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第6回桜庭メルの自分探しの旅:雪下団地 前編

本日2話投稿しております

こちらは1話目です

 「皆さん成層圏からこんにちは、祟り神系ストリーマーの桜庭メルで~す」

 「みなさ~んっ!あなたのハートに神解雷螺!怪異系レッサーパンダの常夜見魅影で~すっ!!」


 いつもの自己紹介と共に配信がスタートする。


 『こんちは~』『こんにちは!!』『トコヨミさん自己紹介慣れてきたね』『上手くなった』

 「……そこを褒められてもあまり嬉しくはないのだけれど」

 「でもホント、自分探しの旅始まった頃と比べると、断然可愛い子ぶるの上手になりましたよ」

 「言い方に悪意があるわね?」


 ペシッ、と魅影は前脚でメルの胸を叩いた。


 「さて、今回も無事に配信することができるようになりました自分探しの旅、今日は第6回ですね~。自分探しの旅は全部で7回を予定してますから、最終回の1歩手前ですね~」

 『えっ』『自分探しの旅終わっちゃうの!?』『寂しい……』『終わったら病んじゃうんだけど』


 自分探しの旅はメルティーズを見つけ出すことを目的とした配信だ。

 メルティーズの数は7人。つまり自分探しの旅も全7回で終了する。


 「でも安心してください。全部のメルティーズを見つけ出して、自分探しの旅が終わって、それで上手くいけばまた心霊スポット探訪を再開する予定ですので!」

 『えっ心霊スポット探訪またやるの?』『やった!』『楽しみ~』『祟り神なのに心霊スポット行くの?』

 「その辺はね、色々と上手く行ったらまた改めてご報告させていただくということで。今日は6人目のメルティーズを見つけるための配信ですから。常夜見さん、6人目のメルティーズはどこに?」

 「そうね、少し待って……」


 メルからの質問を受け、魅影がスマホを操作する。


 「6人目のメルティーズが見つかったのはこの場所よ」


 魅影が見せたスマホの画面には、どこぞの集合住宅らしき建物が表示されていた。


 「雪下(ゆきした)団地。建設作業員の不審死が相次いだため、建設途中で放棄された集合住宅よ」

 「放棄された……って割には住めそうに見えますけど」

 「放棄された時点で9割5分は完成していたそうよ。だから住もうと思えば住めるのではないかしら」

 「95%もできてたのに放棄しなきゃならなくなったんですか……業者さん可哀想……」

 『業者さんの悲しみを自分のことのように悲しむことができるメルちゃんマジ女神すぎる……』『なんか全肯定視聴者いるな今日』

 「でもほぼほぼ完成してるんだったら、メルティーズにも住みやすいかもですね」

 「そうね。メルティーズはほとんど人間だもの」


 メルティーズは非常に強力な怪異だが、その生態は人間と変わらない。人間の住居はメルティーズにとっても住みやすいのだ。


 「ところでこの雪下団地って、建設中に不審死が相次いだってことは、ひょっとして心霊スポットになってたりするんじゃないですか?」

 「それがそうでもないらしいのよ。私も調べてみたけれど、雪下団地にまつわる心霊現象のエピソードは特に見当たらなかったわ」

 「そうなんですか?」

 『俺そこ地元だけど、その団地に人が住んでないことをまず知らなかったわ』


 ここで地元住人を名乗る視聴者から、興味深いコメントが書き込まれた。


 『普通に人住んでる団地だと思ってた』

 「確かに……知らなければ、放棄された団地には見えないものね」

 「人が住んでないと思われてないから、心霊スポットとも思われないってことですか。なるほど~」


 雪下団地がほぼ完成していたからこそ起こる現象、ということだろう。


 「でも心霊スポットになってなくても、人が住んでるって思われてるなら、どっちにしても人は寄り付かなそうですよね」


 知り合いが住んでいるのでもなければ、住人以外が団地に立ち寄ることなどそうあることでもない。

 そして人が寄り付かない場所は、それ即ち怪異にとっては絶好の住処だ。


 「残るメルティーズはアンライプとオニキスの2人……そのどちらが雪下団地にいるのかはまだ分からないけれど、どちらにしてもいい住処を見つけたものよね」

 「ですね~。これまでメルティーズが住んでたのって、森とか岩場とかでしたもんね~」


 人間に近い怪異にとって、森と団地のどちらが住みやすいか。そんなものは考えるまでもない。


 「それじゃあそろそろ、その雪下団地ってとこに行ってみましょうか」

 「そうね」


 メルが魅影を抱きかかえ、右手でフィンガースナップの構えを取る。

 そして相変わらず音の鳴らないフィンガースナップと共に、メルの周囲の風景は一変した。


 「お~、ホントに知らなきゃ普通の団地にしか見えませんね」


 少し離れた場所から件の雪下団地を眺め、メルはそう感想を漏らす。

 雪下団地は街の外れに建っていた。街から孤立していると言っても過言ではないかもしれない。


 「この立地なら、なおさら人が住んでいないことにも気付きにくいでしょうね」

 「確かに……さ、移動しましょうか。人目も無いですし飛んでいいですよね?」

 「あなたがきちんと直接団地にワープしてくれれば、こんな二度手間は必要ないのだけれど……」

 「いいじゃないですか別に。常夜見さんはメルに抱っこされてるだけでいいんですから」

 『トコヨミさん抱いてるメルちゃん可愛すぎるだろ』『メルに抱かれてるトコヨミさんも可愛いが?』『えっこの人どうやって空飛んでんの!?』『おっと初見さんだ』


 メルは当たり前のように空を飛び、航空機めいた速度で団地へと近付いていく。


 「はいとうちゃ~く」


 そしてメルは、雪下団地の屋上に着地した。


 「常夜見さん、メルティーズがどこにいるか分かりますか?」

 「少し待っていて」


 魅影は屋上の地面を嗅ぎ回るような仕草で、探査術式を用いてメルティーズの所在を探る。


 『トコヨミさんトリュフ見つかった?』

 「だから私はトリュフを探す雌豚ではないと言っているでしょう!?けれどまあ、メルティーズは見つかったわ」

 「ホントですか?早いですね~」

 「メルティーズは最上階の角部屋にいるわ」

 「わ~他の部屋より家賃高そうなポジション」


 メルティーズが最上階にいるのなら、屋上に着地したことは結果的には正解だった。

 見たところ雪下団地は5階建て。地上よりも屋上の方が近い。


 「場所が分かったから早く向かいましょう」

 「ですね。角部屋って奥の方で合ってます?」


 メルは屋上から5階へ通り、階層を奥へと進んでいく。


 「……なんかちょっと寒くないですか?」

 「そう?私には分からないわ」

 「あ~常夜見さんモフモフですもんね~」


 厚い毛皮を持つ魅影は気付いていなかったが、メルは5階を奥に進んでいくにつれ、空気がひんやりと冷え込んでいくのを感じていた。


 「ふぅん?こんなところで冷房設備が働いているとも思えないし、メルティーズの仕業かしらね」

 「多分……?」


 最奥の部屋に近付けば近付くほど、メルが感じる冷気も強くなる。

 5階の入口と最奥の部屋の扉の前では、、メルの体感では20度近く気温が違っていた。


 「……ここまで冷え込めば、流石の私にも感じられるわね」

 「逆にここまで冷えないと分からないんですか……?メル今こんななってますよ?」


 メルはブラウスの袖を捲り、鳥肌が立った腕を見せる。


 「そう。まずはインターフォン押してみてもらえる?」

 「もうちょっとメルの鳥肌に興味持ってくださいよ」

 『俺は興味あるよメルの鳥肌』『もっとよく見せてほしい』

 「それはそれでどうなんでしょう……?」


 魅影に請われた通り、メルはインターフォンへと手を伸ばす。

 ボタンを押してみるも、チャイムの音などは一切鳴らなかった。


 「まあ鳴らないわよね。電気通ってないもの」

 「じゃあなんでやらせたんですか?」

 「インターフォンが使えないのなら、次は扉をノックしてもらえる?」

 「……まあ、いいですけど」


 釈然としない思いを抱きつつ、メルは扉を3回ノックする。


 「開いてるからど~ぞぉ~!」


 すると部屋の中からそんな声が聞こえてきた。


 「っ!?」


 息を呑むメル。


 「今の声、桜庭さんに似ていたわね……」

 「そうですか?自分じゃよく分からなかったですけど」

 「ええ。少し幼かったけれど、それでも桜庭さんの声だったわ」

 『俺もそう聞こえた』『私も』『メルちゃんの声だったね』


 部屋の中から聞こえた声がメルに似ていたという意見は、魅影もコメントも一致していた。

 口を揃えてそう言われれば、メルも何だかそんなような気がしてくる。


 「メルと同じ声……ってことはやっぱりメルティーズですよね?」

 「その可能性は高いわね。けれど扉を開ければどちらにせよすぐに分かることだわ。入室の許可も出ているし、早く中に入りましょう」

 「ですね」


 メルはドアノブに手をかけ、緊張した面持ちでゆっくりと扉を開く。

 すると部屋の中から冷気が一気にドバっと溢れてきた。


 「ひゃっ!?何ですかこれ冷凍庫ですか!?」

 「冷凍庫は言い過ぎよ、せいぜい冷蔵庫程度ではないかしら?」

 「キャハハッ!冷凍庫でも冷蔵庫でもないよぉ~?」


 メルと魅影が言い合っていると、部屋の奥から冷気と共に甲高い声が聞こえてくる。


 「……メルってこんな声です?」

 「あなたより少し子供っぽいけれど、大体はそうね」


 薄暗い部屋の中から、とてとてと玄関に向かってくる足音が聞こえる。


 「いらっしゃ~い!アンライプの領域へようこそ~!」


 そして現れたのは、中学生ほどの年齢のように見える少女だった。

 髪は氷河を思わせるような薄い水色で、ツインテールは氷のようなもので構成されている。

 顔立ちはメルにそっくりと言ってよかったが、メルをほんの少しだけ幼い印象を受けた。メルが中学生だった頃の顔とほぼ同一だ。


 「って、オリジンじゃん!どしたのこんなところまで?それに、ワンちゃん……?」

 「アンライプ……桜庭メル・アンライプね?」

 「そうだよ~?あの神社で会った時以来だよねぇ?」

 『うわ新鮮な顔』『メルの顔でそういう表情されるとドキッとする』


 アンライプが目を細めてニヤリと笑う。そのどこか挑発的な表情は、メルや他のメルティーズがあまり浮かべることのないものだ。


 「立ち話もなんだから、上がっていいよ~?」

 「あっ、じゃあお言葉に甘えて……」


 アンライプに招き入れられ、メルは靴を脱いで部屋の中へと踏み入れる。


 「桜庭さん。足の裏を拭いてほしいのだけれど」

 「あ~はいはい、ちょっと待ってくださいね~」


 メルがハンカチを取り出し、魅影の4本の足の裏の汚れを丁寧に拭き取る。

 足裏が清潔になったことを確認した魅影は、満を持して廊下へと上がり込んだ。


 「適当なとこ座ってね~」

 「適当なとこ、って言われましても……」


 通されたリビングをぐるりと見回し、メルは眉尻を下げる。

 リビングには家電の類こそ見当たらなかったが、テーブルやソファーなどの家具類は一通り揃えられていた。生活を送るにあたってとりあえず支障はなさそうだ。

 ただ1つ問題があるとすれば、それらの家具が全て氷によって構成されていたことだ。

 テーブルも氷。ソファも氷。観葉植物も勿論氷。これだけ氷尽くしの部屋があれば、5階全体が薄ら寒くなるのも当然だ。


 『そういうテーマパークみたいだな』『こういうアトラクションどっかにありそう』『見てるだけで寒くなってきた』

 「うわつめった……」


 恐る恐る氷のソファに腰を下ろしたメルは、スカート越しに伝わってくる冷たさに顔を顰める。

 氷なのは見た目だけで、座ってみると案外普通のソファだったりしないものかという淡い希望は、当然の如く打ち砕かれた。


 「そのソファね、溶けないようになってるんだ~。だから濡れないから安心してね~」


 台所で何やら作業をしているアンライプの声が聞こえてくる。


 「溶けないのはいいんですけど……冷たいのもどうにかなりませんかね……」

 「本当ね。冷たいソファだなんて困ったものだわ」

 「あっ常夜見さんズルい!メルの膝乗るのはズルいじゃないですか!」

 「いいじゃない私ワンちゃんだもの」

 「あなたはレッサーパンダでしょうが!」


 魅影はメルの膝の上で丸まり、ちゃっかり氷ソファの冷たさから逃れることに成功していた。


 「おまたせ~!こんなものしか用意できなくてごめんね~」


 台所から氷のお盆を携えて戻ってきたアンライプが、氷のテーブルの上に氷のグラスを並べる。グラスの中には水が入っていた。


 「ペンギンでも凍死しますよこんなの……」


 氷尽くしのもてなしを前にして、メルが引き攣った顔で呟く。しかしペンギンが凍死しようとも祟り神は凍死しない。

 メルが礼儀として出された水に口を付けようとグラスに触れると、グラスの中の水が一瞬にして凍ってしまった。


 「わっ、わっ!?なっ、何ですかこれ!?」

 「過冷却水かしらね」

 「あ~、またやっちゃった。あたしがいれたお水ってすぐこうなっちゃうんだよね~」


 失敗しちゃった、と笑いながらアンライプが台所に引っ込む。


 「今度は大丈夫だと思う!」


 そして再びアンライプが持ってきた氷のグラスは、メルが手に持っても中の水が凍ってしまうことはなかった。

 メルは恐る恐るコップを口元に近付け、中の水を一口含む。


 「どう?どう?」

 「なんか……1周回って熱いような気がします」

 「キャハハッ!ちょっと分かる~!」


 メルの何とも言えない表情を見て、アンライプは手を叩いて笑っていた。


 「こんなのもあるから、良かったら食べて~」


 アンライプが氷のテーブルの上に、氷でできた平皿を乗せる。

 平皿の上には、直径5cmほどの大きさの氷の板が10枚ほど並べられていた。


 「……アンライプ、これは?」

 「氷クッキー!食べてみて!」

 「氷、クッキー……?」


 メルは改めて平皿の上の氷の板を観察する。

 どれだけ目を凝らしても、見る角度を色々と変えてみても、メルには純然たる氷にしか見えない。クッキー要素は見つけられなかった。


 「遠慮しないで、食べて食べて!」


 一体何に自信があるのか、アンライプはしきりにクッキーを名乗る氷の板を勧めてくる。


 「まあ、じゃあ……」


 積極的に食べてみようという気は起こらないが、氷であれば食べたところで害はない。そこまで勧めてくるならと、メルは氷の板を1枚手に取った。

 その気になれば一口で頬張れそうな氷の板を、メルは敢えて半分だけ齧り取る。そして味を確かめるようにゆっくりと咀嚼した。


 「どう?どう?」

 「……食感はいいですね」


 何の味もしなかった。

 クッキーのような形をしているだけの氷なのだから当然だ。

 ただ口に出して言った通り食感は悪くない。真夏の猛暑日であればありがたいかもしれない。

 そんなことを考えながら、メルが氷の板の残り半分を口に放り込んだその時。


 「は?」


 メルの全身が、七色の光に包まれた。

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