第3章 柑子色の落ち葉を踏みながら(浦川アイク編)前編
秋。浦川さんとの作曲の練習は充実しているが、あの獣の騒動以来、学園の警備が厳重になった。外出の許可も難しくなっている。夏目さんも浦川さんも何かを知っているみたいだけど、私は浦川さんにそのことを聞けずにいた。私は今後の浦川さんとの作曲のやりとりを考えるため、食堂で浦川さんのことを待っていた。
六郭星学園 食堂
真瀬志奈
「……………………。」
私はコーヒーを飲みながら、待つこと数分。浦川さんではなく、春井さんがやって来た。
真瀬志奈
「春井さん?」
春井リカコ
「何よ…………。誰かを待っているの?」
真瀬志奈
「はい…………浦川さんを…………。」
春井リカコ
「はぁ…………人を待たせるなんて、あいつもひどいわね。」
真瀬志奈
「そんなことはないです!」
私は思わず声を上げてしまう。
春井リカコ
「…………そう。…………なら良いけど。」
真瀬志奈
「それより春井さん。許可取らずに外出しているみたいですね。何かあるんですか?」
春井リカコ
「あなたには関係ないわ。」
真瀬志奈
「そんなことはないです。同じ部屋の人間です。責任は連帯責任になります。」
春井リカコ
「……………………仕方ないわね。そこまで言うなら勝負をしましょう。」
真瀬志奈
「勝負…………?」
春井リカコ
「私が負けたら、あなたの言うことは聞くわ。あなたが負けたら、何も聞かないで。」
真瀬志奈
「……………………わかりました。では、勝負しましょう。」
私は春井さんと、勝負をする…………。
勝負の結果は私の勝ちだった。
真瀬志奈
「勝ちましたね。許可取らずに外出はしないでくださいね。」
春井リカコ
「…………仕方ないわね。大人しく従ってあげる。」
真瀬志奈
「ありがとうございます。」
春井リカコ
「…………あいつも来たことだし、私は部屋に戻るわ。」
春井さんは食堂から部屋に帰る。春井さんと入れ替わるかのように、浦川さんがやって来る。
浦川アイク
「ああ。すまない。遅くなった。」
真瀬志奈
「浦川さん。お疲れ様です。」
浦川アイク
「今後の作曲のやり方について色々考えているんだろ?俺も考えていることがあったから、今日は色々と話し合おう。」
真瀬志奈
「はい。お願いします。」
私たちは今後の作曲の展望について話し合う。多少の食い違いもあったが、着地点を決め、何とか解決した。
熱い会話が続いたのち、休憩に入ることになった。
浦川アイク
「何とか折り合いはついたな。休憩でどこかに出かけたいが、あまり出歩くのを認めてもらえなくなったからな…………。」
真瀬志奈
「あっ…………。それで浦川さんに聞きたいことがあるんですけど…………。」
浦川アイク
「聞きたいこと…………。…………申し訳ないが、ことが来るまであの件は聞かないで欲しい。」
真瀬志奈
「あの件…………やっぱり獣のことで何かを知っているんですか?」
浦川アイク
「……………………。」
浦川さんは口を滑らしたらしく、少し動揺している。
真瀬志奈
「一体何が…………。」
浦川アイク
「言っただろう。ことが来るまで聞くなと…………。」
真瀬志奈
「…………わかりました。でも、ことが来たら教えてほしいです。」
浦川アイク
「ああ…………。」
浦川さんは少し肩を落とし、食堂をあとにした。
真瀬志奈
「それじゃあ、私も…………。」
私は秋風を涼しむため、中庭に向かった。
六郭星学園 中庭
中庭に行くと秋風がとても涼しく心が落ち着いてくる。
真瀬志奈
「ふぅ…………涼しい…………。」
夕涼みをしていると…………謎の光が辺りを包みだした。
真瀬志奈
「な、何…………!?」
光が消えると、そこには1人の男性がいた。
??
「ここは…………中庭か。」
真瀬志奈
「あ、あなたは一体…………!?」
虹谷サイ
「ああ、真瀬志奈さんだね。僕は虹谷サイ(にじや さい)と言うんだ。」
真瀬志奈
「は、はぁ…………。でも、どうして私の名前を…………?」
虹谷サイ
「ある人物を追っていてね…………。その人物を調べてたら名前を知ってね…………。」
真瀬志奈
「そうですか…………。ちなみに、そのある人物とは…………?」
虹谷サイ
「浦川アイク。彼だよ。」
真瀬志奈
「浦川さん…………!?どうしてですか!?」
虹谷サイ
「簡単なことさ、彼は重たい罪を犯した。だから連れて行く。」
真瀬志奈
「浦川さんが…………重い罪を…………?」
虹谷サイ
「という訳で、彼を連れて行くよ。」
真瀬志奈
「待ってください。」
私は思わず虹谷と言う人を止めた。
真瀬志奈
「警察か何かは知りませんが…………浦川さんのことは信じています。あの人が何かを犯したというのは嘘だと思います。なので私は止めます。」
虹谷サイ
「しかし…………。」
真瀬志奈
「お引き取りお願いいたします。私は浦川さんを信じます。」
虹谷サイ
「仕方ない…………ここは身を引こう…………ただ、後悔をしないことだね。」
そう捨て台詞を吐いた。虹谷と言う人を光が包み込む。
真瀬志奈
「くっ…………。」
光が消えると、虹谷と言う人はいなくなっていた。
真瀬志奈
「何だったの一体…………。」
ギギ……ガガ……
真瀬志奈
「えっ……!?」
この耳鳴りは……!?
ギギ……ガガ……
苦しい…………!
再びの耳鳴りに私は意識が遠のいてしまう。
六郭星学園 保健室
真瀬志奈。
「うーん…………。ここは…………?」
目を覚ますと、保健室のベッドで横になっていた。




