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立ち向かう覚悟

「そうだよ……俺は何で、何で逃げて……ッ!」


「誠治君……いや、セイくん。思い出してくれたんだ……。」


「思い出したわけじゃねぇッ!俺は無かったことにしたかっただけだったッ!なんでこんな大事なことを……。」


その直後、翼の身体がぐらつき、そのまま仰向けに倒れた。


ゆっくりと、スローモーションに。


「……翼?」


誠治が声を掛けるが、全く反応しない。


「翼ッ!」


慌てて駆け寄り、抱き起す。


すると、翼の背中を支えた手にぬるりという感触があった。


恐る恐る手を見ると、手が深紅に染まっていた。


「翼、お前怪我して……。」


「セイくん……。手、手を……。」


翼が手を差し出す。


その手は震えていて、今にも崩れ落ちそうだ。


誠治はその手をしっかりと握る。


「翼ッ!!」


「セイくん……。僕は、過去と立ち向かえたのかなぁ……。」


「……お前は、凄い奴だ。俺が成し得なかったことを何年も……!」


「よかった……。うれしいな。」


「俺がお前に逆らえなくなったのは……。お前の方が強いって知ってたから。だから、俺は……。何で逃げちまったんだよッ!」


「セイ、くん……。次は、君の番……だよ。」


「…………。」


「君が……立ち向か……う、番だよ……。僕に、だっ、て、できた…………。立ち向かえ……る、強さが……。君には、ある……。」


「翼……俺は……。」


「戦える……僕ら、の……僕の、憧れの、セイくんなら…………。戦える…………立ち向って……その覚悟が…………。」


スッ、と翼の手から力が抜ける。


誠治は暫く手を握っていたが、徐々に冷たくなっていくのを感じて、やがて離した。


「翼……。お前は本当に凄ぇよ。……見ててくれ、俺は、俺なりに立ち向かって見せる……。」


誠治は立ち上がると、上着を脱いで翼の顔に掛けた。


「だから、もう休んでくれ……。じゃあな。」




「銀からの連絡もないのかッ!?」


「へ、へい……。」


パンチパーマのヤクザは頭をへこへこと下げるしかなかった。


頼みの綱だった、喬太郎の腹心の部下の銀までやられたとあれば、もう役立たずの数人しかいない。


「アニキ、大変です!」


その時、喬太郎とパンチパーマのヤクザの前に、若い男が走ってきた。


「やかましいッ!組長の前で何しとんじゃッ!」


「す、すいやせん!でも、大変で……。」


「言ってみろ。」


「へ、へい。すぐそこにまでガキが迫ってきております!早くお逃げに!」


「逃げる?この喬太郎に逃げろと言うのか?」


「へい。」


「ふざけるなッ!この立花喬太郎、生まれてこの方逃げた事は無い!」


「ですが!このままでは組長まで殺られてしまいます!そうなったら立花組は!」


「立花組がどうした!」


「立花組は俺たちの家なんです!社会からあぶれた俺たちを拾ってくれた家なんです!お願いします!どうかここはお逃げになってくだせぇ!」


「……家、か。……若いもんにそこまで言わせちまうとは、俺もまだまだ男とは呼べねぇな。」


「なら!」


「ああ、そうしよう。いつかまたここにきて、必ず奪うぞ。」


「へい!」


若い男が踵を返す。


「さ、こっちです!」


その直後、男の身体が弾け飛んだ。


爆発だ。


「な、何がッ!」


パンチパーマのヤクザが身構えると、柱の陰から二つの影が姿を現した。


細い男と太い男。


「残念だが、貴様らを生きて返すわけにはいかない。これ以上この場所が安全な場所だと広められては困るのでな。」


「俺の爆弾で全員殺せるとよかったけど、ちょっと威力を弱く作りすぎたかな。」


巧と龍だった。


「お前ら……。」


喬太郎が二人を見据えた時、パンチパーマのヤクザが二人の前に躍り出た。


「組長は早くお逃げに!ここはあっしが!」


「くっ、すまん!」


喬太郎が背を向けて走り出すと同時に、パンチパーマのヤクザが巧に小刀を構えて突進する。


「おおおおおおおおおおッ!!!」


「ふんっ!」


男の突進を身を捩って躱し、そのまま裏拳を男の腹に叩きこむ。


「……まだだぁッ!」


ヤクザが横薙ぎに小刀を振るい、巧はしゃがんで躱す。


そして腹にその体勢のまま突きを繰り出した。


「まだ……まだッ!」


「いいから寝てろってんだよッ!」


龍がハンマーで男の背中を叩く。


骨が折れる感触。


「……まだって、言ってるだろうがッ!」


それでも男は止まらない。


「……何が貴様をそこまで動かす?」


「お前らみたいな、ガキに……舐められたとあっちゃあ、俺だけじゃなく、組長の顔にまで泥を塗ることになる!」


男が再び殴りかかるが、次は巧も容赦はしなかった。


「悪いが、奴を生かしてはおけない。この場所を失うわけにはいかんのでな。」


巧が男の腹に正拳突きを披露し、龍が男の後頭部にハンマーを振り下ろすと、男の頭は割れ、遂に男の動きは止まった。


だが、喬太郎を追いかけようとした巧の足は止まる。


「……この男は、立派な日本男児だ。こうありたいものだ。」


男の手は、巧の足を決して離すまいと掴んだまま固まっていた。

東日本大震災の被災者の方々に心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。

一日も早い復興を願っております。

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