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第27回桜庭メルの心霊スポット探訪:見晴らし温泉 前編

本日2話投稿しております

こちらは2話目です

 「皆さんこんにちは、心霊系ストリーマーの桜庭メルで~す」

 『あれ成層圏じゃない!?』『地上だ!?』

 「桜庭メルの心霊スポット探訪、今日は第27回をやっていこうと思いま~す」

 『心霊スポット探訪再開すんの!?』『再開めっちゃ嬉しい!!』『心霊スポット探訪久々じゃない?』

 「ね~、久しぶりですよね~心霊スポット探訪。変な時期に入っちゃって全然やれてなかったですから」

 『このところメルの配信見れてなかったんだけど、変な時期って何かあったの?』

 「ちょっとですね、メルが神様になっちゃってた変な時期があったんですけど」

 『何だその時期』『変な時期過ぎるだろ』

 「なんやかんやあって無事に人間に戻れたので、こうして心霊スポット探訪を再開できることになりました~」

 『なんやかんやって何だよ』『そのなんやかんやが1番気になるところだろうがよ』『俺メル古参勢だから分かるけど多分これ以上なんやかんやの部分について説明されることは無いよ』


 山の麓にひっそりと佇む、古びた自動販売機の側。

 久々の心霊スポット探訪の配信を開始したメルは、スマホのカメラに向かって両手を振る。


 (こうしてメルちゃんを撮影するのも久し振りね)


 メルの声にサクラの声が響く。

 メルが祟り神となっていた間は、メルの代わりに地上でメルのフリをして生活していたサクラ。

 しかしメルが祟り神の力を失い人間に戻ったことで、サクラもまたメルの背後霊的な存在へと逆戻りしていた。


 (ごめんなさいサクラさん。また体が無くなっちゃうことになって……)

 (いいのよ。肉体への未練なんてとうの昔に無くなっているわ。メルちゃんに力を託したあの時から、これが私のあるべき姿なのだもの)


 メルの分身とはいえ、折角得た肉体をまた失う羽目になったサクラ。しかしサクラ自身はそれについて思うことは無い様子だった。


 「早速今日の心霊スポットを紹介したいんですが~……その前に、ちょっとお知らせしておきたいことがあるんです」

 『お知らせ?』『こっちもお知らせしてほしいことはたくさんあるぞ』

 「今のメルって、矢来神社で配信した時と大体同じなんです。神様だった時に持ってた力はほとんど無くなっちゃいましたけど、矢来神社の時にできたことは今でもできます。例えばほら、これ」


 メルは自分の左目、5枚の花弁で構成された桜の印が浮かぶ瞳を指差す。


 「メルのこっちの目は、幽霊と怪異と神様と祟り神を見分けられるんです。これは神様になる前からできたので、今でもできます。ただ空飛んだりとかワープしたりとかはもうできないです」

 『なるほど』『前は空飛んだりワープしたりできたってんだからバカげてるよな』

 「まあ、神様だった時にできたことができなくなっても、メルは別にそこまで困らないんですけど……ただ1つ、ちょっと困っちゃったことがあってですね……」

 『困ったこと?』『何?』


 メルは眉尻を下げて首を傾げ、殊更に困っている風を演出する。


 「メルが配信でよく使ってた包丁あるじゃないですか」

 『あ~ね』『あったね』『冷静に考えて包丁をよく使うストリーマーって何だよ』『料理系ストリーマーかな?』

 「あの殺人トンネルで拾った、なんでも殺せる便利なやつです」

 『もう全部のワードがおかしい』『なんでも殺せて便利っていう発想が怖い』『怖すぎて通報しちゃった』

 「すっごく便利だったんですけど……あの包丁、メルが神様になる時のなんやかんやでなくなっちゃったんですよ」

 『なんやかんやって何だよ』

 「なんやかんやはなんやかんやです」


 軽い口調で話しているメルだが、実際呪いの包丁の喪失は中々の痛手である。


 「メルが今まで幽霊とか怪異とかを殺せたのは、あの包丁のおかげですからね~」

 『じゃあメルもう幽霊殺せないってこと?』『えめっちゃやばいじゃん』

 「一応、他にも幽霊とかを殺す方法はあるにはあるんです。例えばこれとか」


 メルは懐から、親指の爪ほどの大きさの赤い宝石、龍石を取り出した。

 霊力の塊である龍石は、幽霊や怪異に干渉することができる。そのため投擲したり指で弾いたりすることで、幽霊などへの攻撃手段になる。


 「あとはこれとか」


 続いてメルは胸元から、炎を模ったペンダントトップの付いたネックレスを引っ張り出した。

 このネックレスを用いることで召喚できる祓器『夷蛭』は、他者や周囲の環境から霊力を吸収する能力を持つ。霊力の吸収は、幽霊や怪異への有効的な攻撃手段となり得る。


 「でも2つとも、包丁と比べるとちょっと使いづらいところがあって……」


 龍石は攻撃手段としては威力が低い。『夷蛭』は即効性に欠ける。

 狙いを定めて振るうだけで済む包丁と比べると、どちらも使い勝手に難があった。


 『あの包丁無くなったのに心霊スポット探訪して大丈夫?』『幽霊とか出て来たらどうするの?』

 「そうですね~、とりあえずはこの2つで戦ってみて……無理そうだったら逃げる感じでしょうか」

 『危なくない?』『逃げるの?』『メルなんて幽霊殺して飯食ってる人なのに』

 「メルは別に幽霊を殺してご飯食べてる人では無いですね。幽霊を殺してご飯食べてる人っていうのは……」

 「メルちゃぁぁぁぁぁぁん!!」

 「ひゃあビックリした!?」


 噂をすれば影、というべきか。

 聞き覚えのある大きな声。メルがそちらに視線を向けると、道の向こうに猛然と走ってくる人影が見えた。


 「メェェェェルちゃぁぁぁぁぁん!!」


 美しい銀色の髪を靡かせながら自動車のような速度でメルに向かってくるその人物は、メルもよく知る人物であり、そして大方予想通りの人物でもあった。


 「煌羅さん!?えっ、速っ!?絶対祓道使ってるじゃないですか!?」


 幾世守煌羅が、祓道無しでは実現不可能な速度でメルへと迫る。


 「メルちゃん!抱き着いてもいい!?このまま抱き着いてもいいかな!?」

 「えっ、あっ、は、はい!どうぞ!」


 煌羅の唐突な要求に困惑しつつも、メルは腰を落として煌羅を受け止める体勢を取った。


 「メルちゃぁんっ!!」

 「ふぎゅっ!?」


 煌羅の体重はせいぜい50kg前後だが、それでも自動車並みの速度で突っ込んでくれば衝撃はかなりのものだ。メルは思わず珍妙な声を漏らした。


 「メルちゃん久し振り!!会いたかったよぉ~!!」

 「お、お久し振りです……」

 『感動の再開』『キララさん久し振り』


 メルが煌羅と会うのは矢来神社以来のことだ。メルは祟り神になっていた間、知人には会わないようにしていた。


 「煌羅さん、どうしてここに?」

 「メルちゃんがここで配信し始めたから、会いたくなって来ちゃった!」

 「よくここが分かりましたね?メル、まだここがどこか言ってないのに。ああそうだ、メルまだここがどこか言ってなかった……」

 『気付いてくれてよかった』『今日は場所言わないで進行するのかと思った』


 メルは煌羅を抱き留めたまま、顔だけをカメラの方に向ける。


 「今回メルが行く心霊スポットは、見晴らし温泉っていう場所です!山奥にある温泉で、誰でも無料で入れるそうなんですが、心霊現象が起きるって噂があるそうです。その噂がホントかどうか確かめてほしいっていうリクエストが来てました!」


 しばらく心霊スポット探訪をやっていなかったために、今ではそれなりの数のリクエストが溜まっている。しばらくネタ探しに苦しむことはなさそうだった。


 「はぁぁぁ~……メルちゃんの匂いだぁ……」


 メルが視聴者に向けて話している間、煌羅はメルの鎖骨の辺りに顔を埋め、何やら恍惚とした声を漏らしている。


 「ねぇメルちゃん。あの、ちょっとお願いがあるんだけど……」

 「お願い?何ですか?」

 「こんなこと言ったら引かれちゃうかもなんだけど……できれば引かないでほしいなぁ」

 「それは~……まあ、内容によるとは思いますけど」


 一体煌羅は何を言い出すつもりなのかと、メルは思わず身構える。


 「メルちゃん……首筋舐めてもいい!?」

 「なんでぇ!?」


 メルが思いもよらなかった角度のお願いが、煌羅の口から飛び出してきた。


 『草』『久し振りに会ってまずお願いすることが首筋舐めさせてなの狂ってる』『変態過ぎる』『変な笑い声出たわ』『変態すぎてキララさん推せる』

 「えっ、な……なんで首筋舐めたいんですか……?」

 「お願い!ひと舐めでいいから!」

 「ひと舐めなら……まあ?」

 『いいの!?』『ひと舐めならいいの!?』『いいんだ!?』

 「まあ……煌羅さんはお友達ですし、ひと舐めくらいなら……?」

 『当り前みたいに言ってるけどひと舐めって数え方何なんだよ』


 言うまでも無いことだが、「舐め」は数詞ではない。


 「ほ……本当にいいの……!?」


 煌羅も驚いた様子で目を見開いている。自分から言い出しておきながら、要求が通るとは思っていなかったらしい。


 「はい……どうぞ?」


 勝手が分からず戸惑いながらも、メルは煌羅に向かって首筋を差し出す。


 「じゃ、じゃあ……えっと、お点前頂戴いたします……」

 『挨拶それで合ってんのか?』


 煌羅がメルの首筋に顔を近付け、ピンク色の舌を下から上へとゆっくりと這わせる。


 「えっと……美味しいですか?」

 『何だその質問』

 「……そんな訳ないだろって言われるかもしれないけど、すっっっごく美味しい……!」

 『そんな訳ないだろ』『そんな訳ないだろ』『そんなワケないだろ』

 「何だろう、なんか、甘い……?すっごく高級な生クリームみたいな味!」

 『そんな訳ないだろ』『そんな訳ないだろ』

 「生クリーム……?ホントですか……?」


 煌羅の論評を受け、メルは恐る恐る自らの右手の甲をペロリと舐める。


 「……しょっぱい」

 『そりゃそう』『当たり前』『人体が生クリームの味でたまるか』

 「え~?ホントに美味しかったよ?すっごく上品な甘さだった!」


 煌羅が嘘を吐いているようには見えない。しかしメルの舌は煌羅の言う甘味を感じていない。


 「何でしょう?メルの首だけ甘いとか、そういうことでしょうか……?」

 『そんな訳ないだろ』『絶対キララさんが変なんだって』

 「煌羅さん、試しにここも舐めてみてもらえますか?」


 メルは右手の甲、自分が舐めたのと同じ場所を指し示す。


 「えっ……いいの?」

 「はい。そうすればメルが首だけ甘いのかどうかが分かりますから」


 煌羅がメルの手を舐めて甘く感じなければ、メルは首筋だけ生クリームの味がするという説が濃厚になる。逆に煌羅がメルの手からも甘味を感じるのであれば、それはもう煌羅が変だ。


 「じゃあ……お点前頂戴いたします……」

 『絶対それ言うのなんなの?』


 煌羅がメルの右手を取り、口付けをするように手の甲をひと舐めする。


 「……うん、やっぱり甘い。こっちはマシュマロみたいな味がする」

 「なんで!?」

 『なんで!?』『場所によって甘味の系統が違うってこと?』『そんな訳ないだろ』『そんな訳ないだろ過ぎる』

 「まあ……どうして生クリームだったりマシュマロだったりするのかはともかくとして、やっぱり甘く感じるのは煌羅さんだけってことですね」

 「え~?絶対甘いと思うんだけどなぁ……?」

 「……あれ、これ今なんの時間でしたっけ」

 『ほんとだよ』『俺らずっと何見せられてんの?』『何って……美少女が美少女の体を舐めてる場面だろ』『そう聞くと上等なもの見てる気がしてくるな』


 心霊スポットを訪ねる配信のはずが、いつの間にやらメルの体の味を検証する企画になりかけていた。

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ありがとうございます

明日からはまた1話ずつの投稿する予定です

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