第3章 柑子色の落ち葉を踏みながら(浦川アイク編)後編
六郭星学園 音楽室
音楽室に戻って来た私たちはいきなり本題に入る。
真瀬志奈
「教えてください。あの獣について。」
浦川アイク
「ああ…………あの獣についてだが…………俺も噂でしか聞いたことないが、元は…………人間らしい。」
真瀬志奈
「獣が…………人間…………?」
浦川アイク
「ああ。どうやら研究で人間が、獣にするということをしているらしい。」
真瀬志奈
「そんなひどいことを…………。どうして浦川さんが知っているんですか?」
浦川アイク
「…………この件を初めて知ったとき、俺はその研究に憧れを持った。」
真瀬志奈
「憧れ…………。」
浦川アイク
「俺と…………小鳥遊カルマ。憶えているか?」
真瀬志奈
「小鳥遊カルマ…………あの食堂にいた人ですね。お知り合いに見えましたが…………。」
浦川アイク
「あいつとは確かに知り合いだ。俺と同じで獣に憧れを持っている。でも、あの獣のことについて知っていくにつれて、俺は…………強い嫌悪感を抱き始めた。小鳥遊はそれでも変わらずに憧れていた。…………つい最近までは。」
真瀬志奈
「小鳥遊さんも憧れるのをやめたんですね。」
浦川アイク
「ああ。けど、あいつのほかにもう1人、憧れを持った奴がいてな。そいつは今はどうかわからないが…………。」
真瀬志奈
「その人は…………どういった方なんですか?」
浦川アイク
「そいつは中二病で、腕に包帯を巻いている。そんなやつだ。」
真瀬志奈
「そうですか…………なんとなく、わかりました。」
その人は学園でも有名な人なので、私でも分かった。
浦川アイク
「憧れを持ってしまった…………。それで中神は俺たちを嫌うのだろう。おそらく春井も…………。」
春井リカコ
「アイク…………。」
真瀬志奈
「春井さん…………!?」
浦川アイク
「春井…………。聞いていたのか?」
春井リカコ
「ええ。はっきりと…………ね。」
春井さんは浦川さんに近づく。
春井リカコ
「アイク。私はあなたのことが許せなかった。けど、迷いがあった。なかったことにしようとも思った。突き詰めてやろうかと思った。けど、アイクに後悔の一面があったとは…………。まだ、ギスギスするかもしれないけれど…………信じてみようと思う。」
真瀬志奈
「春井さん…………!」
浦川アイク
「春井…………感謝する。…………ありがとう。」
春井リカコ
「…………それで?…………これから作曲のアレンジでもするの?」
真瀬志奈
「そうですね。これから演奏をします。」
春井リカコ
「そう。…………じゃあ。」
そう言って、春井さんは音楽室を離れた。
真瀬志奈
「では…………アレンジを聞かせてください。」
浦川アイク
「ああ。これが…………俺の考えたアレンジだ。」
浦川さんは得意の楽器で、アレンジを演奏する。
真瀬志奈
「浦川さん…………お見事です。」
何も文句のつけどころがなかった。それくらい演奏がとても素晴らしかった。
浦川アイク
「次は真瀬の番だ。…………頼む。」
真瀬志奈
「はい。…………では。」
私は演奏に取り掛かる。
演奏が終わり、浦川さんの顔には笑みがあった。
浦川アイク
「さすが…………真瀬志奈だ。見込んだだけのことはある。」
真瀬志奈
「ありがとうございます。このアレンジ…………最高です。」
浦川アイク
「そう言ってくれると嬉しくなる。ありがとう。」
真瀬志奈
「では…………このアレンジで完成で良いですか?」
浦川アイク
「良いのか…………?俺のアレンジで…………?」
真瀬志奈
「はい。もちろんです。私は浦川さんの想いを描いたアレンジでみなさんに聞いてもらいたいと思います。」
浦川アイク
「…………わかった。あと、1つだけお願いがあるんだが…………。」
真瀬志奈
「お願いですか?」
浦川アイク
「この曲は声優歌唱祭で歌われるものだ。無論、歌詞も書かなければならない。」
真瀬志奈
「そうですね…………急いで歌詞を書かないと…………。」
浦川アイク
「いや、ここは俺に書かせてくれないか?どうしても書きたい内容があるんだ。」
真瀬志奈
「浦川さんが書くんですか?…………良いですよ。どんな内容ですか?」
浦川アイク
「……………………。」
浦川さんは少し口ごもる。
浦川アイク
「…………すまない。それは秘密にしたい。真瀬には申し訳ないが、当日までの楽しみにして欲しい。」
真瀬志奈
「浦川さん…………。わかりました。浦川さんのことを信じます。」
浦川アイク
「すまない。感謝をする。期待していてくれ。」
真瀬志奈
「…………はい。」
そして私たちは、アレンジした音源を、とにかく練習を夜まですることにした。
浦川さんとの、残り少ない学生生活…………楽しみます!




