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第18回桜庭メルの心霊スポット探訪:滅三川 中編

 その場所はロータリーのように道路が円を描いており、その円の中心に1軒の古びた建物が建っている。

 店先の狭い土間には所狭しと陳列棚が設置され、そこにはお菓子や玩具のようなものがずらりと並べられていた。


 「あれ……駄菓子屋さんですよね?」

 『うん』『駄菓子屋だと思う』


 その駄菓子屋らしき建物の看板には、「滅三川」という文字が墨で書かれていた。


 「あれって、視聴者さんが探してた駄菓子屋さんですよね!?」


 看板に漢数字の「三」の文字がある駄菓子屋。その特徴は視聴者の思い出の駄菓子屋のものと一致している。


 『おお』『見つかったのか』『結構あっさり見つかったな』

 「とっ、とりあえず撮影してもいいか聞いてきます!」


 目的の駄菓子屋らしき建物を発見したことでメルは興奮していた。撮影許可を得るべく、小走りで店へと向かう。


 「ごめんくださ~い!」


 店先で声を掛けると、奥から腰の曲がった鉤鼻の老婆が姿を現した。


 「おやおや、お客さんかね?」


 しわくちゃの顔で笑う老婆のその佇まいは、さながら数百年の時を生きた魔女のようだ。その異様な雰囲気にメルは気圧された。


 「あっ、あの、メルは桜庭メルと言いまして、動画配信をしているんですけど、このお店を撮影させていただいてもいいですか?」

 「ああ、いいよ。好きに撮影しておくれ」

 「あっ、ありがとうございます!」

 『やさしい』『おばあさんやさしい』


 予想よりも遥かにすんなりと撮影許可が下り、メルは腰を折って頭を下げた。


 「あの、ちなみに表の看板はなんて読むんですか?」

 「あれは滅三川って書いて『めさんがわ』って読むのさ。あたしの苗字さね」

 「めさんがわさんっておっしゃるんですか?何だか珍しい苗字ですね」

 「そうかい?あたしの地元には多いんだけどねぇ」


 メルには他にも聞きたいことがあったが、いきなり色々尋ねるよりもまず店内を見て回ることにした。


 「わぁ~……いろんな商品がありますね~……あっ、けん玉ありますよ!懐かしいな~」


 陳列棚にけん玉を見つけたメルは、懐かしさからそれを手に取る。


 「って、10万3000円!?」

 『たっか』『嘘だろ?』


 そしてけん玉に付いている値札を見て、メルは目玉が外れそうなほど驚いた。

 けん玉の価格として10万円は桁外れだ。


 「ひゃっひゃっひゃっ、高くて驚いただろう?」


 メルの反応を面白がるように老婆が声を掛けてくる。


 「あっ、いえ、その……」

 「気にするこたぁないよ、実際高いからねぇ。けどその値段にも理由はあるのさ」

 「理由って、どんなですか?」


 メルが尋ねると、老婆は楽しそうに口角を吊り上げながら話し始めた。


 「そのけん玉はねぇ、元々はとある男の子の持ち物だったのさ。ただその男の子は、まだ小さかったのに死んじまった」

 「えっ、どうしてですか?」

 「家の中で階段から落ちちまったのさ。悲しい事故、なんだがねぇ……男の子が死んだのは事故じゃない、実の父親が階段から突き落としたんだって噂が立ち始めた」

 「それって……」

 「虐待さね、本当なら」


 聞いていてあまり愉快な話ではない。メルは眉を顰める。


 「勿論噂はただの噂さ、本当のことなんて父親以外にゃ誰も分かりゃしない。だが男の子が死んでしばらくした後、父親が家ん中で死んでるのが見つかった。しかもただ死んでたんじゃあない、この世のものとは思えないような酷い死に様だったんだ。なんせ首を胴体からぶっこ抜かれてたんだからねぇ」

 「あ、頭を……!?」

 「ああ。引っこ抜かれた頭と残った胴体は、まだ背骨で繋がっててねぇ。父親は両手を広げたまま死んでたもんだから、その死体はまるでけん玉みたいだった」

 『グロ』『ひでぇ死に様』

 「そして父親の死体の側には、男の子が大事にしてたけん玉が落ちてたんだ。そのけん玉が、あんたが今手に持ってるそれさね」

 「あっ、やっぱり……」


 メルも話の流れから、何となくそうなのではないかと思っていた。メルはけん玉をそっと陳列棚に戻した。


 「そのけん玉には男の子の怨念が残ってる。自分を殺した父親に対する憎悪がねぇ。その怨念が呪いとなって父親をけん玉みたいにして殺して見せたのさ。父親は自分が殺した息子に、今度は呪いで殺し返されたのさ」


 ひゃっひゃっひゃっ、と老婆は不気味に笑う。


 「いい気味じゃないか、ええ?」

 「……つまりこれは呪いのけん玉ってことですか?」

 「そういうことさね。だからそのけん玉には10万なんていう法外な値段が付いてるのさ。呪物ってのはこの世に同じものが2つとない代物だからねぇ、どうしても高値になっちまうんだ」


 それはつまりこの世界のどこかでは呪物が金銭によって取引されているということだ。メルはまた1つ自分の知らなかった世界を知った。

 呪いのけん玉の前から離れたメルが次に目を付けたのは、個包装された大きなラムネのお菓子だった。パッケージには『仙丹ラムネ』という商品名が記載されていた。


 「お婆さん、これなんですか?」

 「ああ、それは仙丹ラムネさ。仙丹って知ってるかい?」


 メルは首を横に振る。初めて聞く名前だった。


 「仙丹ってのは不老不死の薬のことさね。それはその仙丹をラムネにしたもんさ」

 「えっ、じゃあこれ食べると不老不死になるんですか?」

 「試してみるかい?」


 老婆はメルを揶揄うようにニヤニヤ笑っている。

 どう考えても冗談でしかないはずなのだが、老婆の只者ではない雰囲気を見るとあながち冗談ではなさそうな気もしてくる。


 「ちなみにこれはおひとつおいくらですか?」

 「1個20円だよ」

 「安っ!?」

 『破格の不老不死』『不老不死が20円なことある?』


 その安さがむしろ不気味だ。メルは仙丹ラムネを棚に戻した。


 「あっ、ぬいぐるみ」


 メルは棚の上の方に置いてあったタヌキのぬいぐるみを手に取る。すると老婆は笑いながら首を横に振った。


 「お嬢ちゃん、そりゃぬいぐるみじゃなくて剥製だ」

 「へ~、剥製ですか?剥製を売ってるなんて珍しいですね」

 「あたしもあんまり取り扱わないんだが、それはたまたま手に入ったもんでね。化け狸の剥製なんだ」

 「化け狸」

 「人に化けて村に出てきては、物は盗むわ女にちょっかいかけるわの悪さばかりするとんでもない化け狸でねぇ。腹に据えかねた村人達が毒を盛って殺したのを、物好きな金持ちが買い取って剥製にしたんだ。そいつが回り回ってウチに来たのさ」

 「すごい話ですね……」


 ちなみに値札を確認すると55万円だった。メルは丁重に棚に戻した。


 「これは……」


 次にメルが見つけたものは、一際メルの目を引いた。

 それは大きなプラスチックの容器にぎっしり詰まった飴玉だった。飴玉の色は綺麗な金色で、宝石のように輝いている。


 「お婆さん。この飴を昔、迷子の子供にあげたことってありますか?」


 メルは飴玉の美しさに目を奪われながら老婆にそう尋ねた。


 「うん?そんなこともあったかもしれないねぇ。それがどうしたんだい?」

 「メル、その人からお願いされてこのお店を探しに来たんです。迷子になった時のお礼を言いたかったけど、お店を見つけられなかったって」

 「ああ、そうだろうねぇ。この店は来るのにちょっとコツがいるからねぇ」

 「その人、お婆さんから貰ったこの飴がすごく美味しかったって言ってました」

 「そうかい、そりゃあよかった」


 老婆は顔を皺くちゃにして笑った。

 どことなく底知れない雰囲気のある老婆だが、やはり駄菓子屋として子供に喜ばれるのは嬉しいらしい。


 「ちなみにこれってどういう飴なんですか?」

 「そりゃ尻子玉だよ」

 「尻子玉?って何ですか?」

 「お嬢ちゃん、河童は知ってるかい?」


 メルは頷く。河童を知らないという人は珍しいだろう。


 「河童が相撲が好きだってのは知ってるかい?」

 「あ~、聞いたことあるかもです」

 「河童は相撲に勝つと、負けた相手の尻子玉を抜き取るんだ。尻子玉ってのは人間の肛門の中にあるんだ。ああ、言っとくけどクソとは別もんだよ」

 「そ、そうなんですね……」


 メルはかつてないほど表情を引き攣らせた。

 つまりメルにリクエストを送ってきた視聴者は、人間の肛門の中にあった玉をそれとは知らずに食べたということになる。


 「あの視聴者さん、この配信見てないといいな~……」

 『確かに』『尻の中にある玉食わされてたってことか……』


 人間には知らない方がいいこともあるのだ。


 「お嬢ちゃんも良かったら尻子玉食べてみるかい?1個100円だよ」

 「いえっ結構です」

 『それも安いな』


 メルは早急に尻子玉の前から離れた。

 ひとまずこれで、この店が視聴者の探していた駄菓子屋であることはほぼ間違いないと言える。

 となればメルが尋ねるべきことはあと1つだ。


 「お婆さん、このお店に来るにはどうしたらいいんですか?コツがいるんですよね?」


 お礼を言いたいという視聴者のために、メルはこの店へのアクセスを知っておきたかった。

 だが老婆は笑いながら首を横に振る。


 「この店はいつでも誰でも来られるって訳じゃなくてねぇ。時間とか天気とか、後は客の心の状態なんかがぴったり噛み合わないと来られないようになってるんだ。だから来れる人は1発で来れるし、来られない人はどれだけ探したって来られない。前は普通に来れてた人が、突然ぱったり来られなくなるなんてこともある。お嬢ちゃんも今日来られたからって次も来られるとは限らんよ」

 「そうなんですね……」


 メルは肩を落とした。それではリクエストを送った視聴者がこの店に来ることはできないかもしれない。

 すると肩を落としたメルを見かねたのか、老婆は更に付け加えた。


 「もしどうしてもウチに再び訪れたいというのなら、この店に来られた時のことを繰り返してみるといい。自分の行動だけじゃなくて、季節や時間や天気なんかもねぇ。そうすりゃ少しは来られる確率も上がるはずさ」

 「あ……ありがとうございます!」


 メルは勢い良く頭を下げた。リクエストの送り主も今のアドバイスで光明が見えたことだろう。

 これで今回の配信の目的は達成できたと言っていい。


 「お婆さん、もう少しお店見せてもらってもいいですか?」

 「ああ、勿論。好きなだけ見てっておくれ」


 配信に協力してもらったお礼に、メルは何か買って帰ることにした。

 ただ今までメルが目を付けたものは高額な商品か怪しい食べ物かのどちらかだったので、できればそのどちらでもないものを新たに見繕いたい。

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ありがとうございます

次回は明日更新します

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