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第37回桜庭メルの心霊スポット探訪:大嶽神社 三

 メルは左半身に祟火を纏わせ、右手で地面に刺した待雪の柄を再び掴んだ。


 「これで終わりじゃないですよ!」


 片手で待雪を構えつつ、メルは瞑想をするように目を閉じる。


 「……『(とき)』」


 するとメルの体が、一瞬青白い燐光を放った。


 『うわ何だ』『メルが光った!?』『メルちゃん今の何?』

 「今のは『鬨』っていう、身体能力をよくする祓道です。これも修行パートのときに、燎火さんと煌羅さんに教えてもらったんっですよ」

 『まだ身体能力強くするんか???』『それ以上身体能力強化してどうするんだよ』『リョウカさんもキララさんもメルになんてもの教えてるんだ』


 ただでさえ化け物じみたメルの身体能力が『鬨』で更に強化されるということで、コメント欄に戦慄が走る。


 「さぁ、行きますよ!」


 メルが地面を蹴って跳躍する。

 同時に球体から放たれた雷光がメルを狙うが、メルはそれらの雷光を容易く飛び越えた。


 『めっちゃ跳んでる!?』『え、10mは跳んでるくね?』『いくら何でも跳びすぎでしょ……』

 「あっちょっと跳び過ぎた……」

 『本人も跳び過ぎたって言ってる』『本人が跳び過ぎたって言うのはちょっと話違くない???』『本人が跳び過ぎたって思ったらそれはもう事故じゃん』


 合宿免許さながらの短期集中で祓道を体得したメルは、まだ『鬨』による身体強化の感覚に慣れていない。

 軽く飛び跳ねたつもりが想像以上の高度が出てしまい、地面を見下ろしたメルは冷や汗を流した。


 「でもまぁ、高いに越したことは無いですから!」


 気を取り直して待雪を振り被り、青い鹿目掛けて急降下する。


 「てやあああっ!!」


 振り下ろされた待雪は、『鬨』によって強化されたメルの膂力に重力が加わり、凄まじい破壊力が生まれていた。

 しかし。


 「ひゃっ!?」


 ガキンッ!という金属同士がぶつかり合うような音が響き、待雪の刃は青い鹿の30cmほど手前で不自然に制止してしまった。

 まるで青い鹿の周囲を、見えない壁が取り囲んでいるかのようだ。


 「くっ」


 見えない壁に弾き返され、メルは青い鹿から少し距離を取って着地する。


 「クウォオオッ!」


 青い鹿が咆え、着地した直後のメルへと雷光が殺到した。


 「効きませんよ!」


 メルの足元から噴き上がった祟火が、メルを雷光から守る障壁となる。

 青い雷光は祟火に呑まれ、呆気なく消滅してしまった。


 『その祟火とかいうやつ強すぎるだろ』『出し得じゃん』

 「ね~、強いですよね~これ」

 『禁止にしろ』

 「何でですか」


 視聴者達のコメントはゲーム実況気分である。絵面があまりにもファンタジー過ぎるためだろうか。


 「それにしても……」


 メルは一旦距離を取りながら青い鹿を観察する。


 「もしかしてあれでしょうか、殴ったり斬ったりとかは効かないパターンの鹿でしょうか」

 『効かないパターンの鹿って何だよ』


 待雪による斬撃を青い鹿がどのように防いだのか、メルにはそのトリックがまだ見破れていなかった。


 「とりあえず、あのボールが邪魔ですね……」


 メルは青い雷光を放つ6個の球体に視線を向ける。

 青い雷光それ自体は容易く防ぐことができるが、事あるごとにチクチクと雷光を飛ばされるのは鬱陶しい。


 「まずはあれから潰しましょう」

 『語彙が怖い』


 メルは左手を開いて上に向ける。


 「えっと……『挿頭戒(かざしいましめ)』?」


 メルが不思議な響きを孕んだ言葉を口にすると、左手の上に光が集まり、長さ1mほどの木製の槍が生成された。


 「てやっ」


 作り出した槍を、メルは6個の球体の内最も近くのものへと投擲する。

 トッ、という軽い音と共に、槍の先端が球体に突き刺さった。


 「あっ、刺さった」


 金属か非金属かも見当がつかない材質不明の球体だが、少なくとも木製の槍が刺さる素材のようだ。

 そして槍が刺さった瞬間、球体は色が抜け落ちたように灰色へと変化した。同時に宙に浮かんでいた球体は地面に落下し、ピクリとも動かなくなった。


 「クウォオオッ!!」


 直後に青い鹿が鳴き、またしても球体から青い雷光が掃射される。

 だが木製の槍が刺さり色を失った球体からは、雷光は放たれなかった。


 「上手くいったみたいですね」


 跳ね回って雷光を躱しながら、メルは灰色になった球体を見てほくそ笑む。


 (『挿頭戒』を上手く使えているわね、メルちゃん)

 (ありがとうございます、サクラさん!)


 メルが球体に対して放った『挿頭戒』は、元々はサクラの力だ。

 サクラの『挿頭戒』は木製の杭を射出し、杭を打ち込んだ対象の全ての力を封印するというもの。

 そしてサクラの力を体内に宿すメルも、理屈の上では『挿頭戒』の力を使うことができる。という訳でメルは修行パートの間に、『挿頭戒』を自分流にアレンジして会得したのだ。


 (予想通り、『挿頭戒』であればあれらの球体を無力化することができるわ。残りの5つも早く潰してしまいましょう)

 (ですね)


 メルは祟火を用いて雷光を防ぎつつ、次々と『挿頭戒』の槍を投擲する。

 それらの槍は1つも狙いを外すことなく残り5つの球体に命中し、その機能を完全に停止させた。


 『何だよその槍』『また知らない技使ってる……』

 「これも修行パートで覚えたやつですね~」

 『だから何なんだよ修行パートって』『1回ちゃんと何やってたか説明してくれよ』

 「さて……」

 『おい待て説明しない気だろ』『さてじゃないんだよ』


 全ての球体を無力化し、メルは改めて青い鹿と対峙する。


 「クウォオオオオオッ!!」


 夜空を見上げて咆哮を上げる青い鹿は、メルに対して怒っているように見えた。


 「『挿頭戒』!」


 メルは球体にしたのと同じように、青い鹿に対しても『挿頭戒』の槍を投擲する。

 だが先程メルが斬りかかった時と同じように、槍は青い鹿の30cmほど手前で停止し、弾き返されてしまった。


 「『挿頭戒』もダメですか……ん~……」


 『挿頭戒』を以てしても青い鹿の道の防御を突破することができず、メルは頭を悩ませる。


 「……うん、やっぱりシンプルに行きましょう」

 『なんか嫌な予感がする』『何する気だよ』


 瞬間、莫大な量の祟火がメルの体から噴き上がった。

 クレーターを埋め尽くさんばかりの祟火が、渦を巻きながらメルの右足へと収束していく。

 メルが導き出したシンプルな結論。それは圧倒的な火力によるゴリ押しであった。


 「メルティ……」


 周囲の空間が歪んで見えるほど超高密度に圧縮された祟火を、メルが回し蹴りによって青い鹿にぶつけようとしたその時。


 「待て待て待て待て待て!!」


 老人のような声が辺りに響いた。


 「……えっ?」


 虚を突かれたメルは、思わず攻撃を中断して祟火を消失させる。


 「今の声って……鹿の?」

 「そうだ!その通りだ!」


 それまで悠然と座っていた青い鹿が、メルに平伏するように頭を地面に擦り始める。


 「悪かった!私が悪かった!だから殺さないでくれ!」

 「殺さないで、っていうか……あなた喋れたんですか?」

 『誰と喋ってんの?』『あなたって誰のこと?』


 どうやら老人のような声が聞こえているのはメルだけで、視聴者達にはその声は聞こえていないようだった。


 「喋る、というのは適切ではない。私は思念によって私の意思を伝えている」

 「えっと……テレパシーってことですか?」

 「そう理解してもらって構わない」

 「なるほど。この声がテレパシーってことは、今のメルは傍目には一方的に鹿に話しかけるヤバい人ってことですね?」

 『そうだね』『自己分析がよくできてる』

 「今メルはこの鹿にテレパシー的なので話しかけられてます。そういうテイで視聴してください」

 『おけ』『りょ』『把握』


 視聴者達にヤバい人だと思わせないための事前知識を植え付け、メルは青い鹿へと向き直る。


 「えっと……鹿さん。お話しできるんだったら、ちょっと質問してもいいですか?」

 「何なりと」


 青い鹿はメルに恐怖を抱いているらしく非常に従順だった。


 「なんてお呼びしたらいいですか?」

 「あなたの発音器官に合わせると……ジョーカ、というのが近いだろうか」

 「ジョーカさんですね。ジョーカさんってもしかして、宇宙から来た人だったりします?」

 『少なくとも人では絶対にないだろ』


 メルのその質問に、ジョーカは首を縦に振った。


 「ああ。私はこの星の外からやってきた」

 「やっぱりそうなんですね。どうしてまたこの星に?」

 「それは……」


 この星にやってきた理由について、ジョーカは言い淀む様子を見せた。


 「その……私はこの星系から遥か遠くのとある惑星で、土地の守護者として君臨していた」

 「神様みたいな感じですか?」

 「そういうことになるだろうか。だがある時、私の支配領域に未知の外敵が出現した。守護者たる私は土地とそこに住まう生命を守るため、外敵の排除に向かったのだが……為す術もなく敗北してしまった」

 「ああ……」


 メルはジョーカが最初に言い淀んだ理由を理解した。自らの敗北を語ることを躊躇うのは当然だ。


 「重傷を負い、意識が朦朧としていた私は、戦闘の影響で生じていた時空間の歪みに巻き込まれてしまった。そして次に気が付いた時には、私はこの星の上空にいた。そして傷付いていた私はこの星の重力に抗うこともできず、この場所に落下してしまったという訳だ」

 「じゃあ、少し前にこの辺りに落ちてきた未確認飛行物体は、ジョーカさんだったってことですか?」

 「恐らくそうだ」

 「大丈夫だったんですか?怪我してたのに高いところから落ちたりして」

 「ああ。私の体は物理的な衝撃には強い。墜落に際して私が傷を負うことは無かった」

 「へぇ~……?」


 それを聞いたメルは、思わず周囲のクレーターに目を向けた。

 これほどのクレーターが生じる程の勢いで地面に落下しておきながら、それで一切の傷を負わないというのは、俄かには信じ難い話だ。


 「だが戦いで負った傷のために、私はこの場から動くことができなかった。故に私はしばらくこの場所で傷を癒すことに決めた。そして傷が治るまでの間身を守るため、私は眷属を生み出した」

 「眷属?」

 「私と似た姿の2足歩行の生命体だ。ここに来るまでに見かけなかったか?」

 「あっ、見ました見ました。10体くらい殺しました」

 「10体も殺したのか……」


 鹿によく似たジョーカの顔は本来表情など読み取れるはずはないが、この時に関してはジョーカの悲しみが手に取るように伝わってきた。


 「まあ……あれはこの地に漂う霊魂に私の力を混ぜて作った、即席の眷属だ。あなたも戦ったのなら分かると思うが、はっきり言って戦闘能力には期待できない」

 「確かにかなり弱かったですね~」

 「……故に眷属だけでは身を守るのに不十分だと判断した私は、一帯に結界を展開した」

 「眷属?結界?」

 「私の存在を隠す結界、そして侵入者を拒む結界だ。これによって結界の外部の存在は結界内部を一切認識することができず、また結界外部から内部への侵入も不可能になる。まあ、あなたには無理矢理突破されてしまったようだが」


 その話を聞いて、メルには1つ思い当たることがあった。

 このクレーターへとやって来る少し前、メルは見えない壁のようなものに行く手を阻まれた。今思えばあれがジョーカの展開した結界だったのだろう。


 「すごいんですね、ジョーカさんの結界って」

 「私は多種多様な結界を展開する能力と、青い雷光を放つ6つの球体を使って守護者としての務めを果たしてきた。特に攻撃を防ぐための結界には自信があったのだが……あなたにはそれすらも突破されそうだったからな。慌てて降参する羽目になった」

 「危なかったですね~。あと少し降参するのが遅かったらメル、ジョーカさんのこと殺しちゃってましたよ。あはは」


 言うまでもなく、ジョーカにとっては笑い事でも何でもなかった。

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ありがとうございます

次回は明日更新します

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