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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録31:充実はしている

 










「アルバート、そろそろ起きなさい」





「…………ん……」



 体を揺すられ目を開くと、姉が仁王立ちでベッドの傍に立っていた。



「……勝手に部屋に……」



 またか。



「ノックしたわよ」



 違う、そういう事じゃない。



「アルバートはまだ起きていないの?」



 ああ……更に1人増えた。



「お母様、まだ寝ぼけているみたいです」


「まったく! 襲撃されても何もできずに終わってしまうわよ」



 誰がこの家を襲撃するんだよ……。家族をかいくぐってここまで来れる奴なら俺が起きていたとしても無駄だよ……。



「ほら! 早く顔を洗って準備しなさい! 朝食前に3回は稽古するわよ」


「ええ……」


「早くしなさい! お義母様はもう2回は通し稽古を終えているんだから」

「おい! 早く起きろよ!」



 うるさい家族がまた……。



「……兄さんうるさい……」



 ふらふらと起き上がりベッドからおりる。



「なんだよ~。時間は限られてるんだから急げよ!」


「そんな大声で話す必要もないですけど」


「お前達、音を合わせるぞ。――アルバートも早くな」



 父が朝から騒がしい面々を連れて行ってくれた。ありがたい。






「はあ…………」



 誰も入ってこれないようきっちりと扉を閉め、扉にもたれながらひと息つく。

 そして首に下げているあるものを取り出す。起きた時に確認する事にしているのだ。



 手の平には神の持ち物と同じ素材であろう2つの欠片。

 その輝きは一定ではなく見る角度によって違う。これ以上に美しい宝石は存在しないと思う。

 しかし、これを手の平に乗せているだけでじわりと緊張の汗をかいてしまうのですぐに袋にしまう。



 袋は家族にばれないようこっそりと自分で作ったので不格好だ。でも首に通す紐としつこいくらいに縫い合わせたので頑丈ではあると思う。



「賄賂かあ…………」



 肌身離さず身につける賄賂。とんでもないものを頂いてしまった。

 カセルにもいつか渡すかもしれないと仰っていたので早くカセルも仲間になって欲しい。この気持ちを誰かと分かち合いたい。


 窓から見える巨木に視線をやる。まだ空は薄暗い。ヤマ様は寝てらっしゃるかな……。

 祭りの最終日まであと3日。神の踊りを奉納するまであと3日しかない。やるしかない。

 今日もまた陽も昇っていないうちから起こされたがやるしかない。





 顔を洗って舞踏室に向かう。

 若い頃、収穫祭で祖母の踊りを見た祖父が踊りを褒めたものだから祖母が張り切って造ったと聞いている。


 俺は大きくなってからは利用する事も減ったが、祖母は祖父を連れて行き一緒に踊ったり、演奏を聴かせたりしているようだ。

 演奏を褒めると延々と終わらないのだが、祖父は嬉しそうに聴いているらしい。

 母と姉は「素敵」といつもうっとりしているが、父とジーリ義兄さんをまきこむのは止めた方がいいといつも思っている。

 そんなこと俺からは言えないが。











「――おはようアルバート。それじゃあ始めましょう」



 そっと扉を開けたらすぐに祖母に見つかった。



「早く中に入ってこいよ」



 楽器を構えている兄はかっこいい。寝癖がついているが。

 中身は騒がしさの塊だが外見って重要な要素だよな……。



「ほら早く」



 舞踏室の中央で立っている姉も俺よりかっこいいという……。

 俺のかっこいい要素は姉にすべて持っていかれたんじゃないかと小さい頃から疑っている。



「今日はお母さんは先生役で踊らないから自分だけの力でやりなさい」


「うん……」



 驚くべき事だが、クダヤの住民は神の踊りを踊れるようになっている。

 さすがに老人や幼い子供は踊れないが、一族の人間に関しては踊れると思われる。







 あの日、神の踊りを伝えていただき港に戻った俺達。族長達はもちろん、集まっていた住民もまだ残っていた。

 恐ろしい事に風の一族を中心とした面々は神の音楽を再現できるようになっていた。

 聞いた事のない音色に関しては再現が難しいので完璧とは言えないが、そこは自分達で編曲して工夫したと言う。


「我々の力が足りず神の音楽に手を加える形になり申し訳ない」と風の族長は落ち込んでいたが、改めてこの街の住民の凄さを思い知った。と同時に俺の能力の無さに落ち込んだが、ヤマ様に頂いた神の持ち物を服の上からそっと触ると心が落ち着いた気がした。



 地と水の族長が神の踊りを見せて下さいと提案(大声)してきたので、領主様が男性、カセルが女性の踊りを担当して見せる事になった。俺はひっそりと気配を消したが。

 一族の人間の前では無駄な事だが、みな知らないふりをしてくれた。優しさに泣きそうになった事はよく覚えている。



 その結果、神の踊りは物凄い早さで広まって行く事に。

 俺の家族には、理の族長とカセルの母親が俺を送り届けると一緒についてきてくれたのでその日の内に伝わった。


 理の族長はわざわざ馬車まで用意してくれたが絶対に祖母に早く伝えたかったんだと思う。

 寝ていると思っていた家族は全員揃っている上に起きて興奮していたので、俺はそっと自分の部屋に戻ってベッドに倒れ込んだ。

 カセルがなんとかしてくれたみたいで助かった。



 そして次の日からこの特訓が始まったのだ。








「――やはりあの時聴いた神の音楽を完璧に再現できないのは申し訳ないな」



 父か悔しそうに呟く。



「楽器を使用する我々が出来る事は限られていますよ」



 ルイス兄さんが父を宥めている。


 港にいないと神の音楽は聴く事が出来ないのかと思っていたが、そうではなかったみたいだ。

 なんとクダヤの街全体に響いていたらしい。ただし一度だけだったようだが。



「楽器を使用せず音楽を奏でるなんて神に連なる方々はやはりすごいな」


「そうですよ、ギルバートの言う通り。私達人間は出来る範囲で感謝の気持ちをお伝えしましょう」



 穏やかに祖父が言葉を発すると、祖母も同意した。

 祖母は祖父の事が大好きだからな……。今も自分の隣に座らせているし。

 祖父は年齢的に神の踊りは難しいし楽器も演奏できないのだが、祖母が近くにいて欲しいが為にこんな朝早くから参加させられている。

 笑顔だしご老人は早起きが得意だから大丈夫なんだろう。



「アルバート、準備はいい?」


「うん」



 どうにか踊りは覚える事が出来たが1つ1つの動きはまだ洗練されていない。明らかに下手だ。

 家族の前で毎日恥ずかしい思いをしているが、日中は同年代の若者が集まって踊りを揃える事に費やされるので足を引っ張らないように少しでも上達しないと。

















「早いな! 今日も特訓してきたのか~?」



 港の執務室に到着すると朝から元気なカセル。だが、俺が神の踊りを揃える事に専念している間もカセルは領主様の仕事を手伝っている。カセルの踊りは完璧だから日に1、2回参加するだけでいいのだ。

 家にも帰れない程忙しいはずなのだがそんなそぶりを見せない所は尊敬する。



「おはようございます。…………領主様はどうしたんだ?」



 本人にも聞こえているだろうがかなり気になるのでカセルに質問する。

 奥の椅子に座って何やら記入している領主様の服装が……。



「あれか? 衣装の見本が出来上がったみたいでさ、今日から一気に量産するらしいぜ~」


「いや……」



 なぜ領主様がその見本の衣装を着ているのかが知りたいんだけどな……。


 ちらちら領主様を見ながらも、稽古の時間までカセルを手伝おうと自分の席につくとノックの音が聞こえた。



「――失礼します。お、アルバートおはよう」


「お、おはようございます……」



 俺は何も見ていない。



「領主様、ダニエル族長を連れてきました」


「今はお前が族長だろう」


「すみません、長年そうお呼びしていたので……」



 見本の衣装を着用している技の族長なんて見えていない。



「ではこれで。――助力は惜しまないからな」



 渋い大人の魅力たっぷりの笑顔でそう告げられたが服装が……。いったい何着見本があるんだ。

 おかしい。技の族長は風の族長と並ぶ落ち着いた族長だったはずだが。



「衣装だが、明日には人数分完成できると思うぞ」


「そうか」


「それが終わったらわしらの分だな!」



 がははと笑っている前任の技の族長ダニエルさん。相変わらず筋肉が凄い。



「それでだな――」



 ダニエルさんがカセルに視線を向けると、カセルはさっと扉の前に移動した。



「――近くに誰もいないようです」



 これは俺達だけの秘密の話をするという合図だ。



「少し問題が発生してな」



 ダニエルさんを筆頭とした一族のご老人達で構成される『ヤマ様の拠点班』に何か問題が起きたようだ。

 どんな問題なのか……。あそこに存在しているものがものだけに緊張が高まってゆく。



「どんな問題だ」



 領主様も手を止めて真剣な顔つきだ。実際の建築にまで手を出しているから気になるんだろう。



「祝祭に力を注がせてくれ」



 …………え?



「祝祭に?」


「そうだ。皆祝祭関連の仕事に携わっているのにわしらだけこっそりと家を建てている。この事に疑問を持つのはおかしい事ではないと思うが」


「何事にも代えがたい仕事だと伝えたはずだ」


「秘密をもらそうだなんて誰も思っていないぞ。ただ、わしらも祝祭の仕事に携わりたいというだけだ」



 なんだ、そんな事か。いや一族の人間にとってはそんな事ではないな。

 数日完成が遅れたくらいでヤマ様は気にしないだろうし。



「お前の秘密の恋人の家なんじゃないかと言い出す者も出てきた。まあこれは冗談だが」



 その言葉に思わずカセルを見てしまったが、カセルは笑いをこらえていた。

 おい、失礼だぞ!



「お前の本性を知っているわしらとしてはありえないと思うがな? ここまで秘密にする理由がわからんのだ。あの岩だってそうだ」


「以後冗談でもそのような事を口にするのは許されないぞ」


「お? なんだ? やっぱり誰かの隠れ家か? ――それもお前が気を遣う相手だな」



 鋭い。さすがに長年一族を率いていた人間は違う。



「クダヤを裏切る事がないのは知っているから心配はしていないがな。お前が何よりも優先して動き、さらにはこの2人の若者が関わっているとなると――――まあわしらはそれなりに長生きしているだけあって馬鹿ではないからな」


「――祝祭優先でかまわん」


「それはありがたい。どの仕事も手は抜かないから安心してくれ! そうだな、被り物ももう少し待ってもらう事になるな」



 がははと笑いながらダニエルさんは部屋を出て行った。







「――気付かれるのも時間の問題ですかね?」


「完成した後も問題だな」


「そうですね~。知り合いも多いでしょうし、民家は近くにはありませんがあの辺りで見かけない女性が何度も歩いているのを目撃されると……」



 なるほど、そういう事か。

 ダニエルさんあたりにその情報が伝わってしまうと、真実にはたどり着かないにしてもその女性――ヤマ様が注目されてしまうのは間違いない。そこまで考えていなかった。



「ここは私も近くに拠点を構えるべきだな」


「…………え?」



 予想外の発言にカセルも驚いている。



「領主様、今なんと……?」


「ヤマ様が心置きなく視察を行い、なおかつクダヤの街を楽しめるようにしないとな」



 それがなんで領主様が拠点を構える事につながるのかさっぱりわからない。



「念の為ヤマ様にお伝えしておいた方がいいな。本日の貢物には木の筒一式と手紙もいれるからそのつもりで」


「え、いやあの……」




 これはヤマ様だけでなく女性目線で考えると気持ち悪い……んじゃないかな……?

 大丈夫か……? 俺達ミナリームの船みたいな事にならないよな……?








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