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没落令嬢は決死の覚悟で姫様の初夜を身代わりする ~秘密を守るために逃亡したのに、なぜだかお相手の王子様に捕まり溺愛されています  作者: 新 星緒


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4 ・2 捕らわれたヴァルター

「アラン!」

 フランクが叫んで階段を駆け上がる。

(ヴァルになにかあったの!?)


 エルゼは腕を掴むジーモンの手を振り払うと、フランクのあとを追った。

 すぐに自室の前でアランとヴァルターを見つける。だけれどヴァルターは見たことのない若い男に抱きかかえられて、目をつむりぐったりとしている。そしてアランはその男の足元で気を失っているようだった。


「ヴァル!」

「アラン!」


 駆け寄ろうとするエルゼとフランクに、男は細い棒を向けてなにやら呪文を唱えた。

 ふたりの体は見えないなにかにはじかれたように、後方に吹っ飛ぶ。

 そのわきをジーモンが悠々と歩いて通り過ぎた。


「ジーモン殿。恐らくはこの子供かと。魔力を感じます」

 男がヴァルターをジーモンに見せる。

「ああ。ご苦労だった」

「くっ、下で騒いだのは陽動作戦だったのか。そのすきに忍び込んだんだな」

 エルゼたちとともに駆けつけた事務員の誰かが、悔しそうにつぶやく。


「ヴァルターになにをしたの!」

 全身の痛みをこらえなんとか立ち上がったエルゼだったけれど、魔法で障壁でも作られているのかヴァルターに近づくことができない。


「眠らせているだけだ。魔力が強いようだからな。昨晩も魔力暴走を起しただろう?」

 男が答える。

 一方でジーモンは、閉じられたヴァルターのまぶたを指で押し開いた。

「ふむ。黒髪に黒い瞳。まさかと思ったが、ハインツ王子の子供なのだな」


 ひゅっと息をのむエルゼ。体が小刻みに震え始める。なんとか「……違うわ……」と声を絞り出したものの、かすれてほとんど音になることができなかった。


「エルゼリーナを探してとんだ宝を手に入れたよ」

 ジーモンがエルゼのかつての名前を口にしながら、歪んだ笑みを浮かべる。


「まさかお前が主の夫を寝取るような女だったとはな。反吐が出るが、私の再起には最高の材料だ」

「……違うのよ……」

「なにが違うものか。黒髪黒瞳、強力な魔力。三年前、これらをすべて持つ男でお前のそばにいたのはハインツ王子だけじゃないか。お前が急に王宮から姿を消した理由にも繋がる」


 ジーモンの笑顔が悪魔のように恐ろしいものになる。


「どちらがいいのだろう。連れて行くのはアーデル王女の元なのか、ハインツ王太子のもとなのか」

 再びエルゼは息をのんだ。

「やめて、そんなことをすれば両国間の関係が悪化するわ! あなたの目的にもそぐわない!」

 エルゼは必死に叫んだ。

「そうかな? 存在を隠すことと引き換えにすれば、私の主張をのんでくれると思うが?」


(なんてこと。どうすればいい? どうすればヴァルターを守れる?)

 息子を抱きかかえているのは、恐らくは魔術師だ。それも高位に違いない。魔法の使えないエルゼでは、正攻法では手も足も出ない。二階への侵入も、きっと魔法を使ってのことだろう。

 ジーモン自身も護衛を引き連れてきていることは、先ほど階下に降りたときに確認した。


(私ではふたりに太刀打ちできない。もしヴァルを取り戻して逃げられたとしても、フランクたちが難癖をつけられて処罰される可能性がある)

 必死に頭をフル回転させるエルゼ。


(一番誰にとっても危険が少ないのは……)

 エルゼはごくりと唾を飲みこむ。

(姫様のもとに連れて行かれることだわ)


 彼女なら、エルゼがハインツの子を授かった事情を知っている。

 彼の子どもの出現に狼狽するかもしれないけれど、ヴァルターの存在を隠す協力はきっとしてくれる。


 彼女がいまだにエルゼを探している理由が想像でしかないため、その点が不安ではある。

 アーデルから離れて三年。彼女の現在の状況を、エルゼはなにも知らないのだから。

 

 とはいえ多少の懸念点があとうろも、最善策は姫様の元へ連れて行かれることだ。

 エルゼはそう結論づけ、そのためにはどうすればいいかを考え始めた。


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― 新着の感想 ―
ここまで一気読みしてしまいました…!!エルゼのまっすぐな人柄が好きです。ハインツも愛が深そうで素敵な人…幸せな家族になって欲しいです。
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