第7回桜庭メルの自分探しの旅:糸繰村 前編
本日2話投稿しております
こちらは2話目です
「皆さん成層圏からこんにちは、祟り神系ストリーマーの桜庭メルで~す!」
「みなさ~んっ!あなたのハートに神解雷螺!怪異系レッサーパンダの常夜見魅影で~すっ!!」
「桜庭メルの自分探しの旅、今回で無事に第7回を迎えることができました~。上手くいけば、今回で自分探しの旅は最終回です!」
『もう最終回なのか』『寂しくなるなぁ』
「寂しがる必要はありませんよ!色々なことが上手く行ったら、また心霊スポット探訪を再開する予定ですから!」
過去6回の自分探しの旅によって、メル達はこれまでに6人のメルティーズを発見し殺害した。
残るメルティーズは1人。それを見つけ出し殺害すれば、晴れて自分探しの旅は完遂される。
「皆さん、これ覚えてますか?」
メルは1枚の紙を取り出し、それをカメラに向ける。
紙にはまるで写真のように、7人の少女の姿が写し出されていた。
「自分探しの旅を始める前に、1回皆さんに見せたことありましたよね?これはメルの記憶の中にあるメルティーズ全員の姿を紙に転写したものです」
『あ~あったな』『メルの謎技術な』『今見ても普通の写真にしか見えない』
「改めて見てみるとよくできてますよね~。皆そっくりですもん」
紙に描かれたメルティーズの姿は、まさしく写真のように正確だ。
「このうちの6人は見つかったので~……残ってるのはこの子ですね!」
メルは7人のメルティーズの内の1人、未だ見つかっていない最後のメルティーズを指差す。
そのメルティーズは黒のブラウスに黒のスカートを身に纏い、真っ黒な頭髪をツインテールに纏めていた。ツインテールが炎やら水やらで構成されている者も多いメルティーズの中では、比較的地に足のついたデザインだと言える。
「この子は確か……桜庭メル・オニキスでしたよね、常夜見さん」
「そうね。そう名乗っていたわ」
「にしてもこの子……見た目はほとんどメルまんまですね。配信始めた頃の」
『確かに』『そういやそうだな』『メルって最初は黒髪だったもんな』『えっそうなの?』
現在のメルは黒と桜色という特徴的な2色の髪色をしているが、元々メルの髪色は黒一色だった。その当時のメルとオニキスの外見はほぼ同じで、違うところはブラウスの色くらいだ。
「さて常夜見さん。オニキスはどこで見つかったんですか?」
「少し待っていて頂戴ね……」
メルの質問を受け、魅影がスマホを操作し始める。
「今回オニキスが見つかった場所は、桜庭さんにも少しは馴染みがある場所だと思うわ」
「えっ?それってどういう……」
以前は魅影が見つけたメルティーズの居場所を配信前に確認していたメルだが、このところはそういうことはしなくなっていた。
どうせ配信で教えてもらえるし、というのがその理由だ。
「探査術式で見つかったオニキスの居場所はここよ」
メルの視界とカメラの両方に映るよう、魅影がスマホを掲げる。
画面に表示されていたのは地図アプリだ。周囲を山に囲まれた小さな村が拡大表示されている。
「ここって……」
その村の名前に、メルは思わず目を見開いた。
「糸繰村……!?」
『マジか』『懐かしい名前出てきたな』『糸繰村か~』
そこはメルが以前に1度配信で訪れたことのある場所だった。
シトリ様と呼ばれる怪異を信仰し、災いを鎮めるために少女を生贄に捧げていた歴史を持つ村。それが糸繰村である。
とはいえ、実態はもう少し複雑だったのだが。
「オニキスは糸繰村にいたんですか!?」
「正確には糸繰村から少し離れた山の中に反応があったわ。しばらく動向を探ってみたけれど、オニキスが糸繰村に接触している様子はなかったわね」
「じゃあ糸繰村の近くにいるのはたまたまなのかな……だとしたらすごい偶然ですね~」
糸繰村での配信は、もうかなり前のことになる。
当時のことを思い出し、メルは少し懐かしい気分になった。
「行ったことのある場所なら、あなたもワープがしやすいでしょう?」
「ですね。それじゃあ早速、行っちゃいましょうか!」
メルが意気揚々と音の出ないフィンガースナップを繰り出すと、成層圏の風景にザザッとノイズが走る。
そしてその2秒後には、メル達は森の中に立っていた。
「はい。という訳で、糸繰村の近くの森にやってきました~」
『なんで近くの森に?』『村行けばいいじゃん』
「メルってば祟り神ですから。なるべく人の住んでるところには近付かない方がいいんですよ」
メルとしても久し振りに糸繰村を一目見たい気持ちは無いでもない。
しかし今のメルは祟り神、基本的にはそこにいるだけで有害な存在なのだ。だから成層圏なんぞで生活しているのである。
そんなメルが、ただの個人的な感傷で人間の居住区域に近付くのは宜しくない。
「それにしても、ホント久し振りですね~糸繰村。この辺りの森も何だか懐かしい……いや、やっぱり森にはそんなに見覚えないですね」
『草』『まぁな』『森なんてどこも似たり寄ったりだからな』
「常夜見さんはどうですか?見覚えあります?」
「ある訳ないでしょう。初めて来たのよ私は」
「えっ、メルの配信のアーカイブ見てくれてないんですか!?」
「見たけれど配信の背景の森なんて視聴者が注目するはずないじゃない」
「確かに!」
その時頭上に気配を感じ、メルと魅影は同時に上方へ視線を向ける。
「ひゃっ!?」
「っ……!」
そこには複数の木の枝に跨るようにして、巨大な蜘蛛が鎮座していた。
巨大蜘蛛は8つの赤い瞳でメルと魅影をじっと見つめている。
「……この先、虫が苦手な方はご注意ください……」
『おせーよ』『手遅れだわ』『今更どうしろってんだよ』
巨大蜘蛛は身じろぎ1つせず、メルと魅影に、特にメルの方に視線を注いでいる。
「久し振りだね、メル」
すると背後から、男性とも女性ともつかない声が聞こえてきた。
振り返るとそこには、20歳前後の不思議な雰囲気の人物が立っている。
その人物を認識した瞬間、メルは相好を崩した。
「シトリ様!お久し振りです!」
『うわぁシトリ様だ』『懐かしい』『久し振りだなぁ』『相変わらず人間にしか見えない』
メルはその人物に駆け寄り、手を取って握手を交わした。
頭上の巨大蜘蛛も不思議な雰囲気の人物も、シトリ様と呼ばれる土着の怪異だ。正確には巨大蜘蛛の方がシトリ様の本体で、不思議な人物の方は人間とのコミュニケーションのために糸で作り出された人形である。
メルとは以前の配信の際に面識ができた。
「また会えて嬉しいよ。しばらく見ない間に君は……なんというか、随分と悍ましくなったね?」
「あはは、祟り神になっちゃいましたからね~」
「祟り神にかい!?それはなんでまた……」
「そこのレッサーパンダのせいです」
『レッサーパンダ呼ばわりは草』
メルが魅影を指差すと、魅影は即座に顔を背けた。
「シトリ様。メルがアクモを殺してから、糸繰村ってどうなりました?ずっと気になってたんですけど、ネットだと情報が出てこなくって……」
「そうだね……アクモを討伐してくれた君には悪いけれど、これと言って大きな変化は無いよ。相変わらず3つの禁忌も残っている」
「そうですか~。まあ、あって特別困るようなルールでもなかったですもんね」
糸繰村では、やってはいけない禁忌が3つ定められている。
「蜘蛛を殺してはいけない」、「夜に山に入ってはいけない」、「死人と出会っても、決してその後を追ってはならない」というのがその3つだ。
メルの言う通り、日常生活を送る上でそこまで支障をきたすような禁忌でもない。
「ああ、そういえば。村長を始めとする何人かの村人が、警察に出頭したよ」
「えっ、なんでですか?」
「私に生贄を捧げた殺人の罪を自白したようだね。捜査のために何度か警察が村まで来ていたよ」
「村長さん達捕まっちゃったんですか?」
「いや、捕まりはしなかったよ。恐らく証拠不十分だったんだろうね」
『まあそりゃそうか』『20年も前だもんなぁ』
それはそうである。
最後に捧げられた生贄は今から約20年前。シトリ様が食べてしまったために死体は欠片も残っていない。
これで殺人罪が立証できるはずがない。
「それでメル。君は一体何をしに来たんだい?まさか糸繰村の近況を聞くためだけにわざわざ足を運んだ訳ではないだろう?」
「あっ、そうでした」
しばらく近況報告に興じていたメルだが、ここで本来の目的を思い出した。
「シトリ様。最近この辺りで、メルによく似た怪異を見かけませんでしたか?」
「ああ、見かけたよ」
メルの質問に、シトリ様は即座に首肯した。
「遠くからちらりと見ただけだが、あの怪異は君にとても良く似ていて、それでいて底知れない力を秘めていた。私やアクモなど足元にも及ばないだろうね。やはりあれは、君に関係する怪異だったんだね?」
「そうなんです。メルから生まれた子で……」
「驚いたな。君には娘がいたのかい?それとも前に会った時から今日までの間に生まれたのかな?」
「大体そうです」
「大体そうではないでしょう……」
メルの適当な返事を、魅影が呆れ顔で訂正した。
「メル、諸々の事情でその子を殺さなきゃいけないんです。その子がどこにいるか分かりますか?」
「殺すとはまた穏やかではないが……まあ、君にも君の事情があるのだろう。私が彼女を見かけたのは、ここから北東へ進んだ先にある洞窟の近くだったかな。ただ何日か前のことだから、今もそこにいるかは分からないよ」
「ありがとうございます!」
情報を提供してくれたシトリ様に頭を下げ、メルはシトリ様と手を振って別れた。
「別にあの怪異にオニキスの居場所を聞かなくても、私の探査術式があれば見つけられるのに」
シトリ様の姿が見えなくなったタイミングで、魅影がメルにそう囁く。
「いいじゃないですか。聞いたって損する訳でもないし。ちなみに常夜見さんの探査術式だと、オニキスはどっちにいるって出てますか?」
「……北東の方角よ。あの怪異の目撃情報は正しいようね」
「じゃあ尚更いいじゃないですか。ちなみに北東ってどっちですか?」
魅影がメルを先導する形で、2人は森の中をひたすらに進んでいく。
10分ほど歩いたところで、2人の目の前に小さな洞窟が現れた。
「これってシトリ様が言ってた洞窟でしょうか?」
「恐らくそうではないかしら。オニキスの反応はこの洞窟の中にあるわ。進みましょう」
魅影が何の躊躇もなく洞窟へと侵入し、メルもその後に続く。
洞窟は人間1人が余裕をもって歩ける程度の広さがあり、メルは窮屈な思いをせずに済んだ。
「でもこの暗さは問題ですよね~……」
メルも魅影も非常に夜目が利くため視界に問題はないが、配信を見ている視聴者はそうはいかない。
一応は先行する魅影がライトで前方を照らしてはいるが、それでも光量は充分とは言えない。
「ここは1つ、画面の暗さを補って余りあるようなメルの小粋なトークを……」
『やめとけ』『悪いこと言わないからやめとけ』『トコヨミさんと何か雑談とかしててくれ』『素人の漫談より女の子2人の雑談の方がよっぽど需要あるから』
「そうですか……?常夜見さん好きな人っています?」
「修学旅行の夜ではないのだから」
『雑談下手か』
視聴者の要望通り雑談をしつつ洞窟を進んでいくと、やがて前方にぼんやりとした明かりが見えてきた。
照明器具による人工的な明かりではなく、恐らくは炎によるものと思われる一定ではない明るさだ。
「あそこ……誰かいますね」
「どうやらそのようね」
続いてメルの耳に、カリカリと何か硬いものを削るような音が聞こえ始めた。
音の発生源は言うまでもなく明かりの方向。どうやら炎の明かりを頼りに、何らかの作業をしている存在がいるらしい。
「……ひひっ、ひひひっ」
「ひゃっ……!?」
更に明かりへと近付くと、笑い声のようなものまで聞こえてくる。その不気味な声色に、メルは小さく悲鳴を零した。
「ひひひひひっ……!」
そして見えてきたのは、焚火の側に背中を丸めて座り込む人影だった。
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