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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録43:予想通り

 



 ヤマ様とのお食事が終わり港に戻ると、いきなり水の族長から怒られた。

 どうやら神の社に小舟が到着していたようだ。

 ヤマ様をお待たせしている事に怒っているようだったので、謝っておいた。

 カセルは笑顔のまま謝っていたので更に怒られていた。ばかめ。



 カセルと2人で船に乗り込み――領主様は風の族長に止められたが――呼び出されたふりをして港に戻る。



「街の代表者全員にお話があるそうです」


「なんですって!?」



 港に戻ると族長はもちろん、バルトザッカーさんも集まっていた。

 結構遅い時間なのだがさすがにヤマ様の事となると素早い。



「もう夜も更けているので明日早くからでも構わないそうですが」


「俺は今が良い!」

「そうね。急いで化粧を直さないと」

「出来たばかりの服があるわ! 着替えないと……!」



 水の族長は着替えたところで布の部分が元々あまりないのでそう変わらないと思ったが、口には出さない。



「全員に話となると……」



 風の族長は何やら不安げに思案しているが、手はしきりに髪を整えている。

 さらさらの長髪なので整える必要もないのだが。


 技の族長とバルトザッカーさんは「水を浴びてくる」とさっと出て行った。豪快だ。


 俺達も白いひらひらした服を着させられそうになったが、カセルの「取りに行く時間はないですよ~」でなんとか免れた。

 よくやったぞ。



 出発の直前、領主様が俺達の船に乗り込んできた以外は特に問題もなく、そわそわしている族長達と神の島に向かった。








「急にお呼びたてして申し訳ありません」


「とんでもありません。誠に光栄でございます」



 ヤマ様のお言葉に代表して領主様が答える。

 拠点で楽しそうなくつろいだ様子のヤマ様を拝見していたからか、今のヤマ様のご様子に緊張してしまう。

 被り物でお顔が隠れているからなおさらそう思う。



「お願いがあります。ミナリームの貴族が数日中にクダヤにやってきますので、今後完成する大使館で働かせて下さい」


「――かしこまりました。よろしければ訳をお聞かせ願えますでしょうか」



 打ち合わせ通りヤマ様と領主様のやり取りが続く。



 静かに話を聞いていた族長達は、ミナリームがクダヤに攻め込もうとしていたと聞き憤っていた。



「ミナリームの分際で……!」

「だから早くつぶそうって言ったじゃないですか~!」

「そうだな。少し情けを掛け過ぎたのかもしれない」

「権力者を刷新させる必要があるな」



 普段はなだめ役の技の族長も今回ばかりは止めない。

 バルトザッカーさんが肩をぐるぐる回して準備運動のような事を始めたのも誰も止めない。何をする気なんだろうか……。



「ミナリームの貴族という立場なので複雑な状況になると思いますが、お願いします」


「ヤマ様のご威光を理解している者であれば問題ありません」



 思った通りあっさりとヤマ様のお願いは受け入れられた。

 ヤマ様は林の拠点で申し訳なさそうに説明していたが、クダヤの人間にとってヤマ様に頼りにされるという事はとても喜ばしい事なのだ。



「急なお願いでしたのでお礼にこれを――」


 そう言ってヤマ様は空を飛ぶ守役様に見た事のあるものをお渡しになり――



「え……!?」



 俺に向かって飛んでこられた守役様は、俺の足元にくわえていた果実を落としてヤマ様のお傍に戻って行った。一瞬頭を踏まれた気が……。


 今ヤマ様が神の言葉で話されているのは、おそらく守役様に対しての注意だろう。

 いつもヤマ様は俺に優しい。子供に対する母親のような優しさだが……。

 俺はもっとしっかりとした男になるぞ。



「神の島の食べ物です。クダヤの住民すべてに差し上げる訳にはいきませんので、今ここで食べて下さい。あと渡す順番をそちらで決めてもらっていいですか?」



 ヤマ様のお言葉に族長達は色めき立った。急に大声を出して立ち上がった地の族長を誰も咎めず、俺の手にある物を凝視している。

 領主様だけは俺の目をじっと見ているが……。



 順番を領主様が決めた後――もちろんご自分が1番だ――ヤマ様が守役様に神の食べ物を渡すのを固唾を飲んで見守る一同。



 泳いで船に乗り込んできた守役様から受け取った水の族長は顔を真っ赤にして泣いていたし、空を飛ぶ守役様から受け取った風の族長は見た事の無い顔ではにかんでいたし、バルトザッカーさんはそっと目元をぬぐっていた。


 カセルと領主様を除く残りの面々も、それぞれ泣き笑いのような表情で神の食べ物を受け取る中、地の族長は理の族長にとうとう「静かに」と注意されていた。ずっと騒がしいしな……。





「皆さんにこれで行き渡りましたね? 食べると神の力が強くなりますので、お仕事に役立て下さい」


「まあ!!」

「本当ですか!?」

「そのようなお力が……」

「さすが我らの神……!」



 水と地の族長はすぐさまかぶりついたが、残りの族長達は名残惜しそうに色んな角度から神の食べ物をじっくりと眺めている。


 俺はまた髪が伸びたらさすがに襟のついた服だけではもうごまかしきれないので、口にするのは躊躇われる。

 確実に髪か身長が伸びるのだろうが……。どうして俺だけ――


 そこまで考えて、一族ではないバルトザッカーさんがいる事に思い至った。

 一族ではないバルトザッカーさんも髪が伸びるだけなのかもしれないぞ……!



「カセル、なんだか周りに張っていた膜のようなものが消えた気がしないか?」



 1番初めに声を上げたのは風の族長だった。



「ですね! 視界も音もいつもより澄み切っているような感じです!」



 カセルはどこまで強くなるんだろうか。

 これまでにも食べた事があるのは族長達には内緒だが。



「アルバート、気をつけろ~!」



 突然地の族長に名前を呼ばれたかと思ったら、次の瞬間には地の族長がありえない高さまで飛び上がってこちらの船に着地してくるところだった。



「わ……!」



 咄嗟の事で身動きが取れないところをカセルに引っ張ってもらいなんとか避ける事が出来たが、船が大きく揺れてひっくり返りそうだ。



「おお~! 御使い様すごいです! 御使い様ご覧下さい!」



 興奮しながらも元いた船とこちらの船を行き来する地の族長。

 そろそろ……あの……揺れが……。



 しかし普段なら地の族長を止めてくれる技の族長までもが興奮してバルトザッカーさんを片手で持ち上げ……え? 持ち上げ……? 



「これは怪我をした騎士を退避させるのがより楽になりますね。技の族長、私もいいですか?」


「いいぞ。バルトザッカーも腕の力か?」


「いえ、特化ではなくまんべんなく力がみなぎっているような気がします」






 ……どういう事だ。

 バルトザッカーさんは当たり前のように神の力が強化されているんだが……。





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