逃れられぬ運命
視点戻ります。
「――――つめたっ」
何か冷たいものが顔にあたり、目が覚めた。
まぶたを開くと、目の前にエンの顔が。
「……おはよー」
どうやらエンの鼻が顔にあたって冷たく感じたらしい。
エンの顔を撫で回しながら体を起こすと、みんなの部屋まで寝転がっていた事がわかった。
みんなの部屋との境目に布団を敷いて寝たのだが、なかなか豪快な寝相だったようだ。
さっそく肩に乗ってくるキイロに挨拶しながらダクスを揺り起こし、布団を干す為にテラスに出る。
「みんなおはよ~」
テラスに勢ぞろいしているみんなに挨拶をしながら布団を干す。
念の為温泉とは少し離れた場所にした。蒸気が怖い。
朝食はテラスで食べる事が多いので、マッチャはすでに朝食の準備を始めている。
恐ろしい事に最近はマッチャがお湯を沸かせるまでになっており、食事の支度はある程度任せられるようになっている。
そういや最近自給自足していないな。あれだけハンドメイド女子というワードに興奮していたのに……。
無人島とはいえ、地球時代よりも良い生活をしているという不思議。
「え! それは……、随分待たせちゃったね。ささっとご飯食べて行こうか」
顔を洗って椅子に座り、コップに手を伸ばしたところでボスからお知らせが。
どうもたくさんの人々が、朝早くから海で待っているらしい。たくさん……?
また明日とは言ったが、ある程度の時間を指定しておけば良かった。申し訳ない事をしてしまったな。
朝食を食べおわり、後片付けと着替えの為に1階に下りる。
片付けを終え、クローゼットを開けた時に昨日洗濯をさぼった事を思い出した。
「あー。信徒っぽい服がない」
どうしようかと少し悩んだが、初回の遭遇は成功しているのでなんでもいいかという方向に落ち着いた。
船に乗るのでスカートは避けてパンツスタイルで臨む事に。
「じゃあ行ってきます」
なんとなく手を振りながら上を見上げてチカチカさんに挨拶をする。
チカチカさんも手の振りに合わせて点滅してくれた。
砂浜に着き、タツフグにご飯をあげて船に乗り込む。タツフグよ、すくすく育つんだぞ。
キイロとロイヤルもすっと自然に乗り込んできた。まあもう顔バレはしてるけどさあ……。
「キャン……」
出発しようとすると、マッチャに抱っこされているダクスが切なげな声を出してきた。あと顔。
いつも騒がしくアピールしてきたが、ここで攻め方を変えてきたダクス。
「…………」
無言でボスを見上げ船を動かそうとすると、大きめの切なげな声が後方から――。
「でもなー、全員では乗れないからさー。キイロとロイヤルはもうしょうがないんだけど」
どうせそっと後ろからついてくるんだろうし、という気持と共にやんわりとダクスの『一緒に乗る』を断る。
「フォーン」
「コフッ」
「えっ。うん、まあそうだね。顔バレしなきゃ大丈夫」
2人から、自分たちは大丈夫だからダクスを見えないように連れて行けば? という提案を受けた。
優しいな!
そして何も言ってこなかったエンをちらっと見ると、若干悲しげにその提案に同意してきた。
「じゃあ残りの3人は、もう1つの船に乗って見えないように一緒についてきてもらっていい?」
そうお願いするとエンはさっと武骨な船に乗り込んだ。
しっかりとした造りだから大きめの3人が乗っても大丈夫だろう。
マッチャに洞窟から布を取ってきてもらい、ダクスを膝に乗せて布で隠す。
成人女性は大体ひざ掛け、オシャレ風だとブランケットを掛けたがるから違和感はないと思う。
「ダクス、尻尾揺らさないようにね。じゃあ、ボスお待たせ。お願いします」
たくさんの見た目動物な仲間を引き連れて海に乗り出す様子は、昔話のヒーローのようで少しワクワクした。
島の外に出ると、離れたところに船が何艘か停泊しているのがわかった。
麦わら帽子を被っているので詳しくは分からないが、昨日と同じく他の人の乗っている船からは見えないようにしてくれているんだろうな。
少し待っていると、街の船がすうっと近付いてきた。
先頭は昨日の彼らだとは思うが、今日の2人はやたら布がたっぷりと使われている服を着ていた。
帽子ごしなのでよくわからないが高そう。そして汚れが目立ちそう。
でもファンタジー感出てて良いと思う。
「こんにちは。随分とお待たせしてしまったようで申し訳ない事をしました」
昨日、どんなキャラ口調で話したっけと思い返しながら2人の男性に話しかける。
「いえ。私共にとってはこの上ない名誉な事ですので、お気になさらないでください」
顔を少し俯けて話すのは赤毛の……、そう、カゼノカセルさん。で、もう1人がアルバートさんだ。
でも2人ともチラチラと視線がキイロトとロイヤルに向いている。
そうだよね、船首に仁王立ちの様に勇ましく立ってるもんね。そりゃあしょうがないよ。
「次からは大体の時間もお伝えしますね」
「かしこまりました」
目覚まし時計はないが、みんなに起こしてもらえればなんとかなるだろう。
「神の御使い様、それではさっそくお望みの――」
カゼノカセルさんが色々と説明してくれているが、神のミツカイの名称に気を取られて話が入ってこない。
神の御使いって事か……? ある意味間違ってはいないんだけどなんだかモゾモゾする。
「あの、神の御使いとは……?」
申し訳ないが説明を遮って尋ねる。
「はい。神のお言葉を直接賜れるという事で、誠に勝手ながらそう呼ばせて頂いております」
「はあ、そうなんですね」
まあ、街の人からしたらこっちの内情なんて知らないからしょうがないのか。
そんなもんかなと、つい考え込んでしまうと、不安げな声が聞こえた。
「申し訳ありません! 何かお気に障られたでしょうか……」
「……! いいえ、そんな事はありません。ただ――」
そこで自分の設定の甘さを思い出す。
名前だ。対人関係の基本、自己紹介をふわっとした感じで終わらせてしまっていた。
とっさに名前を考えるが本名はなんとなく避けたい。
そこで思い付いたのは――、
「私の事は、よろしければヤマ・ブランケットとお呼びください」
さっと目に入った、膝にある布を見てそう答えた。
「ヤマ・ブランケット様……!」
2人はひれ伏すような勢いで感激している様子だがそんな大したものじゃない。
2人の様子を見ていると悪い事をしている気分になる。ひざ掛けだよ……?
「カゼノカセルさん、アルバートさん、お話を遮ってしまって……。どうぞ続けて下さい」
さっさと意識をそらすべく話を元に戻す。
「はい。では改めて、こちらがご所望の書物です。申し訳ありませんが、地図に関してはお時間を頂ければもっと詳細なものをご用意致します」
しめされた先には、白を基調とした箱が載せられている船があった。
「ありがとうございます。あの、あなた方の住んでいる街はなんと呼ばれているのですか」
「クダヤと呼ばれております」
「クダヤの街の地図も詳細なものをお願いできますか」
「承りました」
今後街に上陸した際に心強い味方になってくれるだろう。
まるっきり知らない場所を開拓するのも楽しそうではあるが、ファンタジー世界ではぜひとも欲しいアイテムだ。
自分なりのガイドマップを作るのも楽しそう。
地図に関してはこの世界の文化度的に重要機密かもしれないが、私が個人的に活用するだけだから許して欲しい。
「あ、それと……」
「はい」
「頂いた本の為に、書棚も追加でお願いしたいのですが」
「喜んで承らせていただきます。……ヤマ・ブランケット様、よろしければお住いに関して足りない家具等あれば仰ってください。ご用意致しますので」
そう言ってくれるカゼノカセルさん。
それにしても、アルバートさんはまったく話さないな。
「ご好意を嬉しく思います。ですが、ひとまずは書棚だけで十分です」
チカチカさんのレベルアップボーナスが優秀すぎるからな。今後何かあったらで大丈夫だろう。
忘れずに、小さめのものでお願いとも伝えておいた。家に入らなかったら困る。
「かしこまりました。では次にあちらに寝具が――」
そう説明されると、その船がすうっと私の近くまで近付いてきた。
その船は今までの船の中で最も大きく、それに合わせるかの様に載せられている箱も大きかった。
……どうしよう、思ったより大きい。箱と呼ぶのも気が引けるくらい大きい。
これ島に入るのか? 出入り口通れないんじゃ……。
寝具って勝手に、今寝ているあんな感じのを想像してたんだけどそれより確実に大きい。
もしかしてキングとかクイーンとかついちゃうくらいの大きさなのか。
いや、そもそも私の寝具の常識がこちらで通用するわけもない。
あれこれと思い悩んでいると、無言のままのこちらを気にしてかカゼノカセルさんが声を掛けてきた。
「ヤマ・ブランケット様、もしよろしければ中をご覧になりますか」
「……そうですね。お願いしても?」
自分自身であの船に乗り移り蓋を開けて確認する姿を想像するが、信徒キャラからはかけ離れているのでやめた。
「申し訳ありませんが、船を動かしてもよろしいでしょうか」
そうカゼノさんがそうお伺いをたててきたので許可を出す。
私、というかボスの力なんですけどね。
カセルさんとアルバートさんで船を漕ぎ、寝具の船に近寄ってくる。
寝具の船に近寄るという事は私の乗っている船により近付くという事で――。
「グウゥ……!」
突然ダクスが唸り始めた。
「えっ……!?」
思わずこちらを振り返る2人。
「失礼。…………ダクス静かにしてっ」
後半の言葉は、彼らに聞こえないように膝の上のダクスに向けたものだ。
しかし彼らが近付いた気配を察知してか、ダクスがずっと唸り声を上げ続けている。
そしてダクスとロイヤルも、船上で羽をバサバサさせて思いっきり威嚇していた。
「……お気になさらず、どうぞ続けてください」
何事も無いように振る舞う事にした。
「はい」
「は、はい」
2人、特にアルバートさんはチラチラとこちらを見ながら怯えているように見えて申し訳なさが募る。
2人は寝具の船に乗り移り、蓋を開け中のものを見せてくれた。
「こちらが寝具5組です」
そういわれた箱の中に視線を向けると、想像とはそう遠くない敷布団のようなものが入っていた。
問題は、ただ大きいという事だった。それ1枚で何人寝れるんだ? 後でじっくり確認しよう。
「ありがとうございます」
向こうからこちらの顔は見えないがとりあえず笑顔でお礼をしておいた。
「差し出がましいようですが、ヤマ・ブランケット様のお召し物に印されている紋様を刺繍させていただきました」
「紋様……?」
何の事か一瞬分からなかったが、アルバートさんが捧げるように持ち上げてこちらに見せている布団のある部分を見てすべてを理解した。
大きく刺繍されている<H・Y>のイニシャル。
(ひっ……!)
心の中で悲鳴が漏れた。
久しぶりに話題に出ましたが、主人公の名前は『山内 春』です。
なかなか出てこなくてすみません。




