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贖罪の成果

「か、かわいい~~!」


会議室に黄色い声が響き渡る。


大樹の横でにこやかに笑う女の子――優衣が自己紹介をしたときの葉月の感想である。


葉月は優衣をガシッと抱くと、自身の頬を優衣の頬に擦りつける。


「お姉ちゃん、くすぐったい!」


「お、お姉ちゃん……。」


今にも鼻血が吹き出そうなほどである。


見かねた巧が優衣と葉月を引き離す。


「おい、葉月。いい加減にしろ。」


「ちぇ~。優衣ちゃん、また後でねッ!」


「うん。」


葉月がようやく優衣から離れると、大樹が一歩前に進み出る。


「その、純先輩と和馬先輩が死んで、自分、少し怖くなってたッス。あんなに仲の良かった先輩があっさり死んだって言われて、自分もそうなるんじゃないかって。いろんな人に迷惑かけて、すいませんでした。少しでも自分の気持ちを伝えたくて、自家発電装置を取りにいったッス。どんな処分も受けるつもりッスよ。」


大樹が頭を下げる。


すると、徹がおもむろに口を開いた。


「気にすることないんじゃないか?」


「え?」


「確かに身近な人が死んだら当たりたくもなるさ。きちんと謝ってくれた上に、欲しかった自家発電装置まで持ってきてくれたんだ。この件は不問とする。それでいいよね、皆?」


「うん!優衣ちゃんを連れてきてくれたし、それでOK!」


全員が頷く。


……いや、真二だけは少し遅れて頷いた。


「あ、ありがとうございます!」


大樹はさらに深々と頭を下げた。




(危ない危ない……)


桜はそんな会議室の中で一人安堵していた。


スタジオで真二を喰った後、ゾンビ化させないでおいた。


つまり、今の真二は魂だけが無い抜け殻のようなものだ。


自分が指示した通りにしか行動しない人形。


見てくれだけは人間の者に真二は成り下がっていた。


だが、人間を完全に操るのはまだ難しい。


先程も指示を出すのが遅れてしまった。


用心してばれない様にしなければならない。




「よっこらせっと。」


怜が自家発電装置をアマチュア無線部室に運び込んだ。


「こういう力仕事は龍の担当だろ……。」


怜がぼやくと、後ろから苦しげな声が聞こえてきた。


「だったらこっちを持つかぁぁ~~~あ?」


「り、龍!?」


怜が声の方向を見ると、龍が顔を真っ赤にしてガソリン入りの金属製容器を運び込んでいた。


「だぁぁ~~!クソッ!」


ゴトン、と床に容器を置くと、そのまま地面に座り込んだ。


「重すぎるぜ……。」


「いいから、使ってみようよ。」


「配線繋いでー。」


「あいよ。」


怜がてきぱきと回線をつないでいると、軽やかな足音が聞こえてきた。


「お兄ちゃんたち何やってるの?」


「お兄ちゃん~~?俺は龍っていう名前があるの。」


「ん~。わかった、龍お兄ちゃん。」


「大して変わってないし。」


クスクス笑っていると、優衣が思い出したように言った。


「で、これ何?」


「ああ、無線だよ。無線」


「遠くの人と連絡するやつ?」


「その通り。」


「龍、配線終わったよ。」


「ん。やってみるべ。」


ガソリンを発電装置に移すと、発電装置が音を立てて発電が始まる。


「ねぇねぇ、お兄ちゃんは何て名前だっけ?」


「あれ?言ってなかったっけ?僕は怜だよ。」


「怜お兄ちゃんすごい!」


「う、うん……。」


「怜、お前まさか……。」


「ちっ、違うよ!僕はロリコンじゃない!」


「ふ~ん。私はロリコンさんでもOKなんだけどな~。」


「優衣ちゃん、事態が混乱することを言わないでー!」


『……なにやら、にぎやかだな。』


「あっ、仁さん。久しぶりです。」


龍が交信を始める。


『その、物資調達は上手く言ったか?』


「物資はそれなりに。自家発電装置も確保できました。ただ……。」


『死んだか?』


「はい、二人。一人増えたので、全部で十四人になります。」


『そうか……。こっちも一台車がエンストしてな。復旧までゾンビと交戦していたんだが、一人やられた。』


「そうですか……。」


『幸い、老人だったがために戦力的に問題は無いが、なにぶん、ケンカの仲裁役だったもんでな。メンバー内にも亀裂が入り始めている。』


「こちらからはどうすることもできませんが、頑張って下さい。」


『フッ、高校一年生に元気づけられるとは、思いにもよらなかった。……そうだな。腰を落ち着けられる所を探すまでは弱音を吐くわけにはいかないな。』


「龍お兄ちゃん、誰と話してるの?」


「ああ、遠い県に居る人だよ。」


『そこにいるのは、新しいメンバーか?』


「はい、そうです。」


『そうか。仲良くやれるといいな。』


「まあ、いい子なんで大丈夫ですよ。リーダーを呼んできますね。」


そういうと、龍は徹を呼びに席を立った。

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