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第37回桜庭メルの心霊スポット探訪:大嶽神社 四

 「ところでジョーカさん。傷は大丈夫なんですか?」


 メルが気になったのは、ジョーカが母星での戦闘で負ったという傷だ。

 まさか相手が動けないほどの重傷を負っているとは知らずに暴れ回った身としては、少しの罪悪感と共に傷の具合が気になってしまう。


 「ああ、傷に関してはかなり快復した。私は傷が治るのも早いのでな」


 そう言ってジョーカは体を動かし、メルに右の側腹部を見せる。そこには確かに広範囲に亘って傷跡のようなものがあった。

 ただその傷跡は消えかけで、痛々しさはあまり感じられない。


 「その傷が治ったらどうするんですか?元の星に帰るんですか?」

 「そうしたいのは山々だが……生憎、私は星間航行の術を持たない。母星に帰還することはおろか、この星を脱出することも難しいだろう」

 「えっ……帰れないんですか?」

 「ああ。最早私はこの星で暮らす他無いのだが……私はこの星のことを何も知らない。実を言うとこの星の知的生命体に会ったのもあなたが初めてなのだ。今更だが、名前をお聞きしてもいいだろうか」

 「あっ、ごめんなさい。お名前教えてもらったのにこっちが名乗ってませんでしたね。桜庭メルと申します」

 「サクラバメルさん、と仰るのだな」


 ジョーカのその言い方は、姓と名の区別がついていない様子だった。


 「桜庭でもメルでも、好きな方で呼んでください」

 「ふむ、この星はそのような文化なのか。では桜庭さんと呼ばせていただこう。桜庭さん、いくつかこの星について教えていただいてもいいだろうか?」

 「はい。メルに教えられることなら、何でも聞いてください」

 「では桜庭さん。あなたは何という種族なのだ?」

 「メルは人間っていう種族です」

 『本当にそうか?』『えっメルって人間だったの!?』

 「ニンゲンというのか。ニンゲンはこの星にどれくらいいるのだ?」

 「今は70億くらいでしたっけ?」

 「70億だと!?」

 「ひゃっ!?」


 突如大声を上げた(テレパシーだが)ジョーカに、メルは驚いて肩を跳ねさせる。


 「どっ、どうしましたジョーカさん?」

 「その70億もいるというニンゲンは……皆桜庭さんくらい強いのか?」

 「えっ?いやいや、そんなことないですよ。自分で言うのもなんですけど、メルは人間の中でも結構強い方だと思います」

 「ああそうなのか……」


 ジョーカは露骨に安心していた。どうやら70億の人類全てがメルと同等の戦闘能力を有していると勘違いしたらしい。


 「桜庭さん。私がこのままここに住んでいたら、ニンゲンや他の知的生命体の迷惑になるだろうか?」

 「ん~、大丈夫だと思いますよ?人間は普通こんな山奥まで来ませんから」

 「そうなのか」

 「もしよかったら、メルのお友達にこういうの詳しい子がいるので紹介しましょうか?」


 こういうの詳しい子、というのは魅影のことである。


 「おお、それは心強い。お願いしてもいいだろうか?」

 「勿論です。じゃあ、少し待ってもらってもいいですか?」


 メルは一旦ジョーカとの会話を中断し、サクラが構えるカメラの方に向き直った。


 「皆さんごめんなさい、メルはちょっとやることができたので、この辺りで今日の配信は終わりにさせてもらいたいと思います」

 『マジか』『急だな』

 「この鹿さん……ジョーカさんって仰るそうなんですけど。ジョーカさんとメルが話した内容については、また今度再現動画を投稿しようと思います!」

 『おけ』『楽しみ!』『待ってる』

 「という訳で皆さん、また次回の第38回心霊スポット探訪でお会いしましょう!それでは皆さん、バイバ~イ」

 『ばいばい』『バイバ~イ!』


 メルは配信を駆け足気味に終了した。


 「桜庭さん。それは一体何をしているのだ?小さな箱に話しかけているようだが……」

 「あ~、これは……メルのお仕事です」

 「なるほど仕事か」

 「じゃあメル、ジョーカさんのお手伝いができそうなお友達に連絡するので。少し待っててくださいね」


 メルはサクラが持っている撮影用のスマホとは別の、連絡用兼調べ物用のスマホを取り出した。


 「魅影さん配信見ててくれたかな……」


 魅影の連絡先に電話をかけ、待つこと約10秒。


 「もしもし、桜庭さん?」


 少し慌ただしい様子で魅影が応答した。


 「あっ、魅影さん。今って少しお話しても大丈夫ですか?」

 「大丈夫よ。というより、ちょうど私も桜庭さんに連絡しようと思っていたところだったの」

 「あら、そうだったんですか?」

 「ええ。けれど私の用件は長くなるから、先にそちらの用件からお願いできるかしら?」

 「分かりました。ちなみに魅影さん、今日のメルの配信は見てくれました?」

 「ごめんなさい、今日は少し忙しくて見られなかったの」

 「あら」


 普段はほぼ欠かさずにメルの配信をチェックしている魅影が今日は見ていなかったことを知り、メルは少しショックを受けた。

 しかしこういうこともある。ストリーマーは視聴者がいて当たり前だと思ってはいけないのだ。


 「実は今日の配信で……」


 メルはジョーカにまつわる事情を簡潔に魅影に説明した。


 「……っていうことなんですけど。ジョーカさんの住むところとかのこと、魅影さんもお手伝いしてあげてくれませんか?」

 「地球とは別の星系から出現した異星の怪異……とても興味深いわね。私にできることならお手伝いさせていただくわ……と、言いたいところなのだけれど……」


 電話の向こうで魅影が何やら言い淀む。


 「何かあったんですか?」

 「これは私の用件にも関わってくる話なのだけれど、このところ常夜見家はかなり忙しないのよ」

 「それってもしかして、こないだの襲撃の件ですか?」

 「ええ、その通りよ」


 メル達を助けるために魅影が平行世界へと移動している間に、常夜見家が襲撃を受けたこと。襲撃者の正体が、死んだと思われていた御伽星憂依・アタナシアである可能性があること。

 その辺りの事情は、メルも修行パートの間に魅影から聞いていた。


 「襲撃者は常夜見家の書庫に押し入り、書庫内は酷く荒らされていたわ。このことから襲撃者の目的は常夜見家が所有する何らかの書物であると推測されていたけれど、襲撃者が何の書物を持ち去ったのかは明らかになっていなかった。書庫内の全ての本がぶちまけられていた上に、ご丁寧に目録の類まで破壊されていたの」

 「それで常夜見家の人達が、頑張って何が盗まれたのかを突き止めようとしてたんですよね?」

 「ええ。そして今日になってようやく、襲撃者が持ち去った書物が特定できたわ」

 「特定できたんですか?よかったですね!」

 「それが暢気に喜んでもいられないの……」


 電話の向こうから魅影の溜息が聞こえてくる。


 「襲撃者に持ち去られた書物は『奇奇器機大全』。古今東西の特殊な能力を持つ道具約数千点についての情報が記載された文献よ。そしてこの『奇奇器機大全』には、ディケイドディスクとリバーサルドライブという道具についての記述があるの」

 「ディケイドディスクとリバーサルドライブ……それって確か、世界をやり直せる装置ですよね?」

 「……驚いたわ。どこでそんなことを知ったの?」

 「平行世界の魅影さんが言ってたんです」


 祟り神となって世界を滅ぼしてしまった平行世界のメルに、平行世界の魅影が提示した世界をやり直すための手段。それがディケイドディスクとリバーサルドライブだ。


 「桜庭さんも知っているようだけれど、一応説明しておくわね。ディケイドディスクは過去10年間の世界の情報が保存された円盤状の記録媒体。そしてリバーサルドライブはディケイドディスクに記録された情報を元に、世界を過去10年以内の任意の時点と同じ状態に書き換える装置よ。そしてこの2つを総称して、『リバーサルワークス』とも呼ぶの」

 「時間を戻せる装置、ってことですよね?」

 「限りなく簡潔に説明するとそういうことになるわ」

 「でも、それがどうかしたんですか?」


 『奇奇器機大全』には数千もの特殊な能力を持つ道具についての記述があるという。その数千点の中から魅影がリバーサルワークスについてのみ言及する理由が、メルには分からなかった。


 「いい?状況証拠から、常夜見家を襲撃したのは御伽星憂依でほぼ間違いないわ。そして御伽星憂依が『奇奇器機大全』を手に入れたということは、御伽星憂依が『世界の時間を元に戻すことができる可能性』に行きついたということを意味するのよ?」

 「えっ、と……?」


 ここまで説明されてもメルにはまだピンとこない。


 「つまり御伽星憂依は、『奇奇器機大全』の記述を元にリバーサルワークスを探し出して、この世界を『禍津神を生み出す前の状態』に戻そうとするかもしれないということよ」

 「……あっ!?」


 ようやくメルにも事の重大さが理解できた。

 憂依は数十年かけて莫大な量の反霊力を蓄積し、その反霊力を全て使って最強の怪異たる禍津神を生み出した。

 そして禍津神の力で世界の滅亡を目論んだ憂依だったが、禍津神をメルが、憂依自身を魅影が討ったことで、憂依の目論見は防がれた。

 だが何らかの手段で蘇った憂依が、世界の時間を戻すことに成功した場合、禍津神が誕生した際に失われた反霊力も元通りに復元される。つまり憂依が再び禍津神を生み出すことが可能となってしまうのだ。


 「禍津神がもう1度この世界に生み落とされてしまったら、再び禍津神を討つことができる保証はどこにも無いわ。私達は何としても御伽星憂依かリバーサルワークスのどちらかを見つけ出し、御伽星憂依による世界の時間の逆行を阻止しなければならないの。そのために桜庭さん、あなたの力を貸してもらえないかしら?」

 「……ええ、勿論です」


 魅影の要請に、メルは力強く頷いた。


 「という訳だから、ジョーカさんの住まいについてのお手伝いは、御伽星憂依の件が片付いてからになりそうだわ」

 「分かりました、ジョーカさんにもそう伝えておきます」

 「ごめんなさいね。また今度改めて詳しい話をしましょう」


 その約束を最後に、魅影との通話は終了する。


 「ごめんなさいジョーカさん。メルもお友達もちょっと世界の危機に立ち向かわなきゃいけなくなりそうなので、ジョーカさんのお手伝いはその後になっちゃうかもです」

 「そうなのか。ではしばらくはここで療養しながら気長に待つとしよう」


 メルのやけに壮大な謝罪の文言を特に意に介す様子もなく、ジョーカは鷹揚に頷いた。

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ありがとうございます

次回は未定ですが今週中にはと思っています

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