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エクソダス

怜は自身の終わりを感じる。


身体が動かずに、ゾンビに囲まれた。


これほど危機的な状況が他にあるだろうか。


まさにバッドエンド。


アニメならこういう時にヒーローが助けてくれるのがセオリーだが、そんなヒーローはいない。


そしてゾンビが怜の頭を掴む。


怜はゆっくりと目を閉じる……。




「怜に触れるんじゃねぇッ!!!」


不意に響き渡った大声に、ゾンビが一斉にバスの上を向く。


怜から見て逆光になっているバスの上のシルエットは、一言で表すなら太い。


「とうっ!!」


それと同時に、何かがばら撒かれる。


そして、それは数秒の後、爆発を起こした。


怜の目の前のゾンビが激しく横に吹き飛び、肘から先だけが怜の頭を掴んだままとなっている。


怜がその手をどかして、上を見上げると、手が差し出された。


龍だった。


「死なせねぇよ。」


「……ありがとう。」


その手を怜は強く握り返し、バスの上へと戻った。


「でも、全然ゾンビ減ってないね。」


というより、むしろ増えたように見える。


「そりゃあ、あれだけ派手に爆発したら町中から来るだろ。とりあえず、ここは危険だ。中に入ろうぜ。」


「うん。」


怜はバスの中へと無事に生還した。




怜は助かった。


それでも、事態が好転したわけでも、活路が見いだせたわけでもない。


ゾンビがバスの車体を響く音が延々と続く中、喜ぶ者は誰も居なかった。


車内の鬱々とした空気は、生者の物ではない。


「これなら……。これなら、まだ声を出してるだけでも、ゾンビの方が人間らしいじゃないか。」


龍はそう呟かずにはいられなかった。


「……そうだ、マンホール!」


怜が不意に大きな声を上げる。


「ほら、脱出用のマンホール!あそこを使いましょうよ!まだ諦めるには早いですよ!」


「……脱出用のマンホールがこの場所からどれだけ離れている?ここから200m以上あるんだぞ?そこまでどうやって移動する?よしんば移動できたところで、マンホールの蓋をどかす時間などない。」


巧から正論を並べ立てられ、怜は口を噤む。


しかし、怜は諦めたくなかった。


というより、諦めずにいることで、少しでも強くなりたかった。


「でも、そこで諦めちゃ駄目じゃないですか……。生きる努力が出来ることが人間っていう事なんですよ?今の皆はゾンビです。生きることを諦めたゾンビ……。」


誰も一言も発さない。


やはり、もう無理か。


いや、違う。


こんな時こそ、立ち上がってくれる人が居るじゃないか。


「そうだろ、徹!」


「……ああ!」


徹が立ち上がる。


「皆、よく聞いて下さい。もしかしたら、助かるかもしれません。」


その言葉に、全員の顔が上がる。


顔の生気が戻っていく。


「これは一か八かなんて言えないほど望みの薄い賭けです。というより、完全に運です。」


「……はやく、概要を説明してくれ。」


真二が先を促す。


「はい。脱出の鍵は、これです!」


徹が指差した先。


全員がその指の差す先を辿ると、廊下に横たわる木の板が目に付いた。


「……木の板?」


「これは龍がこの車を改造するときに訳あって出来てしまった傷を塞いだものです。」


「それがどうしたんだ?」


「簡単な事です。この下にマンホールがあるかもしれない、という事です。もしこの板の真下、若しくは近くにマンホールがあれば、そしてそれが脱出用のマンホールと同じ下水用のマンホールであれば、僕たちは助かるかもしれません。……可能性はゼロに近いです。ですが、ここから遠い所に脱出用のマンホールがあるなら、この辺りにあっても不思議ではないはずです。」


「それは唯の希望的観測だ!」


「それでも構いません。僕はやってみずにゾンビにやるより、足掻いてからゾンビになります。」


そして、徹は木の板に手を掛ける。


板は、あまりにも呆気なく動いた。


「…………あ」


覗きこんだ徹、龍、怜の三人の目には、確かにマンホールがあった。


「あった!」


『下井町下水道』と円に沿って書かれた文字。


それは自分たちの生存を裏付けるものであった。


三人が手を伸ばし、マンホールの蓋をどかす。


「皆さん、ビンゴです!」


メンバー全員の顔が人間の顔に戻る。


「帰りましょう、僕たちの家に!」




ゴンゴン、ゴンゴンと音が聞こえる。


「ん~?何の音ッスかぁ~?」


眠気を持て余していた大樹は、欠伸をしながら音のする方向に移動する。


ゴンゴン、ゴンゴン……。


「この辺ッスかぁ~?それともこっちッスかぁ~?」


ゴンゴン、ゴンゴン……。


「下……?」


大樹が地面を見下ろす。


すると、マンホールが閉じているのが見えた。


「この中から……。」


眠気が幾分が飛んで行った大樹が、マンホールの蓋を開ける。


すると、マンホールの中から勢いよく人の頭が飛び出してきた。


「う、うわっ!……って徹!?」


徹の髪は水でぺしゃんこで、服は汚れていた。


「ただいま、大樹。」


「……お、おう。上がってこいよ。」


大樹の伸ばした手を、徹が掴んだ。

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