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裏作業:ファミレス 二

 「いらっしゃいませ~!お客様何名様ですか~?」

 「待ち合わせをしているのだけれど……」


 魅影がぐるりとファミレスの店内を見回すと、奥の席で手を振る人物の姿が見えた。


 「連れが見つかったわ」

 「ごゆっくりどうぞ~」


 魅影は店員に軽く頭を下げ、自分に手を振っているその人物の下へと向かう。


 「相変わらず見慣れない格好ね、桜庭さん」

 「見慣れてくださいよ~」


 ようやく振っていた手を下ろしたメルは、地味なモノトーンの服に身を包んでいる。

 普段は派手な地雷系ファッションで配信を行っているメルだが、配信外では地味な服装をしていることの方が多いのだ。


 「ところで、そちらの怪しい方はどなたかしら?」


 メルの隣には、つば広の帽子を被りサングラスをかけた小柄な人物が座っていた。

 屋内にもかかわらずそんな格好をしているその人物は、魅影の言う通りとても怪しかった。


 「桜庭さん、紹介していただけるかしら?」

 「紹介も何も、待雪さんですよ」

 「どうも……」


 サングラスを僅かにずらしたその顔は、確かに人間に変身した待雪に違いない。


 「待雪さんも魅影さんとお話ししたいことがあるそうで、今日は人間の姿で一緒に来たんです」

 「それはいいのだけれど……どうしてお店の中で帽子とサングラスを着けたままなの?」

 「ほら、待雪さんの人間の姿ってちょっと可愛すぎるじゃないですか。周りの人達の視線を集め過ぎちゃうので、こうやって可愛さを隠してるんです」

 「ああ、そう言えばそうだったわね」


 人間の姿となった待雪の容姿は往々にしてトラブルを招く。そのことは魅影も伝え聞いていた。


 「ここに来るまでも凄かったんですよ。擦れ違う人擦れ違う人み~んな待雪さんのこと振り返って。だから慌ててこの帽子とサングラス買ったんです」

 「急ごしらえなのね、その帽子とサングラス」

 「申し訳ございません桜庭様。わたくしのせいでこのような無用な出費を……」

 「気にしないでください待雪さん。メルはこのお姉さんのお家から毎月1000万円もらってますから」

 「お姉さんって……あなたの方が年上でしょうに……」


 魅影は呆れ顔でメルの対面に腰を下ろした。


 「メル達まだドリンクバーしか頼んでないですけど、魅影さん何か食べ物頼みま」

 「そうね……ドリンクバーだけというのも少し心苦しいし、何か軽く摘めるものでも頼みましょうか」

 「そうですね。じゃあメルはハンバーグミックスグリルにします」

 「私は何か軽く摘めるものと言ったのだけれど?」


 メルと待雪はハンバーグミックスグリルを、魅影はドリンクバーとフライドポテトを注文した。


 「待雪さんも結構がっつり行くのね……」

 「待雪さん意外と食べる時はたくさん食べるんですよ。探検家なんです」

 「健啖家でしょ」

 「お恥ずかしいです……」


 待雪は俯いて頬を染める。


 「恥ずかしがること無いじゃないですか。たくさん食べられるっていうのはそれだけ生きる能力が高いってことなんですよ?むしろたくさん食べられることを自慢するべきです」

 「桜庭さんの感性は独特よね……」

 「お待たせしました~、ハンバーグミックスグリルがお2つと~、フライドポテトでございま~す」


 有能なアルバイターによって注文の品が迅速に提供され、メルと待雪は目を輝かせながら両手を合わせた。


 「いただきま~す」

 「いただきます」

 「……いただきます」


 メルと待雪がきちんと「いただきます」を言った手前、魅影も言わない訳にはいかなかった。

 大判のハンバーグ、長く太いソーセージ、トマトソースが掛かったグリルチキンを、メルはカトラリーを巧みに操ってテキパキと切り分けていく。


 「流石に刃物の扱いが上手いわね……」


 ケチャップにディップしたフライドポテトを口へ運びながら、魅影が感心したように呟く。


 「別にこれくらい普通じゃないですか」

 「わたくしも早く桜庭様のように美しく食事ができるようになりたいです……」


 人間の世界で暮らし始めてまだ日が浅い待雪は、カトラリーの扱いに苦戦していた。

 そして魅影の「軽く摘めるもの」という提案を完全に無視した本格的な食事が、半分ほど進んだ頃。


 「そろそろ本題に入ってもいいかしら?」


 1本1本ちまちまとフライドポテトを食べ進めていた魅影が、痺れを切らしたようにそう切り出した。


 「どうぞどうぞ」

 「ではまず、リバーサルワークスについての話よ」


 魅影は紙ナプキンで口元を拭い姿勢を正す。


 「『奇奇器機大全』そのものは遺失してしまったけれど、リバーサルワークスについての記述は私がほぼ暗記しているわ」

 「そうなんですか?凄いですね」

 「何度も繰り返し読み込んだもの。桜庭さんを祟り神にする時にね」


 御伽星憂依による世界の滅亡を防ぐにあたり、魅影は万が一計画が失敗した時の保険をいくつか見繕った。その内の1つがリバーサルワークスだ。


 「リバーサルワークスの機能についてはこの間説明したばかりだから省略するとして、問題はリバーサルワークスを如何にして御伽星憂依よりも先に私達が確保するかよ」

 「そうそう、そう言えばメル、気になってたことがあるんですよ」


 メルがナイフとフォークを動かす手を止めて口を挟む。


 「御伽星さんが奪った、その~……何でしたっけ本の名前」

 「『奇奇器機大全』よ」

 「キキキキ大全には、リバーサルワークスのことが書いてあるんですよね?それなのに御伽星さんがまだリバーサルワークスを手に入れてないのはどうしてなんですか?」

 「簡単なことよ。ちょうどその話をしようと思っていたのだけれど、『奇奇器機大全』にはリバーサルワークスの所在についての記述が無いの。著者が意図的に記載しなかったのか、それとも著者も所在は知らなかったのかしらね」

 「なるほど……」

 「だからこそ私達は首の皮一枚繋がったのよ。もしも『奇奇器機大全』に所在まで記されていたら、リバーサルワークスはとっくに御伽星憂依の手に渡ってゲームオーバーだったわ」

 「魅影さんゲームオーバーとか言うんですね」

 「どこに引っ掛かっているのよあなたは」


 余計でしかないメルの合いの手に魅影は溜息を吐いた。


 「ともかく、リバーサルワークスの所在については、御伽星憂依も私達も把握していないわ。だからこそ私達は、何としても御伽星憂依より先にリバーサルワークスを見つけ出さないとならないの」

 「リバーサルワークスじゃなくて御伽星さん見つけて殺すんじゃダメなんですか?」

 「よくそんな物騒な台詞を平然とファミレスで吐けるわね」


 呼吸するように自然に言い放たれたメルの「殺す」という言葉に、たまたま近くを通りかかった店員が驚いてグラスを落としそうになっていた。


 「確かにリバーサルワークスではなく御伽星憂依の方をどうにかするという手も無くはないわ。けれど御伽星憂依を殺めたとしても、御伽星憂依の企みを完全に阻止するには不十分よ。現に私が1度殺したはずの御伽星憂依が、こうして再び世界を滅ぼすための暗躍を始めているのだもの」

 「そもそも御伽星さんはどうやって生き返ったんですか?」

 「どうせ私と同じような方法を使ったのでしょう。人間として死んだ後に怪異として蘇ったのよ」

 「……あっ、魅影さんって今怪異か」


 最近の魅影はほぼ常に人間の姿でいるため、魅影が怪異であることを忘れがちなこのところのメルだった。


 「要するに御伽星憂依は殺めてもまた蘇ってくる可能性があるから、御伽星憂依をどうこうするよりもリバーサルワークスを私達で確保した方が確実だということよ」

 「でも奪われた本には、場所のことは何も書いてないんですよね?」

 「何も書いていない訳ではないわ。『奇奇器機大全』によると、リバーサルワークスは現実世界の滅亡を回避するために開発された装置であるため、現実世界から隔絶された異空間に設置されているそうよ。現実世界の滅亡に巻き込まれてリバーサルワークスも壊れてしまっては意味が無いから、それを避けるための措置ね」

 「でもリバーサルワークスを設置した異空間がどこにあるか分からなかったら同じことですよね?」

 「ええ、その通りよ。だから……」


 魅影はスマホを取り出し、何やら操作し始めた。


 「桜庭さん、それから待雪さんも。これを見てちょうだい」


 そう言ってテーブルに置かれたスマホの画面には地図が表示されていた。そして地図上の1点には赤いマークが記されている。


 「この地図上の赤いマークは、常夜見家の諜知衆が占術によって特定した、リバーサルワークスが存在する可能性のある座標よ。正確には『リバーサルワークスが設置された異空間への入口がある可能性のある座標』なのだけれど」

 「ややこしいですね」

 「諜知衆が特定した座標は全部で6つ」


 魅影がスマホの画面をスワイプすると、同じように赤いマークが記された地図が合計6枚表示された。


 「この6つの座標から侵入できる異空間のどこかに、リバーサルワークスが存在する可能性があるわ」

 「なるほど……6か所ならすぐに調べ終わりそうじゃないですか?」

 「そうね。ただ、1つ問題があるの」

 「問題?」

 「ええ。簡単に言うとこの6つの座標に存在する異空間は、『リバーサルワークスか強力な怪異かのどちらかが存在する異空間』なの」

 「何ですかその変な異空間。何でリバーサルワークスか怪異かを絞り込めないんですか」

 「占術というのはそういうものなのよ」


 そういうものと言われてしまってはメルはもう何も言えない。


 「だからこれらの異空間の調査には、強力な怪異との戦闘のリスクが伴うことになるわ」

 「強力な怪異って、具体的にはどれくらい強そうなんですか?」

 「常夜見家の見立てでは、祟り神の出現も想定されているわ」

 「うわ~……」


 祟り神は生ける災害にも等しい存在である。メルもできれば戦いたくない相手だ。


 「祟り神が現れることも考えると、異空間の調査を任せられる人材は非常に限られてくるわ。常夜見家の征伐衆でも、祟り神と戦えるのは私だけだもの」

 「え~、そうなんですか?」


 メルは少し意外に思った。


 「だからこそこうしてあなたに協力をお願いしているのよ、桜庭さん。あなたになら異空間の調査も任せられるわ。私とあなたで分担して調べましょう」

 「それなら燎火さんとか煌羅さんにも協力お願いしましょうよ。4人でやればもっと早いですよ」


 メルは良かれと思ってそう提案したが、魅影は難色を示した。


 「幾世守燎火と幾世守煌羅は……祟り神との戦闘まで想定すると、少し力不足かしらね」

 「そうですか?2人とも最近強くなってますよ?」

 「確かにあの2人の成長には目を瞠るものがあるけれど……祟り神級の怪異が出現した場合、あの2人では命を落とすことも考えられるわ。桜庭さんもあの2人を失うのは嫌でしょう?」

 「それはそうですけど……」

 「それに私はあの2人に協力を依頼できるような間柄ではないし」

 「もしかしてそっちがメインの理由だったりします?」


 ともあれ、燎火と煌羅に協力を依頼するという提案は、ひとまず見送られることとなった。


 「異空間の調査は私か桜庭さんでないと不可能だけれど、事前調査ならうちの征伐衆に任せられると思うわ」

 「事前調査?」

 「主に異空間への侵入方法ね。うちの人間はそういうことを調べるのが得意なの」

 「それは助かりますけど、征伐衆って調査じゃなくて戦闘の人達じゃないんですか?」

 「戦闘なんて極論私1人いれば充分だもの」

 「ホントに極論ですね」


 その後、話し合いと食事は30分ほど続いた。




 「とりあえずこんな感じですね~」


 話し合いを終え、ついでに追加注文したデザートも平らげたメルは、体を解すように伸びをした。


 「じゃあ後は、待雪さんの用事ですね」

 「ああ、そう言えば待雪さんは私に話があるのだったかしら?」

 「は、はいっ」


 待雪が緊張したように頷く。

 その横でメルは、財布の中から一万円札を取り出していた。


 「なんか待雪さんの話はメルがいるとできないそうなので、メルは先に出ますね」

 「あら、そうなの?」


 メルは取り出した一万円札をテーブルに残し、一足先に退店する。

 後には待雪と魅影の2人が残された。


 「……あの、常夜見様」


 おずおずと話を切り出す待雪。


 「その……1つ、ご相談があるのですが……」

 「……何かしら?」


 魅影と待雪が2人きりになるのは初めてのことだ。というよりそもそも魅影と待雪はほとんど会話をしたこともない。

 そんな関係性で、待雪は魅影に一体何を相談するつもりなのかと、魅影は柄にもなく少し緊張していた。


 「わたくしは桜庭様に命を救われ、それ以来桜庭様の刃となるべくお傍に使えておりました。僭越ながら、それなりに桜庭様のお役に立つことはできていたと自負しています」

 「そうね、あなたがいなければ桜庭さんは怪異と戦えなかったもの」


 意味が分からないほど強いメルだが、それでも物理的な影響を受けにくい怪異と素手で戦うことは難しい。

 故にメルが怪異と戦う時は、刀に変化した待雪がほぼ必須だった。

 ……これまでは、だが。


 「ですがこのところ、桜庭様はわたくしがおらずとも怪異と戦うことのできる力を身に付けられました。わたくしはそれらの力にあまり詳しくはありませんが……」

 「確かに今の桜庭さんは、怪異と戦う力には事欠かないわね」


 修行パートと称される短期間の集中トレーニングによって、今のメルは祟り神の力の一部に祓道に怪異使いの技能、更には神格の力の一部まで使いこなし始めている。


 「今の桜庭様にとって、わたくしは必ずしも必要な存在ではなくなってしまったのです」

 「……なるほどね」


 魅影は待雪が抱える悩みをおおよそ看破した。

 今のメルは待雪に頼らずとも怪異と戦うことができる。それは言い換えれば、メルが待雪を必要としなくなるということだ。


 「もしかして、桜庭さんに切り捨てられることを心配しているの?」


 だとしたらそれは杞憂だろうと魅影は思う。

 魅影の知るメルという人物は、役に立つ立たないで友人を選ばない。メルが待雪の刀に変化する能力を必要としなくなっても、待雪自信を必要としなくなることは無いだろう、というのが魅影の考えだった。

 しかし魅影がそれを伝える前に、待雪は静かに首を横に振った。


 「いいえ、桜庭様は心の広いお方です。桜庭様はわたくしが不要になろうと、決してわたくしをお見捨てになることは無いでしょう」

 「……そう、あなたもそれは理解しているのね。ではあなたは一体何に悩んでいるの?」


 魅影がそう尋ねると、待雪はサングラスを隔てていても分かるほど真っ直ぐな視線を魅影に向けた。


 「わたくしはこれから先も桜庭様のお役に立ち続けたいと願っております。そのために、わたくしは更なる力が欲しいのです」

 「……へぇ」


 待雪のその願いを聞いた魅影は、無意識に口元に笑みを浮かべた。


 「常夜見様。あなた様は怪異の知識であれば並ぶ者がいないほどのお方であると桜庭様より伺っております。どうかその叡智の一部を、わたくしに授けてはいただけないでしょうか」

 「……桜庭さんの役に立つために、私の知恵を借りて強くなりたい、ということよね?」


 待雪は頷き、額がテーブルにぶつかりそうなほど深く頭を下げた。


 「恥知らずなお願いであることは承知しております。その上でどうか、わたくしにお力添えをいただけませんでしょうか?」

 「……頭を上げて、待雪さん」


 魅影が穏やかな口調で待雪を促す。


 「私でよければ、力を貸してあげてもいいわ」

 「本当ですか!?」

 「ただし条件がある。あなたの体を、侏珠という種族の力を調べさせてもらうわ。これは私の知的好奇心を満たすためでもあるけれど、あなたの願いをかなえるために必要なことでもあるの。侏珠という怪異のことを私はほとんど知らないわ。知らない相手がどうやったら強くなれるかなんて分かるはずがないでしょう?」


 待雪は数秒ほど考え、それから覚悟を決めた表情で頷く。


 「……承知いたしました。わたくしの体でよろしければ、いくらでもお調べください」

 「契約成立ね」


 口を三日月のような形に歪め、魅影はあくどい表情で笑う。


 「私達2人で、桜庭さんを驚かせるほど強くなりましょう、待雪さん」

 「は、はいっ。よろしくお願いいたします」


 魅影と待雪は固い握手を交わした。


 「とりあえず龍石沢山食べましょうか」

 「えっ?」

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次回は明日更新する予定です

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