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身を切るような風の中

優成学園の屋上には給水タンクがある。


元は真っ白だったであろうその胴体は、少しさびているが使用に困るような欠損は無い。


その上に、毛布に包まりながら塀の向うを見つめる徹の姿があった。




さて……。


これからどうするべきか。


物資は一応ある。


冬を越せる分だけは確保した。


だが、長い間他から奪い取るようなことは出来ない。


周囲の物資が無くなれば終わりだし、遠くに遠征すれば当然死ぬリスクが高まる。


和馬や純、そして翼の死は自分の想像以上に周囲に影響を与えていた。


いや、あれは普通なのか。


僕が異常なのか。


……そんなことはないか。


こんな異常な状況で人間らしく仲間の死に涙していては身が持たない。


何も感じなくなったわけではないが……。


つまるところ、慣れたのだろう。


大戦中、特攻という戦法がとられた。


特攻機を見送る整備兵の中には当初は泣いていたが、それが日常茶飯事になると淡々と送り出すようになったという人もいたそうだ。


慣れなければ、人の身体は持たない。


僕はそういう変化が著しい人間だったのだろう。


誰かが死んでも、表面で悲しいなぁと思うだけで、内面では大した事ではないと思っている。


大した事とは何か。


当然自分が死ぬことだ。


つまり、自分が死に直結する事以外は大した事ではなく、悲しまないのだ。


……話が脱線した。


僕が冷徹かどうかじゃなくてこれから先どうするかだ。


とにかく、農業をしなくてはならない。


以前も想像したが、これからは自給自足がカギになる。


となると、この学校だけでは土地が狭すぎる。


いずれはバリケードなどを築いてゾンビの侵入できない範囲を徐々に広げていくべきだろう。


ここからそう遠くない所に田畑が広がっていたはずだから、そのあたりまで広げたいところだ。


耕し、種を植え、肥料を撒く。


そうやって食糧の自給自足を始めるのだ。


しかし、やることが増えれば人でも欲しくなる。


特に、三人男が死んだことにより、労働力は激減したと言ってもいい。


となると、もっと多くの人間の受け入れをしないといけない。


すると、もっと多くの土地が必要になってさらに仕事が増えて……。


ああ、これじゃ無限ループだ。


……いっそ国でも作るか。


なんてね。


「冴島さん。」


思考が掻き消される。


給水タンクの下に居たのは佑季だった。




「隣、いいですか?」


「え?ああ、大丈夫ですよ。」


「ありがとうございます。」


佑季がペコリと頭を下げ、隣に腰を下ろす。


「結局抜けてきたんですか?」


「はい。なんというか……、ああいう雰囲気は、少し合わなくて。」


「そうですか。」


二人の間に気まずい沈黙が流れる。


「あの、何か話したいことでも?」


「……実は、少し疑問が。」


「何か?」


「あ、いえ、冴島さんに疑問がある訳ではなくて。……会長の事です。」


「荘田先輩が何か?」


「はい。少し、挙動が変なんです。」


「挙動?」


「はい。恐らく、ずっと隣で補佐をしてきた私でないと解らない様な、細かい言動や挙動がおかしいのです。」


「んー。」


「なんていうか、まるで生きていないかのような……。」


その時、身を切るような冷たい風が通り抜けた。


「っ!」


佑季が身を震わせるのを見て、徹がそっと身に着けていた毛布を渡す。


「あ、いえ、大丈夫です。」


「いいからいいから。」


「しかし、それでは冴島さんが。」


「気にしないで……ふぇっくしょい!」


「……ぷっ。」


「……ふふっ。」


風は冷たかったが、佑季は自身の内に暖かなものが芽生えるのを感じた。


それは、気のせいなのだろうか。





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