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第14回桜庭メルの心霊スポット探訪:焼身海岸 後編

 「は~!?何なんですかあの女!?」


 メルは憤然と魅影の背中を見送った。

 今すぐにでも魅影をとっちめてやりたいところだが、生憎空を飛べないメルでは最早どうすることもできない。


 (メルちゃん。悪いけれど、もう怪異使いにかかずらっている暇はないわよ)


 怒れるメルを宥めるように、サクラが声を掛ける。


 (あの祟り神をどうにかしないと、近くの街よりも先に私達の方が危ないわ)

 (……そうですね。あの女のことを考えるのはその後です)


 サクラの忠告を受け、メルは改めて祟り神と向かい合った。


 「カロロロロ……」


 祟り神はいつの間にやら、その体に鎧のように炎を纏っていた。


 「火カピバラ……いや、シンプルに火鼠の方が呼びやすいですかね」

 『今呼び方どうでもよくない!?』

 「とりあえず、相手が祟り神ならこっちも最初から全部出していきましょう!」


 メルは太もものホルダーから包丁を取り出し、火鼠に向かって構える。

 すると包丁の刃が紫色の炎を纏い、同時にメルの瞳孔が赤く光り始めた。


 (こんな時ですし、呪いの力を使ってもいいですよね?サクラさん)

 (……そうね。背に腹は代えられないわ)


 包丁の刃やメルの瞳孔の変化は、包丁が秘める呪いの力を引き出したことによるものだ。呪いを引き出すことによって、包丁の攻撃力は格段に上昇する。

 呪いの力を頼るということでサクラがいい顔をしない手段ではあるが、この状況では四の五の言っていられない。


 (気を付けてメルちゃん。メルちゃんには私の力が宿っているから、ある程度は祟り神の力を遮断できるけれど、時間が経てば少しずつ影響が出始めるわ。あまり時間を掛けすぎると、丸焦げになってしまうわよ)

 (うわぁ嫌だなぁ……)


 魅影曰く、火文布神(ホノアヤカミ)はそこにいるだけで周囲の有機物を燃やしてしまう。サクラの力のおかげで今はまだマスクが燃えただけで済んでいるメルも、時間が経てばいずれは焼死体になってしまう。


 「短期決着で行きますよ~!」


 メルが包丁を振りかざして火鼠へと躍りかかる。


 「カロロロロッ!」

 「きゃあっ!?」


 しかし包丁の刃が届く前に火鼠の体が爆発し、メルは爆風に吹き飛ばされた。


 「なに!?じっ、自爆!?」


 受け身を取りつつ落下したメルは、動転しながら立ち上がる。

 自らの体を爆発させたように見えた火鼠だが、炎を纏ったその体には傷一つ付いていない。


 (祟り神が纏っている炎を爆発させたのね。あれだけの至近距離で爆発が起きても無傷なのは、流石炎を操る祟り神といったところかしら)

 (感心してる場合じゃないですよサクラさん!ど~しましょう!?)


 メルの包丁は当たれば祟り神の命すら奪うほど強力だが、どれだけの威力があろうとそもそも当てられなければ意味がない。


 (どうしましょう……私には戦いのことはよく分からないから……出産の手助けならできるのだけれど……)

 (今そのスキルじゃどうにもならないです!)


 身に纏った炎を爆発させるという想定外の防御方法に、メルは軽く混乱していた。

 そんなメルに対して火鼠は口を大きく開き、ミサイルの様な形状の炎を吐き出した。


 「ひゃあっ!?」


 珍妙な声と共にメルが躱した炎は、メルの遥か後方に着弾して大爆発を起こした。

 その爆発はメルの体を粉微塵にするのに充分すぎる威力だ。


 「ひええ~……」


 肌でビリビリと感じた爆発の衝撃波に、メルの頬を冷や汗が伝う。


 (炎の祟り神だけあって、攻撃力は抜群ね……)


 サクラの声も心なしか震えていた。

 竦み上がる2人に対して、火鼠は容赦なく2発目の炎を吐き出す。

 それに対してメルは姿勢を低く下げ、高速でその場から離脱した。

 火鼠の炎の威力は凄まじいが、どれだけ威力があろうと結局は遠距離攻撃だ。メルならば回避することはそう難しくない。


 「とりあえず、やれることはやってみますか……!」


 メルは再び火鼠へと接近し、包丁を振り被る。


 「カロロロロッ!!」

 「くっ……」


 しかし先程と同じように火鼠が纏う炎が爆発し、メルは再び爆風に吹き飛ばされてしまう。

 だがメルも防がれると分かっていながら無策で突撃したわけではない。メルは吹き飛ばされながらも、予め拾っておいた小石を投擲した。

 ドッジボールを得意とするメルは、回避だけでなく投擲もお手の物だ。メルが放った小石は爆炎に紛れて空中を真っ直ぐに進み、正確無比に狙い通り火鼠の左目を捉えた。


 「カロロロロロロロォッ!!」


 目を攻撃されたことで、火鼠は目に見えて激昂した。


 (メルちゃん。祟り神相手に小石をぶつけても、蚊に刺されるほどの痛みも与えることはできないわよ)

 (分かってますよ。メルはただ、あの爆発が自動で起こるのかを確かめたかっただけです)


 メルが小石を投げたのは攻撃のためではない。火鼠の防御手段であるあの爆発が、火鼠の意思によって引き起こされているのかを確認するためだ。

 仮にあの爆発が、火鼠が意識せずともあらゆる攻撃に対して発動するのであれば、メルが投げた小石に対しても爆発が起きていたはずだ。

 しかし実際には小石は火鼠の左目に命中し、爆発は発生しなかった。恐らく爆炎に紛れた小石に、火鼠は気が付かなかったのだろう。

 つまりあの爆発による防御は、火鼠の意思によって発動しているのだ。だから火鼠が認識できない攻撃は防げない。


 (小石を投げたのはそれを確かめるための実験だったんです)

 (なるほど……でもその実験のおかげで、祟り神を相当怒らせてしまったようだけれど?)

 (……ちょっと考えなしだったかな~、とは思ってます)


 火鼠は体中の炎をそこかしこに撒き散らしながら怒り狂っている。烈火のごとく、というのはまさしくこのような有様を言うのだろう。


 「カロロロロォッ!!」


 火鼠が開けた大口から、いくつもの火球が無差別に放出された。

 それらの火球は花火のように空中で爆発し、いくつもの爆発によって生じた爆風で辺り一帯には乱気流が発生した。


 「ひゃわぁぁぁ……」


 爆発を回避しながらも乱気流によって体を煽られ、形容しがたい悲鳴を上げるメル。風によって包丁が手の中からすり抜けていきそうになるのを必死で握り締める。

 乱気流で思うように身動きの取れないメルに対し、火鼠はミサイル型の炎を放つ。

 それを見たメルは気流に逆らうことを止め、乱気流に身を委ねるように跳び上がった。上向きの気流によってメルの体は空高く持ち上げられ、ミサイル型の炎を回避することに成功する。

 しかし。


 (ちょっとメルちゃん!?この高さ大丈夫なの!?)

 (……いやダメですね。生身の人間にはダメな高さですよこれ)

 (どうするつもりなの!?)

 (いやどうもこうも……)


 上空に舞い上げられたメルの体は、当然重力に引かれて落下する。いくらメルと言えど、空中ではどうすることもできない。

 べしゃっ。


 「うぐっ!?」


 なす術無く地面に落下するメル。勿論受け身は取ったが、受け身でどうこうなるような高さではなかった。


 「うぅ……いたい……」


 全身の痛みに涙を浮かべながらメルは体を起こす。

 しかし仮に気流を利用して高く跳ぶことを選んでいなかった場合、メルは今頃炎の直撃を受けて爆散していた。それを考えると、「いたい」の一言で済んだのは幸運だったと言える。

 ……本来「いたい」の一言で済むような高さからの落下ではなかったのだが。

 痛む体を庇いつつ何とか立ち上がり、服に付着した土埃を払い始めるメル。すると、ブラウスの袖やスカートの裾などの数か所から、細い煙が立ち上っていることに気付いた。


 「ん?」


 原因不明の煙にメルが首を傾げた、その瞬間。


 「きゃああああっ!?」


 ボッ!と服のあちこちから火が上がった。


 「熱っ、あっつ!?」


 メルは慌ててパンパンと服を叩く。まだ火が小さかったこともあり、それで鎮火はできたものの、服には穴が開いてしまった。


 (メルちゃん、想像以上に祟り神の力が強いわ。これ以上は防ぎきれない……)


 サクラの力によって遮断されていた、火鼠の「存在するだけで周囲の有機物を燃やす」という性質。その性質の影響が、いよいよ防ぎきれなくなっているのだ。


 (これ以上時間を掛けるのは危険だわ)

 (……分かりました。イチかバチか、やってみます!)


 メルは火鼠に向かって走り出す。


 「カロロロッ!!」


 それに対し火鼠は、ミサイル型の炎を吐き出して応戦する。

 迫り来る炎に対し、メルは左手に隠し持っていた小石を指で弾いた。そして小石が炎とぶつかる直前、メルは地面を蹴って高く跳躍する。

 直後、小石と接触した炎が大爆発を起こした。


 「っ!?」


 爆炎に体を焼かれ、メルを激しい苦痛が襲う。爆風を利用して高く跳ぶために敢えて至近距離で爆発を起こしたが、やはり火傷は避けられなかった。思わず苦悶の声を上げそうになるのを、メルはぐっと堪えた。

 地上を見ると、火鼠はまだメルが上空にいることに気付いていない。ここで声を上げたら、折角の好機を逃してしまう。

 爆風によって、メルは自分の脚力だけでは到達できないほどの高みにまで届いている。その最高到達点から、メルは包丁を構えて落下し始めた。

 火鼠の爆発による防御は、火鼠が認識している攻撃に対してしか発動できない。

 メルが未だ地上にいると思っている火鼠は、上空から迫り来るメルに気付けるはずもない。


 「っ、てやあああっ!!」


 直上からの完全な不意討ち。それは見事なまでに完璧に決まり、火鼠の脳天に包丁が深々と突き刺さった。


 「カロロォォォッ!?」


 鼓膜が破れそうなほどの悲鳴を上げる火鼠。

 メルが包丁をぐりぐりと動かすと、火鼠の眼球がぐりんと裏返り、そのままゆっくりと地面に倒れた。

 「桜の瞳」で見ると、火鼠を縁取る黒い光が弱まっていく。


 「あぁ勝った……」


 メルは火鼠の死亡を確認すると、その体の上から降りた。


 「いたた……」


 体のあちこちを火傷しているメルは、立っているだけでもそこかしこが痛む。


 『メル大丈夫?』『これだけやられたメル久し振りに見た』『結構重症じゃない?大丈夫?』


 火鼠を殺したことで、メルはようやくコメントに耳を傾ける余裕ができた。心配する視聴者達に、メルは「大丈夫ですよ」と笑顔を向ける。


 『マスク外したメル久し振りに見た』『顔がいい』『メルちゃん可愛い!!』

 「ああそっか……マスク燃えちゃったんでしたね……」


 コメントで言及されるまで、メルは現在マスクを着けていないことを忘れていた。


 「まあマスクはいいんですよ。顔出しするのも初めてじゃないですし。ただ……」


 メルは自分の体を見下ろす。メルが身に付けている服は、炎による穴や焦げ跡でボロボロになっていた。それを見たメルは悲し気に眉尻を下げる。


 「ああ……また服買い替えなきゃ……」

 『かわいそう』『色々見えそう』『気の毒』

 「最近は買い替え少なかったんですけどね~……」


 ここまでボロボロになってしまった服は流石に処分する他ない。服一式を買い替える費用を思い、メルは憂鬱になった。

 メルが打ちひしがれている横で、絶命した火鼠の体から、金色の小さな光がふわふわと浮かび上がってくる。

 金色の光はゆらゆらと揺らめきながらその形を変え、やがてハムスターを形作った。


 「ありがとう、僕を殺してくれて」


 金色のハムスターが、子供のような声でメルに話しかけてくる。


 「あなたは……祟り神になってた神様ですか?」

 「そうだよ、よく分かったね?」

 「まあ、3回目なので」


 命を落とした祟り神は、長い時間を掛けてまた生まれ変わる。そして生まれ変わった際には魂が浄化され、祟り神になる前の元の神格に戻ることができる。

 メルはこれを、「祟りロンダリング」と呼んでいる。

 そのような事情があるために、殺された祟り神は転生の直前、殺した相手に感謝の言葉を告げるのだ。


 「僕の名前はアヤ。本当は僕を助けてくれた君ともう少しお喋りがしたいんだけど……話すのもちょっと辛そうだね?」

 「まあ、正直……」

 「ごめんね、僕のせいで。お詫びにはならないけれど、今の僕に残った力で君の傷をできるだけ治すよ。僕は火の神様だからね、火傷には僕の力がよく効くはずさ」


 アヤと名乗った神はそう言って、ぶつぶつと何やら呪文のようなものを呟き始める。

 するとメルの全身の痛みが多少和らいだ。


 「……どうかな?」

 「少し、楽になりました」

 「ならよかった。ごめんね、もっと上手くやれたらよかったんだけど……」


 申し訳なさそうな表情を浮かべるアヤ。ハムスターの顔面で申し訳なさを表現できるのは一体どういう訳だろう。

 するとアヤの体が、空気に溶けていくかのように徐々に透明になり始めた。


 「……そろそろか。本当はもう少し君と話してみたかったんだけど、仕方ないね。生まれ変わっても、君のことは忘れないよ。本当にありがとうね」


 その言葉を最後に、アヤの体は消滅した。

 これから長い時間を掛けて、元の神格としてまた生まれてくるのだろう。

 メルは数秒アヤを見送り、それからカメラの方へと向き直った。


 「ということで、封印されていた祟り神は無事にメルが殺したので、この焼身海岸で人体発火現象が起きることは多分もう無いんじゃないかな~って感じで」

 『言うほど無事か?』『心霊系ストリーマーが心霊スポット潰してるのはいいの?』

 「言いたいことはね、色々ありますけど……とりあえずね、常夜見魅影許せないですね」

 『草』『確かに』『それはそう』


 故意に祟り神の封印を解き、メルが祟り神と戦うように仕向けた魅影。その魅影の所業にはメルも思うところがあった。


 「次ね、常夜見さんと会うことがあったら……今回の件のお礼を是非したいですね」

 『こわっ』『どんなお礼なんですかね……』

 「ただそれはともかく、そろそろ今日の配信は終わりにしますね。ちょっと体中痛いんで」

 『はよ病院行け』


 アヤの治療によって多少は楽になったものの、メルの体は全身のあちこちが火傷の痛みを訴えている。配信を続けられるようなコンディションではない。


 「という訳で、第14回心霊スポット探訪いかがだったでしょうか?また次回の第15回心霊スポット探訪でお会いしましょう、バイバ~イ」

 『バイバ~イ』『バイバ~イ』

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