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美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!  作者: 紅葉煉瓦
#あるてまフェス

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#79 5分前行動をしないとこうなるって見本

 2月末の気温はまだ充分過ぎるほどに寒かった。

 そろそろ春へ向けてマフラーぐらいは無くても大丈夫かなぁ、と思っていたのにびゅぅっと吹き抜ける風は数分前の自分の愚かさを嘲笑うかのようだった。

 うぅ、こんなことなら調子に乗って少し短めのスカートなんか穿かずに、素直に足の隠れるロングスカートにすればよかった。

 ファッションは気合、暑さ寒さも我慢、とかクラスの女子はよく言ってるけど冬に足を晒す格好をするのは本当にバカだと思う。

 そこまで頑張ってお洒落した先に一体何があるというのだろうか。やっぱりコスプレ大会は家でぬくぬくとやるに限る。


 心のなかでグチグチと文句を漏らすものの、今更帰って着替えるという選択肢はわたしの中にはなかった。

 だってようやく重い腰を上げて外出したのに、ここで家に帰ってしまったら絶対に着替えずにコタツかベッドの中に潜り込むのは目に見えている。

 そんな事をすればマネージャーさんは絶対に怒るし、大事なイベントをサボったライバーなんて首にされても文句は言えない。

 だからいくら寒くても我慢である。


 そうこうしているうちに駅へ到着した。

 一応、念の為にスマホで時間を確認してみると、まあ、ここから道に迷わなければギリギリ間に合うかなって時間だった。

 こういう時、創作だと既にフラグが立っていて何かしらのトラブルに巻き込まれて遅刻するってのが定番だけど、生憎とどこまでも現実的なこの世界は都合の良いフラグなんて存在しない。

 普通に何事もなく、何度も事前に確認した経路を辿って目的地に……、


『ただ今人身事故の影響により、──線の電車は運行を見合わせております。お急ぎのところお客様にはご迷惑をおかけしており、誠に申し訳ございません。運行再開の目処につきましては───』


「は?」


 駅構内に流れ出したアナウンスに思わず足が立ち止まる。

 それはわたしだけではなく、同じように改札を通過した周りの人たちも一緒だった。

 止まった電車は丁度これから乗ろうとしていた路線のやつだ。


「え、これってどうすんの」


 創作みたいな面白おかしいトラブルに巻き込まれることはなかったけど、普通に都会でよくある遅延に巻き込まれた件。

 内心あまりのパニックにふざけたことを言ってみたけど、割と洒落にならない自体が発生してしまった。

 普段は朝から電車に乗らないから忘れがちだけど、都会の電車ってやつは毎朝どこかしらで遅延が発生していると言われる程度にはトラブルが起きている。

 しかし、まさか自分が絶対に遅刻できない日に限ってその場面に直面してしまうとは……!


 取り敢えず状況を把握しようと駅員さんの近くに忍び寄る。

 と言っても声を掛ける勇気なんて微塵もないので、口うるさそうなおじさんが駅員さんに詰め寄るのをそっと聞き耳を立てるだけなんだけども。

 で、結論から言うと再開の目処は立っていない、遅延証明書を発行するから我慢しろ、みたいな話だった。


 うーん、これはヤバい。

 どれぐらいヤバいかと言うと、さっきまで冬特有の肌寒さに襲われていたのが今度は冷や汗で全身びっしょりになっているぐらいヤバい。

 と、取り敢えずTwitterで呟いとくか……。


【Twitter】

【くろねこさぶ/@subneko_san】

 おわった…なにもかも……


【カモメ/@xxxxxx】

 @subneko_san

 どうしたの


【暇神/@xxxxxx】

 @subneko_san

 おなかいたい?


【海賊王黒髭/@xxxxxx】

 @subneko_san

 黒猫燦は!!!終わらねェ!!!!


【葵/@xxxxxx】

 @subneko_san

 まだはじまってもないよ


【コロすけ/@xxxxxx】

 @subneko_san

 もしかして:寝坊


【くろねこさぶ/@subneko_san】

 ぎりぎりにいえでたら、でんしゃとまった泣泣泣


【BlackLautus/@xxxxxx】

 @subneko_san

 lol


【摩耶咲/@xxxxxx】

 @subneko_san

 えぇ……


【ハボック/@xxxxxx】

 @subneko_san

 あの、今日リアイベなんですけど…


【烏カレイ/@xxxxxx】

 @subneko_san

 もうみんな会場入りしてるらしいよ


【お祭り世良さん/@serasera_sub】

 @subneko_san

 どまヽ(´エ`)ノ


【シエル・アドラミル@あるてま三期生/@Ciel_altm】

 @subneko_san

 先輩!走れば間に合いますよ!ふぁいてぃん!」


「あわわわ」


 何はともあれまずTwitter精神で呟いたら、思った以上に爆速で反応が返って来てしまった。

 もしかして今日がイベントということもあって、みんな朝からライバーの呟き監視してたの?

 完全に現実逃避状態になっていたわたしは壁際に座り込み、適当にリプライでも返して精神を落ち着けようかという態勢に移行していた。

 Twitterをしていないと心が落ち着かない、逆にTwitterをしていると心がスーッとする。完全に中毒症状が出ている。或いは心の病かもしれない。

 まあ、周りを見渡して見ても同じように座り込んでいる人がちらほら居るし、わたしはきっと正常だと思う。思いたい。

 あぁ、先輩や後輩からリプライでめっちゃイジられてる……。

 返信の文面を考えていると、今度はスマホに電話が掛かってきた。マネージャーさんからだ。

 嫌だなぁ、出たくないなぁという気持ちが心を支配するが、しかし学生とはいえ一応企業所属の社会人として逃げの心を押し殺しながら通話に出る。


『………』

「………」


 な、なんか喋ってよぉ……。

 そんなわたしの気持ちが通じたのか、マネージャーさんは深いため息を一つ吐いて、


『今、どこでしょうか』

「え、駅です」

『知っています。どこの、駅ですか』

「あ、ぅ、地元の……」

『はい、知っていました』


 い、意地悪されてる!


『連絡を入れた時点で自宅にいたのは分かってましたので』

「はい……」


 口調に若干の棘はあるものの、別に声色はこちらを責める類のものではない。

 でも後ろめたい気持ちしかないわたしからすれば、たとえどれだけ優しい声で語りかけられても今は凄く肩身が狭い思いなんだよな……。


「も、もしかしてクビですか……?」

『遅刻でクビになっているなら初配信の時点でクビになっていますね』

「うぐっ」

『今回は黒音さんの癖を理解しながら送迎を付けなかった私の落ち度です。あまり気に病まないでください』

「ほっ……」

『そういえば先日の企業案件でPRするゲームをクソゲーと言ったそうですね』

「うぇ!? あ、あれはっ!」


 いや、思ったより難しくてクリアできないから、ついカッとなって口をついた言葉だったんだけど……!

 案の定VTuber関連のまとめサイトでは偏向報道されて炎上したけど……!


『その話はイベントが無事に終了してからですね。今は会場を目指すことを優先しましょう』


 無事に終わらなかったらお説教も中止だろうか。


『取り敢えずタクシーで会場まで来られないか確認してください。その際、領収書はちゃんと貰っておいてくださいね。無かったら実費になります』

「た、タクシー……」


 この人はあんな運転手と二人っきりになって気まずい空気になる乗り物に乗れというのか!?

 なんか喋りたがりのおじさんがこっちの話しかけるなオーラを無視してガンガン話しかけてくる、あの悪魔の乗り物に!?

 しかも領収書を貰うって、つまり領収書お願いしますって言わなきゃいけないってこと!?

 な、なんてハードルが高いんだ……誰とも会話せずに電車で行くのが一番安全じゃないか。


『もしも渋滞などで時間が掛かるようでしたら電車が動いている駅で降りてください。……今からではどう足掻いても間に合いそうにないので一部プログラムを変更するか、場を繋げるように指示しておくので、黒音さんは極力急いで来るようお願いします』

「はい、はい……了解です……はい、失礼します……」


 テキパキと必要なことを伝え終わるとマネージャーさんは通話を切った。

 きっとこの後もわたしの尻拭いをしたりとか色々大変なんだろうな。

 何はともあれ、まずはタクシーを探すことから始めよう。というか、一度改札を通ったら駅員さんに言わないと出れないから、そこもまた若干面倒なんだよなぁ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 近畿地方やと、タクシーの運転士さん緊張ほぐそうと、話しかけてくれるで。
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