第33回桜庭メルの心霊スポット探訪:猪狩塚古墳 前編
「皆さんこんばんは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す」
『こんばんは~』『メルちゃんこんばんは!!』『待ってた』『ねむい』
「心霊スポット探訪、今日は第33回目をやっていこうと思うんですけど……その前に」
配信開始早々、メルはカメラに対し腰を折って頭を下げる。
「前回は放送事故やっちゃってごめんなさい」
『いいよ』『全然怒ってないよ』『謝罪動画の深夜テンションが面白かったから許すよ』
「いや~……久し振りにやっちゃいましたね、放送事故」
『まあ心霊系の配信で心霊現象起きて配信止まっちゃうのはしゃーないよ』『こっちもそういうこともあると思って見てるし』
前回の心霊スポット探訪にて、序盤で配信が強制終了してしまうというトラブルをやらかしてしまったメル。そのことについて謝罪すると、視聴者からは概ね温かいコメントが返ってきた。
「わ~……視聴者さん達優しい……」
『せやろ』『優しいだろ』『俺達のこと大事にしろよ』
「そういうこと言わなきゃ素直にそう思えるんですけどね……」
ともあれ大半の視聴者からの許しを得ることができたため、放送事故の話はここまでとした。
「さて、気を取り直して今回の話をしましょ」
『今日はゲストいないの?』
「今日はね~……みんなに声掛けてみたんですけど、みんな都合が合わなかったんです……」
『あら』『残念』『寂しいね』
「寂しい……」
肩を落として涙目になるメル。案外寂しがりだったりするのだ。
「……でも、予定が合わなかったのは仕方ないですから。気を取り直して、今回もまた視聴者さんからのリクエストにお応えしていこうと思います!」
メルはポケットから四つ折りのコピー用紙を取り出し、カメラに向かって掲げて見せる。
「読みますね。
桜庭メルさん、いつも配信楽しく見させていただいています。
早速本題に入らせていただきますが、メルさんは猪狩塚古墳をご存じでしょうか?
20年前に小学生の男の子が失踪する事件があり、一時期かなり話題になった場所です。
事件が起きた当時は多くのマスコミや野次馬が押し寄せた猪狩塚古墳ですが、事件から20年が経った今ではすっかり寂れてしまっています。
私は通勤時に古墳の近くを通るのですが、そうでなければきっとそこに古墳があることすら忘れてしまっていたと思います。
ですがここ最近、古墳で妙なものを見かけるようになりました。
夜仕事が終わった後に古墳の近くを通りかかると、時々古墳の上に白い人影のようなものが見えるのです。
古墳の上には小さな神社があるので、最初はそこに参拝している人がいるのかと思いました。ですが神社に参拝するには遅い時間ですし、人影はゆらゆらと体を揺らしているだけで参拝しているようには見えません。
最初は変だなと思う程度だったのですが、何度も見かけている内にだんだん怖くなってきました。
恥ずかしながら私はとても怖がりなので、もしあの人影が幽霊だったらと思うと、怖くて夜も眠れません。
メルさん、どうか私の代わりに、あの人影の正体を突き止めてください。
よろしくお願いいたします。
……とのことですね~」
リクエストを読み終え、メルはコピー用紙をポケットに戻す。
「……とても怖がりな人がいつも楽しく見られる心霊系ストリーマーって何ですか?」
『草』『ものすごく矛盾した文章』『パラドックス』
「えっ、メルって心霊系ストリーマーですよね?」
『アイデンティティ揺らいでて草』『でもメルのこと心霊系ストリーマーって言ってるのメルだけだからなぁ』『俺メルの配信を心霊系だと思ったことは1度も無いよ』
「どうしてこんなことに……」
『あんたが強すぎるからだよ』
メルが心霊系ストリーマーか否かという今更過ぎる議論は置いておいて、肝心なのはリクエストの内容である。
「ところでこの猪狩塚古墳って、なんかSNSで話題になってませんでした?」
『なってたなってた』『20年前の失踪事件をまとめた動画が拡散されてたな』『ここ何日かで急にだよな』『なんで拡散されてるんだろうなあれ』
「まあ、SNSなんて何が流行るか分からないですからね~。一応メルも、その失踪事件について軽く調べてみたんですけど……」
メルはポケットから、リクエストの文章を印刷したものとはまた別のコピー用紙を取り出した。
『コピー用紙何枚あるんだよ』『せめてクリアファイルとかに入れて持ち歩け』
「え~っと……行方不明になったのは成川大将くん10歳。大将くんはご両親と一緒に、当時猪狩塚古墳に併設されていた考古博物館に遊びに来ていました。博物館で開催されていた勾玉作りイベントに参加した大将くんは、そこで偶然小学校の同級生と出会い、イベント終了後に古墳の周りで鬼ごっこを始めました。当時の猪狩塚古墳は公園みたいな扱いだったそうですね」
『めっちゃいい休日じゃん』『休みの日に遊びに行った先で偶然友達に会うのめっちゃ嬉しいよなぁ』
「大将くんのご両親はお友達のご両親と一緒に、古墳の近くのベンチで休んでいたそうです。そして鬼ごっこが始まってから15分くらい経った頃、お友達が1人でご両親のいるベンチに戻ってきて、『大将がいなくなった』と報告しました。ご両親は最初、大将くんがお友達を驚かせるために隠れているだけだと考えましたが、どれだけ探しても大将くんは見つかりませんでした」
『うわぁ……』『両親も可哀想だけど友達も可哀想だなこれ』
「その後ご両親は警察に捜索願を提出し、警察は誘拐の線も視野に入れて懸命に捜索しましたが、今日にいたるまで大将くんは見つかっていません……と、これが20年前の失踪事件のあらすじですね~」
事件の概要を読み終え、メルは視線をコピー用紙からカメラに移す。
「リクエストをくれた視聴者さんも言ってましたけど、当時は警察の人とかマスコミの人とか、あとは捜索ボランティアの人達とかで、かなり人が多かったみたいですね~」
『なんか当時見たニュースの記憶がおぼろげにあるわ』『小学校でも話題になってたよな』『全校集会開いて注意された気がする』
「もしホントに猪狩塚古墳に幽霊が出るとしたら、やっぱりこの失踪事件が関係してる……とは、思いたくないですね……」
『失踪した子の生死も分かってないって話だしなぁ』『ちょっと不謹慎になっちゃうね』
「もしかしたら今回、ちょっとセンシティブな配信になっちゃうかもですけど……でもメルが調べるのはあくまで、夜の猪狩塚古墳に現れる謎の人影の正体ですから!という訳でこちら!」
メルはそう言って、背後にある大きく盛り上がった地面を示す。
「猪狩塚古墳にやってきました~!早速登っていこうと思います!」
『勝手に登っていいの?』
「なんか24時間いつでも無料で入っていいみたいですよ。行政のホームページに書いてありました」
『メルの口から行政って聞くのなんか変な気分』『メルにも行政って概念あったんだ……』
「ありますよそりゃ。メルのことなんだと思ってるんですか」
『超法規的女』
「超法規的女!?」
古墳の側面にはきちんとした階段が整備されていた。上には小さな神社もあるということなので、初めから古墳に上ることが想定されているのだろう。
比較的勾配のキツいその階段を、メルはすいすいと上り始めた。
「昔は古墳の隣に考古博物館があったそうですけど、今はもう無くなっちゃったんですって。ちょっと残念ですよね~」
『メルって博物館とか好きなの?』
「あんまり行かないですけど、行ったら楽しいですよ」
『ちょっと分かるわその距離感』
猪狩塚古墳はそれなりに規模の大きな古墳だが、それでも上るのに大した労力はかからない。
5分と掛からず、メルは階段を登り切った。
「あっ、あれが例の神社ですね」
猪狩塚古墳はいわゆる前方後円墳で、その円の部分の上に件の神社があった。
神社と言っても、祠のような本殿に鳥居と賽銭箱があるだけの、非常に小ぢんまりした最小単位のような神社だ。
「……って、誰かいません?」
『いるな』『賽銭箱に座ってね?』『罰当たりなぁ』
光源に乏しい上に距離があるため、メルの視力でも詳細までは見えないが、神社の賽銭箱に腰掛けている人影の存在が確認できた。
「あれが幽霊……なんでしょうか?」
『どうだろ』『分からんなぁ』『普通の人間に見えるけど』
「……近付いてみましょうか」
メルは近くを歩いている待雪に、ハンドサインで合図を出す。
「かしこまりました、桜庭様」
メルの合図を受け、待雪はいつでも刀の姿に変化できるよう身構えた。
「……なんかあの人、変な格好してません?」
神社に近付き、賽銭箱に座る人物が詳細に見えるようになったところで、メルは首を傾げた。
その人物は雨合羽のような白いコートのフードを目深に被り、顔には三日月のような切れ長の目だけがデザインされた白い仮面を着けていた。
「とりあえず……幽霊ではないみたいです」
謎の人物を「桜の瞳」で見てみたところ、何色の光も見えなかった。謎の人物は、少なくとも人間ではあるらしい。
「ちょっと、お話聞いてみましょうか……」
『気を付けてね』
メルは慎重な足取りで神社に近付き、小さな鳥居をくぐった。
「あの~……」
足を組んで依然賽銭箱に腰掛けている仮面の人物に、恐る恐る声を掛けるメル。
「……へぇ、あなたがそうなんだ」
仮面の人物が発した声は、女性のもののようにメルには聞こえた。
「驚いたなぁ。まさかあなたみたいな若くて可愛い女の子だったなんて」
「若くて可愛いだなんて、そんな……えへへ」
『照れるな照れるな』『チョロいチョロい』
仮面の人物が賽銭箱から立ち上がり、両手をコートのポケットに突っ込んだまま、照れているメルに近付いてくる。
「あなた、お名前は?」
「あっ、桜庭メルです」
「そ。メルちゃん、悪いんだけど私と一緒に来てもらえる?」
仮面の人物がコートのポケットから右手を引き抜き、その手に握る銃のようなものをメルに突き付けた。
「断ったらどうなるか……言わなくても分かるよね?」
「……ふぅん」
メルはスゥッと剣呑に目を細めた。
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