在であるならば、その中は空洞であるはずだ。メルはそれを確かめたかった。

 しかしハモロイザーは首を横に振る。


 「申し訳ないが、それは教えられない。私の正体は秘密なんだ」

 「そうですか……分かりました。変なこと聞いてごめんなさい」


 メルはそれ以上食い下がらなかった。


 「他にも聞いていいですか?」

 「勿論さ」

 「ソリディアンって、何なんですか?」

 「ソリディアンは羽衣クッキーを固くしようと目論む悪の異星人……だったのだが……」


 公式ホームページ通りの情報を口にするハモロイザーだが、その途中で何やら言い淀んだ。


 「どうかしました?」

 「いや……このところ、ソリディアンの悪事が酷くなってきてるんだ。以前は羽衣クッキーを固くする以外には何もしなかったというのに、最近は恐喝や暴行、窃盗や公然わいせつなどにも手を染め始めて……」

 「うわ~、エンタメにならない悪事ばっかりじゃないですか」


 特に公然わいせつなど、ヒーローものの敵役が手を染めていい犯罪ではない。


 「ソリディアンはどこから来るんですか?」

 「分からない。どれだけ倒しても気付いたらまた現れるんだ。だから俺はソリディアンと戦い続けなければならない」

 「大変ですね~」


 どうやらソリディアンの出自はハモロイザーにも分からないらしい。

 皆殺しにせず1人くらいは生け捕りにして、尋問でもすればよかったか、とメルは少し後悔した。


 「実は最近、ソリディアンの数が増えているんだ。以前は1日に1度現れるかどうかだったが、今では日に何度もソリディアンに遭遇する」

 「確かに多いですよね。メルもこの短時間で2回襲われましたもん」

 『襲われた……?』『まあ、先に手を出したのは向こうか……』『襲われたのは間違いないだろ、エグめに返り討ちにしただけで』

 「ソリディアンが増えてる原因は分からないんですか?」

 「ああ、俺にも何が何だか……」


 ハモロイザーが困ったようにかぶりを振ったその時。


 「ならば教えてやろう」


 ハモロイザーによく似た、しかしハモロイザーよりも低い声が聞こえてきた。


 「何者だ!?」


 メルとハモロイザーが声の聞こえた方向へと振り返る。

 そこには大量のソリディアンを引き連れた、黒いハモロイザーの姿があった。


 「お前は……ブラックハモロイザー!」

 「お~、あれがブラックハモロイザーさんですか」


 確かにその黒いハモロイザーは、先程ホームページで見たブラックハモロイザーと同一の姿をしていた。

 しかし黒いハモロイザーは首を横に振る。


 「俺はもうブラックハモロイザーではない……今の俺はダークハモロイザーだ!」

 「なっ……何だと……!?」


 愕然とするハモロイザー。


 「……ブラックとダークってどう違うんでしたっけ?」

 『ブラックハモロイザーが味方になった後の名前で、ダークハモロイザーが敵だった時の名前じゃなかった?』

 「あっ、そうでした……えっ?じゃあ、敢えてダークハモロイザーを名乗ったってことは……」

 「どういうつもりだブラック!?まさか敵に戻ったとでもいうつもりか!?」


 メルが言おうと思ったことを、ハモロイザーがそのままブラックに質問としてぶつけた。


 「その通りだ。お前との仲良しごっこももう終わりだ」

 「何故だ!何故また悪の道に!?」

 「答える必要は無い!」

 「あの~これメルはいなくていいやつですよね?」

 『おい空気読めよ』『いなくてよくても今はいろ』『ヒーローと闇堕ちヒーローの会話に割って入るな』


 何やら悲壮なやり取りをしているハモロイザーとブラックだが、ハモロイザーのストーリーを知らないメルはいまいち気持ちが乗らなかった。


 「ブラック……俺達は戦うしかないのか……!?」

 「……その通りだ。1度は仲間として戦った者の情け、お前はこの俺の手で亡き者にしてやる!」

 「あっ、なんか戦うみたいですね」

 『茶々入れんな』


 ハモロイザーとブラックの衝突はどうやら避けられないらしい。

 ハモロイザーはメルを庇うように腕を伸ばした。


 「メル、下がっていろ。俺たちの戦いに君を巻き込む訳にはいかない」

 「は~い……あれ?メル名前言いましたっけ」

 『しょっちゅう言ってるだろ』『自分の一人称を顧みろ』


 ハモロイザーに言われた通り、メルは少し離れた場所に移動した。ブラックもメルに手出しをするつもりは無いらしく、離れていくメルにも特に反応を示さない。


 「ブラック……何故お前がまたソリディアンの下へと戻ったのか、俺にはその理由は分からない。だがお前が再び悪の道を歩むというのなら……俺が何度でも、お前を正義の道に引き戻してやる!」

 「お~、カッコいいですね」

 『口を挟むな』『緊張感を持て』

 「無駄なことを……お前は黙って俺に倒されればいいんだ!行け、ソリディアン共!」


 ブラックの号令と共に、ブラックの周囲のソリディアン達が一斉にハモロイザーへと襲い掛かる。


 「はっ!せいやっ!たあっ!」


 ハモロイザーは迫る大量のソリディアンに拳で立ち向かう。ハモロイザーのパンチを受けたソリディアンは次々と吹き飛ばされ、派手に炎を上げて爆散する。


 「お~、ハモロイザーさん結構やりますね~」

 『まあソリディアンって奴らは明らかに戦闘員ポジだしな』『戦闘員に苦戦するようじゃヒーローは務まらんわな』

 「そういうものですか?じゃああのブラックさんが動き出してからがふぉんばんとひふほほへふね」

 『何言ってるか分かんねぇよ』『てかなんか食ってる?』

 「羽衣クッキー食べてまふ」

 『何でだよ』『今食う理由あった?』『食べてまふじゃないんだよあざといな』


 ハモロイザーが戦い始めて手持無沙汰になったメルは、スカートの中から羽衣クッキーを取り出し、マスクを外して口へと運び始めた。


 「ふっ!はっ!せやぁっ!」

 「ハモロイザーさんがんばえ~」

 『応援するならもっと心込めろ』『食いながら喋るな』


 ハモロイザーの奮闘によって、ソリディアン達はみるみるその数を減らしていく。


 「……やはり、ソリディアンには任せられんな」


 ソリディアンの数が当初の半分ほどにまで減ったところで、ようやくブラックが動き出した。


 「ブラック……」

 「俺はもうブラックではないと言っているだろう。俺はダークハモロイザーだ。仲間としての情など捨てろ。でなければ自分の身を滅ぼすことになるぞ、ハモロイザー!」


 ブラックが背中のスラスターから気流を噴射し、高速でハモロイザーへと接近する。


 「うおおおお!!」

 「せやあああ!!」


 ハモロイザーとブラックは同時にパンチを繰り出し、お互いの顔面にお互いの拳がぶつかり合う。装甲と装甲の衝突によって火花が散った。


 「はあっ!やあっ!せいっ!せやぁっ!」

 「ふんっ!はっ!やっ!たぁっ!」


 2人のヒーローが激しく格闘戦を繰り広げる。その光景はまさしく特撮ヒーロー番組の一場面のようだ。


 「攻撃が当たると火花が出るのカッコいいですね。メルにも出せないかな」

 『何で火花出したいんだよ』『変な憧れだな』

 「それはそうと、今のところハモロイザーさんがちょっと有利ですね」


 メルが言うように、ハモロイザーとブラックの戦いは、ハモロイザーが僅かに優勢で進んでいた。流石は主人公といったところか、ブラックよりもハモロイザーの方が少しだけ強いらしい。

 そしてそのことは、当の本人達も理解していた。


 「くっ、やはり一筋縄ではいかないか」


 自らの不利を悟ったブラックが、一旦ハモロイザーから大きく距離を取る。


 「仕方がない。これを使う他ないようだ」


 するとブラックの右肩の装甲がパカッと開き、そこから1枚のクッキーが射出された。

 そのクッキーは羽衣クッキーによく似ていたが、羽衣クッキーがクリーム色なのに対してそのクッキーは黒に近いこげ茶色だった。


 「それはまさか、ダークマタークッキー!?」


 そのクッキーを一目見たハモロイザーが驚いたように叫ぶ。その反応を見るに、こげ茶色のクッキーはあまり良いものではなさそうだ。

 射出されたこげ茶色のクッキーはブーメランのような軌道を描き、射出したブラック自身の胸部装甲へと直撃する。しかしクッキーは砕けることなく、そのままブラックの胸に吸い込まれるようにして消えていった。

 その瞬間、ブラックの体から闇色のオーラが噴出する。


 「おおおおおっ!!」


 苦しむように雄叫びを上げるブラック。その全身から凄まじい量のエネルギーが溢れているのが、メルにもひしひしと感じ取れた。


 「パワーアップした……ってことでしょうか?」

 『多分そう』『あの黒いクッキーが強化アイテムだったのか』

 「うおおおおおっ!!」


 闇色のオーラを全身に纏ったブラックが、獣のような動きでハモロイザーへと襲い掛かる。


 「うわあああっ!?」


 ブラックが突進の勢いそのままにハモロイザーを殴りつけると、闇色の爆発と共にハモロイザーは大きく吹き飛ばされた。

 追撃を加えようとそれを追いかけるブラック。

 ハモロイザーは何とか体勢を立て直してブラックに応戦するも、ブラックは先程までとは別人のように強くなっていた。


 「ダークマタークッキーを取り戻した俺の力は3倍以上に強化されている!お前に勝ち目はないぞ、ハモロイザー!」

 「ぐっ、何を、ぐあっ、ぐはぁっ!?」


 ブラックの猛攻になす術もなく傷ついていくハモロイザー。


 「ソリッドクッキーブレード!」


 ブラックは攻撃の手を緩めることなく、どこからともなく黒褐色の剣を取り出す。

 ブラックがその剣を上段に構えると、その刀身に闇色のオーラが螺旋を描くように纏わりついた。


 「アンブレイカブル・スラーッシュ!!」


 ブラックが剣を振り下ろし、ハモロイザーの胸部装甲を斬りつける。


 「ぐあああああっ!?」


 ハモロイザーの胸からこれまでにないほど大量の火花が飛び散り、ハモロイザーの体が何度も爆発する。 

 ボロボロの体で膝を突くハモロイザーに、ブラックがゆっくりと近付いてくる。


 「終わりだ、ハモロイザー」


 処刑人のように剣を上段に構えるブラック。


 「くっ……」


 ダメージが大きく、動くことのできないハモロイザー。ブラックの攻撃によってマスクの一部が割れ、がらんどうの内部が見えてしまっている。

 そんなハモロイザー目掛け、ブラックは剣を振り下ろし……


 「何っ!?」


 しかしその刃がハモロイザーに届くことは無かった。

 2人の間に割って入ったメルが、剣を包丁で受け止めたのだ。

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次回は明日更新します

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