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第28回桜庭メルの心霊スポット探訪:メルヘン遊園地 後編

前話にて入手できなかったはずの包丁をメルが入手している不具合が確認されましたので修正いたしました

申し訳ありませんでした

 「こんばんは、メル様。今日は月が綺麗な夜ですね」


 夜の闇から滲み出るようにして現れたのは、黒と赤のゴスロリ服に身を包んだ黒髪ツインテールの少女だった。


 「お初にお目にかかります。常夜見家大蔵衆、常夜見(とこよみ)虚魄(こはく)と申します」

 「常夜見……!?」


 少女の名前を聞き、メルは驚きで目を瞠る。

 常夜見という苗字には、メルにとっても今や馴染み深いものだった。


 「……常夜見魅影の妹です」


 燎火はメルにこっそりと耳打ちし、それからメルを庇うように1歩進み出た。


 「怪異使いが何の用ですか?」

 「どいてください、幾世守燎火。あなたには何の用事もありません」


 虚魄は燎火を冷たくあしらい、それからメルと目を合わせる。


 「メル様。私はあなたにいくつかご報告すべきことがあります」

 「は、はぁ……なんでしょう?」


 慣れない様付けに戸惑いつつメルが尋ねると、虚魄は畏まるようにその場に跪いた。


 「まずは最大限の感謝を。愚姉(ぐし)に協力し、御伽星(みかぼし)憂依(うれい)・アタナシアの陰謀を阻止していただき、本当にありがとうございました」

 「ぐし……?」

 「私達常夜見家が今も尚こうしていられるのも、全てあなた様のおかげでございます」

 「そんな大袈裟な……」


 メルは謙遜しているが、実際虚魄の言葉はあながち大袈裟でもない。メルが禍津神を殺していなければ、世界は滅亡していたかもしれないのだから。


 「つきましてはメル様に、我らが常夜見家より僅かばかりではありますがお礼をしたく存じます」

 「そんな、いいですよお礼なんて……」

 「その一環として、メル様には常夜見家の名誉顧問に就任していただきたく」

 「えっ、め、名誉顧問……?」


 思いもよらない話にメルは首を傾げ、その横では燎火が虚魄に食って掛かる。


 「何を言っているんですか!?桜庭さんを名誉顧問として抱え込もうなど……一体何を企んでいるのです?」

 「一々割って入って来ないでください、幾世守燎火。私達常夜見家にメル様を抱え込む意図など毛頭ございません」

 「そんなことが信じられるとでも!?」

 「そもそも神よりも偉大であらせられるメル様を『抱え込む』という発想自体がおこがましいにも程があります。私としてはむしろ常夜見家がメル様に臣下として仕えるべきだと考えているのですが、家の者共はどうにも頭が固く……」

 「メルが神より偉大だなんてそんな……ああでもメル祟り神だったし、あながち間違ってなかったり……?」


 偉大かどうかはともかく、そんじょそこらの神格より余程強かったことは間違いない。


 「それでえっと、虚魄さん?」

 「メル様に名前で呼んでいただけるなんて……!」

 「その、名誉顧問?にメルがなったとして、何かいいことがある感じですか?」

 「俗な話にはなりますが、上納金をお渡しすることができるようになります」

 「お給料がもらえるってことです?」

 「はい。毎月1000万円ほど」

 「ぶっ!?」


 これまでの人生で関わったことの内容な金額を聞かされ、メルは思わず吹き出してしまった。


 「ま、毎月1000万円って……年収億超えちゃうじゃないですか!?」

 「私としては、メル様への上納金としては少なすぎると思うのですが……」

 「年収億超えて少なすぎる訳ないじゃないですか!?金銭感覚どうなってるんですか!?」

 「常夜見家は国立大学の運営費交付金並の収入がありますからね……」


 燎火が遠い目で呟いた。基本的に無償で怪異の討伐を行っている幾世守家の人間が言うと何とも切ない。


 「いかがでしょう、メル様」

 「いかがも何も!受け取れませんよそんな大金!メルみたいなその辺のよく分からないようなストリーマーがいきなりそんな大金手に入れちゃったら、正しいお金の使い方も分からなくてすぐに身の破滅ですよ!」

 「ご心配なく。私達常夜見家が存在する限り、メル様の破産は有り得ません」

 「それもそれで怖いんですけど!?」


 金銭を受け取る受け取らないの問答はしばらく続き、最終的には「この話は後日また改めて……」という玉虫色の幕引きを迎えた。


 「それで、次のお話は何ですか?確かいくつかお話があるって言ってましたよね?」

 「はい。続いては彩女の森に関してです」

 「彩女の森ですか?」


 彩女の森という場所には現在、祟り神となったメルから生まれたメルティーズという7人の怪異が住んでいる。彩女の森に関する話題となれば、メルも関心を抱かずにはいられない。


 「先日彩女の森の一帯を、常夜見家で買い取らせていただきました。これであの森でメルティーズが生活するにあたって、法的な問題は一切発生しません」

 「あっそれすっごく助かります!」


 これまでメルティーズは彩女の森に「勝手に住み付いている」状態だったが、常夜見家が彩女の森を私有地にしてくれたおかげで、大手を振ってメルティーズが森に住めるようになったということだ。


 「ありがとうございます、虚魄さん!」


 メルは思わず虚魄に近付き、虚魄の右手を両手で握る。


 「あっえっやば推しがめっちゃ近いんだけどなにこれってかマジでビジュ神だし手めっちゃ柔らかいし死ぬほどいい匂いするんですけどこんな幸せなことがあっていいのかいやいいはずがない」


 するとそれまで冷静沈着と言った雰囲気だった虚魄が、途端に聞き取れないほどの早口で何かを喋りながら慌てふためき始めた。


 「あっ、ごめんなさい。馴れ馴れしかったですか?」


 メルは虚魄の手を離し、虚魄から少し距離を取る。


 「いえ、ご馳走様でした」

 「何に対してですか……?」


 謎のお礼を言われ、メルは首を傾げた。


 「話を戻しますが、これからは桜庭さんもいつでも彩女の森を訪ねてくださって構いません」

 「ありがとうございます!」

 「それから次のご報告ですが、愚姉より伝言を預かっております」

 「ぐし……?」

 「こちらを」


 虚魄が古びた本を取り出し、メルに手渡す。

 本にはタイトルが書かれていなかった。


 「これは?」

 「『怪異使指南書』。怪異使いになるための道筋が記された、常夜見家に代々伝わる指南書です」

 「なっ……!?」


 横で聞いていた燎火が目を見開いた。


 「えっと……どうしてそんなものをメルに?」

 「愚姉からの伝言です。『桜庭さんも怪異使いになったらいいわ。そうすれば今の人間に戻ってしまった桜庭さんも、また怪異と互角に戦えるようになるもの』」

 「ふざけないでください!」


 燎火が目尻を釣り上げ、メルと虚魄の間に割って入った。


 「桜庭さんには『夷蛭』がありますから、怪異使いになどならなくとも怪異と互角以上に戦えます!それに怪異と戦う力が必要だというのであれば、桜庭さんは怪異使いではなく祓道師になるべきです!」

 「メル様は明らかに『夷蛭』を持て余していらっしゃいます。それにメル様が祓道師になることはできないと、あなた自身もよく分かっているでしょう」

 「っ……」


 虚魄の反論を受け、言葉に詰まる燎火。


 「えっ、なんでメル祓道師になれないんですか?」

 「……祓道には霊力が必要とされるため、祓道師には高い霊力が要求されます。ですが桜庭さんの霊力量は決して多くはないので……」

 「へ~、メルって霊力多くないんですね」


 祟り神だった時は当たり前のように霊力を操っていたメルだが、人間に戻ったことでその辺りの感覚は丸ごと失われてしまった。今のメルには自分に霊力があるのかないのかすら分からない。


 「勿論私共は、メル様が怪異使いになられることを強制するつもりはございません。あくまでも選択肢の1つとして、その指南書を受け取ってはいただけないでしょうか」

 「まあ……受け取るだけなら」

 「桜庭さん……」


 燎火の悲しそうな目に気まずさを覚えながらも、メルは指南書を受け取った。


 「そしてこれが最後なのですが……」


 虚魄が少し気恥ずかしそうに、サインペンと色紙を取り出した。


 「メル様……どうかサインをいただけないでしょうか?」

 「えっ」


 予想外の申し出に、メルは思わず硬直する。


 「サイン……ですか?」

 「はい。僭越ではありますが、私メル様のファンでして……」

 「ホントですか!?わ~嬉しい!」


 メルは虚魄からペンと色紙を受け取り、嬉々としてサインを書き始めた。


 「常夜見虚魄……何を企んでいるのですか?」


 メルがペンを走らせている横で、燎火は虚魄に疑惑の目を向けた。


 「失礼ですね。私はただ純粋にメル様にサインをいただきたいだけです」

 「信じられません。あなたが桜庭さんのファンだなんて……」

 「信じられない!?私がメル様をお慕いするこの気持ちを、あなたは疑うのですか!?」

 「ひっ」


 恐ろしい剣幕で虚魄に詰め寄られ、燎火は小さく悲鳴を零す。


 「私はあなた達幾世守家に何を言われようとかまいませんが……ただ1つ、メル様をお慕いするこの気持ちを疑われることだけは我慢できません。幾世守燎火、今すぐ撤回してください」

 「はい……すみませんでした……」

 『キセモリさん即負けしてて草』『コハクちゃんこっわ』『ガチファン過ぎる』

 「コハクさん。コハクってどういう字ですか?」

 『そんでメルは暢気だなぁ』『すげぇ嬉しそうにサイン書いてる』

 「虚ろに魂魄の魄で虚魄です」

 「コンパクのパク……?」

 「白に鬼と書いて魄です」

 『コハクちゃんの字いかつっ!?』『めちゃめちゃ敵キャラみたいな名前してる』

 「……はい、書けました。どうぞ」

 「わぁ……」


 メルが書き上げたサインを、虚魄はまるで神から王権を賜るかのように恭しく受け取った。


 「ありがとうございます。常夜見家の家宝にいたします」

 「それはなんか常夜見さん……魅影さんが嫌がりそうですね」

 「そこは問題ありません、愚姉の資産を握っているのは私ですから。資産の没収をちらつかせれば、愚姉も嫌とは言わないでしょう」


 虚魄が所属する大蔵衆は、常夜見家の財務を担当している。燎火がメルにそうこっそりと耳打ちした。

 財務の立場を悪用して実姉を脅迫するとは、虚魄もなかなかにいい性格をしている。


 「それではメル様、私はこれで失礼させていただきます。またお目もじ叶いますことを願っております」


 その言葉を最後に虚魄の体はふわりと浮かび上がり、夜空の月に吸い込まれるようにして去っていった。


 「……桜庭さん、怪異使いになんてなりませんよね?」

 「なるつもりはないですよ……今のところは」


 メルは指南書をスカートの中に仕舞いながら苦笑を浮かべた。


 「今のメルはすっかり弱くなっちゃいましたから、怪異使いの力も魅力的ではありますけど。メルが怪異使いになったら、燎火さんも煌羅さんもイヤですよね?」

 「そうですね……私はやはり嫌ですし、煌羅さんに関しては私の10倍以上嫌がると思います」

 「10倍……ともかく、メルはお友達が嫌がるようなことはしません」

 「桜庭さん……」


 表情を綻ばせる燎火に、メルもにっこりと笑い返した。


 「それじゃあそろそろ配信も終わりにしましょうか。燎火さん一緒に最後の挨拶しましょ」

 「いいんですか?」


 メルと燎火は並んでカメラに視線を向ける。


 「という訳で皆さん、第28回心霊スポット探訪はいかがだったでしょうか?また次回、29回目の心霊スポット探訪でお会いしましょう!それじゃあみんな、バイバ~イ!」

 「さようなら~」

 『バイバ~イ』『ばいばい』『またね~』

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ありがとうございます

次回は明日更新します

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― 新着の感想 ―
[一言] また企み系かと思ったけどこの早口は本物のそれですな
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