裏作業:洛奈落 後編
本日2話投稿しております
こちらは2話目です
「メルティ・クレセントォッ!!」
禍津神の高度まで辿り着いたメルは、挨拶代わりに禍津神の首元へと必殺の回し蹴りを叩き込んだ。
「ギャオオオオオオッ!?」
一撃で首の9割近くが切断され、禍津神が悲鳴を上げる。
並の怪異や祟り神であったなら、この一撃で決着がついていたことだろう。
だが相手は最強の怪異たる禍津神。どう見ても致命傷なはずの首筋の傷は、みるみるくっついて塞がっていく。
「やっぱり、そんな簡単な話じゃないですよね~」
「ギャオオオオッ!!」
傷が完治した禍津神は、血走った目でメルを睨みつけて怒りの咆哮を上げる。全長50mを超える巨体から放たれる咆哮は、それだけで空間をビリビリと震わせた。
更に禍津神の巨体からは、常に反霊力の粒子が放出されている。粒子を回避することは今のメルにも困難で、それはつまり何の対策もせずに禍津神に近付けば、それだけで消滅してしまうことを意味していた。
「とりあえず炎、っと……」
メルは反霊力の粒子から身を守るために、紫色の炎を全身に纏った。
禍津神が顎を大きく開き、喉の奥が不穏な光を放ち始める。どうやらメルに攻撃を仕掛けるつもりらしい。
「ドラゴンさんのお手並み拝見ですね」
メルは禍津神に対して油断なく構えた。
「ギャオオオオッ!!」
禍津神の口から、反霊力の光線が放射される。それは魅影の『神解雷螺』が爪楊枝に思えるような、桁違いの規模を誇る破壊光線だ。
地上に直撃すれば街が複数纏めて消し飛ぶであろう威力。しかしそれを前にしても、メルは余裕の態度を崩さなかった。
「視聴者は1人もいませんけど。メルの新技、お披露目しちゃいますよ!」
迫り来る破壊光線に向けて、メルは右手を翳す。
「メルティエール・オニキス!」
瞬間、メルの体が天体を思わせるような黒い球体の外殻に覆われる。
「『アルティメナス』!!」
球体の内側で爆発が起きたように外殻が弾け跳ぶと、そこには黒い星雲のような翼を背負うメルの姿があった。
「アサルトリパルサー!」
禍津神が放った破壊光線が、メルの目の前でピタリと停止する。
「ふんにゅにゅにゅにゅ……にゅわぁっ!!」
そしてメルが奇妙奇天烈な気合の声と共に腕を振るうと、腕の動きに合わせて破壊光線の軌道が変化し、遥か上空へと飛び去って行った。
「ギャオオ……」
禍津神は人語を発さないが、それでも驚きの感情は伝わってきた。
「ふふん。どうですか?これがメルの新技、メルティエールです!」
メルティエール。それは一言で言えば、メルティーズの能力を再現する能力である。
以前は『祟鏡』という名称だったのだが、「メルティーズの能力を使うのに『祟鏡』だと可愛くない」という理由で、メルが新たにメルティエールという名称を与えた。
先程のメルはオニキスの能力を再現し、禍津神の破壊光線を斥力によって弾き飛ばして見せた。
「どんどん行きますよ!メルティエール・クローラ!」
続いてメルがクローラの能力を出力すると、どこからともなく現れた水流がメルの体を覆い隠した。
同時に遥か眼下に広がる地上から、何千何万もの青白い光がメルに向かって上昇してくる。それらの光の正体は、地上を彷徨う幽霊の魂だ。
メルの下へと集結した幽霊の魂が、次々とメルを包む水流へと飛び込んでいく。
「『ペイルレギオン』!」
そして水流の中から、左右非対称の翼を背負ったメルが現れた。向かって左が水の翼、右がボロ布のような青白い翼だ。
「ド派手に行きますよ!マレフィックブラスター!!」
メルは自らの下に集った数万もの幽霊の魂を全て攻撃力へと転化し、網膜を焼き尽くすほど眩く輝く青白い光線を放つ。
「ギャオオオオッ!」
禍津神もそれに呼応するように大顎を開き、破壊光線を放った。
青白いマレフィックブラスターと真紅の破壊光線が衝突し、発生した衝撃波によって空間が激しく震える。
2つの光線はほんの数秒拮抗し、そして押し合いを制したのはマレフィックブラスターだった。
反霊力を掻き消しながら突き進んだマレフィックブラスターが、その勢いそのままに禍津神の上顎を貫く。
「ギャオオオオッ!?」
頭部に大穴が開いた苦痛に、禍津神の巨体が激しくのたうつ。
「まだまだぁ!メルティエール・クリメイト!」
続け様にメルはクリメイトの能力を再現する。
「『マグマフォース』!」
マグマのようにドロリとした赤いオーラがメルの体を包み込み、1対の大きな翼を形作る。
「ヴォルカニック……」
メルの全身から夥しい量の炎が噴出し、不死鳥のような姿を形作る。
「メテオ……」
メルが禍津神目掛けて飛翔すると、その身に纏う炎が彗星のように尾を引いた。
「ストライィィィクッ!!」
灼熱の隕石と化したメルが、禍津神の胴体を貫通した。
「ギャオオオオオオッ!?」
メルが纏っていた炎が内側から肉体を燃やし、その苦痛に禍津神が更なる悲鳴を上げる。
しかしそこは最強の怪異、ただやられるばかりではない。
メルの攻撃によって禍津神の体から剥離した100枚以上の鱗が、全て人間ほどの大きさの翼竜へと姿を変えた。
「鱗が鳥になった……!」
翼竜達は甲高い鳴き声を上げながら、一斉にメルへと襲い掛かる。
「メルティエール・スプリット!」
自らへと迫る翼竜の群れを前に、メルはスプリットの能力を出力した。
「『ユビキタスゲイル』!」
メルの背中に戦闘機のような翼が出現する。
「何百匹で来ようと、メルには掠りもしませんよ!」
かつてメルの動体視力でも捉えることのできなかった『ユビキタスゲイル』の速度を以て、メルは100を超える翼竜達の突進を全て掻い潜る。
そうして一旦禍津神と翼竜の群れから大きく距離を取ったところで、メルはまた新たなメルティエールを発動した。
「メルティエール・ファンファーレ!」
ファンファーレの能力を再現したメルの背中に、アゲハチョウの様な形状の白い翅が形成される。
「『ホワイトフィアー』!」
そしてその白い翅に、ギョロリと無数の目玉が浮かび上がった。
「フィアーレイ!」
翅の目玉から一斉にビームが照射される。
禍津神と翼竜の群れを狙って放たれたそれらの光線は、1つ残らず目標へと命中した。
「ギャオオオオッ!!」
「やっぱり禍津神には効かないですか……」
命中した対象に呼吸もままならないほどの絶大な恐怖をもたらすフィアーレイだが、残念ながら禍津神には効果がない様子だった。
だが禍津神にフィアーレイが通用しないことは、メルも何となく予想していた。
「でも、鳥の方には効果てきめんですね!」
禍津神には効かなかったフィアーレイも、翼竜達には十全の効果を発揮していた。
フィアーレイを浴びた翼竜達は激しい恐慌状態に陥っており、翼竜同士で同士討ちを始めている。この分ではメルが直接手を下さずとも、遠からず翼竜の群れは壊滅するだろう。
「ギャオオオオオオオッ!!」
フィアーレイが神経を逆撫でしたのか、激昂した禍津神がメルへと破壊光線を放つ。
「メルティエール・オニキス!アサルトリパルサー!ふんにゅりゃあああっ!!」
メルは即座にオニキスの能力を再現し、斥力によって破壊光線を遥か彼方へと投げ飛ばした。
「メルティエール・アンライプ!」
破壊光線の直後で禍津神が硬直している隙に、メルが次なるメルティエールを発動する。
「『オーロラグレイス』!」
メルの背中に刺々しい氷の翼が出現し、メルの体から冷気が吹き荒れた。
「サイレントワールド!」
メルが翳した右手から放たれた極寒の吹雪が、禍津神の巨体を包み込む。
「ギッ……ァ……」
禍津神の体表が凍り付き、その身動きを封じる。
「そろそろ大詰めですよ!メルティエール・テクトニクス!」
メルがテクトニクスの能力を出力すると、メルの全身が無数の菱形の煌めきによって覆い隠された。
「『エンブリリアンス』!」
煌めきの中から現れたメルの背中には、虹色の宝石でできた大きな環があった。
「このところはずっと素手で戦ってましたけど、そろそろ包丁が恋しいんですよね~……という訳で、ダイヤモンドカリバー!」
メルが右手を掲げると、その手の中に宝石製の包丁が出現する。
「……あれ?」
自らが生成した包丁を一目見て、メルは小さく首を傾げる。
「明らかにダイヤモンドじゃない……」
ダイヤモンドカリバーと叫んだ通り、メルはダイヤモンド製の包丁を生成したつもりだった。しかし実際に生成されたのは、虹色の輝きを放つ宝石の刀身だった。
「……まあ、いっか」
考えても分からないので、メルは細かいことは気にしないことにした。
「メルティエール・スプリット!『ユビキタスゲイル』!」
メルは再びスプリットの最強形態へと変身し、メルティーズ最速の機動力を獲得する。
「ギャオオオオオオオッ!!」
凍結による拘束を打ち破った禍津神が、反霊力の光線を放射する。
その光線はこれまでの破壊光線とは異なり、途中で無数に分裂して反霊力の弾幕を形成した。
分裂させたことで一撃一撃の威力は著しく低下するが、そもそも反霊力は触れただけでも命に係わるような代物だ。1対1の戦いにおいて威力の低減はさして問題にならず、むしろ攻撃範囲が大幅に拡大したことで脅威は増している。
「数を増やしても無駄ですよ!」
しかしそれは、相手がメルでなければの話だ。
『ユビキタスゲイル』の機動力を十二分に発揮し、メルは何万もの反霊力の弾幕をすり抜けるように掻い潜る。
メルは一撃たりとも被弾することなく、あっという間に禍津神の眼前にまで肉薄した。
「ギャオオオッ!!」
人間が蚊を叩き潰そうとするように、禍津神がメルへと腕を振り振り上げる。
全長が50mを超える巨体なだけあって、腕だけでも巨木の如き威容を誇っている。その腕が生み出す破壊力は計り知れない。
だが。
「遅いですっ!」
メルは更に加速し、禍津神が腕を振り下ろすよりも先に禍津神の背中側へと回り込んだ。
そしてメルは虹色の輝きを放つ包丁に、紫色の呪いの炎を纏わせる。刀身に圧縮された炎によって、周囲の空間が歪んで見えた。
「てやあああっ!!」
渾身の気合を込めて、メルが包丁を振り下ろす。
「ギャオオオオオッ!?」
超高密度の呪いの炎を纏った包丁は空間すらも切り裂き、禍津神の首を刎ね飛ばした。
「てやっ!てやっ!てやっ!てやぁっ!」
しかしメルはまだ攻撃の手を緩めない。何回、何十回、何百回と包丁を振るい、禍津神の巨体を入念に斬りつけていく。
「……ふぅ。流石にここまでやれば大丈夫でしょ」
ようやくメルが手を止めた時、禍津神の肉体は既に原形を留めていなかった。それは最早禍津神などではなく、宙に浮かぶ無数の赤い肉片でしかなかった。
そしてそれらの肉片も、塵となって風に吹かれて消えていく。
最強の怪異として生み出された禍津神は、あっけなくその短すぎる生涯に幕を閉じた。
「驚いたわね」
「わぁビックリしたぁ!」
突然背後から声を掛けられ、メルは大袈裟な動きで振り返る。
そこにいたのは、人間の姿になった魅影だった。
「常夜見さん。常夜見さんももう終わったんですか?」
「ええ。御伽星憂依はきちんと殺してきたわ。桜庭さんの方も……想定よりも順調だったようね」
「ですね~。勝ててよかったです」
「私も桜庭さんが負けるとは思っていなかったけれど……ここまで強いと、私も少し困ってしまうわね」
「あはは、なんでメルが強くて常夜見さんが困るんですか~」
メルと魅影が笑い合う。
「ところで桜庭さん、それはどうしたの?」
魅影がメルの右手の包丁を指差した。
虹色の光を放っていたはずの刀身は、いつの間にやら真っ赤に染まっていた。
「あっ、これですか?テクトニクスの力を使って作ったんですけど、なんか思ってたのと違くて……ダイヤモンドの包丁を作るつもりだったのに、なんかよく分からない宝石になっちゃったんですよ」
「そう……少し見せてもらってもいいかしら?」
「どうぞ~」
メルが魅影に包丁を渡すと、魅影は背の部分に指を這わせるなどして包丁を検分し始める。
「常夜見さん、その宝石みたいなの、何か分かりますか?」
「……いえ、これは私も見たことのない代物だわ。ただ私の見たところによると、この包丁には反霊力が宿っているようね」
「えっ、どうしてですか?」
「恐らく禍津神を殺した時に、禍津神の力の一部を吸収したのでしょう。それにしても、穢術も無しに反霊力を貯蔵できるだなんて……一体どんな素材なのかしら」
その後も魅影はあれこれと包丁を調べていたが、結局それ以上のことは分からなかった。
「いずれにしても、反霊力が備わっている以上、これが非常に強力な呪物であることは疑いようが無いわ。幾世守家の『鯱噛』なんて比較にならない程にね」
「わ~、じゃあ気を付けなきゃですね~」
魅影が差し出した包丁を受け取ろうとメルは手を伸ばす。
「そうね、取り扱いには細心の注意を払わなければ駄目よ。でないと……」
次の瞬間、魅影はメルの胸へと手を伸ばし、包丁の刃を突き立てた。
「……え?」
「こんな風に、命を落とすことになりかねないわ」
ごふっ、と。
メルの口から夥しい量の血液が溢れ出す。
「常夜見、さ……」
包丁の刃に秘められた反霊力が、メルの体の内側を破壊し尽くす。
「桜庭さん、世界を救ってくれてありがとう」
「っ、ぁ……」
メルが微かに唇を動かすが、声は掠れ切って魅影には届かない。
魅影が包丁を引き抜くと、力を失ったメルは重力に引かれてゆっくりと落下し始めた。
メルの肉体は腕や脚などの末端部分から急速に崩壊を始め、粒子となって消えていく。
「これで、約束は果たしたわよ」
魅影のその言葉を最後に、メルは完全に消滅した。
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