第38回桜庭メルの心霊スポット探訪:○○神社 一
「皆さんこんばんは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す。桜庭メルの心霊スポット探訪第38回、やっていこうと思いま~す」
『こんばんは~』『こんばんは!!』『待ってた』
「今日行く心霊スポットは凄いですよ、魅影さんに教えてもらった場所ですから」
『マジか』『なら期待できるな』『ミカゲさんオススメの場所なら信頼できる』
「オススメっていうのとは少し違うんですけどね……」
メルが今日の心霊スポット探訪で訪れようとしている場所は、先日魅影から提示された「リバーサルワークスが存在する可能性のある座標」の1つだ。
今日の心霊スポット探訪は、配信と調査を兼ねている。調査と言っても神社そのものは既に常夜見家が調査を済ませており、メルの役割は神社から侵入できると考えられる異空間の調査だ。
「今日行く心霊スポットはとある神社なんですけど……」
『なんて神社?』
「それがですね……魅影さんが言うには、神社の名前は分からないそうなんです」
『名前が分からない?』『どういうこと?』『このご時世調べりゃ出てくるんじゃないの?』
「なんか色んな文献とか地域の歴史とかから、徹底的にその神社の名前が消されてるらしいんです。その地域に古くから住んでる人の中には、その神社を話題に出すだけで嫌な顔をする人もいるとか」
『うわぁすごく心霊スポットっぽい』『話題出すだけで地域住民に嫌な顔されるなんて現実にあるの?』
「魅影さんのお家って心霊スポットとかの情報にホントに詳しいので、魅影さんでも神社の名前が分からないっていうのは相当なことですよ」
神社に関するあらゆる情報が削除されているのは、リバーサルワークスの秘匿が目的の可能性がある、というのが魅影の考えだった。
「という訳で早速、その名前の無い神社に行ってみようと思います!」
『それでその名無しの神社ではどんな心霊現象が起こるの?』
「心霊現象ですか?そういうのが起こるって話は特に魅影さんからは聞いてないですけど」
『えっ』『心霊スポットなのに心霊現象起きないの???』『どういうことなの……』
「……あっ、ヤバっ」
『おいヤバって言ったぞ』『何か隠してやがるな?』
本日メルが向かう名無しの神社は、「リバーサルワークスが存在するかもしれない場所」というだけで、特に心霊スポットという訳ではない。
それをメルは調査のついでに配信をするため、名無しの神社を心霊スポットと偽ったのだ。それで心霊現象が何も起きずとも、「心霊スポットって聞いてたんですけど何も起こりませんでしたね~」で済ませればいいという魂胆である。
とても大袈裟な言い方をすれば詐欺だ。
「……さ、神社に行きますね~」
『おい待て』『逃げるな』『説明責任を果たせ』
視聴者の追及から逃れるように、メルは足早に神社へと向かう。
そんなことをしても撮影用のスマホを持ったサクラがぴったりついてくるので、視聴者から逃れることは不可能なのだが。
「う~わ~……」
魅影から事前に受け取った地図を元に神社へ向かうメルは、目の前の道を見て顔を顰めた。
「流石存在を消されてる神社への道……荒れてるとかいうレベルじゃないですね……」
下手をしたら百年単位で人の手が入っていないその道は、好き放題に生い茂った雑草や木の枝で埋め尽くされ、道と認識することが困難なほどだった。
「下手したらメルが今まで通った道の中で1番荒れてるまでありますよ……そこらの山道とは比べ物にならない……」
『確かにこれは酷いな』『服とかビリビリになりそう』『マジかよ一刻も早く通ってもらわなきゃじゃん』
1つ救いがあるとすれば、つい最近誰かがこの道を通った形跡が見られることだ。恐らくはメルの前に事前調査にやってきた常夜見家の人間の痕跡だろう。
その痕跡を辿って歩けば、多少は楽に進むことができる。
「枝とかもたくさん……気を付けないと本当に服が引っ掛かって破れちゃいそうですね……」
『だからって手刀で枝を切りながら進むな』『なんで手刀で枝が折れるんじゃなくて斬れるんだよ』
「てやっ」
『え、今ちょっと離れたとこの枝切ってなかった?』『斬撃飛ばしてるじゃん……』『もうバトル漫画行けよお前』
そうして素手で枝切りや草刈りを行いながら道なき道を進むこと約30分。
「や……やっと着いた……」
全身に木の葉を付着させながら、メルはようやく目的の神社に到着する。
ここに至るまでの道程とは違い、鳥居の向こうに見える神社の境内は意外にもそこまで荒れていない様子だった。
「わ、ホントに名前が消されてる……」
鳥居を見上げると、神額と呼ばれる通常神社の名前などが記されている木製の額は、その表面が丁寧に削り取られていた。
メルはくるりとカメラの方へ向き直る。
「皆さん、無事に目的の神社に着きました~。早速中に入ってみる……前に、ちょっと体を綺麗にしますね」
『そうだね』『流石にそのまま入るのはね』
メルはここまでの道中で体に付着した木の葉を、1枚1枚ちまちまと取り除き始める。
「…………あっ、ここにも付いてる…………」
『おい何を見せられてるんだ俺達は』『何って……美少女が体に付いた葉っぱを取ってる映像だが』『いくら美少女でも流石に見てられんて』『なんか焚火の映像とかと同じノリで見れる』
「…………よし、これくらいでいいでしょ」
細かい葉や枝の欠片などはまだ取り切れていないが、それらは最早素手では除去不可能だ。
「それじゃあ改めて、名無しの神社にお邪魔しましょう!」
メルは鳥居に一礼してから、ようやく神社の境内に足を踏み入れた。
まずは真っ直ぐに本殿へと向かい、一応のお参りを済ませる。
「鳥居も本体も、古くはなってますけどボロボロって感じはあんまりしませんね」
『だから本殿のこと本体って言うなよ』
鳥居や本体は長年雨風に晒されたことで色褪せてこそいたが、それでもその構造に綻びは見られなかった。
数百年間に闇に葬られた神社にしては、原形を留めすぎていると思ってしまうほどだ。
「相当頑丈に造ったんでしょうか?」
メルは本殿の外周に沿うようにして境内を歩き始める。
「裏は池になってるんですね~」
本殿の裏手には小さいながらも水の綺麗な池があった。
だがそれ以外には特筆すべきものは何も無く、当然心霊現象の類も起こらない。
ストリーマーとして何の成果も得られないまま、メルは境内を回り終えてしまった。
「さて、と……」
メルは本題である神社から侵入できる異空間の調査に移行すべく、改めて本殿の真正面に立つ。
「皆さん、もしかしたらこの後配信が途切れちゃうかもしれません。もしそうなったら『ああ、またメルがやらかしたんだな』と思ってください」
『え、何する気?』『なんか分からんけど分かった』『もうとうとう配信の中断を予告するようになったのか……』
「えっと……ちょっとごめんなさいね……」
メルは本殿の入り口前の階段に、撮影用とは別のスマホを置く。
そして本殿と鳥居のちょうど中間の辺りに移動すると、足を肩幅に開いて真っ直ぐに本殿と向かい合った。
「ふぅ……」
メルは目を瞑り、緊張を解すようにゆっくりと息を吐く。
『何する気?』『何が始まるんだ』
視聴者達の困惑がコメント欄に書き込まれていく中、階段に置かれたスマホからアップテンポなダンスミュージックが流れ始めた。
「……っ!」
同時にメルは音楽に合わせてSNSで流行りそうなキレキレのダンスを踊り始める。
『どうした!?』『なんで急に踊るの』『いや上手いな』『流石バカみたいな身体能力してるだけはある』『いやなんで神社で踊るの……?』
何の説明も無しにダンスを披露するメルに、視聴者達の困惑は加速していく。
だがメルも何の意味もなくこんなことをしている訳ではない。というより何の意味もなくこんなことをしていたら流石にヤバい。
このダンスは事前にこの神社を調査した常夜見家の人間が突き止めた、異空間への入口を開くための儀式なのだ。
何故ダンスで異空間への入口が開くのかはメルにはさっぱり分からないが、以前虚魄が同じような方法で異空間への入口を開いていたことがあるので、もうそういうものだと割り切っている。
「……よしっ」
約2分半後。儀式に必要な全ての振り付けを終えたメルが動きを止める。
『メルちゃん上手だった!!』『いや上手かったけどさ……』『なんで急にダンスしたの?』
「ちょっと待ってくださいね、ダンスの理由はすぐに分かりますから」
メルは本殿に近付き、未だにシャカシャカと音楽を鳴らしているスマホを回収する。
そしてそのまま階段を上がり、本殿の入口の前に立った。
『え、そこ登っていいの?』『勝手に登って怒られない?』
「大丈夫です。この神社は無いことになってる神社ですから、ここで何したって怒る人はいないです」
『そういやそうか』『なんかヤバい考え方してない?』
メルは本殿の扉に手をかけ、何の躊躇もなく開け放つ。
扉の向こうに広がっていたのは本殿の内装……ではなく、黒く渦巻く穴のような何かだった。
『えなにこれ』『穴……?』『なんかヤバそう……』
メルはカメラの方を振り返り、視聴者達に対して得意気な笑顔を浮かべた。
「……ね?」
『何が???』『は???』『そのドヤ顔やめろ』『何のドヤ顔だよそれ』『身に覚えのないドヤ顔がこんなにも腹の立つものだとは』
「メルがダンスしてた理由、これで分かりましたよね?」
『分からないが???』『これで俺達に何を理解しろって言うんだ』『しょっちゅうこれ言ってる気がするけどちゃんと説明をしろ』『メルちゃんの好きなようにやればいいと思うよ!』『黙れよ全肯定ファン』
多数の説明を要求するコメントを見て、メルは軽く咳払いをした。
「簡単に説明すると、これは異空間の入口です。さっきのメルのダンスは、この入口を開くためにやってました」
『なるほど……???』『なんでダンスすると異空間の入口が開くの?』『どういう仕組み?』
「仕組みはメルにも分からないです。魅影さんからそういうものだって教えてもらっただけなので」
自分にできる範囲の説明を終えたメルは、改めて異空間の入口と向かい合う。
「メル今からこの異空間に入るんですけど、異空間の中って通信できないことも結構あるんです。だからさっきも言った通り、この後通信が途切れちゃうかもしれないんですけど、もしそうなったらごめんなさい」
『お、おう』『分からんけど分かった』
視聴者達に対してもう1度予防線を張り、いよいよメルは黒く渦巻く異空間の入口へと足を踏み出す。
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