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第13回心霊スポット探訪:ワヨーさん 後編

あけましておめでとうございます

 戦いの火蓋を切ったのは燎火だった。

 鳥に似た十字型の青い炎を高速で射出する『青鷺(あおさぎ)』。先日の戦いでも用いられたその祓道が、メルに向かって放たれる。


 「っ、速い……」


 メルは僅かに目を見開く。

 燎火が放った『青鷺』は、先日と比較して大きさも速度も桁違いだった。これが燎火の言う「祓器」の効果なのだろう。

 しかし。


 「でも、それはもう知ってます!」


 メルはクラウチングスタートを切るように、燎火に向かって弾かれるように走り出した。

 すれ違うように『青鷺』を回避したメルの後方で、地面に着弾した『青鷺』が激しい爆発を起こす。

 爆風がメルの背中に押し寄せるが、メルは逆に爆風を利用して更に加速した。


 「相変わらず化け物じみた速さですね、『青鷺』!」


 迫り来るメルに対し燎火は2発目3発目の『青鷺』を放つが、メルはジグザグに走行しそれらを全て回避する。

 そしてあっという間に、メルは燎火に手が届く距離にまで接近した。


 「くっ、『虎しょ――」

 「それも知ってます!」


 燎火が突き出した左手を、メルは瞬時に払い除けた。

 衝撃波を放ち、近い距離にいる相手を遠方に吹き飛ばす『虎嘯(こしょう)』という祓道がある。燎火が突き出した左手は、その予備動作だ。

 それを知っていたメルは、『虎嘯』に先んじて燎火の手を払うことで、吹き飛ばされるのを阻止したのだ。


 「ていっ」


 気の抜けた掛け声と共に回し蹴りを放つメル。

 燎火の首を狙ったその一撃は、しかし燎火の左腕のガントレットによって防がれてしまった。

 メルは目を見開いて驚きを露わにする。燎火が攻撃を防ぐとは思っていなかったのだ。


 「『白魚(しらうお)』によって強化されるのは、祓道の性能だけではありません……」


 燎火は受け止めた回し蹴りの衝撃に顔を顰めながら口を開く。


 「体内の霊力が活性化されることにより、装着者の身体能力もまた強化されます。その強化率は、『(とき)』の実に数倍!」

 「いや、『鬨』をまず知らないのにその数倍って言われても……」


 『鬨』とは身体能力を強化する祓道である。祓道師の熟練度によってその性能には多少の差があるが、平均して何のトレーニングもしていない一般人の身体能力がトップアスリートと同等にまで引き上げられる。

 しかしメルはそんなことは知る由も無いので、『鬨』を基準に『白魚』の性能を解説されても何ひとつピンとこない。


 「でも、確かに前より強いですね」

 「当然です。祓器にまで頼ったのですから」


 脚を下ろしたメルに対し、燎火が鋭い突きを放つ。

 メルは顔を僅かに右に動かしてそれを躱すと、燎火の首にするりと両腕を掛けた。

 そして燎火を引き寄せながら、腹部に目掛けて膝蹴りを放つも……


 「く、っ……」


 燎火は左手で、メルの膝を辛うじて受け止めた。

 そしてそのままメルの脚を取ろうとした燎火だが、それに先んじてメルは跳躍し燎火の首に両脚を絡める。

 先日の燎火との戦いでも決め手になった、三角締めを狙ったのだ。

 しかし燎火の方もそれは見通しており、自らの首とメルの脚との間に右腕を割り込ませた。


 「やりますね~燎火さん……!」


 これでは充分に頸動脈を絞めることができない。

 ならば。


 「てりゃああっ!!」


 メルは燎火の首に両脚を掛けたまま、後方宙返りをするように体を回転させる。そしてその勢いを利用して、燎火の体を両脚で投げ始めた。


 「っ……!」


 メルの太ももに挟まれた燎火の頭が、真っ逆様に地面へと落ちていく。

 地面に叩きつけられる直前、燎火はほぼ無意識に空いている左手で頭を庇った。

 その直後にメルの技が完全に決まり、頭と地面に挟まれた燎火の左腕は凄まじい衝撃に襲われた。


 「おお、今のも耐えましたか」


 燎火の首から脚を外したメルは、感心してそう呟く。


 「言ったでしょう……今の私は、先日の私とは違うと……」


 燎火も立ち上がるが、その左腕はだらんと力無く垂れ下がっている。骨まで折れているかは分からないが、最早使い物にならないことは確かだ。

 しかし燎火は左腕を犠牲にしなければ、その脳天が地面に叩きつけられていたのだ。それを考えると、左腕で済んだのはむしろ幸運だった。


 「一応聞くんですけど、まだやりますか?幾世守さんが帰るって言うなら、メルももうやめますけど」

 「冗談を……!祓器まで持ち出しておきながら、左腕1本折られただけでおめおめ逃げ帰っては、私が勘当されてしまいますから……!」

 「……祓道師ってブラックなんですか?ちゃんとしたところに相談とかした方がいいんじゃ……」

 「情けは無用です!」


 バックステップでメルから距離を取った燎火の右手の指先から、青い炎が放たれる。


 「『青鷺』!」


 しかも1発だけではない。『青鷺』自体の優れた速射性と祓器での強化によって、燎火は一瞬の内に5発もの青い炎を放った。


 「なら、もう少しやりましょうか」


 しかしメルは5発の『青鷺』を容易く回避しながら燎火に接近する。


 「どうして!?どうして当たらないの!?」

 「メルはドッジボールが得意なので」

 「だから何!?」


 祓器の力を借りてなお攻撃を当てられないという事実に、燎火の顔に焦りが見え始める。

 だがそもそもの話、ドッジボールを得意とするメルには、基本的に遠距離攻撃は当たらないのだ。前回の燎火との戦いでは、『青鷺』の「射出され、然る後に爆発する」という性質には多少手こずらされたが、それすら慣れてしまえばどうということはない。


 「その『青鷺』って、近すぎる相手には使えないんですよね?」


 燎火の懐に潜り込んだメルは、燎火を逃がさないようその足を踏みつける。


 「近くにいる相手に使うと、自分まで炎とか爆発とかに巻き込まれるから。違いますか?」

 「くっ……」


 燎火は答えなかったが、その表情はメルの推測の正しさを物語っている。

 燎火はメルを『虎嘯』で吹き飛ばそうとするも、メルが先んじて燎火の左腕を絡め取る。同時にメルの軽いパンチが燎火の顎に入り、燎火は脳を大きく揺さぶられた。


 「う、あっ……」


 脳震盪を起こした燎火の視界が大きく揺れる。

 その隙にメルの細い腕が、蛇のように燎火の首に絡みついた。


 「もしまたメルに負けたせいで酷い扱いを受けるようなら、メルに相談してくださいね。力になれるか分かりませんけど」

 「あっ、うぅ……」


 メルの腕を振り解こうにも、脳震盪のせいでまともに体を動かすこともできない燎火。メルのチョークによって、急速に意識が失われていく。


 「おやすみなさい」


 ドサリ、と燎火の体が地面に崩れ落ちた。


 「ふぅ……倒した」


 勝利を確信したメルは、倒れる燎火に背を向けて歩き出す。

 しかし。


 「……ま、まだです……!」


 燎火はまだ意識を失いきってはいなかった。去り行くメルを引き留めるように、地面を踏みしめて立ち上がる。


 「えっ、嘘でしょ?」


 メルは足を止めて振り返った。

 燎火の脚は酔っぱらいのようにふらついていたが、それでも自らの脚で立っていた。


 「まだ立てるんですか……?」

 「立ちますよ……祓道師の誇りに掛けて、何度でも……!」

 「いや……ムチャですよ。そんな状態で何ができるんですか?」

 「祓道師を、舐めないでください……!」


 燎火は右手を持ち上げ、握り拳から人差し指と小指だけを立ててメルの方へと向けた。メロイック・サインなどと呼ばれる手の形だ。

 これまでの戦闘から、燎火が祓道を使う際に特定の手振りを行うことをメルは知っている。しかしメロイック・サインめいたその手振りは初めて見るものだ。

 一体何をするつもりか、とメルは眉を顰めた。


 「はああああああっ……!!」


 腹式呼吸で発生しながら気合を入れる燎火。すると燎火の頭上でチリチリと火が熾り始めた。

 小さな火種は回転しながら成長していき、直径1m程度の火球を形成する。

 その火球がそのサイズからは想像もつかないほどのエネルギーを秘めていることは、メルにも直感的に理解できた。


 「……この祓道はまだ完全に習得できていないので、本来は使うつもりはありませんでした。ですが桜庭さん、あなたを倒すためには、私の全てをぶつける他ありません……!」

 「幾世守、さん……」


 鬼気迫る瞳でメルを見据える燎火。その眼力の強さに、メルはほんの僅かに気圧された。

 燎火の気迫に呼応するように、頭上の火球がより一層膨張する。


 「私の全身全霊を込めた祓道!『礫火(れっか)てん――きゃあああっ!?」


 そして膨張の勢いそのままに、火球は燎火の頭上で盛大に爆発した。


 「……えっ?」


 爆風に吹き飛ばされた燎火の体が、ズザザザザザッとメルの脚元まで滑ってくる。


 「……えっ?」


 メルには状況が飲み込めなかった。

 恐らく燎火は、あの凄まじいエネルギーを秘めた火球を何らかの攻撃に使うのだろう。メルはそう考えて待ち構えていた。

 しかし実際には火球は燎火の頭の上で爆発し、燎火は体のあちこちからプスプスと煙を上げながらメルの脚元に転がっている。


 「……え、えっと。大丈夫ですか?」


 とりあえず燎火に声を掛けてみたメルだが、燎火からの返事はない。

 見たところ、燎火は体のあちこちから煙を上げているが、重篤な火傷は負っていないようだった。あれだけの爆発が間近で起きれば全身火傷は避けられないように思われるが、祓道の炎だからだろうか。


 「……あの、メルは祓道のことは分からないんで、違ってたらごめんなさいなんですけど……」


 果たしてこれは言ってしまっていいことだろうか。そんな感情をありありと表情に浮かべながら、メルは言葉を選んで口を開く。


 「幾世守さん、もしかして祓道失敗しました?」


 メルには祓道のことはよく分からない。しかし先程の燎火は、強力な祓道を制御し損なって自爆したようにしか見えなかった。


 「……さい」

 「えっ?なんですか?」


 燎火が何か言っているが、声が小さくて聞き取れない。

 メルはしゃがんで耳を澄ました。


 「……1人にしてください。今ちょっと泣きそうなので」

 「あっ、はい」


 どうやら本当に燎火は失敗したらしい。そして心が折れたらしい。

 メルは何だか気の毒になったので、燎火の要請通り遠くに離れた。


 「いや~……なんていうか、切なくなってきましたね」


 燎火の心情を考えると、メルは胸が締め付けられるような思いがした。そもそも燎火はメルの命を狙っていたのだが、今はそれが気にならないくらい切ない。


 『見てて悲しくなってきた』『なんだろう、なんか泣きそう』『胸の辺りがきゅってする』


 一部始終を見ていた視聴者達も、メルと同じような感想を抱いていた。

 振り返ってみると、燎火はまだ地面に倒れたままだった。

 立ち上がれないのは肉体的なダメージのせいか、それとも心のダメージか。いずれにせよ、燎火のその姿を見てメルはまた胸が締め付けられた。


 「……今日はもう配信終わりましょうか」

 『そうだな』『それがいい』『ちょっと1回横になりたい』

 「え~……それじゃあね、ワヨーさんの噂は本当でした、ということで……」

 『そういやこの配信元々はワヨーさんの話だったな』『忘れてたわ』

 「皆さんまた次回の配信でお会いしましょう、バイバ~イ」

 『バイバ~イ』『バイバ~イ』


 お通夜のような雰囲気のまま、この日の配信は終了した。

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