第37回桜庭メルの心霊スポット探訪:大嶽神社 一
「皆さんこんばんは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す」
『こんばんは~』『メルちゃんこんばんは!!』『生配信久しぶりだね』『こんなに間空くの珍しいよね』
「ですね~、皆さんとお会いするのが久し振りになっちゃいました」
前回の旧姫守家私有地での配信から今日の配信まで、およそ2週間ほど期間が空いてしまった。
メルがストリーマーとして活動し始めてから、配信にこれほど期間が空いたのは初めてのことだ。
『何かあったの?』『体調崩してたとか?』
「体調は崩してなかったんですけど、ちょっと配信ができない状況だったもので……」
『平行世界に行ってたとかいうやつ?』『あれマジなの?』『メルが世界滅ぼした世界線に行ってたんだっけ?』
「そうですね、平行世界に行ってる間は配信ができなかったっていうのも、期間が空いちゃった理由の1つです」
この2週間、メルはストリーマーとしての活動を何もしていなかった訳ではなく、動画を1本アップロードしていた。
その動画は旧姫守家私有地での配信が途切れてしまったことに対する謝罪と、その後メル達の身に起こったことを説明するためのものだ。
故にその動画を見たメルのチャンネルの視聴者には、メルが平行世界に行っていたという情報が共有されている。
「でも2週間も空いちゃったのは平行世界に行ってたことだけが理由じゃなくてですね……」
『平行世界に行ってたことだけで理由として充分だろ』『この短期間で平行世界以外にまだ何かあるのか』
「ちょっと話変わっちゃうんですけど、戦いものの漫画ってたまに修業期間みたいなのあるじゃないですか?」
『めちゃくちゃ話変わるな』『急に何の話だよ』
「主人公が強い敵を倒すために、新しい必殺技とか練習したりする修業期間、あるじゃないですか?」
『まああるね』『あのダルいやつね』『修行パートアンチおるやん』
「メルも大体そんな感じのことしてました」
『草』『どういうこと???』『メルも修行パートやってたってこと?』
「そうですそうです、修行パートやってました」
『マジでどういうこと???』『メルが何の修行する必要があるんだよ』『これ以上強くなってどうすんだよ』
「で、修行パートも終わったので、また配信ができるようになりました~、パチパチパチ~」
『パチパチ~』『パチパチパチ~』
メルはぺちぺちと両手を打ち合わせた。
「という訳で第37回心霊スポット探訪、やっていこうと思いま~す」
『今回37回目か』『間空いたから回数分かんなくなっちゃった』
「今日はですね、大嶽神社っていうところに行ってみようと思いま~す。皆さん、大嶽神社って知ってますか?」
『知らない』『聞いたこと無いなぁ』『心霊スポットなん?』
メルの配信の視聴者は心霊スポットに詳しい者も多いのだが、それでも大嶽神社を知っているというコメントは少なかった。
「やっぱり大嶽神社を知ってる人は少ないみたいですね~……メルの予想通りです」
『予想通りって何?』『なんか事情があるとか?』『もしかして知ったらアウト系の怪談?』
「実はですね……この大嶽神社って言う場所は、言うほど心霊スポットじゃないんです」
『何言ってんだお前』『言うほど心霊スポットじゃないって何?』
「メルネットで、大嶽神社で幽霊を見たっていう書き込みを見つけたんです。それで『あっ、次の配信はここにしよう』って思ったんですけど、探してみたら大嶽神社の幽霊の情報はメルが最初に見つけたその1つしか無くて。だから大嶽神社は言うほど心霊スポットじゃないですし、何なら全然ガセの可能性もあります」
『行くなそんな場所』『ガセかもしれない心霊スポットに配信で行く勇気何なの』『もっとちゃんとした心霊スポット行きなよ』
「仕方ないじゃないですか!37回も心霊スポット探訪やってたらもうネタが無いんですよ!」
『うわ開き直った』『逆ギレやめろ』
「という訳で今日はガセかもしれなくても大嶽神社で幽霊探します!はい決定!決まり!」
『勢いで押し切ろうとすな』『まあメルがいいならそれでいいけど』『私はメルちゃんが見れれば何でもいいよ!』
メルはこれまでかなりの頻度で心霊スポット探訪を配信してきたが、そもそも心霊スポットというのはそこら中にあるようなものではない。
コンスタントに心霊スポット探訪を続けていくためには、今回のように信憑性の欠片も無いネットの書き込みにも頼っていかなければならないのだ。
「はぁ~……コンビニと同じくらい心霊スポットも沢山あればいいのになぁ……」
『あってたまるか』『コンビニ感覚で心霊スポットあったらそれはもう幽霊の国だよ』
メルが夢物語のような願望を呟いていると、ここで興味深いコメントが書き込まれた。
『大嶽神社ってこないだニュースになってなかった?』
「あっ、そう言えばちょっと話題になってましたね。未確認飛行物体が落ちてきたって」
視聴者の言うニュースにはメルも目を通していた。
数日前の深夜、夜空の彼方から光り輝く謎の物体が飛来し、大嶽神社の周辺に落下したという内容だ。
その様子が偶然撮影された映像はネットの一部で話題となり、隕石説やUFO説など様々な憶測が飛び交った。
「でも大嶽神社の周りを調べても、それっぽいものは全然見つからなかったんですよね。だから隕石にしろUFOにしろ、地上に届く前に燃え尽きたんだろうっていう結論になったって聞きました」
『そんなニュースあったんだ』『そういやチラッとその動画見かけた気がする』『なんかフェイクっぽい動画だったよな』
「もしかしたらですけど今日の心霊スポット探訪で、幽霊じゃなくて隕石とかUFOとかが見つかっちゃうかもですね!」
『だったらいいね』『そういやメルの配信って幽霊は出てくるけど宇宙人とかは出てきたこと無いよな』『出てきたこと無いのが普通だろ』『むしろ幽霊がコンスタントに出てくるのがおかしい』
「じゃあ幽霊と隕石とUFOを探しに、早速大嶽神社に向かいましょう!」
『欲張りセット』『オカルトお子様ランチ』
メルが向かった先にあるのは色褪せた鳥居と、見ただけで疲れてくるほど長い急勾配の石段だ。
「皆さん、あれが大嶽神社です」
『うわぁ』『今からあれ登るの?』『想像しただけで嫌になるな』
「大嶽神社の本体は山の上の方にあるので、てきぱき登っていきますね~」
『神社の本殿のこと本体って言うな』
メルはトンと地面を蹴ると、重力の軛から解き放たれたかのような軽やかな動きで石段を登っていく。
「大嶽神社、この石段のせいで参拝にくるお客さんが少ないらしいんですよ。ネットの口コミにも、『石段が辛すぎるのでオススメしません』って書いてありましたもん」
『メルには関係ない話だな』『俺が平地を走るよりもメルが階段登る速度の方が速いまである』『登るってか滑ってね?』『階段を上方向に滑るってどうやるんだよ』
するすると急勾配の石段を駆け上がること数十秒。
数百段はあるであろう石段を登り切ったメルは、息の1つも切らしていなかった。
「あっ!皆さん、本体ありましたよ!」
『だから本殿を本体って呼ぶなって』『前はそんな呼び方してなかったじゃん』
メルが指差した先には、小ぢんまりとした本殿らしき建物があった。
建物は老朽化がかなり進んでおり、軽く小突いただけで崩れてしまいそうな印象を受ける。
メルは建物に近付き、賽銭箱に小銭を投げ入れて両手を合わせた。
「ん~……幽霊が出てきそうな雰囲気ではありますね~……」
一応のお参りを済ませたメルは、改めて境内をぐるりと見回し、そう感想を述べた。
長らく人の手が入っていないのか、境内は雑草が伸び放題で、荒廃しているような印象を受ける。
実際に幽霊がいるかはともかく、ホラー映画の撮影には持って来いの雰囲気だ。
「とりあえず境内を1周してみましょうか」
メルは生い茂る雑草を踏み潰しながら、大嶽神社の境内を歩き始める。
「あれ?」
本殿の裏手に回ったメルは、そこで気になるものを発見した。
「これ……道ですよね?」
背の高い雑草を掻き分けると、木々の隙間に人1人が通れそうな隙間を発見した。
それは確かに道と言われれば道のように見えなくもないが、樹木の配置によってたまたま道のような隙間ができたという風にも見えた。
『ただの隙間じゃね?』『道だね』『道ではないでしょ』『道かなぁ?』
視聴者達の間でも、それが道であるか否かについては意見が割れている。
「メル、ちょっと入ってみますね」
『大丈夫?』『危ないんじゃない?』『遭難したらどうするんだよ』
メルが道らしき隙間に進もうとすると、視聴者からは遭難を懸念する声が上がる。
夜間に碌な光源もない山の中で、道かも分からないような場所へ入ろうとしているのだ。遭難の心配をされて当然である。
「大丈夫です。メル昨日まで修行パートやってましたから。遭難しちゃったとしてもどうとでもなります」
『だから修行パートって何してたんだよ』『サバイバルの修行でもしてたの?』
「そういうことなので、皆さんも遭難の心配はしないでくださいね」
『どういうことだよ』
謎の宣言をしながら、いよいよメルが道らしき隙間に足を踏み入れる。
「あっ、やっぱりこれ道ですよ。地面ちょっと硬くなってますもん」
いざ歩いてみると地面は殊の外踏み固められており、以前はそれなりに往来があったように思われた。
もっとも、往来していたのが人か獣か、はたまたそのどちらでもないものかは分からないが。
「それにしても暗いですね……」
その道は生い茂る木々に阻まれて月明かりが届かず、大嶽神社の境内よりも更に暗い。
「これはちょっと配信向きじゃないかも……」
メルは夜目が利くので視界の確保ができているが、カメラの向こうの視聴者はそうはいかない。
一応サクラが懐中電灯で周囲を照らしてはいるが、それでも視聴者にはほとんど暗闇しか見えていないだろう。
「どうしましょう……歌とか歌いますか?」
『いいよそんなことしなくて』『危ないから気を散らすな』『でもメルちゃんの歌ちょっと聞いてみたいかも』『メルって歌上手いの?』
「じゃあちょっと歌ってみますね」
メルは若者の間で流行っている女性歌手のラブソングをワンフレーズ歌った。
『うん……』『俺は好き』『下手ではない』『反応に困る』『クラスのちょっと歌上手い子って感じ』
「……やめましょうか、歌は」
視聴者の反応が微妙だったので、メルは歌で場を繋ぐという案を却下した。
「……あら?」
メルが歌を歌った直後、ガサガサと草木が擦れ合うような音が聞こえた。
「風……じゃないですね。メルの歌に誘われて熊でも来たんでしょうか」
『本当に熊が来たと思ってるならもっと焦れ』『熊が怖くないんか?』
「熊は怖くないですよ~、だって殺せますもん」
『ヒエッ』『すげぇ怖いこと言ってる』『殺せるから怖くないという謎理論』『でもメルって前からそうだよな』
ガサガサと何かが動く音は、徐々にメルの下へと近付いてくる。
「待雪さん」
「はいっ」
メルは小声で待雪を呼び、右手に刀を携えた。
直後、ガサッ!と一際大きな物音と共に、近くの茂みから何かがメルの目の前に飛び出してくる。
「……何ですか、これ」
現れたものを一瞥し、メルは首を傾げる。
それは一言で言うなら、上半身が鹿で下半身が人間の怪物だった。
肌は青く、無数に枝分かれした頭部の角は珊瑚のような質感だ。細く吊り上がった両目は不気味な淡い光を放ち、真っ直ぐにメルを見据えている。
「とりあえず、熊ではなさそうですね」
『せやね』『そうだね』『間違いないね』
異形の怪物の視線を受けても、メルは暢気なものだった。
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