光る名前
ミュリナさん達は違う世界の神(性格:良かれと思ってやることが裏目に出やすい)から祝福を授けられた際の出来事を事細かに話した後、名前は『ガイア』という結論に。
なんでだ。
「きっとあの神様からのお印なのよ! 良い名前だって!」
「そうだね!」
……あながち間違いじゃない。
というか本人がガイアってかっこいいよねって言ってたし。
「ガイアで本当に大丈夫なんですか?」
しつこい念押し。
「変わった名前だけど素敵ね」
「そうだね」
本当に大丈夫かな……。
この文明にキラキラネームの概念はあるのだろうか。大人になった時に恥ずかしい思いをしないかな。
名付けってとても責任重大だ。
「ガイア」
「うー」
「笑った!」
生後数週間の赤ちゃんてそんなに笑うんだっけ……?
……まああまり気にしない事にしよう。
「また美味しいカリプスが収穫できましたので食べながらお話しませんか?」
立ち上がって取りに行く。
「また収穫できたの? すごいわ! でも私達は一度もらっているから大丈夫よ、ありがとう」
「それが神の降臨の影響なのかたくさん採れまして。傷むといけないので良かったら食べて欲しいんです」
「へえ! ではお言葉に甘えていただくよ」
アルバートさんと一緒にキウイメロンを切る。
私の方が料理歴は長いと思うんだけどおかしい。アルバートさんの方が切るのが上手な気がする。
アサシンの孫や息子だからかな?
とっても美味しいというお褒めの言葉を聞きながら近況を聞く。
やはり神の祝福を授かった事で毎日が慌ただしかったようだ。
「正式に住民になる事も大部分の人は好意的に受け止めてくれたんだけど……」
「僕たちより先にクダヤに住み始めて住民になる事を熱望している人にとってはね?」
「あー、そうですよね」
自分が望んでいる事が他の人に転がり込むんだからなあ。そりゃあ私も嫉妬しそう。
「しかも家まで用意してくださって……あっもちろんとてもありがたいと思っているんだよ!」
アルバートさんに向けて慌ててジョゼフさんが伝える。
「はい。……私も大変な幸運に恵まれましたのでお気持ちはわかります」
おや?
「えっ? アルバートさんも?」
「え?」
「もしかしてあれこれ言われたんですか? 誰ですか? がつんと言い返しました?」
なんだか甥っ子を守る叔母の気分なんですけど。
誰だ、出てこい。
「違います……! み、身に余る光栄という事を言いたかっただけで……!」
「本当に?」
アルバートさんを問い詰めているとジョゼフさんとミュリナさんが笑い出した。
やだ、また海外のコメディドラマみたいになっちゃったじゃないの。
「アルバートさんは一族の人間じゃないから特に羨ましがられただろうね」
「そ、そうなんです」
「でも私達のような一族でも住民でもない人間からしたら、御使い様が一族以外からも選ばれた事で神の公平さを実感したよ」
……アルバートさん達を選んだのは偶然だったなんて絶対誰にも言えない。
楽しい話し合いは終わり、ミュリナさん達は練習という形でこれからお店を少し手伝ってもらえる事になった。
ジョゼフさんは明日以降も来てくれるそうだ。
もしかしたらガイアちゃんの様子によっては明日からも一家総出で手伝いに来るかもしれないとも。
赤ちゃんが過ごしやすい家にするぞ。そうだ、保育所とか作ったら助かる人いるかなあ。
でも命を預かる仕事だから止めといた方がいいかな。
“黄”の鐘が鳴り、店の扉を開けたら族長さん達が全員揃っていた事以外はジョゼフさん達を驚かす出来事もなく平和に時間は過ぎた。
ミュリナさんが騒がしいガルさんに気付いてそっとキッチンから顔を出し、ガイアちゃんを族長さん達に見せた時の族長さん達の顔は幸せそうだった。
孫を見る目。
「――ありがとうございました」
「家を移ったらもっとお手伝いできるからね」
「はい、楽しみにしています。お体に気をつけてください」
ミュリナさん達を笑顔で見送る。
一族の人達、ひっそり警護は頼んだぞ。
「――なんだ? 上のが欲しいのか? ほら」
「わあ~」
まだお手伝い中のガルさんは子供に大人気。
私も幼女だったら持ち上げてもらうのに……! あっこらっ首に抱き着くんじゃないよ!
幼女め……!
「記念の贈り物にこれも追加しておきなさいよ。あなたの恋人喜ぶわよ」
男性達のアドバイザーになっているのはリレマシフさん。
クダヤの住民ってすごい。あんな薄着でセクシーなリレマシフさんの体をじろじろ見ている人はいないもんな。
見たら見たでひどい目に遭いそうな気もするけど。
ガルさんとリレマシフさんは楽しそうに手伝ってくれている。本当にありがたい。
なんせもう商人達にはこの店の事が知れ渡り、自分達にも商品を扱わせてほしいとお願いされ始めたからだ。
ガルさんとリレマシフさんがうまく対応してくれるおかげでお互いに嫌な思いをする事無くなんとかなっている。
私とアルバートさんじゃ狼狽えてしまってあそこまで上手く対応は出来ないと思う。相手は世間の荒波にもまれている商人だし。
ガルさんにまとわりついている天使のような幼女の母親がすまなさそうに娘を引き離しているのを応援していると、急に店内が静かになった。
……でた。
トップオブお偉いさんがこんにちは。
「――店はどうだ」
「あ、はい。順調です」
ここまで空気を一変させる事が出来るって才能だよね。
「領主様もお手伝いですか? 商人達から要望が色々と上がってますよ~!」
うん、ガルさんのも才能だ。
「何しにいらっしゃったんですか?」
あれ、なんかリレマシフさんつんつんしてる?
「お前達はもう――」
「このおにいちゃんおいしいにおいする」
まさかの天使幼女がインしてきた。
「こ、こら! 申し訳ありません……!」
親って大変だ……。
「本当だ! 美味しい匂いだな!」
わははとガルさんのひと言で場の空気が和やかになった。
ガルさん素敵。好き。
当のサンリエルさんは幼女をちらりと見ただけでこちらに視線を戻した。
「菓子の差し入れだ」
「……ありがとうございます」
美味しい匂いの正体はこれか。パティシエだもんな。
「うわあ、おねえちゃんおかしもらったの? おいしそうだねえ」
「静かに……!」
天使幼女はまじ天使だな。
こんなの大人はメロメロだわ。濁りの無い眼差し。お母さんは冷や汗もんだろうけど。
「お店が終わったらみんなで頂きます。――少しあげてもいいですか?」
視線で幼女を見るとサンリエルさんはこくりと頷いた。
「お母さん、お菓子をあげても大丈夫ですか?」
「ごめんね、気にしないで」
「あたしたべたい!」
「俺も食べたいぞ!」
「なら私も頂こうかしら」
みんな食べたそうなのでキッチンに行ってお皿を用意する。
包みを開くとクッキーのようものがたくさん入っていたのでキイロに味見をしてもらい、ついてきたサンリエルさんの目の前で2、3枚食べる。
「美味しいです」
笑いかけるとサンリエルさんも嬉しそうな顔をした。
アルバートさんがお茶を淹れてくれたのでそれも飲む。お嬢様御使い。
「あ、これお茶と一緒に食べるとより美味しいかも」
この組み合わせはいいかもしれない。
「領主様のこのお菓子も一緒に売り物にしますか~」
冗談を言いながらお皿を持ってキッチンを出ようとすると、サンリエルさんが「仕込んできます」と先にキッチンを出て行ってしまった。
「…………あれ?」
振り返ってアルバートさんを見る。
「本気にした?」
「は、はい……」
「……なるほど」
睡眠時間はしっかり確保してくださいね、サンリエルさん。
店内に戻り天使幼女以外のお客さんにもお茶と一緒に食べてもらう。
やっぱりお茶と組み合わせるとより美味しく感じられるようだ。
天使幼女はガルさんにクッキーを食べさせてもらっていたのでぐぬぬとなったが。天使じゃなかったら許さない。
結局今日も昨日と同じくらいの時間で商品が無くなり店仕舞いする事になった。
キウイメロンはあっという間に完売したし、拠点のおじいちゃん達も来てくれたし順調順調。
そしてお店を閉めてアルバートさんがお金を数えている時にサンリエルさんが戻ってきた。
「ひとまず明日の分だ」
そう言いながら見せてもらった木箱の中には手のひらサイズの袋がぎっしりと詰まっていた。
……商品の納品早すぎです。
「領主様、ご自分のお仕事はどうなっているんですか?」
リレマシフさん私も気になってました。
「問題ない」
「こんなにたくさんお作りになっていますけど?」
「焼いている間は調理の担当に任せておけば良いだけだ」
いつも通りのすがすがしい権力者っぷり。
それにしてもガルさんとリレマシフさんの視線があちこち飛んでいるのは確実に守役降臨を期待しているからだと思われる。
こじんまりは降臨するのかしらと考えていると、商品棚にすっと姿を現した。
なんだろう……ぬいぐるみがディスプレイされているようにしか見えない。
「「守役様……!」」
2人は興奮しているしこれでいいんだろう。
こじんまり達も変わらず偉そうだし。
「――本日はどの位置でどのような仕事をしていたのか報告するように」
「え? あの……ええと……?」
こちらも変わらず意味不明な事を言ってるな。
アルバートさんも律儀に出勤時の報告から始めなくてもいいよ……。




