いざ行かん
午後七時。
会議室の角テーブルに、全員が座っていた。
今夜の議題は、明日の遠征のメンバー決めだ。
「取り敢えず、僕と龍、怜は決まってます。」
「えっ!?僕!?」
真っ先に驚いたのは怜だ。
「ほら、投石上手かったじゃん。」
「え……まぁ。」
「じゃあ決まり。」
「うん。うん?」
半ば強制的にメンバー入りをさせられる。
「で、佑季先輩にも来てほしいんですが。」
「私ですか?」
「はい。」
遠距離攻撃が出来る戦力は必須だ。
「解りました。」
「後は、巧先輩、和馬先輩、純先輩と誠治先輩にも来てほしいです。他に、適任者というか、立候補者いますか?」
「俺は?」
大樹が自分を指差しながら聞く。
「大樹は、あ、それと翼先輩とは、ここに残って学校の防衛をお願いします。」
「了解。」
「他には?」
「私も行かせてもらうよ。」
小夜が名乗りを上げる。
「小夜先輩ですか?」
「ああ、純が行くのなら私も行かないと。」
どういう理屈かはわからないが、取り敢えず小夜と純は抱き合わせという事か。
「僕も、だ。」
真二も名乗りを上げる。
「分かりました。じゃあ、運転は龍が。バスの防衛は巧先輩と佑季先輩が。物資調達一班が純先輩と和馬先輩と小夜先輩。物資調達二班が怜と僕と誠治先輩と真二先輩で行きます。」
全員が賛成し、会議はお開きとなった。
翌日。
昨日とは打って変わった青空の中、装甲車と化したバスが唸りを上げる。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
大樹が門を雄叫びを上げながら開ける。
久々に目にする外にゾンビの姿は無い。
反対側で翼が音を鳴らして引き付けているからだ。
「よし、そんじゃあ行くぜ!」
龍がアクセルを踏み込むと、バスがゆっくりと動き出す。
こうして、商店街遠征が始まった。
バスの中では、誰一人として口を開かなかった。
これから死地へ向かう事への緊張感と恐怖が、それぞれの口を固く閉ざしていた。
きっと戦場に向かう兵士もこんな心持ちだったのだろう。
商店街まではほんの数分だ。
窓ガラスは全て鉄板で覆われているために、外の景色を窺う事は出来ない。
フロントガラスは取り払われ、鉄板で半分が、金網で残りの半分が塞がれ、前方が見える。
ちなみに、先日の龍が爆弾で開けた穴は木で塞がれている。
バスがゆっくりとブレーキをかけ、停止する。
「到着。」
「じゃあ、打ち合わせ通り、一班は東に。二班は西に向けて移動。食料と飲料水、衣服と武器を確保。余裕があれば嗜好品や娯楽品も持ってきて。こまめに物資を置きに来るように。」
「了解。」
ドアもすべて溶接されているため、天井に開けられた穴から這い出す。
「これは……。」
酷い。
その言葉が出ないほど、凄惨な光景だった。
頑丈な門に守られていない地獄絵図を、巧と徹以外は初めて見ることになる。
そんな呆気にとられたメンバーを、巧が一喝する。
「作戦開始!」
その声に押し出されるように、一班と二班がそれぞれ反対方向に移動する。
商店街のメインストリートを、僕はゆっくりと、歩く。
すると、進路上に、一匹のゾンビが歩いてきた。
僕はスリングに、石をセットして、ゾンビの頭を目掛けて投げた。
放たれた石は、遠心力の力を借りて、真っ直ぐに頭に吸い込まれた。
グチュッ、と音がして、ゾンビの脳が弾け飛ぶように撒き散らかされた。
徹がグーサインを見せてくれ、僕は体の緊張を、解く。
その瞬間、僕の頭を何者かに叩かれた。
そして頭をグイッと引かれた。
「痛たたたた!」
「リラックスしてんじゃねえぞ。」
誠治だった。
その三白眼に睨まれて、体が動かせない。
「す、すいません……。」
なんとか声を振り絞って謝罪する。
「……死ぬぞ。」
その一言で、誠治の行動が不器用な優しさであると分かり、頬を綻ばせた。
「先輩ってツンデレですね。」
「は?」
「いや、急にデレたじゃないですか。」
「……お前、性格変わったな。」
「まあ、へたれは卒業しましたから。」
「帰ったら一発ぶん殴る。」
「本当にすいません調子乗りました。」
「……ったく。」
「あ、あれパトカーですよね?」
僕が指差した方角には、血で所々赤く染まっているパトカーがあった。
徹が近づき、様子を窺う。
中には、警官の死体があるようだ。
真二がさらに近づくが動かないので、どうやらゾンビ化はしていないらしい。
駆け寄って、扉を開ける。
「取り敢えず……。」
徹がたどたどしい動きでボディーチェックをし、警官の腰のホルスターからニューナンブを取り出す。
「銃だ。」
徹が持ち上げる様にして皆に見せる。
黒光りする金属の物体は、静かに動き出す時を待っているようだった。
「これ、誰が持つ?」
「では、僕が持とう。」
真二が徹から銃を受け取り、ポケットに入れた。
「じゃあ、この辺りからは分かれて散策しますか。僕と真二先輩、怜と誠治先輩で。」
「行くぞ、怜。」
「はい。」
僕は誠治先輩と共に日光が降り注ぐ道を歩き始める。




