威厳
港での話し合いは変な空気になったが気にせずお茶を飲もうと思う。喉渇いてるし。
「キイロ、ロイヤル、味見お願いね」
ティースプーンでそっと守役ブレンドを流し込む。
そしてタルトも小さく切り取って食べてもらう。
おお、きりっとしてるな。
みんなの熱視線も気にしない。
ティランさんのはにかみ具合は写真撮りたいけど。キイロの事好きだねー。
「カセルさん、アルバートさんちょっと――」
自分が食べる番になったので、2人の背中にそっと隠れてお茶を飲む。あ、こっち振り向かなくてもいいのに。
後ろから変な事しませんから。
(あ゛ーおいしいわー。あれこれあったから飲みやすい温かさだし守役スペシャルやっぱりおいしいわー)
浮いている絨毯に座り2人と同じ目の高さになってお茶を飲む御使い――威厳は今ひとつかな。
「そちらのお茶とても美味しいですよね~。私も少し分けて頂いたんです。な、アルバート?」
「そ、そうなんです……! ……え? あ、あの…………」
……わかる。その気持ち分かるよ。いつも守役が申し訳ない。
アルバートさんが困っているのは、キイロとロイヤルがとことこと絨毯の上を端まで歩き、アルバートさんをゼロ距離で睨んでいるからだ。
こちらが同じ高さに浮いているからこそ出来る、新しいパターンの威嚇だ。
なんなの? 昭和の不良漫画でも読んだの?
「キイロ、ロイヤル、見てるだけにしてもらえると嬉しいな」
「ぴちゅ」
「キュッ」
「……見ているだけだそうですのでお気になさらずに」
本当は「びびってやがるぜククク」みたいな3流の悪役の発言だったけど。
実は私も「ククク、お前達は今ボスの体内にいるのだククク」とは思っている。
「はいっあっ! 申し訳ありません……!」
思わずうなずいたときにキイロのくちばしにおでこがぶつかってしまったようだ。
この光景以前も見たな……。
「お前はいいなあ~。おい、後ろに下がるなよ。ヤマ様が見えてしまうだろう」
「カセル……!」
申し訳ないとは思うけど、食べ終わるまでもう少しそのままで。
視界の隅にこちらを凝視している話し合い参加者達が見えるけど、見えていない事にする。
御使いっぽさとかもうそろそろ飽きてきているな、私。
「このお菓子美味しいですね」
「まだありますのでいつでも仰ってください。お茶のおかわりはいかがでしょうか?」
いかん、サンリエルさんに近寄る口実を与えてしまった。耳の良さを思いっきり活用してるし。
でもまあいいか。まだ喉渇いてるし。
「ではお茶のおかわりを下さい。お菓子も美味しいです、ありがとうございます」
執事プレイでも楽しもう。
「でも甘くないものも食べたくなってきました」
ほんとは出店で売っている串焼きが食べたいです。塩辛いやつ。塩キャベツとかもあれば。
ふふふ、わがままお嬢様。
「――そうですね、お茶を飲んだ後は皆さんが話し合いをしている間にお店巡りをしましょうか。カセルさんとアルバートさんを連れて行っていいですか?」
自分でここに呼んでおいてなんだけどさ。
街の人達と触れ合う御使いで好感度アップにもなるかもしれないし。塩辛いもの食べられるし。
「ヤマ様をお護りするため私もお連れ下さい」
サンリエルさんとはヤマチカバージョンでいつでもご飯とか一緒に行けるんだけどなー。
「守役がおりますので平気です。お仕事が終わった方達はもう皆さん集まっていますか?」
数少ない必殺技、話をそらす。
「まだのようです」
「ではそれまで街の皆さんのご迷惑にならない程度に楽しみますね」
「そうですね、領主様はヤマチカさんの商品を使者の方々に宣伝した方が彼女は喜ぶかもしれませんね」
お、できる男のカセルさん。助かる。
「ヤマチカという女性商人はもうそろそろクダヤに来る予定のようですね。その際に彼女にお茶が美味しかったとお伝えください」
これでヤマチカとして近いうちに街で会いましょうという意図が伝わったかな?
「……はい。ヤマ様のお褒めのお言葉を伝え、こちらからは褒美として食事の席を設けます」
おお伝わった伝わった。いいよ、ご飯一緒に食べよう。
「その方も喜ぶ事でしょう」
「私もその商人を紹介して頂きたいのですが」
……出た、クラッシャーララウルク。リングネームみたい。
「大人しくしてると思ったら……!」
おじいちゃん甘いものたくさん食べてね。こっちに牛乳ってあるのかなあ。
そして隣のダンディーなおじさま首長はなんで王女様と親し気にしてるんだ。イタリア人なの?
確かに渋かっこいいけど。
「恐れながら……私にもその商人を紹介して頂けないでしょうか?」
ユリ王子まで。
「御使い様に献上できる程の品物とあれば、我が国でも是非とも取り扱いたいものです」
アルバートさん、おろおろチラチラこっちを見るのはやめて。大丈夫だから。
ほんと優しい子だわ。
「そうですね~俺達も領主様からはその商人についてまだ詳しく話は聞いていませんし」
「確かにそうね。私はアルバートの祖母から話を聞いているから少しは知っているけれど……確かユラーハンの出身だとか」
(うわっ)
「そうなのですか!?」
ゆるゆるの設定がここにきて……! 全然大丈夫じゃなかった……!
イシュリエさん、ユラーハンでのヤマチカ設定なんてちっとも考えてないんですけど……!
「お兄様! 我が国の人間だそうですわ! すぐに城で……城に召し抱えてもらえるようお願いしましょう!」
マーリー王女、今ぽろっと身分を匂わす事を言いそうになったな。
「先程も申し上げたが、その商人――他国民の店をクダヤがわざわざ用意するという事実を忘れてもらっては困る」
「……それはある意味独占契約を結んでいるという事でしょうか?」
「そう捉えてもらっても構わない。すでにこちらに移住の打診もしている」
「それは……異例の扱いですね」
今ユリ王子の頭の中が高速回転してるのが良くわかる。
利益とか今後の関係とか――難しい事はわからないけど、考えているはずだ。たぶん。
「それで紹介はしてもらえるんですか?」
おおう……。
「君は話の流れを読むという努力をした方がいいね。単刀直入で良いとは思うけど」
「クダヤでしか商売しない、出来ないって事だろうが」
「へー。じゃあお店を教えてください。いつから商品を売り出すんですか? 金額は? 商品はお茶の他には何がありますか? 大使館予定地は遠いですか?」
空気を読まない、人目が気にならないってある意味最強だな……。
誰にでも良い顔をしたい御使いに少し分けて欲しい。
「店が出来たら評判になるだろうからお知らせはする。ただしその商人をあれこれ詮索しないように。どうやら貴殿は詮索好きのようだからな」
やだ、嫌味サンリエルだわ。悪役だわ。
「はは! 好きなようじゃなくて好きなんですよ!」
「女性ですし威圧するような真似だけはなさらないで頂きたいわ。私の大切な友人が目をかけている商人ですから」
「まあまあ」
職場に1人ガルさんがいればその会社は何とかなりそうだな。カセルさんとサムさんもだけど。
でもガルさん、あの嫌味で笑えるって。
「女性で名前がヤマチカですね。ユースさん、知っていますか?」
「いえ……」
「詮索するなって言われただろうが!」
おじいちゃん……。
「気軽に名前を呼ばないで頂きたい」
いや、サンリエルさん……もういいや。
「サンリエルさん、皆さんにも私が飲んだお茶を振る舞って頂けますか? ――カセルさんアルバートさんは一緒にお店巡りに付き合ってください。おすすめの食べ物はありますか?」
御使いのやわなハートじゃここに留まって自分の作った設定のゆるさとは向き合えない。
サンリエルさん、なんとかうまい事ごまかしておいてね。
「風の族長後は頼んだぞ」
「あのっ! 女性に好まれる果物などはいかがでしょうか……!?」
薄着のダイナマイト美女がもじもじしているのは目の保養になる。死語とか関係ないし。
そしてさらっとティランさんにこの場を押し付けたな、クダヤで1番の権力者は。
「御使い様には必要ないかとは思いますが、お肌が潤う食べ物も知っております」
イシュリエさんは確かに綺麗な肌をしている。可愛いおばあちゃんって印象だし。
「2人ともこんな時だけ女性ぶるなんてずるいですよ~!」
「「何ですって!?」」
「ガルさん……今の発言は……」
うん、そうだね。バルトザッカーさん、私も今のは良くないと思う。
「まあまあ。――甘くない食べ物ですと私もお役に立てるかと……」
サムさんが自分の意見を主張してくるのは珍しいな。
「私もついて行っていいですか? 内密な話はどうせ後でやるんでしょうから問題はないですよね? ナザニネ首長、ベスロニア首長、よろしくお願いします」
「おい!」
「お兄様……あの……」
「余計な事を考えるんじゃない」
ユリ王子、それ、クラッシャーにも言ってやって。
しかしなんだかまたごちゃごちゃしてきたな……。
結局お偉いさん達はついて来そうだし大名行列みたいになりそう。それか病院の総回診のあれ。
ちょっと恥ずかしい。大騒ぎになりそうだし。
「皆さんおすすめがあるんですね。では皆さんが普段口にしているものを良かったらごちそうしてもらえませんか? 私の為に特別に用意された贈り物はこれまでに十分頂いてはいるのですが――」
「わかりました!」
「あっ! 負けるもんですか!」
「2人とも量を気をつけるように!」
「勝負じゃないんですけどね」
「水の族長、あれは私が用意しますからね」
え……? なんか話の途中で走ってったけど……。イシュリエさんも走ってるし。
あ、ティランさんは迷ってるな。
「ティランさんもおすすめがあればお願いします」
「族長、俺達がここにいますのでお任せ下さい。領主様もいらっしゃいますし!」
「そうか。――頼みます」
名残惜しそうにキイロを見ていたティランさんも風のように走っていってしまった。
はやっ。ガルさんの方が速かったけどそれでも速い。
「使者の方達にはヤマ様と同じお茶をお入れしますね」
「ヤマ様の寛大なるお心に感謝するがいい」
カセルさんがいるとほんと心強いなー。まあ一応サンリエルさんもって事にしておこう。
お、早速王女様は話しかけてるな~。肉食女子、嫌いじゃない。
「俺も手伝う……!? も、申し訳ありません……!」
「……ロイヤル、ロイヤル弾丸はやめようか」
なんで肩に体当たりしたんだ。次々と新しい技生み出すのやめて。
「キュッ」
「あーはいはい。――アルバートさん、私が食べている間はそこにいてもらっていいですか」
「あっ、はい! 気が回らず申し訳ありません!」
何ひとつ君は悪くない。
そしてこのまま御使いがむしゃむしゃしているのをただ見せられているのも可哀想だ。
「サンリエルさん、このお菓子とても美味しいのでアルバートさんと一緒に食べますね。用意して頂けますか?」
「え!? いや……あの……」
「……ご用意致します」
その殺傷レベルの視線はやめようか。
「サンリエルさんも良かったら一緒に「はい」
秒速で返事された。
でもまあ、サンリエルさんへの接し方もだいぶ掴んできたな。
ふふふ、悪女御使い。
手の平で転がす御使い。ふふふ。
「私も頂いてよろしいでしょうか? ヤマ様」
「御使い様の名を呼ぶ権利はお前にはない」
「領主様お言葉が少し……」
……このクラッシャーにはもう少し時間をかけないと駄目だな。接し方なんてわからん。




