第3章 菜の花色の夕暮れ(夏目ホノカ編)前編
秋。夏目さんとの作曲は順調に進んでいる。けれどその順調な反面、引っかかることがある。初杉さんの言葉が気になる。夏目さんはあの獣について何かを知っている。それを聞けずにいた。初杉さんは聞かなかったことにしてと言っていたが、やっぱり気になる。いつか聞いてみようと思いながらも、僕たちは音楽室にいた。
六郭星学園 音楽室
真瀬莉緒
「日に日に上達していってますね。」
夏目ホノカ
「ありがとうございます。私もできる限りの力を振り絞っていきます。」
真瀬莉緒
「はい。…………順調に進んでいますね。」
僕は、一瞬だけ獣のことを聞こうとしたが、言うことができなかった。
夏目ホノカ
「真瀬さん…………?」
真瀬莉緒
「えっ…………。ああ。すみません…………。」
夏目ホノカ
「ご気分が悪いようでしたら、今日はこの辺で切り上げましょうか?」
真瀬莉緒
「…………そうですね。このままやっても逆効果になるかもしれないですからね。」
夏目ホノカ
「では、切り上げましょう。今後の練習が華やかなものになりますように。」
真瀬莉緒
「はい。では…………寮へ…………。」
??
「ここにいたんですね。探していましたよ。」
真瀬莉緒
「来川さん…………!」
音楽室に入って来たのは来川さんだった。でも、探していたって一体…………?
真瀬莉緒
「あの、探していたって?」
来川ナナ
「はい。真瀬さんではないんですけど、夏目さんに会長から生徒会室に来て欲しいと…………。」
真瀬莉緒
「伊剣さんから?…………夏目さん。伊剣さんから呼び出されていますよ。」
夏目ホノカ
「えっ…………ああ…………その…………。」
伊剣さんの話になると、どうも夏目さんの調子が狂っている。
真瀬莉緒
「あの…………もし良ければ、僕も行きましょうか?」
夏目ホノカ
「え…………?良いんですか?」
真瀬莉緒
「夏目さん、なんだか調子が悪いみたいですし…………。」
夏目ホノカ
「ありがとうございます。では…………よろしくお願いいたします。」
真瀬莉緒
「では、行きますか。」
六郭星学園 生徒会室
真瀬莉緒
「失礼します。」
伊剣タイガ
「ああ。きみか。ホノカと一緒に来てくれたのか。」
夏目ホノカ
「はい…………色々とありまして…………。」
夏目さんは気づいていないのか、降ろしている右手が震えている。大丈夫だろうか…………?
真瀬莉緒
「夏目さん…………?」
夏目ホノカ
「あっ…………すみません。それで…………伊剣会長。お話とは…………?」
伊剣タイガ
「ああ。話なんだが…………今でも生徒会に入る気はないのかい?」
夏目さんが生徒会に…………?
夏目ホノカ
「伊剣会長。…………生徒会には入るつもりはありません。」
伊剣タイガ
「そうか…………やっぱりか…………。」
真瀬莉緒
「あの…………何故、夏目さんを生徒会に…………?」
僕は疑問に思ったことを口にした。
伊剣タイガ
「ああ…………それは…………。」
夏目ホノカ
「伊剣会長。余計な話はしないでください。」
伊剣タイガ
「……………………そうか。」
夏目さんは珍しく強い口調で止める。
夏目ホノカ
「行きましょう。真瀬さん。」
真瀬莉緒
「あっ…………。はい…………。」
言われるがままに僕たちは生徒会室をあとにする。
六郭星学園 食堂
真瀬莉緒
「良かったんですか?…………生徒会のことは?」
夏目ホノカ
「良いんです。真瀬さんのラーメン…………のびますよ。」
真瀬莉緒
「ああ。そうですね。」
僕たちはラーメンを食べる。
夏目ホノカ
「ごちそうさまでした。」
真瀬莉緒
「ごちそうさまです。」
夏目ホノカ
「このあとはどうしますか?まだ時間もありますし…………。」
真瀬莉緒
「ああ…………このあとはメルマの配信がありますので…………。」
夏目ホノカ
「メルマさんの配信ですか?面白そうですね。ご一緒しても良いですか?」
真瀬莉緒
「良いんですか?…………じゃあ、部屋に行きましょう。初杉さんは今日は夜遅いと言っていますし。」
夏目ホノカ
「わかりました。お言葉に甘えて…………。」
僕たちは寮の部屋でメルマの配信を見ることにする。
六郭星学園寮 莉緒・ジロウの部屋
夏目ホノカ
「あら…………?部屋が汚れてますね。」
真瀬莉緒
「ああ。すみません。」
初杉さんとの共同部屋に入ると、洗濯をしていたシャツが干してあった。
夏目ホノカ
「これは…………働きがいがありますね。メルマさんの配信もまだですし、洗濯物も乾いてますので、畳んでおきましょう。」
真瀬莉緒
「すみません。ありがとうございます。」
夏目ホノカ
「真瀬さんも手伝ってください。我々のモットーは助け合い。こんなときでもやるんですから。」
真瀬莉緒
「夏目さんが言うのなら…………わかりました。」
僕たちは洗濯物を取り込む。それにしても初杉さんのシャツは色とりどりの無地のシャツだ。
赤色や青色などの色は1枚だけだが、藍色は4枚ある。
真瀬莉緒
「初杉さんは藍色が好きなんですかね?」
夏目ホノカ
「ジロウのことですか?確かに彼は藍色が好きです。私も藍色が好きなので、仲良くさせてもらっています。」
真瀬莉緒
「素敵なことですね。」
初杉さんのシャツを取り込む、夏目さんは少しだけ意気揚々としていた。
夏目ホノカ
「はい…………出来ましたね。そろそろメルマさんの配信も始まりますので…………。ソファーに座りましょう。」
真瀬莉緒
「はい。…………楽しみですね。」
そう言うと、メルマの配信が始まった。




