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連載版 回帰の剣 ~滅びの王国を救うために俺はもう一度やり直す~  作者: ひだまりのねこ


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第四十一話 千年前の真実


 帝国軍は、ワラキアとの戦いにおいて致命的な敗北を喫した。


 参謀グレゴリウスが討たれ、魔族、そして――――帝国軍の主力である多くの魔将軍をも失った。指揮系統が崩壊した帝国軍は混乱を極め、なりふり構わぬ撤退戦ではワラキアの追撃隊に徹底的に蹂躙された。


 皇都アギオンの玉座の間――


「グレゴリウスを失い、戦線は大幅に後退……か」


 帝国皇太子 ルキウス・イグナート は報告書を静かに読んでいた。最終的に七割の兵を失い、苦労して奪ったワラキアの拠点まで奪還されてしまった。根本的に戦略を見直す必要があり、今回の敗戦で事実上ワラキア攻略は失敗ということになるだろう。


「ふん……だから言ったのだ、功を焦るなと」


 赤い帝国の軍服を纏い、鋭い瞳を持つ青年。その顔は冷徹でありながら、その内には 炎のような野心が燃えていた。


「多少痛いが想定の範囲内だ。むしろ私も動きやすくなるかもしれないな」


 邪魔な参謀が消えてくれたことで、思っていたより早くこの手で帝国を完全に掌握できる。敗北は痛むが、血の代償なくして完全なる支配は得られない——今こそ、帝国に真の秩序をもたらす時だ。

 

 ルキウスは視線を上げ、周囲に控える部下たちに告げる。


「覚えておけ、帝国に誇りなど必要ない。必要なのは結果だ、最後に立っていた者が勝者だ、そのためには利用できる者はすべて利用しろ。勝てると確信するまで手を緩めるな」


 彼の言葉に、帝国軍の将校たちは背筋を正した。


「ふふ、面白くなってきたな、だが――――最後に勝つのはこの私だ」


 ここに、回帰前の世界で王国を滅ぼしたカイン最大の宿敵が、歴史の表舞台へ立つのであった。



 戦場の余波が収まった頃――――カインは魔族の生き残りたちの元へ足を運んでいた。


「具合はどうだ?」

「本調子からは程遠いが……それでもあの胸糞悪い腕輪よりは百倍マシだ」


 魔族のリーダーらしき男が苦々しげに吐き捨てる。彼らは、隷属の腕輪が破壊されることで帝国の呪縛から解かれ、正気を取り戻していた。腕輪の支配から解放された魔族の身体からは闇の霧のようなものが抜け落ち、瞳の色が本来の澄んだ金色へと戻っている。


「そうか、治療してやれなくてすまない、神聖魔法や治癒魔法はお前たちには毒だからな」

「気にするな、この程度の傷ならすぐ治る」


 魔族の頑丈さ、生命力の強さは人族とは比べ物にならない。腕を斬り落とされてもしばらくすれば生えてくるというまさに人外である。


 だが――――カインは不思議に思っていた。魔族が邪悪でないのなら、なぜ女神の力である神聖魔法がその身を焼くのだろうかと。

 

「なんだそんなことか、それはな――――俺たち魔族が魔神を滅ぼすためヤツの力をこの身に取り込んだからだ。このような異形の姿になったのもその影響だな、それでも抑えきれなかった力を暴走させないために我らは自らを封印する道を選んだ」


 事も無げに言い放つ魔族のリーダーだったが、それが本当ならとんでもない話だ。


「そう……だったのか」


 魔族とは魔神を倒すために全てを犠牲にした本来称えられるべき勇者たちであったのだ。カインは何も知らなかった己を強く恥じる。



「ところでカイン――――だったな、なぜ我らを助けた?」


 カインが魔族を助けたのには二つ理由がある。


 一つは女神の神託――――『姫を救い魔族の名誉を回復せよ』


 最初、意味がわからなかったカインだったが、仮死状態から回復した魔族が教えてくれたのだ。魔族は――――伝説に伝わるような悪でもなければ敵でもない。人魔大戦とは――――人族と魔族の戦いではなく、全ての亜人種と邪悪な魔神との戦いであったのだと。


 その戦いにおいて、魔族の姫は最も重要で危険な役割を果たした。魔神を滅し力を使い果たした姫を助けて欲しいと懇願されたのだ。


「そうか……ライグナートは生きていたんだな。なあカイン、お前は姫のことをどこまで知っている?」

「すまないが何も知らない」


 女神が救えと命じるほどの人物だ、悪人なはずがない。だが――――カインは魔族のことも、姫のこともほとんど何も知らなかった。


「姫が魔神を滅したのは聞いただろう? あの方は……文字通り全てかけたんだ、強靭な肉体と精神を持つ我ら魔族ですら発狂するほどの瘴気を――――たった一人でその大部分を自ら取り込んだのだ。すべては大陸の平和のために――――すべてを託してあの方は魔神と刺し違えたんだ。だが――――」


 魔族のリーダー、アストリオンは激昂する。


「そんな姫を……命を削りながら大陸を救った我々を襲ったのは、共に戦ったはずの人族だった。信じていた背中から浴びせられる刃、守るべきはずの大地からの拒絶——その瞬間、我々の誓いは崩れ去った」

「なんて酷いことを――――」


 カインは絶句する。もしカインが同じ立場であれば、きっとそいつらに復讐し、滅ぼしてやろうと思うに違いなかった。それが共に戦った仲間であったならば尚更だ。


「ああ、俺たちもそう思ったさ、だがな――――姫は、最後まで争いを望まなかった。魔神の力を吸収した俺たちなら、簡単に人族を滅ぼすことは出来た、だがそれをしたら魔神と何が違うのかって姫は言ったんだ……弱いからこそ強大な力に恐怖を抱くのは当然、魔神の恐怖を刻み込まれた当時の人々の一部がそういう行動に出るのは理解できるとな。姫は最後の力を振り絞って魔族という存在自体を封印した。魔神の力が弱まるのを待つと同時に、人々の記憶から魔神の恐怖が薄れ、穏やかで平和な時代が来ることを期待して――――そして長い年月をかけて少しずつ――――力を取り戻し、いつの日か共に笑って暮らせる時代が来ると信じて眠りについたんだ」


 アストリオンの話を聞いたカインに――――もう魔族に対する恐怖や偏見は残っていなかった。魔族も人族も何も変わらない同じ心と魂を持った存在なのだとわかったからだ。そして――――それ以上に、そんな心優しく高潔な姫を助けたいと願う彼らの想いに痛いほど共感していた。


「アストリオン、君たちの願いは姫を助けることだな?」

「その通りだ……我らの命に代えてもあの方を救わなければならない。だから――――頼む、助けてもらった立場でこんなことを頼める義理ではないのはわかっている……だが、頼む、姫を助けたいんだ、助けに行かせてくれ!!」


 一斉に頭を下げる魔族たち。


「俺も同じ気持ちだ、帝国に囚われている魔族の姫を助けたいと思う。やつらはこうしている間も姫の力を使ってこの世界を支配しようとしている。君たちのことも都合の良い道具としてしか見ていなかった、そうだろ?」

「その通りだ……我々は、帝国に利用され、ここで死ぬはずだった……カイン、勝手な行動を見逃してくれるのか?」

「もちろんだ。だが――――」


 カインは真っ直ぐ魔族の戦士たちを見据えた。


「帝国を倒し、姫を救うには、今のままでは力が足りない。焦る気持ちは痛いほどわかる――――だが、衝動では誰も救えない。戦うならば、確実に勝つための力とタイミングを得てからだ。だからこそ、俺は誓う……魔族の誇りを取り戻し、姫を救うために、この剣を振るうと」


 一瞬の沈黙――そして、魔族のリーダー、アストリオンが拳を掲げる。


「わかった、我らはカインに従う。共に戦おう!!」


 こうしてカインは頼もしい仲間を得るのであった。

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