第6回桜庭メルの自分探しの旅:雪下団地 中編
本日2話投稿しております
こちらは2話目です
『キタアアア!!』『マジか!?』『今のクッキー判定なんか……?』
「いやいやいやいや!ちょっと待ってくださいよ!これで変身するのは流石におかしいでしょ!?」
メルはクッキーを食べると魔法少女に変身してしまうという難儀な体質をしている。
しかしよもや今しがた食べた氷のクッキーですら変身の切っ掛けになってしまうとは、メルは夢にも思っていなかった。何せクッキーとは名ばかりの、ただの氷の板だったのだ。
「なになに!?オリジンどうしちゃったの!?」
突如として七色の光を放ち始めたメルを、アンライプは興味津々に見守っている。
「あははっ!あはっ、あはははははははっ!!」
魅影は腹を抱えて笑い転げていた。
「いくらなんでもこれは理不尽ですってぇ!」
『本気で叫んでて草』『こんなに声張ってるメルそうそう見ないぞ』
光の中で理不尽を叫ぶメルだが、無情にも変身は進んでいく。
服装がリボンとフリルとハートマークがふんだんにあしらわれたピンク色の衣装へと変化する。髪色はピンク一色に染まり、ツインテールは元の2倍以上の長さにまで伸長した。
そして部屋を満たしていた七色の光が消えると、そこには完全に魔法少女の姿となったメルが立っていた。
「キャハハッ!すごいすご~い!」
装いを新たにしたメルに、アンライプは手を叩いてはしゃいでいる。
「あははははははははっ!!いひっ、あはははははははははっ!!」
魅影は床を転がりながらまだ笑っていた。
『こんなに笑ってるトコヨミさんも初めて見るよな』『トコヨミさんってこんな爆笑することあるんだ』
「いつまで笑ってるんですか常夜見さん!?」
「だ、だってっ、あはははははっ!!こ、氷っ!氷食べただけなのに変身してっ、あひゃははははははははっ!!」
「こっちは笑い事じゃないんですけど!?」
「苦しいっ、死ぬっ、あはははははははははっ!!」
魅影は笑いすぎた余り、陸に打ち上げられた魚のように息も絶え絶えになっている。
「もうそのまま死ねばいいのに……」
『あっ今のめっちゃいい』『メルってそんな軽蔑する表情できたんだ』『カメラ目線でもっかい言ってほしい』『そういう音声作品出して』
メルは深い溜息を吐き、元の姿に戻ろうと平皿に手を伸ばす。
「あれっ!?」
しかし氷クッキーが乗っていたはずの平皿は、いつの間にやら空になっていた。
「あっ、ごめん。オリジンあんまり美味しそうじゃなかったから、あたしが全部食べちゃった」
「そんな~……」
もう1回氷クッキーを出してくださいと頼もうかと思ったメルだが、それはギリギリで思い留まった。
客の立場で「もう1回クッキーを出せ」がシンプルに失礼であることに、すんでのところで気が付いたのだ。
「はぁ……」
メルは溜息を吐き、もう1度氷のソファに腰を下ろす。
どうしようもないので、メルはしばらく魔法少女の姿で過ごす覚悟を決めた。
「オリジンすごい!その服カワイイね!」
「それはどうも……」
アンライプは目を細めてニヤリと笑っている。本心から褒めているのか、それとも揶揄っているのか、どうにも判然としない。
「ところでオリジン、こんなところに何しに来たの?」
「あ~……」
アンライプの質問にメルは口籠る。
これまでメルティーズから同様の質問を投げ掛けられ、メルはそれに正直に答えてきた。しかし他のメルティーズよりも幼い外見をしているアンライプにそれを告げるのは、メルには躊躇われた。
とはいえ、メルの目的を隠すことなどできはしない。
「メルはあなたを殺しに来ました、アンライプ」
「……ふぅ~ん?」
ニヤリ、と。アンライプが一層笑みを深くする。
「そうだと思った~。いいよ、戦おうってことでしょ?」
「はい」
「アンライプがオリジンを殺しちゃってもいいんでしょ?」
「勿論です。できるのなら」
「やった~!あたし、いつかオリジンをボッコボコにしてみたかったんだ~!夢が叶うね!」
『なんて暴力的な夢』『なんでこうこの子達ってメルに好戦的なの?』
きゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐアンライプは、中学生のような外見よりも更に幼く見える。
……まあ、アンライプに限らずメルティーズは生まれてから1年と経っていないため、ある意味では年相応なのかもしれない。
「この部屋じゃ戦うには狭いよね~……屋上行こっか?」
「そうですね。そうしましょう」
メルとアンライプと魅影は部屋を出て、1列になって歩いて屋上へと移動する。
「戦い始めはちょっと距離あった方がいいよね?」
「そうですね。少し離れて始めましょうか」
メルとアンライプはおおよそ10mほどの距離を取り、互いに向かい合う。
『なんかいつにも増して試合っぽいな』『なんで今日はこんなフェアプレー精神に溢れてるの?』
「さあ……どうしてかしらね?」
スポーツのルールでも定めるかのように粛々と殺し合いの準備を進めるメルとアンライプを、魅影と視聴者は首を傾げながら眺めていた。
「この格好で戦うのも久し振りですね……」
メルは居心地が悪そうに自らの服装を確かめながら呟いた。
魔法少女の姿での戦闘は、初めて魔法少女へと変身した五劫山以来2度目となる。
「オリジン、準備い~い?」
「ええ、メルは大丈夫ですよ。アンライプは?」
「あたしも大丈夫だよ~!」
「じゃあそろそろ始めましょうか常夜見さん、合図お願いできますか?」
「いいわ。それでは……始め!」
魅影の合図と同時に、メルはアンライプ目掛けて地面を蹴って走り出す。
それに対しアンライプは、自分を閉じ込めるように巨大な氷塊を生成した。
「やっぱり氷ですか……!」
アンライプが氷を操る能力を有していることを、メルは事前に予想していた。
というかあれだけ家具や食料品を氷で取り揃えておいて、氷の能力でなければ詐欺である。
「てやぁっ!」
メルは助走の勢いを十全に生かし、氷塊目掛けて飛び蹴りを放つ。
氷塊に蜘蛛の巣状の罅が走り、驚くほどあっさりと氷塊は木端微塵に砕け散った。
「ふぅ~、ギリギリ間に合ったぁ。『オーロラグレイス』!」
氷塊の中から再び姿を現したアンライプは、その背中に氷でできた刺々しい翼を背負っていた。翼の中にはちらちらと赤や青や緑色の光が見え、まるでオーロラが閉じ込められているかのようだ。
「最強形態……いきなりですね~」
「キャハハッ!最初っから全力の方が楽しいもんね!」
アンライプが長さ1mほどの氷の円錐、すなわち氷柱を複数生成し、それらを一斉にメルへと放つ。
メルが後退しつつ氷柱を1つ1つ躱していくと、メルを捉え損ねた氷柱はそのまま遥か後方へと逸れていった。
「ぐっ!?」
しかし全ての氷柱を躱し切ったその瞬間、メルの全身から血が迸った。
いつの間にかメルの腕や脚や首筋などに、裂傷が刻まれている。
「キャハハッ!当たった当たった~!」
「いつの、間に……」
状況からしてもアンライプの反応からしても、それらの裂傷がアンライプの攻撃によるものであることは間違いない。
しかしメルにはアンライプの攻撃の正体が全く掴めていなかった。
「この調子でどんどん行くよ~!グレイトアイシクル!」
アンライプは技名を叫びながら、再び氷柱をメル目掛けて複数射出する。
メルは霊力で治療を施しつつ、迫り来る氷柱を次々と躱していく。
氷柱はそこまでの速さはなく、メルにとって回避することは造作もない。
「くぅっ!?」
しかし全ての氷柱を躱し切ったその瞬間、メルの全身にはまたしても複数の裂傷が刻まれた。
「キャハハッ!またせいこ~う!あれあれ~?ひょっとしてオリジンってぇ……あたしが思ってたよりもよわ~いのかなぁ!?」
「は?弱くないですけど!?」
アンライプの分かりやすい挑発に、あっさりと乗せられるメル。
「え~?だってオリジン、あたしに何をされたのかも分かってないんでしょ~?」
「ぐ、っ……」
アンライプの言う通りだった。2度同じ攻撃を受けたというのに、メルにはまだ攻撃の正体が分かっていない。
最初は刃物のようなものを飛ばされているのかと考えたメルだが、それならば視覚聴覚触覚のいずれかで刃物の存在を認識できるはずだ。空気の刃のような実体の無いものであったとしてもそれは同じこと。
それならば、とメルが次に考えたのは、アンライプが刃物を用いずメルの体に直接傷を発生させているという可能性だ。斬られていないにもかかわらず体に傷が現れるなど、いかにもありそうな呪いである。
しかしアンライプの氷を操る能力で、そのようなことが実現可能かは疑わしい。
「もしかして、氷以外にも何か能力があったり……?」
「キャハハッ!さて、ど~でしょ~?よわよわ~なオリジンにはぁ、教えてあ~げない!キャハハッ!」
「弱くないんですけど!?」
「桜庭さん、もう少し頭を冷やして戦いなさいな……」
『メルってあんなに煽り耐性低かったっけ?』『まあメルは口喧嘩が弱いから……』
アンライプの挑発に真っ向から噛みつくメルを、魅影は呆れ顔で見守っていた。
「でぇもぉ~……早く見破らないと、オリジンが死んじゃうかもね?」
「っ、あぁっ……!」
またしてもメルに裂傷が刻まれる。今回は左目まで持っていかれてしまった。
「くっ……」
「あ~あ、お目目見えなくなっちゃうね?痛いねぇ?」
「ご心配なく……治せますから……」
「そ~お?でもオリジンの怪我が治るのを、あたしが待ってあげると思う~?」
「思いません……ねぇっ!」
メルが咄嗟に顔を動かしたのはほとんど勘だった。
直後メルの右目のすぐ横に深い裂傷が刻み込まれる。
「あ~避けられちゃった~!?右目狙ったのに~!」
「残念でしたね。それに……避けられる、ってことも分かりました」
「……チッ」
途端、アンライプが表情を一変させ舌打ちをする。
アンライプはメルの右目を攻撃しようとしたが、実際に切り裂かれたのはメルの右目の真横。メルが咄嗟に顔を動かしたことで、アンライプの狙いがずれたのだ。
そして狙いがずれたということは、アンライプが何かを飛ばして攻撃しているということだ。少なくとも、メルの体に直接傷を発生させているとは考えにくい。
「何かを飛ばして攻撃してるのに、メルにはそれが認識できない……てことは、メルの動体視力が追い付かないくらい速いか、肉眼では見えないくらい小さいか……」
「っ!」
「あら、図星ですか?」
メルは体を守るように、全身に紫色の炎を纏う。
「ぅあっ!?」
しかしその直後、メルの右目から血飛沫が上がる。
左目が治るより先に右目も潰され、メルは一時的に暗闇に閉じ込められた。
だが。
「……ただ速いだけの攻撃なら、メルの炎である程度は防げたはずです。なのにメルに攻撃が届いた。てことは……」
「喋ってる暇があったら、命乞いでもした方がいいんじゃないのぉ!?」
焦ったようにアンライプが叫ぶ。
「炎の隙間を掻い潜れるくらい、小さいものを飛ばしてるってことですよね?」
メルは紫色の炎をより分厚く、一切の隙間なくその身に纏う。
するとそれ以上、メルの体に裂傷が刻まれることは無かった。
「分かっちゃえばなんてことのない。肉眼ではほとんど見えないような小さい氷の粒を高速で飛ばす……それがあなたの見えない攻撃の正体。ですよね、アンライプ?」
「チッ!!」
激しく舌打ちをするアンライプ。その反応は、メルの推測が正しいことの証明だった。
いいねやブックマーク、励みになっております
ありがとうございます
次回は明日更新します




