おせっかい
<地球>さん降臨の祝祭最終日前日の今日、とても良い天気だ。
が、私は暇を持て余している。
早く明日にならないかな。暇だ。こういう時に限って朝早くに目が覚めたうえに謎のやる気に満ち溢れているから困る。
「あー…………暇だな……」
お茶の容器作成の内職は終わってしまった。というか寝て起きたら送られてきた分はすべて焼印が押されており、木箱に綺麗にしまわれていた。
この家にはたくさんの妖精さんがいるのを忘れていた私が悪い。
「もう茶葉つめちゃおうかな……祭りに合わせて売るとか……でもかなりの人混みらしいしやだなー」
今のクダヤには他国から続々と人がつめかけており、最高に混み合っている遊園地以上の混雑具合らしい。
そんなところで商売なんてしたら体力を吸い取られて終わりそう。入場制限とかないんだろうな……。遊園地より広いから大丈夫かもしれないが。
「――そうだ、ゴーレムさんはまだ動いてないですか?」
「海底のエネルギーポイントで補給中」
「まだか~」
こちらに向かっている最古の魔物は聞くところによると、岩のような塊で、意思はあるが高齢過ぎて神の力に反応するだけの魔物らしい。なので勝手に『ゴーレム』と呼ぶ事にした。
「ささっと充電して戻ってくれないかな~」
ゴーレムさんは街に上陸しない限り人間にとっては害のない魔物だが、目を覚ました事により各地の魔物も活性化しているという衝撃の事実を知ってしまったのだ。しかも長生きしている魔物はゴーレムさんの後を追いこちらに向かっているというダブルの衝撃。
さすがに神の島周辺はゴーレムさん以外の魔物は近付いてくるような事は無いみたいで安心したが。
でもミナリームやユラーハンなどの近隣諸国はわからない。長生きしている魔物ほど人間に興味はないので積極的に襲う事はしないそうだが、心配は残る。
しかもこの事ではチカチカさんと喧嘩をしてしまった。こちらが勝手に拗ねただけともいうが。
「――――私がここに来た事で魔物に襲われて……死ぬ人もいるって事ですか?」
「そうだね」
「え…………」
「気にする事ない。毎日たくさんの存在が生を終えては新しくはじめてる」
「気にします……! だって……!」
「じゃあはるが1人1人助けて回る?」
「島のみんなの力をかりて……」
「役目が違う」
「じゃ、じゃあチカチカさんが…………何でもないです……」
「はるはそういう所あるよね」
「……どういう事ですか……?」
「自分ではどうしようもない事で一喜一憂してる」
「それの何が悪いんですか……」
「悪くはない。ただそれに立ち向かうだけの知恵も力も根性もないのに自分の生を無駄な事を考える事に消費してる」
「……そんな言い方……!」
「はるはここに何しに来たの?」
「……愛と光のエネルギー集め……」
「なら余計な事に煩わされずさっさと集める」
「魔物から人を救ったら感謝してもらえるかもしれないじゃないですか……エネルギーも集まりますし……。ゆっくり集めてもいいって言ってたのになんでそんな急かすような事……」
「……はるの好きにすればいい。退治ごっこはもちろん1人で。人間って物事を複雑にするの好きだね」
「じゃあ好きにします! ……寝ます!」
「おやすみ」
あのあと家の壁に体当たりして怒りの気持ちを表してからふて寝したんだった。あんな言い方しなくても。
起きてもしばらくはチカチカさんに話しかけなかった。気持ちがぐちゃぐちゃだったからだ。
確かにエネルギーを集めるなら魔物ハンターになって退治した時の感謝の気持ちから集めてもいいのに、それをしないのは私がそんな危ない事をしたくないから。そもそも出来ないだろうし。
ごろごろしながらのんびりやりたいのに、魔物によって死んでしまう人の事も頭から離れない。
中途半端な正義感。
唸りながらベッドの上を転がった。一生分転がったと思う。
みんなもこの時ばかりは近くに寄ってこなかった。
後で知ったけど、私を避けていたんじゃなくてキャットタワー作りに専念していたらしい。さすがのハイスペック守役。
私が自分なりに考えた結果は、中途半端な正義感を持っていてもいいという事だった。
偽善者でもいい。あれこれ考えるのが面倒になったとも言う。
もっとフィーリングで生きてエネルギー集めてバイブス上がる、みたいな?
パーリーピーポーってこんな感じのはず……たぶん。死語とか関係ないし。
壁に抱き着きながらそのままチカチカさんに自分の気持ちを報告したら、にゅっと人型で現れて頭を撫でてくれた。なので胸元に頭突きをして仲直りの印とした。バイオレンス御使い。
チカチカさんにはなんのダメージも無さそうだったが。ぐぬぬ。
「あ~暇だ。チカチカさん、なんちゃって社交ダンスします?」
「もういいかな」
「へーい」
昨日散々付き合ってくれたしね。
チカチカさんは地球のダンスも踊れるし、持ち上げてぐるぐるしてもらえるから面白かった。
「キャン!」
「う~ん、やっぱり2足歩行の相手の方がいいかな?」
ごめん、腰痛めそう。
「ぴちゅ」
「じゃあみんなで踊れるやつにしようか~。その後は魔物が来た時の予行演習ね」
中途半端な正義感な私は、魔物達が近くの国に来そうな場合は教えてもらい、それをクダヤ経由で伝えるという方法をとる事にした。
ゴーレムさんはなんとボスの雷でも充電できるという事だったので、フィガの大森林の木の滝は確実に狙われると予想した上で、上陸するために姿を現した際に駆けつけて雷充電するという救世主パフォーマンスを行う事にしたのだ。
最古の魔物お手軽過ぎ。
私はそれっぽく手をあげて雷を落とす合図をするだけだが。
私がこの世界に来た事により引き起こされる出来事を、その当事者が解決するという壮大な自作自演。
しかもチカチカさん側からしたら人間も魔物も同じなのに、地球の人間の価値観を押し付けて干渉する形になる。
申し訳ないとは思っている。けど思うだけ。言われた通り好きにするしー。ファンタジーだしー。
「今日は何の曲にする?」
「キュッ」
「大漁を祝うやつね。ロイヤルこれ好きだねー」
「コフッ」
「ナナは意外と過激だよねー」
みんなの好みがそれぞれあって面白い。
「じゃあ今日も引き続きフィーリングで生きる感じで明日に備えよう。ダンス楽しみだな~」
ダンスだけではなく他の出し物も楽しみだ。クダヤ一大イベント。
「そういやS青年は上手くいってるかなあ? エリーゼちゃんはいつもと違って見えるS青年にときめいてたり~」
エリーゼちゃんは踊りのメンバーではないようだが、S青年は選ばれたらしい。まじでプライバシーゼロ能力だよね。
だからあまり聞かないようにはしている。
「赤い髪の人間を見て騒いでるよ。高校1年生の時のはると同じ」
具体的な年齢は出さない欲しい。そしてデリカシーというものを投げつけてやりたい。
「……友達同士でかっこいい先輩を見て騒いでるって事ですか?」
「はるより控えめだけど」
「…………」
無言で家の壁を太鼓のように細かく叩いて意思表示をする。すっきりした。
「カセルさん強いなー、S青年上手くいくといいんだけど――そうだ! 暇だしちょっと見に行こうかな?」
我ながら物凄く良いアイデアだと思う。なんたって先生だから。暇だし。
「フォーン」
「人混みは……まあ一度経験してみても良いよね、最上級混雑」
ボスに居場所を聞いて最短距離で行けば大丈夫。
「謎の女ヤマチカ登場でエリーゼちゃんがヤキモチやいちゃったりしたら、それはそれで良いスパイスだよね~」
第3者の登場で自分の気持ちに気付くパターンね。ふふふ。
「ねえ、はる」
「なんですか?」
「その経験値でよく他人の恋愛に干渉しようと思えるね」
……ほんとまじで。
「……チカチカさんちょっと人型になってもらって――はい、ここに浮いてて下さい」
人型チカチカさんにベッドの真ん中に浮いてもらい、勢いよくそこに突っ込んで受け身をとる、というストレス解消法に付き合ってもらった。
チカチカさんの体はすり抜けられるので力の限り受け身の練習をしていたら、こっそりエネルギーを固定したようで一度はじき返されてごろごろとベッドに転がってしまった。
思いのほか楽しかったのでロシアンルーレットみたいにしてもらって楽しむ事にした。さあこい。
「――あ~楽しかった! 3回連続固定はやられた! って思いましたよ~」
この惑星めと思っていた気持ちも無くなった。
ストレスは都度発散するのがいいな。ロシアン受け身またやろう。
「そろそろ街に行こうかな。S青年とは住民として会ったからそれ用の変装で――」
混雑も良い方に考えれば目立ちにくいという事だ。
しかしてきぱきと準備をしていると、ボスから残念なお知らせが。
「あーはいはい。そっか、そりゃあ伝えたらそうなるか」
祝祭まで人がいないと思っていたが、ヤマチカの素性を知った関係者が拠点予定地に常に駐在して何かしらの作業をしているらしい。
「上空侵入もこの人混みだしねー。まあいっか、どうせいつかは顔を見られると思うし」
すっと何事も無かったかのように通り過ぎれば大丈夫だろう。
もうあれこれ気を回すのが面倒だ。
「じゃあ行ってきまーす」
S青年が上手くいくといいな。




