間違ってはいない
『お店が開店したらそれぞればらばらに買い物に来る』
そうだ、族長さん達は何も嘘をついたわけじゃない。
開店した後すぐさま間隔を空けずにばらばらに来る(お手伝い含む)、という隠された意味を私が読み損ねていただけだ。
「……ばあちゃんじろじろ見ないでよ……」
「あら。つい」
「何言ってるの! お義母様が見守ってくださってるんじゃないの」
「ローザ、そんなに近くで見てちゃ書くにくいだろう」
期間限定商品を買ってくれた第1第2街人の女子達を店の外まで見送ったあと店内に戻り、キッチンを覗きこんだらアルバートさんがご家族にものすごく囲まれていた。
今アルバートさんには、サムさんが持ってきて高速加工してくれた木の板に期間限定商品の説明を書きこんでもらっているのだ。
絵も“理”と“技”の族長自ら後で描き加えてくれるらしい。
これはプレミア価格が付きそうな看板になるな。
「――遠慮するな、開店記念だからな」
そのサムさんは今店内で茶筒購入のお客さんの茶筒に無料の名入れサービス中だ。
サービス精神の塊。
私も後でやってもらいたい。
しかもティランさんはアレクシスさんと一緒に試飲係を楽しそうに務めている。
たまに2階に視線が飛ぶのは島のみんなの音を感じるからなんだろうな。
ダクスいびきかいてるらしいし。
ローザさんが言うには「すでに目立ってしまったものはしょうがないのでそれを逆手にとって間者の動きを探りつつ店の価値を上げましょう」
という事だった。
うん、よくわからん。
だがお手伝いのおかげで店の周りには興味深そうにしている人達が集まってくれて人気店のような有り様。
店内も程よい忙しさで、働くってこういう感じだったよなあとアルバイト時代を思い出した。
サンリエルさんがマケドの間者を罠に誘い込もうとしている実況中継をボスから聞いているからそこまで仕事に集中できてはいないが。
「繁盛してますね~。手伝います!」
「これらを洗ってきてくれるか?」
さらに繁盛に拍車をかけそうな人物も戻って来た。
店員さんは顔で選んだわけじゃないんですと言いたいくらい見目麗しい人物が揃ってしまった。
「そろそろ茶葉がなくなりそうですね」
久しぶりの接客業を楽しんでいると在庫が残り少なくなってきた。
茶筒商品はまだ在庫はあるが、お試しを買って帰った人達の家族や知り合いという人達も含め、再びお店に来てくれる人達もちらほら出てきたのでそのうち売り切れそうだ。
「アルバートさん、茶葉って以前仕入れた在庫がなくなると手に入れるのに時間がかかるんでしたっけ?」
完全に経理の人と化しているアルバートさんに確認する。
数字に強い人ってかっこいいよね。
「いえ……おそらくどのような手段を使ってでも確保されると思いますので……」
「なるほど」
一族3人分の熱意は誰にも負けなさそうだしな。
都度補充して在庫たっぷりのお店にしないと仕入れ代が稼げないからなあ。
そういやクダヤにまとまった量を納品するのはいつにしようか。
その辺も今日の夜サンリエルさんに相談できたらいいな。夜は確実に打ち上げに参加してくるだろうし。
間者さんは数日間食事抜きで閉じ込めて体力的に消耗させてから尋問するので問題ないみたいだ。
こええ。
暴力をふるって無理に聞き出す方法じゃなくて良かったけど。
「はる、3人分と拠点の人間数人がこっちに向かってる」
「あわわ」
あわわなんて言葉生まれて初めて口にしたわ。
サンリエルさんは何しにくるんだ。ヴァーちゃん達と同じタイミングってどうなの。
「どうしました?」
私の独り言が聞こえたであろうカセルさんが話しかけてきた。
「店内も少し落ち着いてきましたので、ミュリナさんとライハさんの件について聞かせてください」
階段をのぼろうとしている事で何か感づいたのか、カセルさんは素直についてきてくれた。
ティランさんごめん、キイロはまた別の機会に見れると良いね。
「――サンリエルさんとヴァレンティーナさん達が来ます。重要人物が勢ぞろいしそうです」
なるべく階段から離れた所でかなりの小声でカセルさんに伝える。
さすがにティランさんには聞こえていないと思いたい。
その言葉を聞いたカセルさんは懐から紙とペンを取り出し何やら書き始めた。
「ライハの家族に身辺に気をつけるよう報告すると今にも自ら捕まえにいきそうでした。ですが商品は無事渡してきました」
おお~。話している内容と書いている内容が違う。すごい。
紙には「どちらかにずらして来るよう伝言しますか」と書かれてある。
私の意図を読み取ってくれる優秀な男性だわ。
「ありがとうございます。――――お城から来るサンリエルさんの方で。何をしに来るつもりなのかも」
後半を小声で付け加える。
あー字が書けたらな……。
「あの家族にも差し入れのお茶は渡して挨拶済みです。お店が落ち着いた時間帯に迷惑でなければ先にジョゼフさん1人で挨拶に伺いたいと」
「明日と明後日は“黄”の鐘が鳴ったら店を開けますのでその前であれば大丈夫です。それ以外の日はまだ未定ですね」
「では忘れないうちに伝えてきます」
「お願いします」
靴を履き笑顔で階段を下りて行くカセルさん。頼んだぞ。
私も急いで島のみんなに抱き着きモフモフを補充してから階段を下りる。
チカチカさんから「便利能力発動してた」と何故か事後報告されたけど。今言う?
その後、アルバートさんに茶葉のみ商品完売の紙を作成して宣伝看板に貼ってもらったが、試飲はまだ可能だったのでお客さんはそこまで減らなかった。
そして残った商品を1か所にまとめている時にヴァーちゃん達がお店に入って来た。
「お前なにやってるんだ」
「ダニエル族長。開店記念ですのでおまけを」
「サムも粋な事をするようになったなあ」
「風の族長もいるぞ」
おお、一気にドワーフ率が。厳密にはドワーフじゃないけど。背もあそこまで低くはないし。
でもファンタジーって感じがする。
「いらっしゃいませ」
「この商品をもらうわ」
あくまで初対面のふりのヴァーちゃん。
「お1人2本までなんですが、何本ご用意しますか?」
「そうねえ……私達全員で3本が良いわね」
店内のお客さんの人数を見て数を調整してくれたヴァーちゃん。ありがとうございます。
またキウイメロンを押し付けよう。
「おいおい、“理”の面倒なのが揃ってるぞ。ティランが責任もって押さえとけよ」
「失礼ね」
キッチンから顔を出してヴァーちゃんに話しかけたローザさんとイシュリエさんを見てダニエルさんが心底嫌そうな顔をした。
「あなたは口では一生敵わないから」
可笑しそうなヴァーちゃん。
なになに、このじいじばあばコミュニティ素敵なんですけど。
若い頃のやり取りとか見てみたい。
店内にいるお客さんも興味津々だ。
こんなに密集してお偉いさん達を見る事もないだろうし見しちゃうよね。
ごつい人間が居座ると迷惑だろうと、ヴァーちゃん達はすぐに帰っていった。
見送りに出た際にこそっと「族長だけに教えたんです」と伝えると、なぜ店にあそこまでお偉いさんが集まっていたのか納得したようだった。
そろそろ店を閉めるとも伝えたので、残りのおじいちゃん達は明日以降来てくれるだろう。
店内に戻るついでに木の板を閉店中にし案内看板も回収、ちょうど人もいなかったので扉も閉める。
店内にいる人達にはゆっくりして下さいと伝え、キッチンにいる最強の助っ人達に挨拶をしに行く。
「長い時間ありがとうございました」
「こちらこそ楽しませてもらいました。良かったらまた護衛しますよ。アルバートの仕事ぶりも見れますし」
「そうですね! あの子輝いてますわ!」
「アルバートは良くやってるね。ローザはほどほどにしよう」
フォローも忘れないギルバートおじいちゃん。さすが。
お客さんがすべて帰り、本日の売り上げをアルバートさんが発表している時にカセルさんがサンリエルさんを伴って戻って来た。
「領主様、どうなっていますか?」
すぐさま質問するティランさん。
間者の件だろうな。イシュリエさんに聞いたみたいだし。
「問題ない」
「良かったわね!」
うっかりアレクシスさんの眩しい笑顔を直視してしまった。まじ女神。
「では私達はそろそろお暇しましょうか。これから今後の方針について話し合いをするようですから」
「ありがとうございました」
「カセル、しっかり警護するのよ」
「任せてくださいよ~」
ローザさんの発言でアルバートさんのご家族は帰る事になった。
サンリエルさんは去り際にローザさんから寒そうな服装を注意されていたが。いつもタトゥー丸見えだよね。
そして仕事ぶりを褒めてくるアビゲイルさんを恥ずかしそうに店の外に押し出しているアルバートさん。
ニヤニヤしかしない。
ありがとうございました。またお家に遊びに行きます。
「あ」
扉が閉まった瞬間キイロがカウンターの上に姿を現した。
族長さん達は嬉しそうだ。これも目的に最後まで残ってたんだろうな。
そしてロイヤルとダクスも。確実に近くにマッチャがいるとみた。
「守役様、間者は捕らえましたのでご安心ください」
報告したサンリエルさんに偉そうに羽と牙を見せつけているこじんまり達。全然怖くない。
「――地の族長と水の族長が騒いでいたぞ」
「やはり耳に入りましたか」
苦笑しているティランさんとサムさん。
「明日はカリプスを購入したらすぐ帰りますわ」
イシュリエさんもまた来てくれるんだ。
さっきローザさんと分け合って食べてた時ずいぶんと感動してたしそりゃそうなるか。
「2人の族長が手伝いを申し出るかもしれないが……」
「はい、大丈夫です」
「……そうか」
どこか悔しそうなサンリエルさん。
手伝いたいんだろうな……。でもさすがに領主が接客はどうなんだろう。
そしてキイロがまさかのサービス精神を発揮し、近距離で羽バサバサを受けた族長さん達は興奮しながら帰っていった。
おつかれっした。
「今日はたくさんの手助けをありがとうございました」
姿を現した全モフモフにぎゅうぎゅうされながらも感謝の気持ちを伝える。
1人だとどうなってた事やら。
「当然の事をしたまでです」
「楽しかったです!」
「は、はい……!」
サンリエルさんはもっと役に立ちたかったようだが十分ありがたかったですよ。
オープン初日は大成功だ。良かった良かった。




