効果的な演出希望
自分のお店を初めて見る前に、存在感がありすぎる人達を先に見る羽目になった私。
すごく目立ってるな……。チカチカさんもボスもこういう時は事前通告してこないしさあ……。
いやまあされても店に行くしかないんだけど。
族長の仕事は大丈夫なの?
「……ひとまずお店に入りましょうか」
そうだねカセルさん。
なんとなくアルバートさんの後ろにひっそりと隠れて店に向かう。
こっちをオロオロ見なくてもいいよ、何もしないから。
店の外観は特別変わったところは無く、周りの建物にうまく溶け込んでいる。
店先のあの人達さえ除けば。
「――?」
人だかりの中荷車を進めて行くと、ティランさんが1番初めにこちらに気がついた。
すぐにカセルさんとアルバートさんだとわかったようだが、名前を口にする事はなかった。
カセルさんの変装を訝しんではいるが。空気の読める人確定。
「おや……?」
「…………」
サムさんも。そしてイシュリエさんも。
「これ売り物か? 中に運べばいいな?」
「あなた達は先に中に入ってて」
ガルさんとリレマシフさんはもっと騒ぎ立てるのかと思いきや普通の対応だった。
私の存在に気がついて気を利かせてくれたんだろう。
花が大量に置かれている広々とした店内に入ると、サンリエルさんがどこか気まずそうにこちらを見ていた。
今日は珍しい顔をよく見るな。
「すまない……」
「あ、いえ」
このサンリエルさんはどうも調子が狂う。
「どうしたんですか?」
店先に視線をやりながらカセルさんが質問すると、ティランさんが入ってきた。
「執務室に戻ってきた領主様がどこか様子がおかしかったのでな。みな心配して行き先を聞いたらこうなってしまった」
「なるほど~」
確かに。様子はおかしい。
赤面事件は関係あるの? 通常仕様に戻ったと思ったんだけど。
「ところでカセル?」
ティランさんが聞きたいのはカセルさんの変装の事かしら。
「後で説明します」
サンリエルさんに視線をやり答えるカセルさん。
それだけで状況が飲み込めたのだろう、ティランさんは他の人達を呼びに行った。
去り際にこちらに向けた会釈と笑顔に心を持ってかれそう。トキメキ。
近くにティランさんがいるので迂闊な事は言えず、お偉いさんが集まるのを黙って待つ。
アルバートさんはそわそわしない。
お偉いさん達はすぐに室内に入ってきた。
イシュリエさんは道に面している大きな出窓のレースのようなカーテンを引いて外からの視線を遮ってくれた。優しい。
「驚かせてしまいましたね。はじめまして、理の族長“理”のイシュリエよ」
イシュリエさんの言葉を皮切りに次々と自己紹介をしてくれる皆さん。
こちらが明らかに目下なのに自分から挨拶してくれるなんてすごいよなあ。
「皆様荷物をありがとうございました。ヤマチカと申します。ええと――」
顔を触りながらサンリエルさんを見ると、私の言いたい事がわかったのか後の言葉を引き継いでくれた。
「先日の事もあったので領主権限でクダヤの民にした。居住実績はないがその点は私が責任を持つ」
「いつの間に」
「まあユラーハンのあの様子からすると早い方が良いでしょうね」
「領主様が危険が無いと判断されたんなら大丈夫ですよ!」
多少の驚きはあったようだがこんなに早く住民になった事に特に反論は無かった。
変な事はしませんから。
「仕入れの関係でここに毎日はいない。いない間の管理は神の祝福を受けた子の両親に任せる事になる」
「そうなりますと、そちらももう住民手続きを開始しますか?」
「そうだな」
ミュリナさん達も一緒のタイミングで住民かあ。やったね。
神の祝福という最強の理由があるんだ、誰も不審に思わないだろう。
生活は激変してしまったけど喜んでくれるといいな。後で会いに行こう。
店の繁盛間違いなし。
「これからよろしく」
ダンディーサムさんが素敵な笑顔で手を差し出してくれた。
しかしそれを遮るようにサムさんと私の間に立つサンリエルさん。
「領主様?」
みんな不思議そうな顔をしてサンリエルさんを見ている。
そりゃそうだ。ただの商人に対してその行動は怪しすぎる。ほんと今日は変だな。
「……あの、私両手に傷があるので手袋をとるのが気になってしまって……。恐らく領主様はその点を心配してくださったのではないかと……」
サンリエルさんが何も言わないので横にずれてフォローをいれる。
「そうか、知らなかったとはいえすまなかったな」
「まだ痛むか?」
「良い薬がありますよ」
みんな優しい。好き。
でも完全に納得してはいないようだ。
「ありがとうございます。痛みはないです。薬は以前ローザさんに頂いたものがあります」
それぞれの質問にそれぞれ返す。
「今日ユラーハンから来たの? こんな朝早くに大変ね」
薄着豊満女子リレマシフさんに何気ない労わりの言葉をかけられ、今のこの危うい状況にやっと気がついた。
(ユラーハンから来てないから門なんて通ってない……今回はなんとかなってもガルさんがいるからそのうち警備関係の人に怪しまれるのか……? これからは仕入れと称して島に戻るたびに門の通行記録を改ざんしてもらう? 急に来たからさすがのサンリエルさんも今日はそこまで手が回ってないはずで……)
自分がどんな設定でどんな説明をアレクシスさん達にしたんだっけと思い返していると、頭が破裂しそうに。
考える時間が圧倒的に足りない。こんな所で族長さん達に会う予定も無かったし。
浮かぶ『自業自得』『嘘を隠すために嘘を重ねる』の言葉たち。
――うん、タイミングばっちりの「おお~」驚愕はあきらめよう。
そもそもそんな主人公補正は無かったんだ。
というか色々面倒になってきた。
「領主様、あの窓は外から完全に見えない様にできますか?」
「……できる」
さっと歩いて木のシャッターのようなものを下ろすサンリエルさん。
「カセルさん、灯りをお願いできますか?」
「はい」
「アルバートさんは扉に鍵をお願いします」
「は、はい……!」
突然指示を出し始めた女性商人に族長さん達は少し警戒した様子を見せ始めた。
大丈夫です、危険なんてどこにもないです。
「外に声が漏れますかね?」
「大丈夫」
カセルさんに質問するとチカチカさんから返事があったので、外を確認しに行こうとしたカセルさんを止める。
「カセルさん、大丈夫です」
やばい。ガルさんの雰囲気がネコ科が辺りの様子を探る時のあれ。野生全開。
「あの、皆様大きな声を出さないで頂けると助かります」
「……わかった」
ティランさんが代表して答えてくれた。
「――守役様」
この場の全員が注目している中囁くように言葉を発すると、キイロが天井近くに姿を現しそのまま木のカウンターに降り立った。
「……!!」
声が漏れそうになり両手で必死に口を塞いでいるリレマシフさん。
後方からも勢いよく息を吸い込む音が聞こえたのでそちらにちらりと視線をやると、ロイヤルも登場していた。
――アルバートさんの左足の上に。
ちょっと! 何やってんだ!
今日は荷物の上に乗って移動して来たけどさあ。自由だわ……。
そして奥の階段から聞こえてくる何かが転げ落ちてくる音。
みんなぎょっとしてそちらに視線をやると、床すれすれに茶色い何かがこちらに向かって駆けて来るのが見えた。
もう完全にダクス。間違える人間は1人もいない。
何やってんだ!
え? 2階の探索? ほんとに何やってんだ!
ダクスまで登場してくるとは思わなかった。転がり落ちてたし。
……荘厳な降臨なんてどこにも存在しない。
「…………何を伝えたかったのかと言いますと」
説明しようとするとダクスが唸り始め、慌てて平伏する族長さん達。
ダクスはいらん事をするんじゃない。
「あの、守役様も立つよう仰っていますので……。説明を聞いてもらっていいですか?」
違う、私の想像していたネタばらしはこんなのじゃない。こんな懇願系じゃない。
「言う通りにしろ」
サンリエルさんのフォローでようやく、しかし恐る恐ると立ち上がる族長さん達。
「えーご覧のとおり」
何がご覧の通りなのかは自分でもわからない。
「私はユラーハン出身ではありません。御使い様に保護して頂いた、はるか遠くの地に生き残っていたクダヤの一族の最後の1人です」
ああ……。もっとかっこいい感じでネタばらししたかった。
「……一族?」
「まさか……」
うん、そうだね。
「まだクダヤの一族について詳しくは存じ上げないんですが……領主様、説明をお願いします」
丸投げた。
本調子ではないサンリエルさんに見事に全部投げた。頼んだぜ。
みんなに説明しているサンリエルさん。今は普通のサンリエルさんだ。
やれやれという気持でなんとなくカセ&アルに近付くと、アルバートさんに大げさに後ずさりされた。
……ちょっと傷ついた。
「あっいえ! 違うんです! いたっ……! 申し訳ありません!」
少し悲しそうな顔をした私の敵をとるような勢いでアルバートさんを蹴るキイロとロイヤル。
やめようか。今は御使いじゃないからその態度はおかしい。
ダクスの牙剥き出し攻撃は全く怖くないし。心が和むだけ。
「おい声がでかいぞ。――先日の失態を再度おかさないよう気をつけたみたいで」
カセルさんはフォローしているのかしてないのかどっちなんだ。
でもそういう事ね。
なんとなく面白くなって悪い顔をしながら両方の手の平を見せながらアルバートさんに近付く。
「あ、あの……?」
じりじりと近付いてさっと手を伸ばすとアルバートさんがばっと避けた。
……面白い。
声を出さずにアルバートさんが避けるのをこっそり楽しむ。
やっている事が完全に小学生な自覚はある。
これってセクハラになるのか? いや、御使いだから大丈夫。
ごめんもうちょっと遊ぼう。
途中カセルさんも巻き込んで遊んでいたら、お偉い人達がみんなこちらを見ているのに気がついた。
真面目な話は終わったようだ。
そしてサンリエルさんもいつもの圧のあるキャラに戻っていた。無くなってから気付く大切さってあるよね。
よかったよかった。凝視されてるカセ&アルは心配だけど。
「これからよろしくお願いします」
笑顔で挨拶をするとリレマシフさんにぎゅっと抱きしめられた。
「私の事を姉だと思ってね……!」
あれ、このパターンどっかで……。それはともかく弾力がすごいです。
「姉じゃなくて母親だろ!」
「うるさいわね!」
ガルさん……。
「大変だったな」
優しい眼差しのサムさん。
え? 涙目?
「カセル、しっかりと手助けするように」
「任されました!」
「ローザに隠し事をするのは心苦しいけどしかたないわね」
神が一族に及ぼす影響は相変わらずすごいという事はよくわかった。
大歓迎じゃん。




