愛
『はる、じゃあ世界を救うヒーローになろう』
チカチカさんの言葉の通り、今私はまさしく世界を救うヒーローのような事をしていた。
「うわ……これもし見つかったら確実に発砲されそう……マッチャの結界があるけど怖いな……」
「はる、時間が無い」
「ちょ、ちょっと! そう焦らされると出来るものも出来なくなりますう」
チカチカさんの言うヒーローというのは、エスクベルでこれまで得たエネルギー、レベルアップ、信仰心を媒体に、島のみんなを憑依させたメタモルフォーゼ『私』の事だ。
力が足りずクダヤでのお別れの際に姿を現す羽目になったが、そのおかげで信仰心エネルギーが大量に集まった。
ありがとうクダヤの人達。でも最後にアルバートさんに泣かされたのは予想外だった。
何もかも中途半端なまま放り出してきてすまんとは思ってるからね。
そして今私はチカチカさんと一緒にエスクベルから瞬間移動し、地球の秘密の研究所とやらに潜入している。
いや~透明すり抜け飛行能力マジ便利。直線距離でばんばん進めちゃう。
場所は「知らない方が幸せ」と言われたので知らないままでいようと思う。
この研究所にいる人達は多種多様な人種なので国まで特定するのは難しいしさ。後が怖いしさ。
「あ、あった農薬サンプル」
目的の倉庫らしき場所には幸運な事に誰もいなかった。簡単すぎる任務。
「結構あるな……よしじゃあこれはエンの力で燃やして――」
マッチャの力も宿っている私はひょいひょいと農薬をひとかたまりに集める事が出来る。
ちなみにダクスのどの能力が私に影響を及ぼしているか聞いたところ、「目がくりっとした」と教えてもらった。
う、うんってなった。
「後は研究データが欲しいな……緑化の役に立つかもしれないし……」
この研究所には二度と同じ農薬を作れないようデータは残さないつもりだが、その情報をどうやって持ち帰ろうか悩む。
万が一ハッキングとかされてデータが流出した場合特定されるのが怖い。
というかその辺りの知識があまりないのでどうしていいかわからない。
「はる、それ大丈夫そう」
「お? さすがチカチカさん、良い案がありますか?」
「とりあえずさっきの電子機器がたくさんあった所に戻ろう」
「えーとあそこか。イエス、サー」
調子に乗っていたらチカチカさんにあごの部分をごしごしされた。熱っ。
何この謎の攻撃……。
で、目的の場所には戻れた。
戻れたが……。
「ブゥン! ブゥン! フウ~!」
なんか変な人がいる。
明らかに日本人じゃない、ローマ字のXの形をした蛍光灯のようなものを楽し気に振り回している変な男がいる。
「……チカチカさん、なんか変なSFコスプレ野郎がいるんですけど。何あのピチピチの服」
「はるの同期」
「んん? あんな同期いませんけど。同じ学校とか?」
しかしあんなインパクトのある男性を忘れるはずがない。
チカチカさんの後ろに隠れながらその男性を観察する。
「この程度のレベルで僕のテクノロジーに対抗できると思ってるのか~?」
やばい、どうしたのこの人。意味不明なんですけど。
「エル、早う終わらせるのじゃ。わらわに残された時間は少ないのじゃ」
ええ……? なんか変なSFコスプレ巨乳スイカ尻美女まで出てきたんですけど……。助けてなのじゃ。
知らず知らずの内に前のめりになっていたようで、チカチカさんの服を掴んで今にも柔道技をしかけそうな体制になっていた。
するとSF美女がこちらを向いた。
「それがあなたの担当する人間なの?」
え、ちょっとキャラ設定おかしい。『じゃ』を貫いて欲しい。
「ええ。そちらも同じ目的ですよね?」
チカチカさんは平然と受け答えをしている。
どういう事だ?
「はる、アレははると同じ目的を持って違う惑星に飛ばされた」
アレの方を向くと、そのアレさんはこちらを向いて口を開けたまま動かない。
「エル、そなたと同じ役目を持った女子じゃ」
そうSF美女が言った途端アレことエルさんは頭を抱えて叫び出した。
「ピュー! 人がいるなら言おうか!? 誰もいないと思ってたから……!」
え、うそ泣いてる……?
「そなたが思い出作りとやらをさせてくれと頼んできたのじゃぞ?」
「臨機応変! 何度も言うけどピューは臨機応変さが足りないと思う! 後その口調も戻していい!」
「そなたがわらわに真っ先にお願いしたのじゃぞ? 巨大な乳房を持った美女の外見のままこの口調でしゃべるようにと」
「あーー!!」
エルさんはこちらをチラチラ見てくるが、ごめん、ばっちり聞こえたんだわ。
初対面の人の性癖を知ってしまったんだわ。いたたまれない。
「……あー山内春です。日本人です。こちらの惑星エスクベルでお世話になっていました」
「……おほんっ。私はエルンスト・キューンだ。オーストリア出身。惑星ピュヒリマヌエカキリで仕事をしていた。お会いできて光栄です」
今さら取り繕っても遅いと思ったが、私もエスクベルでのあれやこれを見られていたら恥ずかしいのでスルースキルを全力で発揮した。
話を聞くと、エルさん達も1番簡単な引き金を阻止しようとここに来たらしい。なんとなく親近感。
SF美女惑星が言うには、チカチカさんが先に来ていたから通り道が出来て移動しやすかったと。
まあ難しい話はあまり聞いてなかったけど。
農薬の研究データに関してはエルンストさんとピューさんがあれやこれやしてくれるという事がわかればそれでいい。
そして手分けして問題の農薬の痕跡をこの研究所から消し去る事に成功した。あっさり過ぎる。
研究員の頭の中までは知らないけど。
「――ひとまず終わりましたね」
研究所を無事脱出して今は巨大な滝の上空に浮いている。虹が綺麗だ。
飛び立つ際にチカチカさんの力が乱れて一瞬姿を見られたが、日本人には見えない姿なので見つかる事はないと思う。お願い、見つけないで。
研究所の誰かが「エンジェル……?」と言っていたのでエンジェルのままでいさせて。お願い。
「ええ、終わりましたね。農薬に関するデータを送りますので連絡先をお伺いしてもよろしいですか? お分かりだとは思いますが、私に犯罪歴はありません。そしてピューにお願いしたあの口調が特別好きだという訳ではなく少し気になる程度の――」
「はあ……」
「そのぎこちない笑顔止めてくれません……!?」
詰め寄られそうになったので反射的にチカチカさんの後ろに隠れたその時、雨が降ってきた。
「――お天気雨だ~」
雨がきらきら輝いているように見えてとても綺麗。
「嬉しくて泣いてる」
「え?」
「はるの言う<地球>さんが嬉しくて泣いてる」
「……そうですか」
お天気雨は<地球>さんが嬉しくて泣いてるんですか。私も嬉しい。
空を見上げると虹が出ていた。滝の虹と空の虹、まるで虹に挟まれているみたいだなと思った。
「――連絡先は私から教えておくわ。時間がないからさようならね」
「ありがとうございました。エルンストさんも」
「ええ」
消える一瞬の間に見せたエルンストさんの表情がやけに印象に残った。
「……チカチカさん」
とうとうお別れの時が来てしまった。
「チカチカさん……」
伝えたい事はたくさんあるのに言葉にならない。本当にこんな事ってあるんだ。
「チカチカさん、キイロ、エン、マッチャ、ナナ、ダクス、ロイヤル、ボス――」
出会った順番に感謝を込めて名前を呼んでいく。
そして力いっぱいチカチカさんを抱きしめる。
「ありがとうございました……」
「はる」
「はい?」
「はるを愛してるよ」
い、今……?
「はるの命そのものを愛してる」
「女でも男でも……善人でも悪人でも。はるの魂を愛してる」
「あの惑星は人間を愛するなんて馬鹿な事をして結果的にその人間が消えそうになってるけど……」
「少しわかった」
「愛してるよ、はる」
「ここの人生で何があろうと、いつか必ずエスクベルで命を咲かせるようにする」
「だから自由に好きに生きていい。御使いとしてではないけど、いつかは戻れるから」
「はる、またね」
「チカ……!!」
突如として真っ白な光に包まれた。
何も見えない。何かに掴まれているかのように身動きもとれない。
言い逃げされた……!
「私も大好きです……!!」
何もかもわからない状態のまま、ひたすら叫んでいた。
「はるちゃん、ありがとう」
そして<地球>さんの言葉が聞こえたと思った瞬間、私は、地球の自分の部屋に立っていた。
「…………家だ……」
テーブルの上に携帯が置いてある。
液晶の日時を確認すると、私がエスクベルに旅立った日だった。
「……そっかあ……こんなにあっけなく……」
とにかくこうして私は地球に戻ってきた。




