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第28回桜庭メルの心霊スポット探訪:メルヘン遊園地 前編

 「皆さんこんばんは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す」

 『こんばんは~』『こんばんは』『メルちゃ~ん!!』

 「桜庭メルの心霊スポット探訪、今日は第28回目をやっていこうと思いま~す。わ~、パチパチパチ~」


 夜も更けてきた頃、メルは公園のような場所で配信をスタートした。


 「今日はですね~、ゲストの方に来てもらってます!皆さん、誰だか分かりますか~?」

 『キセモリさんかキララさん』『キララさん前回来てたからキセモリさんかな?』『久々にキセモリさん見たいな』

 「……はい、ゲストの幾世守燎火さんで~す」

 『拗ねるな』『当てられたからって拗ねるな』『当てられて拗ねるくらいなら最初からクイズにするな』『クイズを即答されたら拗ねる癖を何とかしろ』

 「ど、どうも……お久し振りです、幾世守燎火です……」


 メルに呼ばれ、燎火が画面内に登場する。


 「お久し振りです幾世守さん。矢来神社以来ですね」

 「桜庭さん、今日はお招きいただきありがとうございます」

 「1個前の配信で煌羅さんと会ったので、そしたら幾世守さんともお会いしたいな~って思って、今日はお呼びしちゃいました」

 「は、はい……ありがとうございます」

 「……緊張してます?」

 「少し……」


 燎火は相変わらずカメラで撮影されることに慣れていない様子で、声も表情もどことなく固かった。


 「ん~……」


 メルはどうにかして燎火の緊張を解せないものかと、顎に手を当てて考える。


 「……そうだ」


 そしてあることを思いつき、メルはニヤリと悪戯っぽい笑顔を浮かべた。


 「幾世守さん幾世守さん」

 「はいっ。な、なんでしょう?」

 「ふふふっ……てやっ!」


 メルは持ち前の身体能力を遺憾なく発揮し、瞬間移動じみた移動速度で燎火の背後に回り込む。


 「えっ!?えっ!?」

 『はやっ!?』『急に何!?』『忍者じゃん』


 突如目の前からメルが消えたことで、燎火は面食らって慌てている。メルが背後に回り込んでいることにも気付いていない。


 「ふふふっ」


 メルは忍び笑いをしながら、燎火の脇の下に手を差し込む。


 「こちょこちょこちょこちょ~!」

 「いやあああああああああああああああああああっ!?」

 「えっ何!?何!?」


 脇をくすぐった途端に燎火が放った絶叫に、メルは反射的に姿勢を低くして頭を隠した。


 「えっ、ど、どうしました燎火さん?」

 「あっ、ご、ごめんなさい。私くすぐられるのに弱くて……」

 「にしてもでしょ……とんでもない声出てましたよ」

 『ビックリしてお茶こぼしちゃった』『心臓がバクバクいってる』『ジャンプスケアだよこんなん』『甲子園かと思った……』


 メルと燎火との間に、何とも言えない空気が流れる。


 「えっと……ごめんなさい、少しでも幾世守さんの緊張がほぐれればと思ったんですけど……」

 「いえ……こちらこそごめんなさい、大きな声を出してしまって……」

 「幾世守さん。あんなにおっきな声出るんですね……」

 「お恥ずかしいです……」


 ともあれ、燎火の緊張は少しはマシになったように見えた。予期せぬ展開になったとはいえ、メルの当初の目的は果たされたと言える。


 「えっと……そろそろ今日の心霊スポット紹介しますね」


 メルは懐から、四つ折りにされたコピー用紙を取り出した。


 『出たコピー用紙』『うわぁ~久し振り~!!』『コピー用紙の供給助かる』『ちょうど切らしてた』

 「視聴者さんからのリクエスト読みます。


 メルちゃん、いつも楽しく配信見させてもらっています。

 メルちゃんに調べてほしい心霊スポットがあるので、リクエストを送らせてもらいます。


 私の家の近くにメルヘン遊園地という場所があります。遊園地と言ってもジェットコースターや観覧車がある訳ではなく、遊具が沢山設置された公園のような場所です。


 元々あまり利用者が多くはなかったのですが、去年遊園地の中で若い女性の死体が見つかるという事件があり、それ以降は滅多に人が寄り付かなくなってしまいました。


 それ以降、メルヘン遊園地には女性の幽霊が出ると噂されるようになりました。私の友達にも幽霊を見たという子がいます。

 メルヘン遊園地は私の通学路の近くにあるので、幽霊が出るかもしれないと思うととても怖いです。

 メルちゃん、どうかメルヘン遊園地のことを調べてください。よろしくお願いします。


 ……とのことですね~」


 リクエストの文章を読み終え、メルはコピー用紙をポケットに戻す。


 「という訳で、メルはメルヘン遊園地にやってきました~」


 メルの背後には、「メルヘン遊園地」と書かれた老朽化の進んだゲートがある。そのゲートの向こうには、滑り台やジャングルジムなどいくつもの遊具が所狭しと並んでいた。


 「こうして見てみると……視聴者さんの言ってた通り、あんまり遊園地には見えませんね」

 『本当に公園って感じ』『ちょっと名前負けかも』『でも普通の公園よりは遊具多そうだよ』

 「確かに、遊具いっぱいありますね~。ちっちゃい頃のメルなら1日中遊んでたかも」


 一通り中の様子を観察したメルは、燎火の方へと向き直る。


 「幾世守さんは何か知ってませんか?メルヘン遊園地の幽霊のこと」

 「そうですね……少なくとも幾世守家では、そのような情報は聞いていません」

 「あら、残念」

 「幾世守家の調査員は、基本的に危険性の高い怪異の情報を優先的に収集しますから。去年発生したばかりの幽霊で、被害らしい被害も出ていないとなると、まず幾世守家に情報は来ませんね」

 「へ~、そういう感じのシステムなんですね」

 「……常夜見魅影なら、或いは何か知っているかもしれませんが」


 最後に燎火が呟いたその言葉に、メルはぎょっとした。


 「幾世守さんもなんですか……!?」


 前回一緒に配信をした煌羅は、祟り神となったメルに唯一連れ添っていたのが自分ではなく魅影であったことを、酷く気にしている様子だった。

 そして先程の言葉から察するに、煌羅だけでなく燎火も同じことを気にしているらしかった。


 「幾世守さん、メルと手繋ぎませんか?」


 メルは前回煌羅にしたのと同じように、燎火に向かって左手を差し出す。


 「えっ……どうしてですか?」

 「いいじゃないですか、たまには」

 「……そうですね、では」


 燎火は遠慮がちに右手を伸ばし、メルの右手を取った。


 「じゃあ入りましょうか、メルヘン遊園地」

 「そうですね」

 『デートかな?』


 メルと燎火は手を繋いだまま、メルヘン遊園地のゲートをくぐった。


 「……幾世守さん幾世守さん」

 「何でしょう桜庭さん」

 「早速なんかいませんか?」

 「そうですね」


 メルと燎火の前方には、若い女性の姿があった。

 女性はメルと同じようなピンクと黒の服を身に纏い、包丁を片手に園内を彷徨っている。


 『メルのそっくりさんみたいなのがいる』『でも似てるの服だけだな』『メルティーズ見た後だと服が似てるくらいじゃなぁ』『てかなんか血出てね?』

 「なんかメル、あの人にすっごく親近感があるんですけど」

 「確かに桜庭さんと装いは似ていますが……桜庭さんの身だしなみは、もっときちんとされていますよ」


 燎火の言葉は裏を返せば、その女性の身だしなみがきちんとしていないということになる。そしてそれは実際その通りだった。

 女性の髪はぼさぼさで、目は泣き腫らしたように真っ赤に充血している。そして身だしなみ以前の問題として、女性の左手首からは絶えず赤黒い血がぼたぼたと滴り落ちていた。


 「ただならぬ雰囲気……」


 メルは女性が放つ殺伐とした雰囲気に慄きつつ、「桜の瞳」を女性に向ける。

 すると女性は赤い光で縁取られて見えた。


 「あれ、怪異だ。幽霊だと思ったのに……」

 「幽霊が怪異化したようですね。ああなると大抵は生きている人間を襲い始めますから、そうなる前に祓除しておいた方がいいと思います」

 「じゃあ龍石でも使って……ひゃあっ!?」


 不意に女性と目が合い、メルは思わず肩を跳ねさせた。


 「許さない……私がこんなに苦しんだのに、どうしてあなた達はそんなに幸せそうなの……!?」


 メルと燎火が繋いだ手を、女性が憎々し気に睨み付ける。


 「幸せそうって……手繋いでるだけじゃないですか」

 「何かトラウマがあるのでしょうか……念のため、祓器を召喚しておきます」


 燎火がメルから手を離し、胸元からネックレスを引っ張り出そうとする。


 「私の苦しみを、あんた達も味わえ……!」


 しかし燎火がペンダントトップを掴むよりも先に、女性の血走った両目が不気味なピンク色の光を放った。


 「っ……」


 その光を目にした瞬間、燎火が体を硬直させる。


 「き、幾世守さん……?」


 嫌な予感を覚えたメルが燎火の様子を窺うと、燎火の瞳がピンク色に光った。


 「……どうして」

 「え?」

 「どうして私は『幾世守さん』で、煌羅さんのことは『煌羅さん』って呼ぶんですか?」

 「えっ、と……メルがですか?」

 「会ったのは煌羅さんよりも私の方が先なのに、どうして煌羅さんのことは名前で呼んで、私のことは苗字なんですか?」


 明らかに燎火の様子がおかしい。メルは気圧されるように後退る。


 「それは……えっと、メルは基本的にみんな名字で呼ぶんです。でも幾世守さんも煌羅さんも同じ『幾世守』じゃないですか。だから会ったのが後の煌羅さんのことは、幾世守さんと区別するために下の名前で……」

 「そうやって!!私のことは苗字でしか呼んでくれないっ!!」

 「ひゃあ!?」


 突然燎火が駄々っ子のように腕を振り回した。


 「私が1番最初に桜庭さんと会ったのに、煌羅さんの方が桜庭さんと親しくて、常夜見魅影の方が私よりも信頼されてる!!」

 「いや……常夜見さんのことは全然信頼してないですけど……」

 「桜庭さんと最初に会ったのは私なのに!!」

 「ひゃああっ!?」


 取り乱している、などというレベルではない。燎火は最早正気を失っていた。


 『キセモリさんどうしたの……?』『なんかヤバくね?』『いつものキセモリさんと違う……』


 コメント欄もただならぬ燎火の様子に対する不安が見え始めている。


 「き、幾世守さん。1回落ち着いて……」

 「……もういいです」


 突然全ての感情が抜け落ちたかのように、燎火の顔から一切の表情が消失した。

 かと思うと、般若のような恐ろしい怒りの形相を浮かべる。


 「そんなに私よりも煌羅さんや常夜見魅影の方が大事なら……煌羅さんも!常夜見魅影も!そして桜庭さんもっ!!みんなみんな、殺してやる!!」

 「なんでぇ!?」


 激昂した燎火が、ネックレスの炎を模ったペンダントトップを握り締める。


 「祓器召喚!!」


 すると燎火の両腕に白い光が集まり、ガントレット型の祓器、『白魚』が召喚された。

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ありがとうございます

次回は明日更新します

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[気になる点] スマホ2台持ちになったのでは…?>コピー用紙 まぁメルちゃん天然だしなぁ
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