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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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210/216

『ある』より『ない』という事を証明する方が難しい

 






 気が付いたらマッチャに抱えられながらベッドに座らされ、口元にコップが添えられていた。



「あ、ありがと……」



 そのまま一気飲みする。


 そしてマッチャに抱き着きながらふらふらと視線を彷徨わせると、チカチカさんはこちらに近付いてきて私の眉間の皺をそっと伸ばし始めた。


 いつもより優しい、どこか躊躇うようなその動きに、チカチカさんがさっき説明した事がすとんと理解できた。


 島のみんなもそっと寄り添ってくれた。






「……戦争が起きて世界が崩壊……」



 よくある物語の設定のようだ。ありきたりすぎてどこか現実味がない。

 でもそれが実際に地球で起こる。



「あの惑星(ひと)も、何度も人間達に方向転換させようとしてた」


「方向転換……?」


「そう、このままだとどうなるか出来る範囲で伝えてた。預言や伝承、奇跡という形で。時の権力者に都合の良い嘘もあるけど。はるも一度くらいは聞いた事があるはず」


「はい、色々と聞いた事あります」



 そんなの怪しいこじつけだと思って本気に取り合っていなかった。

 本気にする人のほうが少ないと思う。

 でも<地球>さんは何度も降臨したって言ってたな。信じてもらえなかったって。



「たくさんの嘘の中に一握りの真実が紛れ込んでる。今まではその真実を掴み取った人間達が応急措置のような形で休眠期をどうにか回避してた。今回は負のエネルギーが強すぎて難しい」


「そうなんですね…………あれ?」



 ここである事に気がついた。



「難しいって事は……不可能じゃないって事……?」



 そう言葉に出した途端、一気に思考がクリアになった。



「そうですよ……! さっきチカチカさんは休眠期に入る可能性(・・・)があるって言ってた! まだ確定した未来じゃない……!?」



 眉間の皺を伸ばしていたチカチカさんの手をばっと握りしめる。



「そうですよね!?」


「そうだね」



 チカチカさんは手を握り返してくれた。



「応急処置でも何でも構いません! あの、私に出来る事はありますか!?」


「何の力もないはるが?」


「い、今は無いですけど……そうだ! 世界規模の争いってすぐですか!? 引き金って!?」



 ぐいぐいチカチカさんを質問攻めにしていると、両こめかみを掴まれて頭をぐいっと離れされた。

 いつものチカチカさんだ……!



「そう遠くない未来。引き金は色んな所に転がってる」


「その引き金のうち1つでも起こらないようにする事が私でも出来るかもしれません! それって教えてもらえますか?」


「はるが阻止するの?」


「はい! あ、あの、出来るだけ難易度が低い私でも生きている間に達成できそうなやつが良いとは思ってます! いきなり痛いとか怖いとかじゃなく阻止できる引き金はありますか?」


「それ誇らしげに言う事じゃないけど」



 そう言いながらもチカチカさんは私の頭を撫でている。このツンデレさんめ。


 そのチカチカさんは少し考えるそぶりをしている。

 考え込むチカチカさんなんて初めて見た。でも違う惑星の事だしそんなにすぐにはわからないんだろう。


 邪魔をしないように、とりあえず撫でられるままじっとする。



「――1番簡単なのは、砂漠化を止める事」


「さ、砂漠?」



 それ全然簡単じゃないんですけど……。壮大過ぎるんですけど。



「効率、儲けを重視した考え方から生み出された農薬がある。それが偶然にも土壌のある成分と結びついてゆくゆくは緑を枯らす。それは周りの土地にもじわじわ広がってる」


「広がってる?」


「使えば使うだけ。試作段階だから人間はまだ気づいていない」


「最近できたんだ」


「砂漠が広がるとまだ無事な土地の奪い合いが起こる」


「それで争いが……」



 じわじわ破滅に向かうっていうのも怖いな。



「あの、つまりその農薬をこれ以上使わせないようにすればいいんですよね? そこから緑化を目指す感じで……」


「そう」


「どうやって……?」



 まさしくそこが問題。


 地球では私なんて神の使いでもなんでもないし、最強保護者達の力も当てにできない。

 何の影響力もないただの日本人だ。


 しかもぐずぐずしている内にどんどん被害は拡大する。



「……ちなみに他の引き金はどんなのがありますか?」



 惑星判断では砂漠化阻止が1番簡単かも知れないが人間目線では違うかもしれない。



「地軸変動による隕石落下、要人暗殺からの報復合戦、人工知能の暴走あとは――」

「あ、もういいです大丈夫です砂漠化阻止します」



 より取り見取りの引き金なんですけど。全然些細な出来事じゃないんですけど。

 農薬開発を阻止するのが1番優しい、正解。



「チカチカさん、どこの国の誰が農薬計画を進めているのか教えてください」



 ある程度発展した国だろうから飛行機で行ってまずは敵情視察だ。どっかの企業かな? 日本だと楽なんだけど。

 後はSNSで噂をばらまいて世論を動かすか。

 貯金残高が心もとないけど世界大戦が起こってしまったらお金も意味をなさないだろうからいやまず休職手続きをしないと――



「誰というか国をあげての計画。秘密の研究所」


「ええぇ……」



 国って、そんなんに牙を剥いたら確実にこっちの存在が危うくなるやつじゃないですか~。やだ~。

 なんで国をあげて農薬を研究してんだ……! 





 駄目だ。良いアイデアが全く思いつかない。

 地球が、地球さんが……。家族が……。



「うっ…………」



 とうとう我慢していた涙が溢れてきた。



「いやだ……なんもできない……秘密の研究所とか……なんだよ……」


「酷い顔」


「だって……ただの日本人がどうやったって…………」



 近づいてきたチカチカさんと島のみんなに涙と鼻水を擦り付けながら泣いていると、チカチカさんがため息をついた。



「はるが砂漠化を阻止しても引き金はたくさん残ってる。それでもやるの?」


「出来る事があるならやりたいです……。ただの自己満足なのはわかってます……。戦争とか嫌だし怖いし……でも地球が生まれ故郷だし……後で物凄い後悔するかもしれないですけど……地球に戻りたいです……」


「もうこっちに戻ってこれないかもしれないけど?」


「それはいやだ~! でも地球に戻りたい~! でもみんなとここでまた会いたい~!」



 エスクベルに残っても地球に戻ってもどうせ後悔するなら地球に戻りたい。


 チカチカさんの服でごしごし顔を拭きながら本格的に泣いていると、頭を高速で撫でられた。

 ちょ、痛い熱い痛い。






「はる、じゃあ世界を救うヒーローになろう」






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