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連載版 回帰の剣 ~滅びの王国を救うために俺はもう一度やり直す~  作者: ひだまりのねこ


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第四十話 歴史の転換点


「はあ……はあ……!!」


 その少女はまるで伝説の剣聖のようであった。体格で劣るにもかかわらずその動きや技の切れは尋常ではない。彼女の前には倒された帝国軍の精鋭が何人も倒れている。


「なんなんだコイツは……」

「バケモノだ……」


 すでに彼女を侮る者はいない。だが――――それはイヴァリスにとって決してプラスにはならない。ここからは相手も本気でかかってくるに違いないからだ。


「落ち着け、もう息も上がっている。このまま疲れさせれば問題ない」

 

 ここに来るまで戦い続けてきたイヴァリスと違い、敵は体力に余裕がある。いくら強くとも人間である以上体力には限界があるのだ。距離を取られて持久戦に持ち込まれたら勝ち目はない。


「馬鹿野郎、小娘一人相手になに悠長なこと言ってやがる、さっさと片付けて大将を狙ったヤツを追うぞ!!」


 イヴァリスにとって幸いだったのは、敵側の意思統一が出来ていなかったということだ。


 そして――――もう一つ、連中が下衆揃いだったということ。


「顔には傷つけるなよ」

「へへ……わかってるって」


 イヴァリスの美貌に男たちの醜い欲望が集中する。


 すべての敵を倒すならば命をかけなければならなかっただろう。歴戦の強者であっても肉体はまだ未熟な十四歳なのだ。


 だが――――そうではない。イヴァリスは信じていた、カインは必ず大将を倒し戻ってくると。だから――――それまで持たせればいい、勝つ必要はないのだ。


 無心で剣を振るう。聖剣ムーンステリアは重力を操る。イヴァリスが振るえば羽根のように軽く、敵に当たれば岩のように重くなる。


 イヴァリスは気付く、隣にカインが居ることがどれほど大事だったのか。常に居て欲しいタイミングでそこに居てくれる、呼吸をするように息が合う。


 カイン――――カイン――――お前がいない戦場はこんなにも虚しく冷たいt。


 剣を振るうたびに指先が痺れ、背中が鉛のように重くなる。呼吸をするたびに胸が軋み、視界が霞むように揺れる。膝はすでに支えることを放棄し、立っていることすら奇跡に思えてきた。だが、倒れるわけにはいかない。カインが戻るまで——この戦場を守らなければならない。


 嫌でもあの時を思い出すな……回帰前の最期の刻を――――


 だが――――もう二度と繰り返さない、二人でそう誓ったんだ――――

 

 だからカイン――――早く戻ってこい。




「相手は一人だ、数で押し込め!!」


 とうとう敵も余裕が無くなってきた。


 連携し同時に襲い掛かってくる。呼吸を整える暇さえ与えてはもらえない。



「そろそろ頃合いか――――浮空剣舞・天翔歩!!」


 イヴァリスは空を蹴って天空を舞うように身を翻して一旦距離を取る。


「カインに負担をかけるわけにはいかないからな」


 紫水晶の瞳が輝き、ムーンステリアが銀色の輝きを放つと――――イヴァリスの周囲に青白い魔力の光 が集まる。


 地面には 月の紋様が刻まれ、魔力陣が形成される。


 一閃――――ムーンステリアが 天へと振り上げられる。


「《月華葬陣》!!」


 次の瞬間、まるで月光が戦場全体に降り注ぐかのように無数の斬撃が大地へと突き刺さる。月光の刃は幾重にも反射しながら重なり、その残酷なまでに美しい光は天からの裁きのように容赦なく敵を撃つ。


 光の剣によって周囲に居た数百人規模の敵兵は貫かれ、一気に無力化されてしまう。


「……どうやらここまでか」


 広範囲の殲滅技は威力も大きいが消耗も激しい。イヴァリスはもはや身体を支えることも出来ずに大地に身体を投げ出す――――


「お待たせイヴァリス」

「いや、今ちょうど終わったところだ」

 

 カインの腕に身を任せながらイヴァリスは笑うのだった。



「呪詛が……解かれた……」


 聖女ルミナスが 静かに目を開いた。その瞳は赤く煌めき、かすかな光を放つ。まるで夜明けの光が差し込むように彼女の肌に血の気が戻り、その頬が穏やかに色づく――――その瞬間、まばゆい聖光が彼女の周囲に広がり、空気が震える。まるで、この場に新たな命が誕生したかのように。


 彼女を覆っていた死の呪縛――それが、今や完全に消滅した。同時に聖女の力によって仮死状態が解除されたのだ。


「ルミナスさま!! 呪詛が消えたんですね!!」


 イザベルがへなへなと崩れ落ちる。ギリギリの賭けだった、実際イザベルの気転が――――それに応えたルミナスの信頼と覚悟がなければ間に合わなかっただろう。


 だが――――彼女たちは諦めなかった。


 そして――――カインたちはその想いを背負って見事に呪いを打ち破ったのだ。




「レオニウスさま!! 帝国軍は総大将を失って総崩れとなりました。そして――――ルミナスさまの呪詛も解呪に成功したとのことです。現在全軍で追撃を行なっております。我がワラキアの大勝利です!!!」


 転移ゲートによって五大都市から集められたワラキア軍の精兵五万は、退却する帝国軍を徹底的に追撃し完膚なきまでに撃破した。


 歴史的な勝利に沸く公都ノクティア、聖女の帰還、新たな英雄の誕生、対帝国軍事同盟――――


 新たな時代を告げる歴史の転換点、 


「これから忙しくなりそうだな」


 ワラキア公レオニウスは頼もしき若き英雄たちを迎えるため奔走するのであった。




 ワラキアの勝利は確定した――――だが、すべてが終わったわけではなかった。


 激闘の余韻が地を這うように残り、焦げた大地と崩れた城壁が、帝国軍との壮絶な死闘を物語っている。


「……おかえりなさい、カインさま」


 聖女ルミナス、彼女の瞳には少し疲れた様子のカインが映っていた。


「ただいま戻りましたルミナスさま」

「大変、傷だらけではありませんか」


 ルミナスは慌ててカインの傷を癒す。神聖魔法の癒しは治癒魔法と違って傷だけでなく体力や気力まで回復する。初めて体感したカインはその力に驚きつつも彼女の手を取って心配そうに視線を向ける。


「神聖魔法……使って大丈夫なんですか? つい先ほどまで死ぬ寸前だったって聞きましたよ」

「はい、もう大丈夫です。というか……もう散々使ってますから今更です」


 どうやらルミナスは、意識を取り戻してすぐにワラキア軍の治療に奔走したらしい。その様子が想像出来てしまいカインは彼女らしいな、と苦笑いする。


 実際、ギリギリの戦いだった。


 結果は大勝したが、全ての局面で一歩間違えれば負けていたのはワラキアだったかもしれない。ルミナスを含め、誰一人欠けていても駄目だった。まさに総力戦、仲間の絆の勝利であった。



「カイン……私、諦めませんでした」

「俺もです、貴女を絶対に助けるんだと信じて剣を振るいました」


「ありがとうございます、貴方のおかげで私は生きています」

「俺を動かしたのはルミナスさま――――貴女のその強い想い――――勇気――――その生き様です。だから貴女を生かしたのは俺じゃない、こちらこそ礼を言います、貴女がいたから俺は限界を超えて戦うことが出来たんです。貴女と出会えたから俺は――――救われたんです」


 ルミナスの目から大粒の涙がとめどなく零れる。瞳は震え、言葉にならない想いが溢れている。その表情には、以前の悲壮感はもうない。今の彼女は、かつてのように自分の命を捨ててでも戦う聖女――――ではなく、ただ純粋に一人の少女として「生きよう」としていた。


「カインさま、私――――」


 伝えたい言葉、想い――――が星空のようにあふれてカタチにならない。


 カインは嗚咽するルミナスの肩を――――そっと抱く。壊れてしまわないように優しく、零れてしまわないようにその華奢な身体を包み込む。



「カインさま……また会えるでしょうか?」


 じきカインは王国へ戻ることになる。物理的な距離、互いの立場、国際状況、二人が再会出来る可能性は決して高くない。これが今生の別れとなるかもしれない。


「大丈夫、貴女と出会ったのは偶然なんかじゃない、進む先はきっと繋がっている、俺は信じているんです。未来は重なっていると。だから――――同じ時間を――――同じ景色を重ねましょう。ルミナス、俺の隣で――――共に人生を歩いてください」


 その言葉にルミナスは真っ赤になる。


 それって――――完全にプロポーズじゃない。


「……はい」


 ルミナスは赤い顔を隠すようにカインの胸に顔を埋めた――――彼の鼓動が静かに彼女の耳に届いて温もりが全身に染み渡る。その瞬間、彼女の心は小さく震えた。これが愛なのか? それとも運命なのか? ただひとつわかったのは――――もう、彼を離したくないという偽りのない気持ちだった。



「……カインさまって無自覚系天然たらしですよね」


 実はイザベルもすぐ近くにいたのだが、二人があまりにも良い雰囲気なので出るに出られず盗み聞きしているような格好だ。


「私にも言ってくれないかしら?」


 イザベルは赤い顔でそう呟くのだった。

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